2003年上期業種別部会長懇談会-コンサルタント部会


西川部会長

 

カルドーゾ政権の評価、ルーラ政権への期待

西 川  コ ンサルタント部会の方では、業界に及ぼす影響はちょっと分かりませんので、「最初にカルドーゾ政権の評価」を簡単に述べて、それをもとに比較しながら、 「ルーラ政権の評価というよりむしろ期待」を申し上げ、最後に、「今年のブラジルの政治・経済全体の簡単な展望」で締めくくらせて頂きたいと思います。政 治と経済に分け、それぞれのプラス評価とマイナス面を説明申し上げます。

カルドーゾ政 権、政治面のプラス評価と申しますと、さる10月の選挙にはっきりと出ているように、ブラジル流の民主政治が定着したことです。第2番目は、積極的な大統 領外交を通じて、ブラジルが中南米第1の大国であるという評価が国際的に認められるようになった事だと思います。
第3番目は、8年の長期間にわ たり、ブラジルの小党分立の政界にあって大過なく連立政権を維持してきた政治手腕。。こういった積み重ねが、後で述べます「レアルプランの成功」もあるん ですが、それまでブラジルの一般の政治に対する不信感を信頼感に変える、それを育む大きな原動力になったと思います。

その次は民営化。政府系企業の民営化は通信、道路、運輸、金融、そういった経済の動脈的な部門を計画的に、それも非常に有利な条件で行った。これは1年早 くても1年遅くてもかなり難しい民営化になったと思うのですが、その結果、それぞれの分野で投資も行われ、国民生活の向上、生産の増大といろんな点に貢献 したと思います。プラス評価の最後として、行政組織全般にわたる情報化。その結果、行政の効率化もかなり図られ、市民が受けるサービスもかなり満足すべき ものになって来つつあります。これは特筆すべきプラス効果ではないかと思っております。

逆 に政治面でのマイナス評価は、「1988年憲法」の中で、いろいろ問題点が出ていて、それを国会で一つ一つ改正を図ったが、大変な努力を重ねたにもかかわ らず、効果があまり出なかった。特に社会保障制度、金融制度、税制は、いろんな面で衝突したことがあまりにも大きく、マイナス面と見ていいと思います。

 

経済面プラスのトップはレアルプラン

経済の面で、これはもう文句なしにプラス評価出来るのは「レアルプランの成功」。これはもう論をまたない。第2番目には、この8年間にいろんな国際的な経済危機の影響があったが、いずれも経済成長を大幅に犠牲にすることなく克服した。これも高く評価できると思います。

ブラジルでは、貯蓄が少ない。あっても殆どの部分が公的な財政赤字の補填等に使われていて、経済成長を図るための投資はかなりの部分が外国からの直接投資 に依存してる。この8年間を平均しますと、かなり高率の外貨の直接投資を維持してきて、これによって、世界的にも難しい経済状況の中で、ある程度の経済成 長を維持する事が出来たと思います。
特に私が高く評価すべきだろうと思うのは、一つは、連邦政府がなかなかコントロールできなかった州の財政 を、各州の債務全部を連邦政府が引き受けて、リスケ計画を結んだこと。もう一つは「財政責任法」を粘り強く国会で交渉し、承認を得た。この2つは、ブラジ ルの公的、政府関係の財政の債権コントロールという意味で、大変大きな出来事であります。

そのほかに、企業マインドを転換させるために、いろんな形で応援をし、働きかけその結果、かつては見られなかったような考え方を持つ新しい企業家、あるいは投資家各方面で輩出している。これは将来、かなり大きなポテンシャルになって行くと私は見ています。

経済面のマイナス評価は、いろいろ努力したけども、効果があまり出なかった貧富格差是正策、失業率を減らす、あるいは雇用の確保策の十分さ及び公的債務の膨張を抑え切れなかった事ではないかと思います。

 

ルーラ政権の評価、期待

ルー ラ政権への評価は、まだできる段階じゃないと思います。大統領自身、あるいは閣僚、補佐官といった人々のいままでの発言を中心に見てまいりますと、政治の プラス面は、第一に「社会的弱者への配慮」。これはルーラの生い立ち、信念、そういうものに根差したものだろうと期待しているわけです。 これを貧富格差 の縮小のための第一歩とした積極的、総合的な施策を期待したいと思います。特にそういう階層の教育面への投資を大いに期待したいと思っております。
先ほど赤嶺さんもおっしゃいました「変革」への期待。これは対話をもとにしてあらゆる社会層と合意を確立する形での変革であり、大いに期待されるところで す。そのほか、当選が確定してすぐに「国際協定とか契約を守ります」と、はっきりと言い、非常に現実を見つめ実際的な政治家であることを強く印象づけた。 ですから、初心を忘れずに、いろんな困難はあるでしょうが、やはりそれを貫いて頂きたいと期待しております。

