繊維部会は綿紡績が主体ですので、これを中心に業界の回顧と展望をしていきます。
02年度の繊維業界の状況は前半は暖冬での消費減退・在庫増、半ばから大統領選がらみで急激なドル高で、10月には瞬間R$4.00を突破し年間では 50%以上のドル高となりました。ブラジル原綿は25%もの減産とNY定期相場高とドル高で、年間で相場が二倍にも跳ね上がり、一部糸値に転嫁できました が、波乱含みの激動の年でした。次に順を追って回顧と展望をしていきます。
(1) 原綿について
①02年回顧
01年度の国内外の相場安と摘取り時の降雨による品質低下により、綿作者は採算悪化になったことと綿花の競合作物である大豆の国際相場高により、02年は 綿作の一部を大豆に転嫁した農家が多く14%の減反となり、作柄については全体的に生育期において長期間の降雨など天候不良と病虫害の発生など悪要因が重 なり、生産は25%近く落ち込んだと業界では見られている。
相場については年初、上級品を 中心とした品不足気味で2月末にはR$1.00/Lbを付けた後、新綿シーズンに入り相場は若干下向きとなったが、前シーズン国内原綿の50%以上を生産 したMato Grosso州の大幅減収により相場は6月末より上昇し、また5月末よりNY定期上昇により、海外からブラジル綿に対する引き合いが増えると同時に、国内 の急激なドル高により5~6月にかけ輸出成約が相当量できた。100千t近くになったとみられる。
国内原綿の大幅減収、海外相場の上昇と輸出増大に伴う原綿相場の上昇により、紡績も安値低迷していた糸値を値上げ調整し8月以降順調に吸収され、紡績各社 の原綿引き合いが急に増え、相場は急上昇し9月中にはR$1.46にまで急騰した。政府は手持在庫を放出したが相場沈静の材料にならず、輸入綿は国際相場 高とドル高レアル安で高い値段となり、パラグアイからの輸入も在庫綿が少なく品質的にも問題があった。
また、国内生産者と一部Traderの手持在庫が意外と少ない上、更に高値期待で売りしぶりを続けたため、11月から再び高値更新を続け12月末でR$1.83となった。原綿在庫の少ない紡績はそれ以上の高値買いした所もある。
② 03年の展望
02/03年度の植付面積については、ブラジル全土で4%減と予想されている。02年度相場が上昇したにもかかわらず植付け面積が減少したのは、02年度 綿作者が資金手当てのため相場の安い時期に前売り契約したものもかなりあり、殆どの綿作者は収穫後換金のため在庫せず売った者が多く、また気候不順による 生産低下のため、綿作者の多くが採算割れとなり綿作意欲を失った。一方、競合作物である大豆の相場高から大豆に切り替える生産者が多く、大豆の耕作費用が 綿花の三分の一であり、植付から収穫までの期間が短く、天候不順による品質問題が発生しない、先物契約による前渡金を受け易い等が大豆への転換を促がし た。
輸出についてはブラジルと同じ南半球の大手生産国でその生産の大半を輸出するオース トラリアが灌漑用水不足のため大幅減産となり、輸出既契約量のショート分の代替としてブラジル綿買いに入っていることもあり、03年のブラジル綿輸出は 02年末までに70千tほど契約されている。
03年の綿花需要ポジションはかなり窮屈となることが予想されているため、今年1月に入りドル高の傾向が沈静しつつあるにも拘らず現物相場は高くなっている。
新綿植付はMato Grosso州の一部を初め、あちこちで降雨遅れのため全体的に遅れた。また植付け後の降雨不足で蒔き直しを余儀なくされたところも多い。生産に不安材料が見られる。
(2) 綿糸について
①02年回顧
02年国内綿糸は年初から一般衣料消費の不振を受け上期は低調に推移、6月末から国内綿花減産が鮮明になるにつれドル高の影響も受け、綿糸価格は上昇を始 めた。これにより綿紡各社の採算は大きく圧迫されるものの、春夏物の生産を控えるアパレル、ニッター間で急速に綿糸に対する先高観が強まった。更に8月以 降も綿花価格が上昇を続け、年末の国内綿糸価格は6月水準に比べ40%以上上昇した。価格は年末まで大きく改善できたが、原料コストアップを売値に転嫁で きただけに過ぎず、採算面で満足できるものではなかった。
