I.銀行業界
① 2000年度の経済概況 1998年以降の通貨危機、レアルの切り下げ等により、ブラジル経済は一時低速したものの、その後、予想を上回る急速な景気回復を示し、2000年度に おいても順調な回復軌道をたどっており、2000年4月の時点では、1998年12月に組成されたIMF等の国際金融支援パッケージ(総額414億ドル、 引出し総額累計201億ドル)の一部期限前返済を実施し、新規引出しは行わない旨を発表するに至った。 年間のGDP成長率で見ると、1999年度の+0.79%に対し、2000年度は+3.7%(見込み)と加速した。2000年度第4四半期に入り、米国 株価下落やアルゼンチン情勢の悪化の影響でレアル為替相場が軟化したが、こうした対外環境の悪化や原油価格の高止まりから、2000年のインフレターゲッ ト(6%±2%)への配慮も働き、ブラジルの政策金利は7月から12月まで16.5%で据え置かれた。 しかしながら、同期間中のインフレ率が安定的に推移したことから、2000年12月以降は15.75%、15,25%と政策金利の水準を低めに誘導している。 ブラジルの経常収支も依然として253億ドルの赤字となったものの、予想比好調であった海外直接投資(306億ドル)やソブリン価格上げ等に伴う海外起 債環境の好転により、資本収支が大きく改善。前述のIMF等による国際支援融資の返済を積極的に実施したにもかかわらず、2000年度末の外貨準備高は前 年末比26億ドル減少したに止まり、330億ドルを維持している。 また、2年連続でマイナスの伸びとなっていた鉱工業生産も大幅に回復、2000年2月には8.2%の直近ピークに達した全国失業率は6.0%まで低下するに至った。 |
|
② 2001年度以降の経済見通し 2001年度に関しては、GDP成長率4.0%以上、インフレ率はIMF目標通りの4.0%程度と、低インフレ下での堅調な景気回復を予想する。 財政面はとくに問題なく、プライマリー収支は政府目標通りGDP対比3.0%程度となろう。2000年10月の全国市長選挙では野党の躍進が目立ったが、低迷していたカルドーゾ政権の支持率は回復の動きを示しており、最近の政局は総じて落ち着いている。 2002年後半の大統領選挙の行方はまだ見通し難い状況であるが、経済状況の改善傾向が続く限り、当面政局は市場の大きな波乱要因とはならないものと思われる。
|
③ ブラジルマーケットに対 する外的要因の具体的な影響
(1)原油価格 ● 2000年度に懸念された原油価格の上昇やレアル安等がもたらした物価上昇圧力は、卸売り段階で吸収され、消費者への波及が限定的だった事などから、インフレ率は、IMF目標通りの6.0%を達成した。 ● 財政収支は累計で382億レアルの黒字に達し、2000年度のIMF目標367億レアルをクリアしているものの、2000年度貿易収支は原油価格高騰によ る輸入増や国際商品市況の低迷による農産物輸出の減少の影響により、▲6.91億ドルと、政府黒字目標の+40億ドルを大幅未達、6年連続の貿易赤字と なった。 ● 2001年についても、引き続き原油価格の高止まりが貿易収支等に与える悪影響に留意する必要があるが、政府は国内燃料価格の引き下げを予想しており、国内経済に対する配慮もあることから、さしあたり大きな懸念材料とはならないと見る向きが強い。 (2)米国景気のスローダウン ● 懸念される、米国をはじめとする世界的な景気減速傾向は、引き続き景気の下押し圧力となろうが、ブラジルに関しては、貿易の米国依存度がメキシコ等に比べそれほど大きくない上、ブラジル中央銀行は積極的な利下げ政策により景気テコ入れを図るものと考えられる。 ● 米国サイドでも、2001年に入ってから実施された緊急大幅利下げ等に見られるように、積極的な景気対策が取られることも予想され、急激なリセッションやそれに伴うブラジル経済への大きな悪影響は考えにくい状況にある。 |