先ほど申し上げました、カルドーゾ政権が実現できなかった改革、憲法改正をぜひ、粘り強くがんばって国会承認をとってもらいたい。政治におけるマイナス面 は、何回もいわれている事ですが、ルーラ人気、必ずしもPTの政策が承認された選挙結果ではなかったわけで、ルーラ人気が何らかの形で落ちて来ますと、や はり政治的にいろんな問題が出てくる可能性があると思います。
それから、連立政権、そのベースの脆弱性が大きいし、PTの中で30%とか40% と言われている急進派を本当にこの4年間、押さえ切れるのかという不安。それから、地方政治はどうしても州知事の力が非常に強い。こんどの選挙では比較的 小さな3つの州に知事を送り出すことが出来ただけで、サンパウロはじめ拠点州はみんな野党に握られており、これも政治的に問題を起こす可能性が大きいと思 います。こういったところが、マイナス面であると見ておく必要があるのではないかと思います。

経済は、これは先ほど申し上げましたように、カルドーゾ政権の基本的な線を継承してやって行こうと言うことですから、これをうまく実現し、経済の安定を図ってもらいたい。
マイナスの面はいろいろやってその実績を見ないと何ともいえませんので、一応経済面はあまり申し上げることはないと思います。

 

今年の政治経済展望

まず政治動向。国際情勢が緊迫しているイラク、北朝鮮との問題がブラジルの政治に大きな影響を与えることはないだろうと見ております。中南米でベネズエラ はかなり落ち着いて来そうで、中南米のいろんな問題もブラジルの政治にはあまり大きな影響はなかろう。 ルーラ政権の政治面での脆弱さ、そういう問題も今 年中は大きな影響はなく、来年以降に起こってくる可能性があると見ています。

経済動向 は、国際経済は恐らく、好転はあまり望めないであろう。特にイラク問題は場合により、石油価格の高騰が起こらないとも限りませんし、そのあとインフレ再燃 の心配もありますので、これは楽観できない。それが結局、国際金融マーケットにも大きな影響を出して、また為替危機が起こらないとも限りません。

国内金利はしたがって高めに推移するのでしょうし、為替相場は主として国際的な情勢によってボラチリになると。経済成長の面は恐らく、輸出が伸びればそれ だけ成長が期待できるのではないか。こういう風にみております。もう何度も言われていることですが、ブラジルの” アキレス腱”っていいますか、これは国際収支の面ですから、この点はやはり今後の推移をよく注目する必要がある。特に外貨による直接投資の推移、それから 外債の発行、あるいは貿易金融も込めた外貨の借入れの推移に特に注意を払う必要があるだろうと思います。その他の国内政策面では、公的財政の動向、それか ら社会保障年金制度改革のこれからの推移、税制改革あるいは労働改革というのはどう動くかと、この辺を注意する必要があるかと思います。以上です。(詳細 は末尾の部会資料)

 

司 会:ありがとうございました。あの非常に時間が押しておりますので、この議題については、要するに各部会に具体的に与える影響ということで2、3にしぼってご発表頂けたらと思います。

木 口 あのちょっと意見言わせて頂きます。

司会:はい。

木口   まだルーラ政権が発足して1ヵ月ですね。それで、選挙公約はいろいろありますけども、それの具体策が殆ど出ておらない。だからこの時点で、その業界に与 える影響と言われても いま言われたような一般的なことしかできない。で、それに対して我々はどういう、こういう懸念をしているとか、期待しているとか、 そういうことしか言えないんじゃないかと思うんですよ。
ですから、時間の関係もありますし、特に発表されたいという人がいれば、そういう方にやって頂いたほうがよいと思うんですが・・・

司 会  分かりました。それじゃあ、特にこの議題について意見のある部会がございましたら・・・ はい、食品部会の渡辺さん。

 

