2003年上期業種別部会長懇談会-貿易部会


柳田部会長

 

司 会  ありがとうございました。引き続きまして、貿易部会の柳田部会長よろしくお願いします。

2002年概況

貿易収支は昨年131億ドルの黒字

柳 田 JETROの柳田でございます。「2002年貿易回顧と2003年の展望」をご説明いたします。
まず2002年概況ですけれども、輸出は堅調に推移し、輸入の方はかなり大幅に減少したということかと思います。具体的な数字で申し上げますと、2002 年の貿易、輸出は603億6200万ドル、対前年比で3・7%の増、輸入は582億2300万ドル、同じく15%の減ということで、貿易収支は131億 1300万ドルの黒字でした。この黒字は、93年に記録しました132億9900万ドル以来の大幅なものです。皆様ご存じかと思いますが、ブラジルの貿易 といいますのは、年前半に大豆、あるいはコーヒーなどの一次産品の輸出が増加しまして、年後半に年末商戦に向けた国内生産が拡大をして、あるいは、消費財 の輸入が増加するということで、年後半は貿易収支が赤字に転落するというのが従来のパターンです。

しかしながら、2002年は先ほど金融部会からご説明がありましたように、ブラジルの政治経済情勢、これは大統領選挙、あるいは米軍のイラク攻撃の可能性 が年末に向かって高まって来た、為替がレアル安に推移して来たことを受けて、このパターンが変化したと言うことです。為替が一貫して下落、金利の上昇を招 いて国内消費を抑制したことの他に、先ほど申し上げた輸出ですが、大豆などの主要な産物生産者が売り惜しみをするという形になり、通常、大豆輸出は年前半 に終わるわけですけれども、年央以降も増加するというパターンで昨年は違ったパターンを生みました。一方、輸入の半分を占める中間財の輸入は先ほど申し上 げたように、9月以降も前年比で減少傾向を見せた。このように、輸入が減少した結果が先ほど申し上げました131億ドルという大幅な黒字を生んだ訳です。
輸出は、わずかに増加しているけれども、これは米国経済、あるいは世界経済、あるいはアルゼンチンの状況を考えますと、比較的健闘したといえようかと思います。

それでは、この輸出が比較的堅調だった背景として、もちろん通貨の切下げということが一般的に言われますが、その通貨の切下げによって競争力が高まったと いうことの他に、ブラジルは98年、この切下げ前の98年には直接投資額の工業部門に占める比率は11・9%しかなかったのが徐々に増えて2002年、こ れ1~11月までの数字ですけれども38・6%まで増えている。つまり、外国からのグリーンフィールド投資がかなり増えていることが、ブラジルの工業品輸 出を支えてきたと言えるかと思います。
特に自動車、あるいは金属、機械、化学、電気電子こういった分野で生産の拡張が積極的に行われて来たと言うことです。
それから、もう一つ付け加えますと、工業分野の輸出増加の背景として為替の切下げ、直接投資の増加、それに加えて、特に2002年に行われたメルコスールとメキシコの関税引下げ協定、こういった特恵関税協定がかなり大きく作用していると、この3点が理由かと思います。

一方、輸入減少の背景でが、これは一言で言いますと、「レアルの切下げと金利上昇による国内景気の落ち込み」によります。先ほど金融部会が説明されましたので省略させていただきます。
為 替が下落して、インフレ警戒から金利を上げた結果、売上指数そのものも11月以降になっても落ち込みが続いていた。同時にそれに合わせて製造業の稼働率も 下落したことで、やはり景気の落込みが、輸入全体の5割を占めるといわれる中間財・原料の輸入を大幅に抑えた。これは消費財も一部入りますが、その結果、 この輸入が15%という非常に大きな落込みになりました。

アジア市場台頭、輸出はALADI向け並み

次 は輸出について国別、地域別に見ますと一つの特徴として、ブラジルからの輸出がアジアに向かい出した。アジアが非常に台頭してきたといえます。 従来、米 国向けが25%、EU向けが25%、ALADI向けが大体16%。2002年アジア向けは14・6%まで上がってきて、ほぼALADI向けとアジア向けが 同水準に達したということが一つ大きな特徴かと思います。
米国向けは、同時多発テロ以降の影響を受けて、エンブラエールのジエット機の輸出が前 年比で7・1%減少したのが響いております。一方、端末、携帯端末ですが、モトローラ、ノキア等が非常に輸出ドライブをかけましたので、対前年比で対米 13・1%の増が目立ったところです。