綿糸輸出は8月までの国内市況悪化とその後のレアル安による輸出採算改善により、各社 輸出商談を積極的に進め堅調に推移した。仕向け地は北米向けが一時ほどの勢いはないが、欧州・中南米などで9月以降亜国向けの輸出が1年ぶりに再開され た。数量は01年に対し50%増となっている。
② 03年の展望
昨年後半にやや持ち直した綿糸市況も今上期には懸念材料が多く、早々に悪化していくものと思われる。原綿価格は昨年一年間で2倍以上に跳ね上がり、本年は スタートから高い原料コストを売値にいかに転嫁していくかが一番の課題である。昨年の冬物商戦は暖冬などで不調に終わっており、製品在庫もかなりあり仮需 も期待できない。この原綿コストでは輸出競争力も低下し、国内への供給量は過剰になるものと思われる。現在の高金利政策では消費の大幅な好転は期待しにく く、一部のアパレル、ニッターの信用不安の増大も懸念される。需給バランスの失調、原料高の製品安、決済期間の長期化などに見舞われる可能性もある。
新政権のもと新しい経済政策に期待するものの、03年上期の国内綿紡績業界は近年にない厳しいシーズンとなるものと思われる。
(3) 薄地織物について
①02年回顧
年初からのアルゼンチン・ショックの影響が繊維業界に大きくのしかかり、生地輸出、製品輸出とも全くストップしてしまい、ニット業界に大きな影響を及ぼ し、織物業界もジーンズ、ツイル等の生地・製品、薄地ではシャツ・ブラウス等の生地・製品、また寝装品のアルゼンチン向け輸出が全て止まってしまった。国 内販売も暖冬で冬物の引取りが遅れアルゼンチン向けの落込み分を吸収できず、生産調整を余儀なくされた企業が多かった。 しかし後半になりドル高によ り、国内への製品輸入が大幅に落ち込み、急遽国内品への需要が高まったこともあり、急速に市場は回復し年末販売への期待感の増幅となった。量的には年間を 通しては前年並みに戻した。
輸入原料と国内原綿の高騰によるコストアップが大きくのしかかり、売値アップを試みたが受入れられたのは年末であった。
② 03年の展望
昨年末の小売販売は好調に推移し、縫製業者の在庫は低水準であり、年初より店頭在庫補充の生産が順調に始まるものと予想される。夏物の補充生産が2月まで推移すれば冬物への転換が遅くなり、冬物先走りの傾向が是正されよい方向に向かうことが期待される。
基本的に薄地織物の需給バランスは取れていると思われるので、このまま製品輸入が増加せずに推移すれば、今年の商況は一般市況の推移とともに動くものと予想される。
一方アルゼンチンの市場が少しずつ上向いてきており、引き合いも多く、徐々に輸出量も回復してきているので今年の繊維業界にとってプラス要素である。
(4) 厚地織物および輸入織物販売の動向
02年の回顧と03年上期の展望
① 小売業界
1~4月は前年比10~15%アップ、5~6月は暖冬により冬物大不振、前年比30~35%ダウン、
7~12月は10%アップでトータルでは前年とほぼ同じとなる。
② 縫製業界
背広ズボンはまずまずであったがウールは暖冬で惨敗、ドル高により製品輸入は大幅に減少しシャツ・ジーンズはすこぶる好調であった。
③ 織物業界
ウール100%、ウール混共冬物不振、原料高騰から後半特に不振、ポリエステル織物も原糸と加工費アップから今一つの状態、品質・価格とも輸入品に押され気味であった。
④ 輸入業界
レアル暴落から織物・製品とも大幅なダウン、輸入業者も大きく淘汰された。価格の調整が難しく後半苦戦を強いられたが、まずまずの結果となった。
03年は心配されたルーラ政権も無難な滑り出しをしたが、不透明感が強く現段階での展望は何とも言い難い。
(5) 化合繊(短)について
①02年下期の回顧