フオメ・ゼロ計画、食品部会にプラスか

渡 辺  時 間の関係で簡単に一つだけ申し上げます。「フォーメ・ゼロ計画」ですが、これは、まだ試行錯誤の段階という感じですけれども、この公約が実施されれば牛 乳、フェイジョン、砂糖といった基礎食品の需要増大が見込まれると言うことで、これがさらに発展していい方向に向かって、新需要が掘り起こされると、加工 食品等の需要増大にも、ひょっとしたらつながるかもしれない。ということで、食品業界全体にとっても、ひょっとするといい影響が出てくる可能性がある、と いう期待はしております。ただし、どちらかというと、これはナショナル・ブランドよりも地方ブランドに影響が大きいんじゃないかと。実際ノルデステ(東北 伯)のコーヒー生産者の中には、この辺の需要増大を見越してすでに動き始めているところもあると言う情報もありました。以上です。

司 会  ありがとうございました。そのほかの部会で、はい、貿易部会の柳田さん。

 

米のイラク攻撃のほうに関心 - 貿易部会

柳 田  貿易部会での議論で、いくつかありましたが、一つは、開発商工大臣に就任をしましたサジア社長フルランさんですが、彼は先進諸国に対する非常に強い農業保 護政策批判者ということで有名で、”強硬派”ということですが、これがさらに対日姿勢に対してもアグレッシブに出てくる可能性があるというのが一つござい ます。このフルラン大臣だけではなくて、ロドリゲス農相、あるいはアモリン外相もそうですけども明らかにこの3閣僚、今回WTO会議で日本に行くと先ほど 総領事からお話ありましたが、明らかにWTO、FTA、FTAAシフトを組んでいるな、というのが一つありました。

それから先ほどご指摘の通り、少なくとも今年上半期、新政権の行政能力っていうことが不明で、判断できないと言うのが大半の方のご意見でした。ただ飢餓対 策をプライオリティーにおいて、その次に輸出促進を政権の柱にあげておりますので、具体的に今後どう取り組んでいくのか、前政権とどういった違いで輸出促 進をしようとするのか、ということが徐々に明らかになってきた段階で、評価っていうか、業界への影響っていうか、そういうところに出てくるのかなと言うこ とでした。

最後に、むしろ今は新政権がどうなるかよりも、貿易業界としては、米国によるイ ラク攻撃の結果がブラジル経済全体にどう影響するのか、それに関連して、通貨がどうなるのかと、先ほどからの議論ですけども、そういった問題の方にはるか に関心がある。それからもう一つは、これも先ほどふれましたが、ブラジル製品が本当に国際競争力を付けているのかどうか。その工業製品は、世界的なトップ クラスのものは、少なくとも多国籍企業によるその一部の製品を除いてほとんどない。つまり安くないと売れない。これは、比較優位と一般的に言われています 農業製品についても、昨年、非常に伸びた。輸出も伸びたが、他地域の不作、あるいは国内の耕地面積の拡大、こういったことの結果として輸出が伸びているの であって、本当に農産物を含めて競争力を持っているのか。こう言ったことの方にむしろ関心があるという意見がたくさんありました。これについては今後検証 していく必要があろうかと思います。以上です。

司 会  ほかにございますか。はい、電気電子部会の瀬山さん、どうぞ。

 

密輸取締り強化策歓迎、デジタルTVに関心 ― 電々部会

瀬 山  電 気電子部会の方では、これは、前大統領のカルドーゾさん、それから前開発大臣のアマラルさんから引き継がれたものですが、要はマナウスでの家電事業等に対 して、「マナウス事業の貿易アンバランスの是正」という意味から、現調化ならびに輸出促進ということが、引き続きいわれてます。実は現調化については、あ る一定の現在出している基準を変更したいという具体的な提案がなされていまして、業界として対応している。

サポーティング・インダストリーが非常に少ない中で、その辺のところを、どのようにプロモートするような案が具体的に出てくるのかと言うところが今後、業 界と政府商工省との間の話し合いになると思います。輸出促進についても、具体的なインセンティブについてまだ話はありません。それからPT、新政権という ところですと、アングラ経済、われわれの商品の中でも、密輸というものが一部まだ残っております。それに対して雇用機会を失わせておるものという観点か ら、密輸を少なくして行こうというのが業界としては歓迎です。それから、デジタル・テレビの放送方式、これが前政権から持ち越しになりましたので、これを 大使館、総領事館さんはじめですね、あの、官の方でも注目をして、動向など情報等ございましたら頂きたいというお願いであります。

