2000年上期業種別部会長懇談会-コンサルタント部会

  • 今後の国際収支動向に注意
  • 外準はIMF合意の最低線にかなり近い
  • 為替は「管理相場制」になっている
  • 米金利、原油価格の行方注視
  • メルコスルも懸念要因

 

楽観ムードをもたらした8つのポイント

田中: それでは、ご指名によりまして、私のほうからお話をさせていただきます。
岡田さんからいまお話がありましたので、出来るだけ重複しないようにしたいと思います。

また、去年の実績は最小限に、今年の問題点と見通しにウエイトをおいて話を進めたいと思います。

まず一つはさきほど岡田委員長が申されたように、去年は非常に暗い見通しからスタートしたけれども、結果的にみてブラジルの対応は大体うまくいった。そ の条件的なものとしては、インフレが抑制されたということですが、これはまだブラジル経済全体の消費及び投資水準が低く、失業が高水準だったことから卸売 物価は約20パーセント上昇したけれども、それが小売物価へ転嫁できず、消費者物価が9パーセントしか上がらなかったということです。

「失われた80年代」と言いますけれども、80年代でも経済成長率は年平均3%。ところが90年代は1.7%くらいしかなかった。まあ、そういうことで、まだ経済にゆとりがあって小売価格への転嫁が難しかったということです。

2番目はリセッション回避。当初、経済成長は3~4%のマイナスを見込んでいたわけですけれども、実際にはトントン乃至若干のプラス見込みと。
これはドルレートの暴騰が回避できたこと、それから金利を急ピッチで下げたことの効果による。金利は9月以降は下げてはいませんが。

まあ、10月後半くらいまではかなり悲観ムードが強かったんですけれども、10月から11月にかけて一転して楽観ムードになった。その要因を列挙します と、 ① 中銀が介入幅を拡大し為替レートが安定した。 ② 財政の一時収支の目標達成が確実になった。 ③ 格付け会社による「ブラジルの格付」けが上がった。 ④ 心配された米国の経済が一応インフレのないコントロールされた上昇を続けた。 ⑤ 心配されたアルゼンチンでは予想通り野党連合のデラルーアが大統領に当選し、財政調整パッケージを出し、為替パリティーの維持ということで一応為替切り下 げが遠のいた。 ⑥ ブラジルの輸出に回復の兆しが見えてきた。 ⑦直接投資も順調で前年より多い約300億ドル入った。

⑧全般的に世界経済に上昇気運が感じられるようになってサンパウロの株式指数は、去年の暮れには17,091ポイントと、98年末の6,784ポイントに比べて152%の上昇。ドルベースで69%の上昇で、ブラジルだけでなく世界も全体的に明るいムードになった。

今後もつづくか楽観ムード

外準 それじゃあ、この楽観ムードが今後続くのかどうかですけれども、ブラジル経済の一番大きな問題点、警戒を要する点は国際収支ですね。
昨年は国際投資が300億ドルと多額に入ったわけですが、ブラジル企業の外債返済における新しい借り換え額が返済額に追いつかなくなった。返済額590億ドルに対して新規借入れは439億ドルでした。

短期資本もブラジル危機のありました98年ほどではなかったが、依然として流出が続き、ネットで60億ドルのマイナスになった、ということです。
したがって、外貨準備高を見ますと、99年末は363億ドル。98年末が446億ドルですから昨年は減少しております。IMF関係の借り入れがあり、これらを除くと98年末は393億ドルで、それが去年の末は240億ドルとなっております。
IMFとの合意による外準最低線(IMF借款を除いた)は203億ドルですから、その線にかなり近付いておるということですね。

ご承知のように去年1月の為替切り下げ前まではレアルプラン以降、ずっと変動幅制、いわゆるバンダ制度をとり、これをアンコラカンビアル(為替いかり)ということで為替の安定を維持する事によって経済安定、発展をめざしてきました。

当時は高金利と国債の増発により金融財政上のかなりの犠牲を払うことによって、輸入の十数ヵ月分という巨額の外貨準備高を維持してきたわけです。これによって、アジア危機、ブラジル危機にさいしてかなりアタックされたけれども一応は耐えられたといえます。

