〔2000年上期の展望〕
(1)石油化学・合成樹脂
業界の動向を示すエチレンの生産量をみると、3つのセンター会社の内COPENEが556.8千トン、PQUが226千トン、COPESULが速報で約500千トン、能力対比でCOPENEが稼働率93%に達したものの、他2社は90%以下。
注目すべきは、この間の国際原油価格値上がりで石化向け原料ナフサが年初200㌦/㌧であったものが、6月には230㌦ラインへと約15%アップ、これを受けてエチレン価格も同期間中3センター平均で8%値上がりした。
エチレンの値上げにもかかわらず誘導品の代表PE(ポリエチレン)は、例えばカマサリ所在POLIALDEN社では年産150千㌧ブラントがフル稼動、そもそも同コンビナートのエチレン系誘導品メーカーの生産能力を合わせるとCOPENEの1,200千㌧では不足し、このため、このところ恒常的に原料エチレンの取り合いが見られる。
PEをはじめとする合成樹脂全体では、上期の生産量は昨年同期比20%近く増加している。これに伴い単体樹脂での着色、補強材・添加剤を入れた複合樹脂の生産量も着実に増え、各需要業界の回復が順調に進んでいることをうかがわせる。
用途別には、自動車向けPP、家電向けPSを中心とした工業部品、トイレタリー・洗剤用中空ボトル向けPE、更には電気・通信ケーブル被覆用PE、食品・飲料ボトル向けPETなどが好調の代表選手。
特に、ミネラルウォーター用ボトルは従来のPVCから近年PETへの置き換えが盛ん、スーパーに並ぶ水ボトルは完全にPET製に切り替わった。逆にオフィスなどで使用する20Lの飲料水用ボトルは従来PCであったものが、PVCやPPなど価格の安い素材へ代替されて来ており、安全や環境へ未だ無配慮の国柄であることもしのばれる。
合成樹脂はナフサ価格の上昇を受けて今年に入ってから値上げが続いており、加えて電力料金などの値上げもあって、昨年来蓄積しているコストアップ要因を製品価格へ思うように転嫁できていないのが問題。
更に、韓国・台湾からの安値輸入品に押され、これに対抗するため必然的に手取りマージンは圧縮されてきているのが悩み。
合成樹脂以外の誘導品では、ナイロン、ポリエステルなど合成繊維が末端衣料品の旺盛な需要に支えられ繊維用中間原料であるカプロラクタム、エチレングリコールらとともに好調であった。ただ、EGは年央海外新増設能力の立ち上げもあって、後半弱含みへ転化。
合成ゴムは、自動車用タイヤ、サンダル用が好調、自動車タイヤにはタイヤコード用に上記のナイロンも出荷が旺盛、これは自動車産業が今年になって着実に回復していることの証しで、このことは塗料・接着剤、更にこれらの溶剤製品も好調に推移したことにも現れている。
原油価格とのナフサの値上がりがあったにもかかわらず、上期の化学上流部門はまずは堅調に推移したと言える。
(2)農薬
異常気象と前年度末からの流通在庫の過剰で、上期農薬業界は苦しい展開を強いられた。
作物別に見ると、ラニーニャの影響で開花期のコーヒーが落花し収穫減、大豆は種まきの大幅遅延で収穫時期がずれ上期の収量は通常の半分以下、コーンは2月からの秋作が旱魃の影響で全く不振、ジュース用オレンジは昨年来の価格暴落で収穫さえされない状況で、農家経済は総じて厳しい状態にある。
この結果、外資系農薬工業界17社の上期の売上合計は5.7億㌦と、前年同期比8.7%増であったものの、内7社がマイナスかつ在庫販売が中心、秋作の不振とあいまって在庫の調整を出来ないまま上期を終えた。客先の農家からは支払いの延期要請により代金回収の長期化を招いており、レアルプラン以降順調に来た農薬業界は厳しい局面に立っている。
(3)金属工作油
本年上期の販売は前年同期に比し20%増ながら前期比では4%増に過ぎず、ほぼ同水準。
これは主力の自動車分野が順調に回復(上期生産台数約800千台で、前年同期比24%の増)しているものの、鉄鋼・繊維分野が微増ないし横ばいであったのに加え、欧米系競合メーカーの攻勢活発化で販売環境が厳しさを増してきていることによる。
採算面では、ペトロブラスのベースオイルの30%強の値上げにより、純売上げ対比原料比率が5ポイントアップしたが、経費を4%ダウンに抑え、営業利益は横ばいであった。
(4)水処理剤
客先を大別するに、石油・石油化学、鉄鋼、紙パに代表される大手需要家からなるA市場、それ以外の中・小需要家からなるB市場で、ボイラー・冷却設備向け使用量は変わらないが、鉄鋼・紙パは需要も上々で、要望も厳しくなく商売はやり易くなった。
