2000年下期業種別部会長懇談会-機械金属部会(レポート)

2000年上半期の回顧と下半期の展望

昨年上半期の為替切下げによる苦い経験が嘘のように、今年の上半期は機械・金属部門全体としては順調に推移してきている。

インフレ、金利安定を背景に国内の消費マインドが上向いたことが、回復の大きな要因だが、本部門において特筆すべきは輸出の直接、間接的貢献である。

ブラジルの上期輸出総額261.5億㌦は上期としては、1948年以来の過去最高で前年同期比16.5%増となった。その原動力と言われているのが加工品とくにセルラー、飛行機、自動車等の伸びである。直接的な輸出金額だけを捉えれば、まだ機械金属部門として大したレベルにはないが、確実に輸出ドライブが進行しており、各企業が輸出のための設備投資を開始していることが間接的な貢献となって各業種に波及している。

昨年の経済危機がある意味では現在のブラジルの姿を急激に変えたと言えるかもしれない。

つまり、デバリにより輸出競争力向上とともに国内のリスクを分散すべく、多くの企業が輸出のための備えを始めた。

輸出を睨んだ投資は単に能増するための設備投資に留まらず、国際競争力の向上という大命題のもと将来の品質改善、コスト削減のための投資に及んでおり、関連の業種も巻き込んだ形で進められている。

上半期はそのような動きがはっきりと形となって見え始めたと言える。

下半期については、上半期の流れが基本的には続くと見られる。

このまま低金利傾向が続けば、国内需要も安定してくるため益々売上増が期待できるだろう。

10月に予定されている市長選挙も公共投資を通じてプラスに働くと思われる。

但し、売上を伸ばせても利益を確保できるかは別の問題である。競争激化のなかどう生き残るか、がどの業種にも共通して言える課題であり、商品力アップとコスト低減を両立させることがこれからのブラジル企業にとっての最大テーマと言えるだろう。

以下、業種別動向を簡単にとりまとめた。

 

業種別動向

<自動車>

本年上半期は年初から良いスタートがきれた。

国内経済の落ち着きとともに、国内の自動車市場は回復基調となり、各社とも昨年に比べ、売上を伸ばしている。全体では1-6月卸売684.9千台を記録。前年同期比9.4%増となった。

輸入車販売は為替安の影響で依然低迷し、74.7千台、前年同期比▲27%となったが、国産車はそれに対し、16.6%増となっており、市場は国産車を中心に伸長している。

但し、国産メーク11社が相変わらず激しい競争を繰り広げており、収益的には厳しい。

昨年の為替切下げによるコストアップを売値に転嫁すべく各社とも年初より値上げを実行してきたが、市場がそれを受入れず、結果的には販促費を相当かけている。また、鉄鋼等素材メーカーの値上げ圧力も加わり、収益的にはなかなか改善までには至らないところが多い。

上半期で特筆すべきは、輸出ドライブへとかなりのスピードで転換してきていることである。グローバル化の中で、ブラジルを輸出基地として位置付けるメーカーが多く、今年になって急激にその動きが具体化してきている。

傾向としては、従来のメルコスールを含む南米中心の輸出から北米・欧州・アジアへ向けての本格的な輸出の開始である。

フィアットは従来より全輸出の85%をヨーロッパに向けていたが、今年になってVWもメキシコに年間40千台、北米向けにも輸出を再開、業界全体では、上半期171.5千台の輸出となり、前年同期比50.4%増に達した。

ブラジルメーカーが徐々に力をつけてきて品質面でも国際水準に近づいてきた証拠であろう。

輸出の伸長は全体の生産台数増にも貢献し、1-6月で累計801.1千台、前年同期比124.5%となり、国内生産は回復基調となった。

下期については、低金利安定化を前提に、上期の調子が継続されると思われる。

割賦販売比率が昨今70%程度と回復しており、先月はメーカー系銀行がさらに割賦金利を下げる動きを見せており、国内需要の増加が期待される。

輸出については、アルゼンチンとの2国間協定で8月よりメーカー毎の輸出入バランスが求められるようになるため、同国向け輸出は縮小。代わってメキシコ・北米向け輸出が増加し、台数規模は従来以上となろう。