司 会  ありがとうございました。ほかにございますか。はい。

 

気になる内閣不一致

新 井  さっ きコメントの中にも入れましたけども閣内不一致という問題。例えば、環境相だとマリナ・シルバ。それから農業、農村開発相ですか、ミゲル・ロセット。この 2人は遺伝子組換の反対派。その一方で、ロベルト・ロドリゲス、これが農務大臣で、先ほども出ていましたけども、トウモロコシを去年だいぶ輸入した。輸入 する先がアメリカ、アルゼンチン。90%が遺伝子組換トウモロコシ。これなくして食肉加工工業はやっていけない、牧畜業はやっていけないよ、と言って推進 しようとする。

一方で、かなり過激な強硬派が2人閣内にいる。そういう部分がけっこう閣内 にあって、儀式が終わっていざ具体的になったときに、特に遺伝子組換については、アメリカ政府の後押しを受けたモンサントはかなりやっているわけですが、 対外的な圧力、対米国との関係でカルドーゾとどういう風に違いが出てくるのか。それから、いまの閣内の不一致。 これがかなり行政面で影響が出てくるので はないかな-と。われわれ、例えば農薬とか飼料業界にとって、遺伝子組換っていうのは完全にマイナス要素ですので、具体的にいってその辺がどう出るかな と。あとは、化粧品業界に対してIPI 税を引き上げる、と公約で挙げていた「シーロ・ゴーメスが大統領にならなくてよかった」っていう化粧品業界ありましたけども。まぁ、そういうところが気に なるかなと言うところでした。

司 会  ありがとうござ いました。それでは「ルーラ政権の影響」についてはこの辺で打ち切りまして、次の2つ目のサブテーマであります「日伯間のFTA締結の必要性、あるいは与 える影響」についての意見を頂戴したいと思います。 現状でのFTAについての受け止め方は、業種によって濃淡があるようですけども、直接間接問わず、将 来的には大きな問題になるという認識をすべきだと思います。ここでFTA 締結の現状について、ジェトロ柳田所長(貿易部会長)から簡単にご説明頂きます。

2003年上期業種別部会長懇談会-コンサルタント部会(資料)

1-カルドーゾ政権実績の評価(蔵相としてレアルプラン導入を実施した1994年7月~2002年12月まで)

(1) 政 治

A) プラス評価
民主政治の定着化
中南米第一の大国としての高い国際的評価の定着
長期間にわたる与党連立の維持
政治にたいする国民の信頼性の回復
政府系企業の民営化の遂行
行政の情報化

B) マイナス評価
憲法改正の重要事項の未達成

文字どおり国民の総意を反映した90%を上回る高い投票率の総選挙が平穏裡に実施され、さらに過去に見られた大統領の政権放棄  やクーデーターも起こら ず、ブラジル流の民主政治の定着化が顕著ですが、これはカルドーゾ大頭領の安定した政治運営に負うところ  大であると考えます。
グローバル化した国際政治の舞台で積極的に展開された大統領外交のおかげで、中南米第一の大国としての国際的評価が定着して います。
8年にわたる長期の在任期間、小党分立のブラジル政界において、連立政権を大過なく維持してきた政治手腕は高く評価されるべきで しょう。

後述のレアルプランの成功と相まって、これらの政治上の実績がそれまで失われていた国民の政治に対する信頼感を回復した事実は 特筆に価すると考えます。
政府系企業の民営化はカルドーゾ政権のまえに開始されていましたが、通信、道路、運輸、金融等の経済の動脈部門の民営化が同政 権において計画的に進めら れ、有利な条件で遂行されました。その結果各分野で投資が進み、国民生活の向上、経済の発展に多大の こうけんをしています。

最後に高い評価を与えられるべきと考えますのは、行政組織全般にわたる情報化の実施です。この結果、行政の大幅な効率化と市  民が政府機関よりうける サービスが大きく好転しました。マイナス評価としては、1988年制定の現行憲法にみられる多くの欠陥・不備の改正問題がはやくより論議されましたが、重 要な社会保障制度、税制、金融制度等の改正は未だに実現せず、ブラジル社会の大きな歪は残されています。

 

(2) 経 済

A) プラス評価
レアルプランの遂行
経済成長を犠牲にせず経済危機を克服
外貨による直接投資の高水準維持
州財政再建のための州債務の連邦政府集中化とリスケ契約
財政責任法法制化の実施
企業家マインドの変換