但し、製品納入・売りっきりの従来タイプの商売から、漸次サービス(役務)提供の度合いが高まってきている。新たなトレンドとしては設備貸与+ファイナンスを打ち出す競合メーカーも出てきており、既に鉄鋼分野で実績が見られる。こうしたオペレーションサービスは営業経費が掛かり(対売上比率35%)、これへのフォローは難しい。
原材料は輸入品ないしドル建て購入で、従来よりも30%~40%も上がってきている。
(5)写真フィルム
99年以降不振が続いており、数量、価格とも思わしくない。
本年上期4月までは小売ベースでほぼ毎月前年割れが続き、メーカー出荷も同じ状況、価格も数%下落を示した。5月に入り若干持ちなおしたが、上期累計では対前年マイナス。不振の原因は消費者の所得増がないためと分析しており、全般的にブラジル経済回復との見方が一般的だが、当業界にその実感は感じられない。
一般消費を含むブラジル経済の本年後半の回復に期待したい。
(6)塗料・接着剤
いわゆる「Y2K」、ミレニアム問題でコンピューターが誤作動を起こす可能性があると懸念したユーザーでは昨年末に在庫積み増しをしたため、年明けの製品出荷が低迷した。
ようやく3月以降になって塗料・接着剤関連企業も購買を再開、荷動きも増加してきた。
製紙業界では稼働率が90%以上で操業したことで製紙用製品の販売も増加し、このため価格も5~6%の調整(値上げ)ができた。
原料ロジン(松脂)は中国の生産が好調で世界への輸出も活発なことから、欧米では市況が低下、同じ輸出国であるブラジルも中国品との競合で価格は下がりつつある。
(7)文具
主力のボールペン、サインペンは、昨年が史上最高の業績であったが、今年に入り更に伸びている。とちらかといえばサインペンの伸びが大きい。昨年かなり値上げしたため、数量面ではマイナスだったが、金額面ではプラスにふれた。結果、上期は売上高で7%、利益率で3%の上昇をみた。
会議室などで使われるホワイトボード用のマーカーの売れ行き伸長が著しい。現在輸入で対応しているが、今後の伸びを期待し現地生産を考えている。いずれにしてもブラジル経済が回復期にあり、企業もこうした事務用品を積極的に使い出していることを示す。
ボールペン市場は仏系の汎用低価格品と、日系の中高級品に二別されるが、競合他社の動きを視野に入れた市場展開を続けていく。
(8)化学品輸出入
毎月の取り扱い品目が70にも及ぶ中で、上期は有機化学品の輸出が好調、逆に輸入は国内メーカーのプラントトラブルで供給ネックとなった原料(VCM など)が活発に行われた。同じく自動車、製紙関連も活発化しており、この分野の回復基調が本格化していることがうかがえる。
変わった輸入品目としては、ブラジルは環境対策後進国と言ってよく、先進世界で既に使用禁止されている化学物質でもブラジルで禁止されていなければ平気で使用される。食品添加物のサッカリンは日本では禁止されて久しいが、ブラジルでは未だ使用が認められており、あのコカ・コーラにもブラジル品には含まれている。
自動車をはじめとする多国籍企業は、その使用原料を本社/本部の指示で使用決定するのが通常、要するにワールド・プロキュアメントだが、この面で世界に支店網のある商社の輸出入機能が活きてくる。
〔下期の展望〕
経済活動全般への影響因子の一つである原油価格は、本年は25㌦台からスタート、3月OPEC総会前に34㌦を付けた後、OPEC増枠(計708千 BD)の流れを受け反落、4月上旬には一時24㌦台に下落した。その後米国ガソリン価格の高騰を受け急騰、6月下旬には再び33㌦台まで上昇し、その後 30㌦を超すレベルで展開した。
下期の原油価格はこの基調から27㌦を超える高値が継続するものと見こむ(平均価格が27~32㌦のレンジ)。
経済一般は上期の景気は継続する可能性が高く、例年下期が需要シーズンである合成樹脂業界を中心にその基調を期待している。但し、石化原料ナフサが7月から更に値上げされ、6月末の230㌦/㌧から一挙に295㌦と、28%も上昇したことから、エチレン以下の価格上昇が川下分野に与える影響が懸念される。
業界の対策としては、こうした川上からの原材料の順次値上げ、電力代・輸送賃等公共料金の値上げを受けて製品価格への転嫁、少なくとも昨年並みの原価率を維持しながら、他方で高品質製品の開発・投入で販売シェア拡大を図り、世界レベルの大競合時代の生き残りを掛けていく。
なお、カマサリコンビナートのCOPENEと誘導品メーカーの資本再編成の動きが進捗しており、下期のある時期に株式のレイロン(競売)が行われる可能性が強い。
以上