|
(3)アルゼンチン経済 ● 2000年度は、ブラジル・メキシコ経済好調の反面、アルゼンチン経済の低迷が鮮明となったが、アルゼンチンへのIMF等からの国際金融支援は市場の不安 心理解消しのための一時的な処方箋に過ぎないとみるべきで、今後のアルゼンチン情勢については慎重に見て行く必要がある。 ● 今後アルゼンチンが早期に経済を回復軌道に乗せることが出来なければ市場心理は再度悪化に向かい、信任低下と景気低迷の悪環境に陥る事になり、とくに南米 経済はアルゼンチンとブラジル一体と見られる傾向も強いことから、直接的な経済的影響に加え、心理的にもブラジルへの投資等に影響を与えることになろう。 (4)ユーロ不安 ● G7協調介入の後、2000年第4四半期以降も欧州中央銀行(ECB)が単独でユーロ安に歯止めをかけるべく買支えを実施したが、ユーロの投資環境は、 ユーロ圏の景気がすでに頭打ちの様相を示しており、IMFからユーロゾーンの構造改革を勧告される等、先行きに不安を残している。 ● 仮に今後もユーロ安が進行した場合、ブラジル経済に対しても対欧輸出のブレーキとなる危険をはらんでおり、注意を要するものの、米国の景況感との格差や金 利格差が縮小することへの期待感、ECBの具体的な介入により、ユーロ安阻止の姿勢を明確にしていることから、投資家の安心感が次第に醸造され、中長期的 には回復局面と予想される。 |
④ 2000年度の銀行業界の トピックス・特記事項
(1) Y2K問題 金融業界の2000年は、2年間近く対応に頭を悩ませてきたコンピュータの誤作動懸念、いわゆるY2K問題について、とくに大きなトラブル・混乱もなく、オフイスに泊り込みで新年を迎えた経営者の安堵感と共に幕を明けた。 (2)Banespa民営化 ブラジル政府が全株式を保有して経営再建を進めていたサンパウロ州立銀行(Banespa)の民営化計画は、2000年5月以降、民営化に反対する労働 組合が差し止め請求を行うなどして遅れていたが、11月20日に行われた入札では、Santander, Bradesco, Itau, Unibanco の4行が参加、スペイン系の Santander 銀行が70億5千万レアルで落札した。これにより、同行はブラジル民間銀行として総預金量で3位の規模となった。このほか、同じスペイン系のBilbao Viscaya 銀行も支店網の拡大計画を発表、スペイン系銀行の活動が目立っている。 (3)中銀決済システムのRTGS化 (Sistema de Pagamento Brasileiro) ブラジル中央銀行は、従来より指摘されていた金融決済におけるシステミックリスクを軽減させる目的で、2001年10月を期限として、決済システムの RTGS化(即時グロス決済)を導入することを決定した。 民間銀行はその導入期間の短さや、新規発生するシステム投資負担にやや戸惑いを感じつつも、10月の正式稼働に向け着々と準備を進めている。 |
|
(4)2001年の相場見通し 2001年に入り、米国の緊急大幅利下げやS&Pによるブラジル格上げ、政府による順調な海外起債、アルゼンチン危機の一服等、レアルに対する 好材料が目立っているが、中銀は貿易収支の赤字基調への配慮からレアル安容認姿勢をとっており、為替相場は1ドル=1.95レアルのレベルで21世紀をス タートさせた。年央にかけても、構造的な経常赤字と外貨流入ペースの減速、米伯インフレ率等のフアンダメンタルズ格差、国内大幅利下げに伴う内外金利差の 縮小等を理由として、引き続き穏やかなレアル安が継続すると予想される。 しかしなが ら、良好なフアンダメンタルズや格上げに伴う国際市場での信任回復に加え、例年上半期は農産物の収穫期となり、輸出が顕著となるため、国内でレアルが大き く売り込まれる材料はとくに見当たらず、為替相場は当面安定した動きを示すと予想される。ただし、外貨フアイナンスを海外投資家に大きく依存している構造 上、当地市場は国際市場の環境変化に敏感な反応を示しやすいのも事実であり、米景気や世界的な株価動向、アルゼンチンをはじめとする新興国市場の動き、原 油・中東情勢には引き続き注意を払う必要があり、リスクシナリオはレアル下振れと見ておく必要がある。 |