ANFAVEA(自動車工業会)では、通年で生産1.6百万台(前年比119.0%)、国内販売1.37百万台(同109.6%)、輸出35万台(同130.6%)と強気の予想を立てている。

昨年と比べると、売上増加は期待できる。

さて、問題は損益的に回復できるかである。

競争の激化により、今後とも値上げによる利益確保が困難であることは明白であり、いかにコストを下げるかが最大の課題である。

ブラジルでコストアップ要因として顕著なのは、物流費、労務費、金利コストと言われている。

GM等欧米メーカーはこれらのコスト削減に向け積極的に取組み始めた。

例えばGMが先月発表したGravatai工場は、モジュール形式と言われる工場内部品外注化を採用し、物流費及び労務費の削減を志向している。

また、販売面でも同工場で造る小型車をインターネットで販売する計画もあり、在庫金利の低減を目指している。

製造・販売両面で本格的なコスト削減のための動きが顕著となってきており、日本勢はうかうかしていられない。日本メークも今後ブラジルに投資を進めて行く上で、しっかりとした調査・分析のもと、従来のやり方にとらわれず、他社の良い例は吸収しながら成長していくことが必要となる。

 

<重工業・プラント>

昨年下期からの輸出の伸張、国内消費の拡大傾向に支えられ製鉄・食品・自動車等各業界とも増産のための設備投資を開始。本年上期になって、機械設備・プラントの受注が伸びている。

今のところ、欧州勢が落札するケースが多く、日本勢は次の商機に備えている。

また、輸出振興に伴い、港湾施設の投資も増加傾向でマテハン関連設備の案件が急増。但し、小型シップローダーでは安い中国製が強く日本勢は大型に集中。

BNDES融資を受けるための条件、国産化率60%も日本勢には厳しい。

電力の分散化から発電プラント等の大口案件は急増しているが、まだ具体的に建設を開始した案件は少なく、各社とも入札の準備を進めている。

ユーティリティの外注化が進んでおり、産業冷凍業界などでも技術・工事・メンテナンスを一括管理したサービスを提供する傾向となってきた。

下期は引き続き輸出関連企業、発電プラント等を中心に大型設備投資があり、受注増が期待できる。

日本勢にとってはブラジルへの大型投資に対し、いかに本社を説得していくかが鍵。

また、価格競争ではなく、いかに新技術を織り込むかも日本勢への課題。

産業冷凍業界では、日本勢が生ジュースの凍結輸送の開発、食肉・食品会社の配送センターへの一括サービス体制構築など積極的な事業展開を計画、売上増が期待できる。

 

<自動車部品>

年初からの自動車業界の回復に伴い、本年上期は各社順調に売上を伸ばした。

特にベアリングは国内のみならず、世界的な需要回復により、アジア・欧州等からの注文も伸び、売上が昨年比50%以上伸長しているケースもあり、逆に在庫不足の状況。メーカーによっては、工場も3直フル操業が続いている。

損益的には、原材料・鉄鋼メーカーのモノポリーにより、値上げを飲まざるを得ず、各社とも苦しい状況。

輸出は先進国向けが増えており、仕様への要求度が高くなっており、安くて良いものを作るよう各社しのぎを削っている。

アルゼンチン向け輸出は購買力の問題で徐々に減少傾向。下期も基本的には上期の調子が続き、国内・輸出とも順調に推移する見込み。

部品工業会では本年通年で114億㌦の売上、前年比約10%増を見込んでいる。

技術力・品質の向上により、輸出先は増加、これまでのアンコム製は既にブラジル製が取って代わる傾向だが、グローバルソーシングの基地としてアジア・欧州・北米向けも増加が見込まれる。生産キャバを上げるべく各社能増投資を計画している。

 

<自動二輪車>

上期の国内市場は景気の回復、金利低下による需要増を背景に主要メークのモデルチェンジ・新機種導入が重なり、前年同期比124%の276千台を記録した。

加えて、為替切下げによる国際競争力アップにより輸出が大幅に伸長(前年同期比237%の31千台)、結果として生産台数は前年同期比130%の 307千台を記録。下期は、さらなる金利の低下により割賦販売の増加が予想され、市場はゆるやかに拡大する見込みである。