B) マイナス評価
貧富格差の是正、雇用の確保、公的債務の膨張抑制等ブラジルの抱えるクルーシャルな問題解決の効果微小
インフラ投資の不足

カ ルドーゾ政権最大の功績は、以前数度にわたって実施されたショック療法の失敗を分析、慎重にそして大胆にレアルプランを導入、成功させたことでしょう。こ のプランにより、ハイパーインフレの沈静化と経済の安定をもたらし、長年のインフレ経済に苦しんでいた国民すべてに、インフレのない生活がどのように素晴 らしいものかを実感させました。特に低所得層の生活水準の向上におおきな貢献をしました。
また、1994年のメキシコ危機、97年のアジア危機、 98年のロシヤ危機、2001年のアルゼンチン危機とブラジルの電力危機、そして昨年のブラジル為替危機を、すべて経済成長を大きく犠牲にすることなく克 服しました。 これは先進諸国の政府や国際金融機関の支持のお陰でしょうが何といっても、カルドーゾ政権の適切な対処措置があったからこそ実現できたとい えましょう。

ブラジルの国内貯蓄の大半が、長年にわたり公的財政赤字の補填や公的債務のファ イナンスに使われているために、経済成長に不可欠な投資は外資に大きく依存しています。政府系企業の民営化に多くの外国企業が参加したという特殊事情もあ りますが、カルドーゾ政権は8年にわたる長期間、外貨による直接投資を高水準に維持することに成功し、米国を初めとする先進国の経済が低迷する中でも、ブ ラジル経済の成長を、低い率にせよ、確保してきました。

長年にわたり、州政府の独立性が強い ために、夫々の州が抱える公的債務のコントロールが、連邦政府にとって頭痛の種でした。カルドーゾ政権は辛抱強い政治折衝をかさねて、97年にはすべての 州債務を連邦政府に集中、6%という低金利と30年の長期リスケ契約を結び、各州の財政コントロールと再建のベースを作りました。
また、2001年には財政責任法の国会承認をかちとり、公的債務と財政の全般的なコントロールとその健全化が可能になりました。この功績は特筆に価すると考えます。

グ ローバル化した世界経済のなかでブラジルの企業が生き残るためには、企業家マインドの変換が不可欠と考え、法制、行政、外交の面で積極的なサポート、指導 をしてきました。各分野で多くの新しいタイプの企業家、投資家が輩出しています。彼らの多くは国際的なヴィジョンをもち、社内留保を増やし、新しいテクノ ロジーの導入に挑戦する等の共通項を持っています。
これらの業績を得るためには、カルドーゾ大統領が全幅の信頼をおき、8年間経済のすべての舵取りをまかせた、ペドロ・マラン蔵相の存在を無視することは出来ません。

こ れらの素晴らしい業績の反面、かなりの努力を払ったにもかかわらず、十分な効果をあげることが出来なかった、貧富格差の是正、雇用確保、公的債務の膨張抑 制、インフラ投資の不足などを、残念ながらマイナス面として指摘しなければなりません。これらは一政権で解決できるような性質のものではなく、同じような 政治理念を持って、その実現に不屈の強い意志をもった後続政権との連携が必要と思われます。

 

2-ルーラ政権への期待と評価

ルーラが大統領になって一ヵ月しか経っておらず、実績を見て評価することが出来ませんので、彼やその閣僚、補佐官の発言、談話、声明より判断して期待、評価を述べたいと思います。

(1) 政 治

A) プラス期待
社会的弱者への配慮 - 貧富格差縮小への第一歩
対話をもとに変革のための社会的合意を求める姿勢
国際協定、契約の遵守表明
カルドーゾ政権が果たせなかった憲法改正の重要法案の国会承認を求めるという強い意志の表明

B) マイナス評価
ルーラ人気に支えられた政権
PT急進派に対するコントロールの永続性に対する不安
連立政権のベースの脆弱性
拠点州におけるPTの政治力の弱さ

ルー ラ本人の出身からみても、彼の社会的弱者への配慮は想像以上に強いものと思われます。安易な人気取り政策におわらず、本格的な貧富格差縮少への第一歩とし て、総合的な合目的的な施策をとって貰いたいと強く希望しています。特に社会的弱者を対象にした教育投資に特別の注意をはらって欲しいと願っています。

