日伯間FTA締結の必要性、あるいは与える影響
柳 田 もうすでにFTA研究会は2回やっておりますので、かなりみなさんご存知の方が多いと思いますが、おさらいの意味で、簡単にFTA締結の現状についてご説明申し上げます。
まず世界のFTA締結の現状ですが、FTAとはそもそも、2つ以上の複数国、地域間で関税やサービス貿易の障壁等を撤回してモノ、サービス貿易の自由化を 進めた協定をさしておるわけです。2003年1月20日現在で、GATT、WTOに通報を発効しておりますFTA は世界に147ございます。でその約6割が90年代に発効したものです。その代表例がNAFTAであり、メルコス-ルであり、AFTA、これアジア、 ASEANですがAFTA。それからFTA締結活発化はこの90年代に出てきたが、その背景は、やはりWTOの場合は他国間交渉が非常に難しいことがあり ます。
これはシアトルの失敗例もあるが、そういったことが背景になっている。FTA締結の意義としては、WTO交渉の補完、あるいは企業の競争力強化、それから貿易投資の確実性の確保、こういったことがあるわけです。
中南米のFTAの現状はどうなっているのかですが、中南米はみなさまご存知と思いますが、歴史的に、ブラジルを除いてFTAに非常に熱心な地域です。 ALADI、中米共同市場、アンデス共同体、カリブ共同体、メルコス―ルがあるわけです。ただ、大半は、関税同盟です。中南米でこういうFTAが非常に活 発に締結されてきたのは、構造改革、自由化を進展させて交易経済圏の形成を図って、貿易量を飛躍的に拡大することで、実際そうなって来たわけです。
FTAに関する日本の現状-メキシコと交渉開始、中南米との次はまだない
もう一つ政治的な意味合いとして対立の回避。これはメルコス-ルでのブラジルとアルゼンチンが一つの例ですが、そういった政治的な意味合い、あるいは対外 交渉力を持つために団結すると言ったことがあります。中南米の中で特にメキシコが非常に熱心であるといえます。これはNAFTA、それからEUと現在31 カ国のFTAに準ずるようなものを締結しております。貿易額が締結後急拡大をしている。投資、雇用などの、経済発展をこのFTA等を締結したことによって 支えている。あと、貿易依存度が非常に高いチリも、最近では積極的でカナダ、メキシコ、EU、米国、韓国と、締結ないしは締結合意をしております。
先ほど出ました北米、南米、カリブ34カ国によって構成されるFTAAが現在交渉中です。これが出来ますと、人口 8億人、GDP13兆ドル。世界のGDPの4割を占める、巨大な経済圏が生まれます。ただ、FTAはこの34カ国で一括合意方法式、つまり全加盟国、全参 加国が合意をしないと成立しないという非常に厳しい条件があります。もう一つは、ご存知の通り地域格差。アメリカからカリブの小さい国まで入っているわけ で、非常に地域格差、経済格差が大きいことから、交渉が難航するであろうという予想があります。
さて最後に日本の現状ですが、日本の通商政策基本はWTOを中心とした多角的貿易体制の維持・強化を基本線にしております。各地域でのFTA締結、進展を 受けて世界各地で、いま非常にFTAが流行っていると言えば流行っているわけです。日本も貿易自由化、経済活性化を図る上で、多角的貿易体制を補完する一 つとして、-地域貿易協定といった方がいいと思いますが- このようにFTAを位置づけています。
今後、わが国の産業界からのニーズ、あるいは相手国市場の規模などを要素として、勘案して交渉相手国を決めて行こうと言われております。昨年締結されまし たシンガポールとの経済連携協定。これを皮切りにしまして、今年中の合意を目指してメキシコと現在交渉を進めているところです。このあとはASEAN等ア ジア諸国との交渉を予定しており、いまのところ、中南米で次を取り上げるという話は残念ながらありません。以上でございます。
司 会 ありがとうございました。このテーマにつきましても意見のある部会がありましたら。機会をお待ちの自動車部会さん、いかがですか(笑)。
EU、メルコスールのFTAで日系メーカーは大変不利になる
近 藤 実 は大変困った事態になりつつある。先ほど言いましたように、EUとブラジル政府とのFTAの中身がかなりもう煮詰まってきたのがつい最近分かって来まし て。中身をいろいろ調べているけども、政府間の基本合意はできた。唯一、いま反対しているのは、みなさん方のビジネスにも関係あるかも知れませんが、部品 メーカーさんなんですね。FTAが締結になったときに国内の部品メーカーさんが大打撃を受けるわけですよね。関税が取られるわけですから。
唯一、政府間で一応コンセンサスが出来て、中身はいまEUとメルコス-ルの関係では、完成車は35%の関税がかかる。部品は15%。中身によって違います けども大体15%です。ヨーロッパ側が提案しているのが、完成車は7年間かけて10%から始めて0%にする。だから35が10に下がるわけですね。部品は こちらのSindipecasが大反対をしてもめています。つまり受け入れられない、「これをやると、われわれはもう食って行けない」と言うことで、暗礁 に乗り上げているのが実態です。
もうかなり話が詰まっていて、過去少なくとも2回、政府間 では一応、この間ドイツに行って、ドイツの代表も来て EUとのFTAについてはかなり積極的にやりましょうと。政府間のスタンスは非常に明快に出ている。ルーラ政権もやろうということです。したがって、いま 農業問題が、わたしその中身はよく分からないけど農業問題が全体としてはネックになっているが、自動車について言うと、いま言ったそういう状況になってい て、かなり早めに行くんじゃないか。この2月の末にもブラッセルで実は会議をやる。この会議も政府間じゃなくて、ブラジルの自工会とヨーロッパの自工会 で、すでにもう話が始まっているんです。つまり、もうメーカー間同士で話が始まっていると言うところが大きな特徴になっています。
