柳田貿易部会長
司会 非常に臨場感に富んだ、綿密なるご報告ありがとうございました。続きまして、貿易部会の柳田部会長にお願いします。
大幅な黒字記録するも貿易全体は縮小 ― 輸入減が主因
柳 田 ジエトロの柳田でございま す。 お手元の資料に沿ってご報告します。 昨年までは地域別、商品別に報告いたしましたが、今回はスタイルを変えて、貿易の増減の背景を中心に記述をし ております。 それは何故かと申しますと、今年の場合は、輸出入とも非常に大きく減少しているという事ででございます。 年間の報告を行います時に地域 別、商品別の分析を入れたいと思っております。
今年の1ー6月の貿易は、輸出が250億5200万ドル、輸入が224億4600万ド ルで、貿易収支は26億 600万ドルの黒字となりました。 これは95年以降、上半期の貿易収支としては最大の貿易黒字です。 ただ重要な点は、貿易額自体が縮小しているという ことです。 輸出額で見ますと、前年同期比で13.4%減、輸入額は同じく22.6%の減、貿易全体では前年同期比で18%の減となっています。 貿易黒 字そのものはリスク評価をする場合には好材料にもなりますが、輸出増加による貿易黒字ではないと言うことが非常に重要なポイントであろうかと思います。
すでにコンサルタント部会からも報告ありましたが、今年初め時点の景気見通しは、需要の回復と生産の拡大というの が一般的でした。 貿易収支も開発商工省の予測では50億ドルの黒字でした。 一方、景気の好転によって中間財の輸入が増えて、貿易収支は赤字基調になる という見方もありました。
こういった2つの見方があった訳ですが、今年度上半期の状況を見ますと、これらの予想とは若干異なった様相 を呈 しています。貿易収支黒字は、年初予想された水準に達する勢い、あるいはそれ以上の勢いを見せている訳ですが、貿易自体が大幅に縮小しています。 輸入の 大幅減少が貿易収支の黒字を創り出していると言うことです。
輸入減少の要因3点 - レアル安、税関スト、IT不況とアルゼンチン危機
輸出は、世界的な景気の後退により数量自体が減少しています。 さらに、コモ ディティー価格の低迷が大きく影響しています。 一方、輸入ですが、これは先ほどもご指摘がありましたとおり、大統領選挙の見通しが非常に不透明という ことで、リスク感の上昇が経済全体を萎縮させた点です。 2番目には税関のストライキです。 3番目は、外的要因として特に世界的なIT不況、それからア ルゼンチン経済の極度の不振による貿易の縮小ということかと思います。
輸入が大幅に減少した3点について、もう少し詳しく説明しま す。 コンサルタント部会の田中部会長からも報告あ りましたとおり、年初から3月ぐらいまではブラジルのカントリーリスクが低下をして、大統領選挙の投票意向調査でも当時、サルネイの人気が上昇しておりま したので、先行き安定感ということで為替も落ち着いていた訳ですが、その後、労働党のルーラの人気が上昇してきまして、やはり大統領選挙がブラジルのリス ク判断の重要なポイントとしてクローズアップされ始めました。 それ以降、レアルの切り下げ基調が定着をして、為替動向が産業界が熱望している金利の引下 げを実施することを困難にさせ、その結果、実体経済に影を落としているという状態です。
こうしたリスク上昇、レアル下落、金利高止ま りという流れが、少なくとも選挙が終わるまでは続くということで、 積極的な事業の拡張、展開を控える動きが広がっています。 CNIの景況感調査によりますと第1表のとおり、昨年の第2四半期と比較して今年の第2四半期 はかなり悪くなっています。
こうした景況感の悪化が、在庫状況あるいは直接投資の動きにも反映しています。 今年の第1四半期は比較的経済が安定していたので、在庫は若干の改善を見ましたが第2四半期には再び増加しています。
直接投資は、1ー6月で前年同期比3%減の96億ドルを記録しています。 しかし、これは内容的に見ますと、債 務の資本へのコンバージョンの割合が前年比で今年は非常に高くなっています。 こうしたコンバージョン、あるいは現物投資を除いた外国からのブラジルへの 投資は、実体的には58億ドル強に止まっており、前年同期比31%の減になっています。 ちなみに日本からの投資は今年上期、前年同期比24%減の16億 ドル弱となっています。
第2表の自社業績に関する評価ですが、これはおしなべてネガティブな評価となっています。 特に製薬業界だけ は、稼働率80%ということで比較的好調ですが、輸入部品に依存度の高い電気電子業界は特に悪く、それ以外の業界も、生産活動の低下が輸入増加の抑制に影 響していると言うことです。