ルー ラ大統領は ’変革、これがキーワードであり、10月選挙でブラジル社会が示した大きなメッセージである’、とその就任演説を始めていますが、その変革を 実現するために、対話をベースとして社会的合意を求めるとの姿勢を明確にしています。 非常に困難な事業でしょうが、その基本線を明確に示し、粘り強くあ らゆる層との対話を進め、必要な変革を実現し、ブラジル国民すべてにとって願わしい経済発展と国民生活の向上を図ってほしいと願っています。ルーラ大統領 はこのような対話を進められる人物と思われます。
10月の選挙で当選が確定して後、国際協定、契約の遵守を表明し、国益を第一にする現実的な政治 家としてのイメージを定着させました。今後とも判断の基準を失うことなく、勇気を持って決断を下し、ブラジルの国益を守ると同時にその国際的な地位の向上 に努力して貰いたいと期待します。

カルドーゾ政権が国会承認を取ることの出来なかった重要法 案の成立に最大の努力をするとの意思表明は、ブラジルの近代化と大多数の国民の利益にとって何が必要か、を十分承知した上での発言と思われます。この初志 を忘れず、自己の政治生命をかけて取り組んでもらいたいと考えます。
然しながら、安易な期待は禁物です。10月選挙でのルーラ人気は未曾有の大量 票をもたらしましたが、同時に国民はPTの政策を承認していないという厳然たる事実も示しました。一党一派の利益にとらわれず、常に国民、国の求めるもの は何かを念頭に舵取りをしてほしいものです。

ルーラ政権のベースである連立政権は非常に脆弱です。最近、PMDBを連立政権に取り込むことに失敗しましたので、ルーラの政治運営は更に困難になるでしょう。
さらにPTの穏健派がルーラ政権の中核ですが、同党の40%を占めると言われている急進過激派をいつまで抑えておくことができるか、同党が二分するような事にならないかと心配です。
地方政治を決定する州知事には、PTは今回三人しか送り込めませんでした。しかもサンパウロ等の拠点州は野党の勢力下にあります。ルーラ政権の気配りは大変でしょう。

(2) 経 済

A) プラス評価
IMFとの協定合意を含む対外借款契約の遵守表明
財政責任法の厳守表明
中央銀行のオペレーショナルの自主性への理解とそのインフレコントロールの第一義性の確認
公的社会保障年金制度の抜本的改正への積極的取り組み

B) マイナス評価

経 済の面では、やはりより具体的な政策、実績をみてみないと評価できません。ただ、中央銀行総裁にはBankBostonの元頭取のメーレイレス氏が選ば れ、マーケットも安堵したようですが、各省の局長級、政府系企業の役員人事がこれから政治的に決められる可能性が高く、注目する必要があります。

 

3 - 2003年の政治経済動向の展望

(1) 政治動向

イラク、北朝鮮等の緊迫した国際情勢が、ブラジルの政治に大きな影響を与える事はなかろうと見られます。中南米のいくつかの国   で起こっている問題も同様に影響はないと考えます。
ルーラ政権の政治面でのマイナス評価で指摘したような原因で、心配すべき事態が起こる可能性も、今年中は極めて小さいでしょう。  その後は情勢の進展如何によっては、可能性が増大するやもしれません。

(2) 経済動向

国際経済は、全般的には好転を望めないでしょう。 イラクを中心とした中東情勢は、大きな不確定要素として、単に石油問題のみなら  ず、広範囲の影響を与える可能性があり、注意する必要がありましょう。
国内経済においては、財政面では非常に厳しい年になりましょう。石油価格の高騰のような不測の事態が起こると、収まりかけたインフ レが再燃する可能性もあり、国際金融マーケットも緊迫し、油断をゆるしません。
国内金利は、したがって高めに推移するのではないでしょうか。
経済成長は、基本的には輸出に依存すると思われます。
為替相場は、主として国際情勢によって安定せず、変動しやすいのではないでしょうか。

中長期的には、国際収支面がブラジルのアキレス腱であることには変わりなく、貿易収支はいうに及ばず、外貨による直接投資、外貨  債の発行や貿易金融をふくむ外貨借り入れの推移、難易等にたえず注意を払うようにすべきでしょう。
国内政策面では、次の点に注視することが必要でしょう。
公的財政の動向
社会保障年金制度改革
税制改革
労働改革

―完―

https://camaradojapao.org.br/jp/?p=30844