(予想レンジ)
上期
|
下期
|
|
為替(レアル=1ドル) |
1.90-2.05
|
1.95-2.15
|
レアル政策金利 |
14.75
|
14.50-13.50
|
II.保険業界
ブラジル保険業界の2000年度振り返り まずはじめに、2000年度のブラジル保険業界の動向についてお伝えしたい。現時点では、SUSEP(保険監督庁)の公式統計データは8月末が最新となっているので、本データを基に振り返る事とする。 上記データによれば、1―8月の業界全体の収入保険料は150億レアル(約9,470億円)を計上し、前年対比約14.3%と順調な伸びを示した。この傾向は昨年来つづいており、ブラジル経済の安定した成長を反映していると言える。 一方、保険会社の収支を決定する最も重要な指標である損害率は、業界全体で68.4%とほぼ横這いで高止まりしている。とくに収入保険料の32%を占め る自動車保険の損害率は74.6%と非常に高く、前年を3.1ポイント上回った。ブラジルの保険市場においては、自動車保険の構成比が全保険種目中で最も 大きいため、保険会社の収益を悪化させる大きな要因となっている。ブラジル全国レベルでは、1999年に市場最悪の35万台という車両盗難が発生した。こ うした車両盗難多発の原因は、自動車窃盗のスペシャリストの横行と、盗取した自動車をさばく解体屋のブラックマーケットが出来あがっていることが原因であ るが、これまで政府・警察当局も有効な防止対策を打ち出せず、状況は改善していない。 1999年度も損害率は高かったが、それでもレアル切り下げの影響による高金利の恩恵を受け、各保険会社とも資産運用益で事業損を埋め合わせることが十分可能であった。 2000年度はインフレ率の低下、為替レートの安定に伴って金利が引き下げられたため、前年度のような資産収益は望めない。 なお、ブラジルにおける唯一の再保険独占会社であるIRB(ブラジル再保険株式会社)の民営化動向であるが、昨年10月の競売延期に始まり、本年度も4 月25日、7月25日と3度、競売が延期される異常事態となっている。現状では次回の競売実施時期について全く目途が立たない状況であり、当面混乱が続く ものと予想される。 |
|
2001年度の展望 当年度は好調なブラジル経済の基調に沿って、経済成長率も4~5%と予想されているが、収入保険料についても前年対比15~20%程度の好調な伸びが見 込まれている。 主要な保険種目の収入保険料が堅調に伸びている中で、個人保険の分野における年金・生命保険の延びがとくに顕著となっている。これは、イ ンフレの沈静化に伴い、消費者が計画的に家計を営むことが出来るようになったことで年金・生命保険への加入指向が高まった結果と言える。2000年には業 界大手の Maritima Segurosが年金・生命保険部門を切り離し、米国のNationwideとの共同出資により、同種目に特化した新会社を設立した。この動きは業界でも 大きな話題となったが、それだけこの分野の成長性が期待されるということであろう。 短期的には大幅な資産収益が見込めない中、各保険会社が収支改善のために取り組むべき最大のポイントは損害率の引き下げであるが、各保険会社間のはげしい 契約獲得競争による料率低下に加えて、止まるところを知らぬ自動車盗難事故や輸送貨物の強奪事故等による保険金支払いにより、損害率の改善は非常に困難と なっている。したがって、業界全体の収入保険料の伸びは期待できるが、収益性の面では決して楽観的見方はできない。
|