下期のスタート時点では暖冬による冬物衣料不振と、大統領選での労働党党首の当選可能性拡大で中産階級の買い控えなどにより消費が低下しつつあって悲観的 な要素が強かった。夏物シーズン当初も同じような現象であったが、一般国民のル-ラ政権への見方も変化し、市場も回復し、下期は化合繊分野もまずまずの業 績で終了したものと思われる。ただ主原料のポリエステル綿は国産・輸入ともドル建てであり、レアル安で原料コストは著しく上昇した。
ビスコース綿もコットンリンターなどの原料値上げを理由にポリエステルほどでないが、値上がりした。
コストの売値への転嫁は顧客も納得する面もあって各社糸の値上げに注力した下期といえる。
需給面では極端なレアル安が繊維全般の輸入を抑えたことも背景にある。
② 03年の展望
まず経済情勢として、今年はル-ラ政権がやってくれるだろうとの楽観ムードで為替も3.2~3.3台で推移したが、ル-ラ政権が各種改革案を提示している が、PT単独ではなしえない改革も多く、またPT急進派の動静も注意しなければならず、米国経済不安、イラク・北朝鮮問題などが為替などに悪影響する懸念 が大である。化合繊業界は原料がドルの変化に大きく影響を受けるわけで、現段階の展望としては不透明としかいえない。
(6) ウール織糸および横編ニット原糸について
02年下期の回顧と03年上期の展望
02年上期ブラジル横編みセーター業界は一時の加熱状態が去り市場の伸びが鈍化し始めた。
ニッ ターの多くは操業短縮に追い込まれ一部大手には操業50%を割る所も現われた。したがって原糸業界もレアル安による原料コストの上昇を売値に転嫁できず採 算悪化に見舞われた。しかし、7月にレアル3.0をつけ、約2年間に渡り価格が膠着状態であった原糸業界にようやく値上げの動きが現われ、7月末のレアル 大暴落を機に紡績各社の足並みが揃い採算の一部が改善された。
しかし、最終製品のセーターの需要自体は改善されず、ニッターが原料高製品安の矛盾を抱えたまま年末の長期休暇に入っており、03年の市況も不透明となっている。
また各横編み産地は組合を組んで欧米の輸出に注力しているが、フアッション的に成熟した諸国への輸出は難易度が高く成果が現われていない。
ウール梳毛糸はブラジルでの衣料用需要は減少して久しく、椅子張等の家具室内装飾用途が主流となっている。原毛は02年豪州の大幅減産の結果、価格が高騰 し、これにつられ南米羊毛も急騰した。これに為替変動が加わり、梳毛糸の価格は年初の二倍前後まで値上がりしている。同時に原糸段階では採算も好転してい るが、製織業界は横編みと同じ悩みを抱える状態となっている。
家具メーカーは安価な他繊維へ乗り換える動きも出始めている。
(7) 絹業界について
02年下期の回顧と03年上期の展望
① 養蚕動向
8月から養蚕を開始した02/03農年期は主産地のパラナ州で8月の旱魃、9月初旬の降霜により出鼻をくじかれた格好となり、8~10月は計画を下回る掃 きたて数量であった。10月以降、気象条件が順調に推移しているものの、全般に桑不足気味で回復が遅れ、02年度内の飼育数量は概ね前年対比10%強の減 産になっている。12月以降はほぼ計画通りの繭収納が見込まれ、製糸三社の操業に必要な原料繭は確保できると思われる。
価格的には農産年期開始以来現在まで約10%上昇している。
② 製糸業界
販売数量の80%以上を輸出に依存し、更にその多くを日本市場に依存している製糸経営は、02年度を通して長引く日本経済不振による絹消費減退の影響を受 けて数量が大きく落ち込んだのに加え、世界の絹業界をリードし価格決定権を握っている最大の競争相手である中国品との価格競争から値下げ要請を飲まねばな らず、10%強、品種によっては20%近い輸出単価の下落もあり、苦しい経営を余儀なくされた。02年はレアル安が販売単価下落をある程度カバーしてくれ た。
03年は昨年秋以降繭・生糸とも減産傾向にある中国の減量ならびに製品の需給バランス改善による輸出価格の上昇が切に望まれているが、日本の絹需要の回復と合わせ先行き不透明で、ブラジル製糸にとっては引き続き苦しい経営を余儀なくされそうな年である。