考えてみますと、メキシコが同じような状況でした。わたしは、メキシコと同じようになるのを非常に心配しています。EUは、NAFTAが決まったときに、 早くも危機感を感じ強引にメキシコとFTA交渉を始めて、「EU、メキシコのFTA」が決まりましたよね。ところが、日本はおくれ馳せながら、いまメキシ コとようやく交渉のテーブルについた状況ですね。したがって、これから2年、3年かかるのではないか。メキシコの場合、自動車産業よりも家電が一番影響を 受けたと思うんです。ブラジルとヨーロッパとの間でFTA合意ができれば、少なくとも日系自動車メーカー、私共とトヨタさんは大打撃を受ける、完全にハン デイになるわけです。向こうからは例えば部品もゼロで入ってくる、完成車も10%で入ってくる、将来は0%と。われわれは完成車を関税35%で入れ、部品 を15%の関税を払って入れるわけですから全くハンデイになる。
ブラジルでも出遅れている日本、早急に手を打たねば
したがって、日本政府を批判するってのもメーカーサイドとしてはあるけど、残念ながら。そのブラジルにおける日本メーカーのプレゼンスはまだ非常に低いで すね。したがって、自動車ベースではなかなか話が進まないだろうが、しかしながら、我々もここに出て来て、これから投資をやり始めるわけですから、「これは何とかしなければ。出遅れてはいるが、早急に交渉のテーブルにつかなければ」と言う事を強く感じていて、、政府ベースと民間ベース、まぁ、自工会ベースではやれると思うんです。これはトヨタさんも一緒でしょうし、われわれも同じ機関持っているわけですから。
日本で自工会ベースで動かすのは、これはやれると思うけども、政府ベースでの、テーブルにつくコンセプトが本当にうまく行くのかどうか心配ですね。
この話が出たちょうど去年の11月ごろ、いろいろ調べてみると、EUとの間では、こと子細に決まりつつあるので、非常に危機感持ちはじめた。幸いにしてカ マラ(会議所)でも、そういうFTA研究会なるものが出来て、動きはじめたので、ぜひこれをテコして、日本政府、総領事もいらっしゃいますし、ご協力頂い て、何とかフックをどっかでつけたいなぁと。
これ具体的にどうやってつけるんだと言うこ とで、自動車業界だけの議論ですけども、関連の日系の部品メーカーさんもいらっしゃいますし、本当に今いわれているゼロベースが決まると、メーカーだけ じゃなくて、部品メーカー側も相当な打撃を受ける感じがしています。ですから、なんとか早急に動く必要があることを痛切に感じているわけです。そこに NGKの伊藤さんいらっしゃいますけど、メキシコで同じ経験されているので、もしコメントがありましたら。
司 会 伊藤さん、いかがですか。
当地日系企業に危機感がない、現実がわかっていない
伊藤 NGKの伊藤です。90年から98年までメキシコにおりまして、94年の1月からNAFTAが始まって、日本からは15、20とか30%とかの関税で 入ってきたものが、NAFTA域内では、域内のローカルコンテツ62.5%があったけど、一応、フリーになった。いろんなスキームもありますけど、そのう ちにヨーロッパとも先ほどの近藤部会長の話ですが。それで、メキシコの日本商工会議所もだんだん危機感を持ちはじめた。最初のころは今のここのような状態 でした。この前、当会議所のFTA研究会に出してもらいましたが、自動車部会と柳田さんとこの貿易部会以外はあまり危機感持ってない。現実がよくお分かり になって見えないと思います。
わたしがいたときの96年か97年に商工会議所が一体になって、政府に働きかけたが、まだまとまってない。今年末ぐらいからいろいろ始まるようですけど、そういう状況です。6、7年かかってやっとテーブルにつく。
この前のFTA研究会で政府の方おっしゃいましたが、「東南アジアが先、ブラジルは後だ、そんな余裕はない」という事なのですけども、2005年には、 EU、アメリカ、これ全部まとまります。ヨーロッパやアメリカから新規の企業もどんどん出てきます。いろんな機械とかがフリーで入って来ます。
日本からは、税金を払わなくてはいけないわけですね、今の話のように。これは、ブラジルにおける日本商工会議所にとって非常に大きな問題、自動車だけの問題じゃない、とわたしは思っとるんです。非常に大きな問題ですから、「商工会議所の総意」として政府に働きかけて、政府に動いて頂くという方向に持って行かないと。この前の話じゃないけど、政府の方、忙しいからなかなか動けない(笑)、ということですから。以上です。
司 会 あ りがとうございました。ほかの部会はご意見ございますか。それではFTA問題については、商工会議所としても日伯経済交流促進委員会ですか、これを中心に して、いまの伊藤さんの話じゃないですけども、「民間の声も反映させながら、行動していくつもり」でおります。最終的にはそのFTAは政府間交渉で、この 辺は領事館はじめ、政府の絶大なご支援が必要ではないかと思いますので、よろしくお願いしたいと思います。
近 藤 ブラジルでやっているのを見ると、メーカー間交渉なのです。メキシコの場合もそうですね、最終的には。ですから、詳細はやはりメーカー間で行かなきゃいかんのでしょう。ただ、そのテーブルにつくセレモニーは政府にやって頂くという事ですね。
司会 大変時間が超過して申し訳ございません。最後になりますけども、赤阪総領事に講評をお願いしたいと思います。よろしくお願いします。