為替と外準 現在はご承知のように変動相場制となっております。為替相場が市場で調整されるんですね。

外貨準備は輸入の数ヵ月分で十分だといわれております。しかし、現在のブラジルを見ますと、さきほども触れました変動相場制が建前と違いまして、中銀がIMFとの合意の下にかなり為替市場への介入幅を広げており、いまや「管理相場制度」ですね。

ですからそういう意味では「バンダ制」と実質的に変わらない。当時と違う点は金融財政上の負担は減らして、そのかわりに外貨準備は最低線になってる、と いうことです。そういう意味では為替、外貨準備という点では無防備状態になっており、これが一番大きな問題点じゃないかといえます。

今年の外的要因 - 欧米金利、 原油価格、メルコスル

今年の動きを見る上で海外の動向が大きな要因になりますが、そのひとつが米金利です。明日(2月2日)発表になるが、上げ幅が0.25か0.5%か、さらに3月も上げるか、といったその辺に焦点が絞られております。

昨日のダウ平均はもうすでにそれを織り込みずみで上がったけれども、サンパウロの平均株価は下げております。これはやはり、エマージング・カントリーに対する資金の流れが減るという事を見越しているようです。

それで世界的に金利引き上げの傾向が強まっています。ヨーロッパもこの前、イングランド銀行が上げましたけれども、あとヨーロッパの中央銀行が上げるかどうか。

それから原油価格が上昇気味でこれがひとつ。2番目はメルコスル。さきほど申し上げましたようにアルゼンチンの為替切り下げの懸念は一応遠のいた、とい いますけれどもアルゼンチンが非常にブラジルの為替切り下げについて根強い不信感を持っており、今後のメルコスルの動向というのが貿易面も含めて注目され ます。

アルゼンチンでは予想通り野党候補が当選しました。彼はメルコスルの推進論者であり、通貨パリティーの維持者、財政改革の推進 者でもあるわけで、すでに「財政調整法案」も議会を通ったということです。また、外債をこの間ブラジルよりも前に出しましたけれどもスプレッドはブラジル が650、それに対してアルゼンチンは500いくらということでアルゼンチンよりもスプレッドが出ております。

問題はある程度長期的に見た場合、前述のようなわけでメルコスルの将来が注目されるということです。

ロシアの動向

3番目はロシアの動向です。3月の大統領選挙をひかえ経済は依然として不透明、不安定です。チェチェン紛争もあり、そういった海外の動向にかなり左右されます。

国内要因

国内要因は10月の市長選挙による財政の支出増、それから国会の審議のおくれが懸念されます。

数字的なことは、情勢によって左右されるので言っても余り意味がありませんが、一応目安としてジェトウリオ・バルガス財団(FGV)発表の数字をあげますと

▲IPC(インフレ率)
・楽観的見方  年8%
・保守的見方  同9.2%
・平均     同8.6%

▲経済成長率
・楽観的見方  年3.4%
・保守的見方  同2.8%
・平均     同3.12%

▲金利
・楽観的見方  年18.75%
・保守的見方  同19%、19.25%
・平均     同19%

▲ドル・レート(12月末)R$1.90と 1.95

▲貿易収支
・楽観的見方  44億ドル
・保守的見方  36億ドル
・平均     28億ドル

以上はFGVがここの金融機関の数字を集めて弾き出したものです。

明るいムードで明けた年はよくない

私のいままでの経験から言いますと、年末の見通しが非常に明るい時は大体、1年過ぎてみると「余りよくなかった」。それから暗いということでスタートし たときは「よかった」と。殆ど例外なくそういうふうになってますので、今年はわりあい明るいスタートになりますので、そのジンクスがくずれることを期待し て私の話を終わりにします。

司会:どうもありがとうございました。年末の見通しが明るいと、その年はよくないと。年始の見通しが暗いと良いと。ということは99年10月以降、楽観論が大分出てきたということですから、2000年は良くないという事ですね?。