各社投資に意欲的であり、自動車メーカーのブジョーもパラナ州にて地場企業との提携で50~125ccの小型バイクの生産に乗り出すことを発表しており、業界全体として工場進出、能増、販売網拡充等成長路線を歩むことを期待している。

輸出は、販路拡大により引き続き上昇傾向で、北米輸出、ブラジル・メキシコ2国間協定の行方が注目される。

 

<農業機械>

本年上期は、政府融資PRONAFが再開し、久々に耕運機市場が好調。

トラクターも国内需要の回復、政府農業融資FINAMEの導入により、中・大型(前年同期比108.6%)小型(同129.3)と増加。

但し、小規模農家を対象としたFINAMEは銀行が慎重な姿勢をくずさず、あまり機能しなかった。

期待されていた汎用ディーゼル・エンジンは、主要市場の北東部が予想外の多雨となり灌漑用ポンプ需要が低調、前年同期比97.4%となった。

農業機械の輸出はまだ少量だが1-6月で2451台と前年同期比131.5%で増加傾向。

下期も全体としては、上期同様の傾向。トラクター業界では本年通年で2.6~2.7万台、前年比6~10%の販売を見込んでいる。 

汎用ディーゼル・エンジンは、北東部が乾季にはいるため市長選にともなう特需が期待できる。

 

<鉄鋼>

本年上期の国内鋼材需要は、国内経済の回復基調に伴い増加、1-4月期の国内鋼材消費量は前年同期比111.5%(鋼板119.2%、条鋼102.2%)を記録。特に自動車、自動車部品、大径管、建設機械、農業機械用鋼板需要は拡大した。

また、メッキ鋼板については自動車、家電分野を中心に冷延鋼板からの切替えの動きが見られ、需要が好調。

鋼材全体の輸出は、1-4月期で3.4 百万㌧と前年同期比106.8%となった。 

但し、鋼板の輸出は国内需要も逼迫し、一時期輸出困難で前年比微減となった。半製品、条鋼の輸出は前年同期比でそれぞれ104.3%、148.2%と順調だった。結果、1-5月生産実績では、鋼材全体では10.3百万㌧(前年比107.3%)。その内鋼板が7.3百万㌧で前年比108.0%、条鋼類は 3.0百万㌧、前年比105.8%といずれも増加となった。

粗鋼生産は11.3百万㌧で前年同期比109.3%となった。   

輸入鋼材は全体としては為替切下げにより微減だが、メッキ鋼板については建材向け需要増を受け、前年同期比159.4%と大きく伸長。 

下期は全国市長選挙対応としての公共投資が期待され、国内の鋼材消費量は過去最高の1997年レベル、15.3百万㌧にのぼると予想している。

特記事項としては、自動車用を主体とした溶融亜鉛メッキ鋼板の製造が9月よりUSIMINASで開始される予定。新日鉄の出資による合弁事業となり、高付加価値製品の需要増が期待されている。

 

<電動工具>

本年上期は、国内市場の回復を楽観視し、各社とも昨年の通貨切下げによるコストをカバーすべく、値上げを実施。しかしながら、期待されるほど売上が伸びず、結局プロモーション等により価格を抑えざるをえず、損益的には依然苦しい。

その中で現地生産メークは比較的有利でさらなる現調化により競争力を向上している。輸出はメルコスール向けからアメリカ向けにシフトしているが、輸出額自体は全売上の5%程度に過ぎずまだ少量にとどまる。

下期は基本金利の低下による国内市場伸長を予想。通年で昨年比20%増。1昨年並みの市場レベルまでの回復を期待している。

景気の戻りにより、中国製、日本製輸入品も徐々に増える傾向になるが、新製品を導入することが今後の鍵を握る。

引き続き各社高国産化を図っており、そのための設備投資増加が予想される。

 

<切削工具>

本年は年初より国内・輸出とも出足好調。特に日本向けを中心に輸出需要が急増、生産能力が逼迫し始めている。

為替の影響で輸入品は低迷していたが、今年になってから国産にないハイテク仕様の商品が堅調に伸び始めた。

下期も自動車業界の回復に支えられ、楽観視できるが、素材の値上がりを販価に転嫁できず、引き続き収益を苦しめることになろう。

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