ALADI向けは、特にメルコスール向けはアルゼンチンの危機ということで、前年比トータルでブラジルからは48%の減少。メルコスール以外のALADI向けとなりますと、対前年比で10・9%の増と、いかにアルゼンチンが足を引っ張っているかが分かるかと思います。
それから、アジア向けは先ほど申し上げました中国が非常に伸びており、国別輸出全体の順位で4位に躍進したのが目立った所です。中国向けの輸出は、昨年1 年間で25億2000万ドル、これは対前年比で32・5%の増加になっております。中国向けは主に大豆、鉄鉱石等が輸出品目ですが、こういった一次産品に 加えて、昨年は自動車部品、エンジンといった付加価値の高い分野も含まれるようになって来ております。対日につきましては後ほど申し上げたいと思います。

アルゼンチン向け輸出急減 ― 国別は2位が6位に転落

製 品カテゴリー別の輸出動向をみますと、まず一次産品ですが、その輸出もアジアなどの新市場向けが大きく伸びていることが輸出全体を支えた一つの要因にも なっております。ご存じかとは思いますが、原油ですけれども、ブラジルは昨年、対前年比でなんと134・6%増の輸出を果たしております。

次に大きなものとして豚肉、これは35・5%増、エビが35・2%、大豆まめが11・2%増と、こういったところが一次産品で伸びの大きいところです。
ブラジルの一次産品で最大の輸出品目というのは鉄鉱石ですが、これは対前年比で4%増に留まっております。ただ、中国向けが対前年比で23・7%と大幅な増になっております。これは、港湾インフラ等が整って価格競争力の面で有利になったということが背景にあります。
それからやはり、大豆につきましても中国向けが国別でトップになって53・5%と大幅な増加になっております。
半製品はアジア向けが25・7%と全体の比率ではトップで、ついでアメリカ、EU、大体同じような25%近い数字で、アジア向けが一番大きいと言うことです。
それから鉄鋼半製品は前年比で30%増、アルミ、これは地金で20・3%増。 鉄鋼半製品は、アメリカでITCの貿易制限措置が採られたが、実際には、米 鉄鋼産業の構造的な問題があり、ブラジルからの輸出は、ブラジル製品を買わざるを得ないので増えたと言うことです。最近は、台湾、韓国向けの鉄鋼半製品輸 出も増えております。
アルミは、2001年の節電計画が終了して、国内生産が増え輸出も増加していると言うことです。

加工品は、アルゼンチン向けの輸出減が大きく影響しております。この加工品の輸出のメインは、大体ALADIが中心です。トータルですとALADIは 2000年に全体の36%を加工品で占めていたが、アルゼンチンの経済低迷の影響から大幅に低下しており、2002年は26・4%となっております。た だ、そのうちメルコスールの占める割合は、10%を切り8・7%まで下がっていると言うことです。
2000年のブラジルからアルゼンチン向けの 輸出は一次産品、加工品全部含めて全体で約62億ドルあって、輸出総額の11・3%を占めていたが、2002年にはそれが23億まで急減をしている。輸出 全体に占める比率も3・9%まで下がり、従来ブラジルの第2位の輸出先であったアルゼンチンは国別では6位まで後退しております。

次は輸入動向の主なところですが、これは輸入はEUが全体の比率で27・7%と一番大きな位置を占めており、続いて米国が22・1%、ALADIが17・ 4%、アジアが16・9%。輸入に関してもアジアからが急激に増えて来ていることが言えると思います。全体的に、財別でいいますと、全体の輸入の5割を占 めています、この中間財、あるいは原料の輸入が、14・2%対前年比で減少しております。特に、中間財の中で輸入の額が大きい化学製品の原材料輸入が8・ 2%減というのが一つ大きな数字として影響を与えております。
もちろん、工業製品の部品類も18・7%減で、全体に大きな影響を与えた要因です。
資本財の輸入額全体に占める割合は25%くらいしかないが、貿易金融がしめられたこと、あるいは、国内の設備投資が控えられたことで、比較的好調であった アグリビジネス関係の農業関係機械等を除きますと輸入は減少している。消費財もやはり減少しております。ただ、唯一前年比で伸びているのは薬品です。