輸入が減っている2番目の原因は税関のストライキの影響です。 これは4月に時限ストライキでスタートし て、6 月に無期限になって、それが如実に現れておりまして、6月は前年同期比で輸出が19%減、輸入が29%減。 数量ベースで見ますと、同じく46%減と 28%減となっています。 こういった税関のストライキが、部品の一部を輸入に頼る製造業に非常に大きく影響を与えています。 このストライキは7月に 入ってから緩和されましたが、時限ストライキは依然頻発しています。 従って今後とも、抜本的な解決がない限り、ブラジルの貿易はこのストの影響を受け続 けて行くのではないかという見通しです。
3番目は外的要因です。 これは2001年から続く世界的な商品貿易の減退、特にIT産業の失速に起因したもの、それからアルゼンチンの危機、この2点と言えます。
特に世界的なIT産業の失速を受けて同部門関連製品の貿易量の減少、それから同部品の単価下落で輸入金額が大幅に落ちています。 半導体の輸入は、前年同期比で29%減、通信関連機器を見ますと同じく31%減と非常に大きな落ち込みになっています。
もう一つ大きな外的要因はアルゼンチン危機です。 ブラジル経済全体に深刻な打撃を与ええないかも知れません が、やはりブラジルの貿易に一定の影響を及ぼしています。 特に自動車関連は、ツインプラントをベースにした相殺関税で成り立っていたアルゼンチンとの貿 易が、アルゼンチン市場が極端に収縮したことで、そうしたビジネスモデルが成り立たなくなってしまっています。 その結果、他の市場へ輸出を振り向けてい るというのが現状です。
アルゼンチンのペソがレアル以上に切り下がったことで、当初は対アルゼンチン貿易が、ブラジル側にとって有利 に なるかなという見通しもありましたが、現在のところ、アルゼンチンの金融部門の混乱、あるいはブラジルの輸出ファイナンスの停滞で、そうした動きにつな がっていません。 ということで、結果的にはアルゼンチン向け輸出が前年同期比66%減、輸入は28%の減になっています。
貿易黒字は1―8月に53億ドル超
今後の貿易動向のポイントですが、7、8月は、税関ストが緩和され、6月までの落ち込みの反動ということもあ り、貿易量、貿易金額、とも増加しています。 7月の輸出は前年同月比53%の増、輸入も前年同月比48%増と大幅に増加しています。 1-8月の累計で すと、貿易収支は53億7800万ドルの黒字と、すでに今年の当初見通しの50億ドルをオーバーしています。
7、8月は、もう一つ大 きな問題が発生しました。特に輸出ファイナンス欠乏の問題です。 これはセーラの人気下 降、ブラジルリスク上昇が背景にありますが、それによって為替が8月1日に1ドルが3レアルを超えてしまったことから、海外の金融機関がブラジルに対する 輸出ファイナンスを絞りはじめて、輸出ファイナンスの欠乏が起こって、輸出に悪影響を与えたということです。
8月7日にIMFとの300億ドルの融資協定が締結されて、若干落ち着きが出てその結果、輸出ファイナンスに関しても状況は徐々に緩和され、正常化する方向にはありますが、依然としてまだ今後の見通しには不透明感が残っていると思います。
アマラル大臣は「今年8月に貿易収支黒字は70億ドルになる<現在は90億ドルという見通しまで出ている>。 これは、輸出は世界経済後退の影響とコモディティー価格の低迷によって弱含みに推移するが、今年末までには前年比で4%ぐらいの減にまで回復する。一方、 輸入は回復せず、結局年末時点で前年比で12%減ぐらいになるのではないか」と発表しています。
ただ、こうした外的要因だけではな く、ブラジルの場合、特に消費者、あるいは生産者の景況感、心理というものが かなり影響を与えますので、この辺について簡単に触れさせて頂きますと、消費動向そのものは全体的に底固い。 銀行からの個人へのクレジットの推移もまず 安定的に推移しています。 耐久消費財を除いた一般の消費財、食品等の消費も非常に安定しています。 9月以降は製造業が年末商戦に備えて生産準備に入り ます。 年末に大きく消費が伸びる訳で、今年の年末商戦も比較的、安定的に推移するのではという見通しが出ていますが、こういったものの原材料はほとんど 国内で調達されますので、貿易にはあまり影響を与えないと思います。
景況感から見ますと、いま申し上げましたように、輸出はあまり伸びない。輸入は伸びる見通しがある訳ですが、伸びたとしても例年ほどの伸びは予想できないと思います。
次に為替レートとの関係という点で、競争力の変化あるいはもう一つ重要な点としてFTAを考えなければならない と思います。 簡単に申し上げますと、大統領選挙における野党候補当選の可能性の高まりで、ブラジル企業の海外起債による資金調達が厳しくなってきていま す。 一方、輸出ファイナンスが絞められ、国内金融市場へのドル流入が十分でなく、レアルが名目レートで弱含みに推移しており、この傾向は大統領選挙が終 わるまで続いていくだろうという点です。