田中:そうならないように期待したい。私のいままでの経験がはずれる事を期待しております。

司会:次ぎは山浦金融部会長にお話をお伺いして、その後若干の討論をしたいと思います。

2000年上期業種別部会長懇談会-コンサルタント部会(レポート)

部会長 : 田中 信

1.1999年の回顧

1999年は年明け早々の1月13日、為替バンダ(為替変動幅)を従来の1.12~1.22レアルから1.20~1.32レアルに引き上げるとともに、 その中で1週間毎に変更していたミニ・バンダを廃止した。そのためドル相場は前日の1.21レアルから1.32レアルの天床に張りつき激しいドル流出に見 舞われた。

中銀は15日、バンダ制を廃してフローティングに移行した。

当時は、1999年経済動向に対し悲観的観測が支配的であったが、年を終えてみると結果的にブラジルの対応はほぼ成功であったと言うことが出来ると思われる。

(1)切下げによる最も大きなネガティブ効果としては、インフレ昂進で、中には30~50%に達するという見込みも多かった。政府がIMFと合意した目 標は17%であったが、実績は卸売物価のウエイトの高いIGP-DIは20%となった。しかし、政府が採用したインフレーション・ターゲッティング・シス テムで定めた目標はIPCA8%(上下2ポイントのアローアンス)であったが、実績は9%と許容範囲内に留まった。

(2)切下げにより予想されたもう一つの大きな影響は景気の大きな落込みであった。3~4%のマイナス成長という見通しが最も多かったが、実績はトントン乃至は若干のプラスとなった見込みである。

(3)切下げにより最も期待されたのは輸出増加による貿易収支の改善であった。
政府は当初、110億ドル黒字の目標を掲げたが実績は12億ドル赤字で終った。前年98年の65億ドル赤字に比較すれば大幅改善であるが、輸出は前年比6%減で、15%という輸入の大幅落込みにょる貿易収支の改善である。

(4)サービス収支も、支払金利は増加したが、海外旅行、利益送金などの減少により、改善したため、経常収支も98年の336億ドル赤字から、99年は 244億ドルの赤字へと改善した。但し、切下げによるドル建GDPの減少により、経常収支の対GDP比率は98年の4.33%に対し99年は4.39%と ほぼ横這いであった。

(5)外国企業の直接投資は98年の259億ドルから99年は300億ドルに増加し、余裕をもって経常収支赤字をカバーした。
しかし、ブラジル企業の外債返済は98年の336億ドルから99年は519億ドルと大幅に増加、これに対し中長期借入は98年の620億ドルに対し99年は439億ドルと返済額をカバーするに至らなかった。
短期資本も98年の273億ドル程ではないが、99年は60億ドルと依然流出は続いている。
その結果、99年末外貨準備は363億ドルで、IMF関係借入を除くと240億ドルと、最低ラインの203億ドル近くまで落込んだ。

2.2000年見通し

99年は年初の切下げ以来混乱が続き、年央には小康状態となったが、その後インフレ昂進の気配、外債返済のためのドル需要、政治的不安定などの国内要因に加え、米国の利上げ懸念などの海外要因も重なり、10月後半まで企業や市場には悲観色が強かった。

しかし、10月末から11月初めにかけ、ドル相場の落着き、IMFの支援条件である財政一次収支達成見込、ブラジル格付上昇、米国経済のインフレ無き成 長継続確認などにより、一転して楽観ムードに変わった。BOVESPA(サンパウロ株式)指数は98年末の6,784から99年末は17,091と 152%(ドル・ベースでも69%)上昇した。 

本年のブラジル経済は、海外要因に大きく左右される可能性が強い。その主なものは、

● 米国経済、特にインフレと金利。
● ロシア大統領選挙やチェチェン紛争に関連する経済動向。
● 原油価格の動向。
などである。

国内要因としては、
● 市長選挙に関連した財政動向、諸改革の国会審議の動向。
● 景気回復に伴うインフレと輸出入の動向
などが考えられる。

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