対中輸出が対日を追い抜く

続 きまして、ちょっとはしょらせて頂きますが、対日貿易についてふれさせて頂きます。先ほど中国向けの輸出が25億ドルと申し上げましたが、日本向けの輸出 が昨年は20億9800万ドル、明らかに中国の方が、中国向けの方が上回っている。日本向けの輸出は、昨年は前年比で5・6%増加ですが、輸入は23億 4700万ドルで23・4%の減となっております。ブラジル側が2億4500万ドルの入超ということです。

対日輸出は鉱産物、農産物その他加工品が中心ですが、特に目を引きますのは、鶏肉の輸出増加です。これは、レアルの下落で相対的な価格競争力がついたと同時に、ブラジルの生産者が日本向けに付加価値を付けて輸出するようになって来ていると言うことです。
一方、輸入につきましては、ブラジルに進出しておられるアセンブラーの新機種導入に伴い、自動車の部品、エンジンの輸入がやはり増えているのが目立ったところです。
一方、通信関連機器は、固定電話でテレフォニカなどがANATELの課している設置目標をすでに終えたということ、あるいは、携帯端末のユーザーの数が増 えている割には、その7割が前払い方式ということで、ハードの需要があまり盛り上がらず輸入が減少しており、通信機器全体では日本からの輸入は36・6% の減となっております。

最大のリスク要因は米国のイラク攻撃

ちょっ と長くなりましたが、間もなく終わります。2003年の見通しの所ですが、やはり最大のリスク要因は米国によるイラク攻撃かと思います。これが長期化する か短期で終わるかで、かなりシナリオが変わってくる訳ですが、長期化する場合には為替の切下げが進む一方、石油価格が引き上げられ国内経済に相当の悪い影 響を与える。この石油価格の上昇は貿易収支でのリスクと言うよりも先ほど金融部会からご説明ありましたけれども、やはりインフレの及ぼす懸念の方が大きい のではないかと思います。インフレ昂進がありますと、政治経済混乱も予想され、結果的にはそれが貿易面にも影響してくると言うことがあろうかと思います。

ただ、今の全体の予想、あるいは貿易部会の中での議論の中でも、貿易全体にこのイラク攻撃が直接的な影響を与えることはあまりないのではないか、というのがございます。
特に、原油につきましては、イラクから輸入していますが、全体がスポット契約です。それから、大体輸入先の確保に問題がないと言うことで直接影響は少ない のではないかと。あるいは、その輸出はですね、今後堅調に推移をして行くだろうということから、為替でレアル安になって輸入が抑えられると、引き続き黒字 が維持され、これが結果的にはブラジルのファンダメンタルズのアンカーになるということで、むしろプラス評価というのも一部にはある。

ただ、攻撃が短期間で終わった場合ですが、リスクはかなり軽減されて為替市場も安定して行く、あるいは金利も引き下げられることで安定的成長につながると なりますと、これは逆に国内景気が上昇することによって、中間財の輸入が増えて貿易収支が悪化をするというシナリオも考えられるところです。
た だ、貿易部会の中での議論で、ブラジル国内の生産者に果たして本当に国際競争力があるのか、なんですが、これについては、中間財の製造業者がまだ十分に国 際競争力を確保してないのではないか、これはちょっと時間がないので詳しいところは省略いたしますが、引き続き中間財の輸入は景気が回復すると増えると言 うのが一般的な見方かと思います。

今後、中国向けの輸出が引き続き増えると言うのが一つ の見方です。特に、アルコール、あるいは牛肉等の輸出が増えるのではないか。これは中国においてガソリンにアルコールを10ないし15%混ぜるという計画 もありますし、あとは検疫の問題とかを解決すれば牛肉等の増加が考えられると言うことです。
あと、2003年上半期については、やはり米国の景 気、あるいはイラク攻撃ということを考えますと、先ほど言いました航空機の輸出等、あまり期待は出来ない、対米輸出がそれほど大きく伸びないのではない か。EU向けはイラク攻撃の有無によってやはり少し影響が出てくる。これは前回の湾岸戦争の時にもかなり影響が出たという実績があります。ちょっと時間が 超過して恐縮です。以上です。

(詳細は末尾の部会資料)

https://camaradojapao.org.br/jp/?p=30868