ブラジルの輸出製品の収益率がどのように推移しているか、表4に出ているとおりですが、今 年6月の数字を見てお 分かりのとおり、年初の水準と比較すると、輸出収益率はかなり回復していると言えます。 6月時点を過去4年間と比較した場合、輸出メリットが非常に大き くなっていますが、残念ながら輸出ファイナンスの問題、あるいは世界景気低迷等でこうしたメリットをブラジルが十分に生かしきってない、こうしたチャンス が削がれてしまっていると言えるのではないかと思います。
メキシコとの補完協定が今後大きく影響する
主要輸出先 の為替レートの変動ですが、 表5を見て頂ければと思います。 せっ かく高い輸出収益率があるにも関わらず、レートの変動の結果、そのメリットが減じていることが分かるかと思います。 特にこの表にありますレアル対USド ル、レアル対ALADI、それから13カ国のバスケットの数字との比較を見て頂ければ一目瞭然ですが、ALADI諸国の切り下げ、特にアルゼンチンのペソ の切り下げが非常に大きく寄与しています。 米国との関係ですと、レアルは非常に有利になっておりますので、一番最後に付けてあります表で対米輸出は、米 国の事情ももちろん背景にありますが、ほかの国に比べてそんなに落ち込んでいない、ほとんど横ばいとなっています。
最後に、今年後半 の貿易見通しですが、為替メリットが対外要因でかなり相殺されている中、これを貿易政策がどの ように補っていけるかがポイントかと思います。 FTAの話を先ほど申し上げました中で一つ重要な点として、メキシコとの経済補完協定が7月に締結されま したが、これがこれから非常に大きく影響するのではないかと思います。 メキシコにおけるブラジル製品の関税引き下げが792品目に及んでおりまして、特 に自動車分野の貿易の拡大の可能性があります。 これが大きく伸びますと、ブラジルの貿易バランスがかなり変わって来るのではないかと思います。最後に付 けております表につきましては、ご参考頂ければと思います。 以上でございます。
貿易部会資料
表1.直前の6ヵ月と比較した評価(ポイント)
|
01年第2四半期 |
02年第1四半期 |
02年第2四半期 |
ブラジル経済 |
30.0 |
50.0 |
29.2 |
所属する業界 |
37.7 |
44.5 |
34.3 |
自社の業績 |
44.7 |
49.4 |
43.2 |
出所:CNI (注)企業は0~100の範囲内で回答。50ポイント以上がポジテイブ。
表2. 第2四半期の活動水準(ポイント)
|
01年第2四半期 |
02年第1四半期 |
02年第2四半期 |
生産 |
49.2 |
45.5 |
48.0 |
利益 |
49.6 |
44.0 |
47.9 |
雇用 |
47.6 |
47.0 |
47.6 |
設備稼働率(%) |
72 |
70 |
71 |
出所:CNI (注)企業は0~100の範囲内で回答。50ポイント以上がポジテイブ。
表3.今後6ヵ月の各項目に対する評価(ポイント)
|
01年第2四半期 |
02年第1四半期 |
02年第2四半期 |
ブラジル経済 |
42.1 |
61.3 |
44.6 |
所属する業界 |
49.2 |
61.8 |
51.1 |
自社業績 |
57.3 |
67.4 |
58.7 |
利益 |
50.0 |
59.6 |
54.7 |
輸出 |
56.2 |
54.3 |
54.2 |
原材料購入 |
49.0 |
56.3 |
53.0 |
出所:CNI ポイント評価については前掲表と同様
表4. 輸出収益指数(1994年=100)
|
輸出収益指数 |
1998年 |
99.8 |
1999年 |
116.4 |
2000年 |
107.2 |
2001年 |
118.1 |
2002年 |
|
1月 |
107.3 |
2月 |
108.8 |
3月 |
105.3 |
4月 |
105.2 |
5月 |
110.8 |
6月 |
120.9 |
出所:FUNCEX
表5.実質為替指数 (1994年=100)
|
レアル/US$ |
レアル/ALADI |
レアル/13カ国通貨 |
1998年 |
99.4 |
102.1 |
95.5 |
1999年 |
134.5 |
132.5 |
126.8 |
2000年 |
121.4 |
118.5 |
109.6 |
2001年 |
139.5 |
132.3 |
123.1 |
2002年6月 |
142.9 |
87.5 |
115.7 |
出所:FUNCEX
l 往復貿易額の平均の全体比を基準にした配分(現在のウエイトは、米国35.6、日本7.0、ドイツ9.6、フランス4.9、イタリア 5.6、 オランダ4.6、英国3.8、ベルギー3.1、アルゼンチン16.3、ウルグアイ1.6、パラグアイ1.5、チリ3.0、メキシコ3.4)。
1994年のウエイトは1992年、93年の貿易動向をベースに、1999年のウエイトは1995年~1998年をベースに、2000年以降の
ウエイトは2000年をベースとしている。
貿易動向
① 品目別貿易動向(2002年1-6月)
<輸出>
分類 |
2002年 |
2001年 |
増減(%) |
一次産品 |
6,251 |
7,427 |
-15.8 |
鉄鉱石及び精鉱 |
1,173 |
1,502 |
-21.9 |
半加工品 |
3,426 |
3,931 |
-12.8 |
銑・鋼半製品 |
494 |
453 |
9.1 |
加工製品 |
14,514 |
16,602 |
-12.6 |
航空機 |
1,019 |
1,550 |
-34.3 |
その他 |
861 |
967 |
-11 |
合計 |
25,052 |
28,927 |
ー13.4 |
出所:開発商工省
<輸入> (FOB 100万ドル)
分類 |
2002年 |
2001年 |
増減(%) |
資本財 |
5,712 |
7,714 |
-26 |
工業機械 |
2,058 |
2,287 |
-1.0 |
原料及び中間財 |
11,163 |
14,530 |
-23.2 |
化学物質・薬品 |
3,584 |
4,044 |
-11.4 |
消費財 |
2,853 |
3,736 |
-23.6 |
非耐久消費財 |
1,664 |
1,816 |
-8.4 |
燃料・潤滑油 |
2,718 |
3,018 |
-9.9 |
原油 |
1,432 |
1,443 |
-0.8 |
合計 |
22,446 |
28,998 |
-22.6 |
出所:商工開発省
② 国別貿易動向(1-6月)
<輸出> 2002年 2001年
国名 |
輸出額 |
構成率 |
輸出額 |
構成率 |
増減 |
米国 |
6,864 785 |
27.4 3.13 |
6,964 1,022 |
24.07 3.53 |
-1.43 -23.15 |
合計 |
25,052 |
100.00 |
28,927 |
100.00 |
-13.39 |
出所:開発商工省
<輸入> 2002年 2001年
国名 |
輸入額 |
構成率(%) |
輸入額 |
構成率(%) |
増減(%) |
米国 |
5,002 |
22.28 |
6,645 |
22.91 |
-24.73 |
合計 |
22,446 |
102.82 |
28,998 |
102.00 |
-22.59 |
対日貿易(2002年1-6月) 輸出FOB US$
|
2002年 |
2001年 |
増減(%) |
鉄鉱石 |
169,955,407 |
224,806,658 |
-24.4 |
合計 |
944,713,855 |
1,014,852,728 |
-6.91 |
出所:開発商工省
対日貿易(2002年1-6月) 輸入(FOB US$)
|
2002年 |
2001年 |
増減 (%) |
自動車部品 |
61,359,710 |
81,770,416 |
-24.96 |
合計 |
1,157,630,141 |
1,685,452,160 |
-31.32 |
対中貿易(2002年1-6月) 輸出 FOB US$
|
2002年 |
2001年 |
増減(%) |
鉄鉱石 |
211,592,438 |
222,019,193 |
-4.7 |
合計 |
662,423,296 |
858,582,303 |
-22.85 |
対中貿易(2002年1-6月) 輸入 FOB US$
|
2002年 |
2001年 |
増減(%) |
通信機器部品 |
48,065,893 |
39,028,345 |
23.16 -8.82 |
合計 |
639,109,406 |
626,419,001 |
2.03 |
出所:開発商工省
対米貿易(2002年1-6月) 輸出 FOB US$
|
2002年 |
2001年 |
増減 (%) |
航空機 |
792,202,068 |
932,839,885 |
-15.08 |
合計 |
6,863,964,088 |
6,963,724,067 |
-1.43 |
対米貿易(2002年1-6月) 輸入 FOB US$
|
2002年 |
2001年 |
増減 % |
発電・変圧器 |
424,670,777 |
256,742,063 |
65.41 |
合計 |
5,001,663,404 |
6,644,618,937 |
-24.73 |
出所:開発商工省