ブラジル日本研究者協会(SBPN-仁井山進会長)とブラジル日本商工会議所の日伯交流シンポジウム2009が2009年9月26日から28日までブルーツリー・ファリア・リマホテルに100人以上が参加して開催、28日は竹中平蔵慶応義塾大学教授やゼツリオ・ヴァルガス大学の中野慶昭教授などの講演を前にSBPNの仁井山進会長、商工会議所の田中信会頭がそれぞれ開会挨拶を行った後、大部一秋総領事が竹中平蔵慶応大学教授の参加並びに竹中教授のブラジルのサポーター役に感謝の意を述べた。
元総務大臣の竹中平蔵慶大教授は「日本経済の展望」と題して、ブラジルの地上デジタル放送の日本方式採用で総務大臣をしていた2006年に始めてブラジルを訪問、すでに南米4カ国で日伯方式が採用されており、世界標準になる可能性がある。
今日は世界経済の位置、日伯の新たな協力関係や政権交代について話をするが、与党の時は何を話しても批判されたが、今では何を話しても失言にならないとユーモアに笑いを誘った。
世界経済は100年に1度の危機といわれ、グリーンスパンFRB前議長は50年か100年に1度の危機と言っているが、私は正解だと思わない、しかし金融危機の対応を誤れば100年に1度の危機になる。
世銀では今年の米国のGDPをマイナス3.0%から3.5%を見込んでいるが、世界大恐慌後の1932年のGDPはマイナス13.0%、失業率は現在の9.0%から10.0%を大幅に上回る25.0%であった。
私は100年に1度の危機を言い訳として使われることを心配しており、米国発のサブプライムによる金融危機といわれているが、米国のGDPの落ち込みは日本やヨーロッパよりも少なく米国の株価が先進国よりも高いのは説明できない。
ヨーロッパでは不動産バブル、ユーロやポンドが過大評価されていたし、石油価格が140ドルまで高騰して資源バブル、日本では円安バブル、トヨタやパナソニックは円安で膨大な収益を上げていたが、世界のマルチバブルは崩壊した。
新日鉄の三村社長は過去3年間の世界のGDPは大きすぎていたと述べ、私は世界経済の回復はU型ではなくW型を予想、リーマンブラザーズ破綻の2週間後に公的資金介入が議会で否定されたために、米国政府が救済を否定したために信用危機が発生して株価が下落した。
世界経済は底を打ち、エマージングカントリーが力強く、中国では銀行のクレジットが3倍に増加、第2四半期のGDPは年率換算で14%増加、来年は日本を追い越して世界2位に上昇、韓国も年率11%と大幅に回復、中国はGDP比4.0%の財政拡大をしているが、現在の政策は持続しない。
中国の3倍増加のクレジットは短期的には効果があるが、長期的には不渡りが増加するために政策を変更する必要があり、日本の不良債権処理には10年以上かかり、ガイトナープランのストレステストでは米国の不足額が予想よりも少なく、表面化していない不良債権が残っている可能性があり、金融機関の規制が厳密に行われているのかわからない。
地球環境、南サハラ地域の貧困問題、金融規制などのグローバル・アジェンダに対して、世界金融危機はわれわれに今までの組織以外のグローバル・ガバナンスに空白があることを認識させ、問題意識を共有する専門家のネットワークはフロンガス対策で初めて世界ネットワークができた。
提案1としてSBPNで金融危機に対応する知的貢献としてブラジルのモラトリアム、日本の不良債権処理でそれぞれ失われた10年を経験しており、日本とブラジルの比較研究で持続的経済成長できる解決するための政策採用に対する意見交換会の開催をしてほしい。
提案2として解決は容易ではないが、ラクイナサミット会議での2050年までの地球環境改善のための二酸化炭素の80%削減、日本は2020年までに1990年比25%削減、日本の省エネ技術は世界トップであり大いに活用する必要があり、両国でアイデアを出し合って協力してほしい。
日本のハイブリッド車は世界を席巻しているが、米国や中国はハイブリッドでは日本に勝ち目がないために、電気自動車の開発にしのぎを削っているが、全ての自動車が電気自動車になればCOは20%削減可能、また日本の休耕地全てソーラーパネルを設置すれば発電総量の50%に達する。
今回の自民党から民社党への政権交代は良いことであり、自民党が末期症状に陥ったのは政権交代がなかったからであり、政治の世界では「風が吹く」といわれるように、2005年の小泉チルドレンでの選挙圧勝、今回の民主党の圧勝は麻生政権に対して逆風が吹いた。民主党のマニフェストでは脱官僚、スエーデン型年金などは評価できるが、マクロ経済について明確な方向性が示されていなく、国家戦略局でのマクロプランの立ち上げが遅れているが、外交は無難なデビューとなったと説明した。
元サンパウロ州財務長官でゼツリオ・ヴァルガス大学の中野慶昭教授が「ブラジル経済の見通し」と題して、ブラジルは1930代以降から第一次産品輸出一辺倒から資本財輸入による工業化、第2次大戦による更なる工業化、金融危機をきっかけとして先進国への過渡期に突入、今年の先進国のGDPはマイナス4.0%が予想されているが、中国は8.0%の成長が見込まれている。
ブラジルの昨年の最終四半期のGDPは大幅に減少したが、公立銀行は民間銀行の信用収縮に対してクレジット拡大して国内経済の縮小に歯止めをかけ、今年のGDPは0%、来年は4.0%から5.0%の成長が見込まれ、工業製品税(IPI)の免税や減税で消費は拡大しているが、IPI減税政策中止後の国内経済が注目され、2番底の可能性は残されている。
1994年のレアルプラン以降はブラジル経済が安定してG-20などの国際会合ではルーラ大統領が存在感を示し、日伯デジタル方式ではアルゼンチン、ペルーやチリでの採用決定で南米諸国が追従すると見込まれている。
両国は不毛の地といわれていたセラード開発で大豆の世界輸出は2位として食料基地化に成功、ブラジルの人口は世界5位、熱帯雨林の1/3、真水は1/4を擁し、2億ヘクタールの耕作可能地の増加、輸出の世界トップは砂糖、コーヒー、エタノール、オレンジジュース、大豆、牛肉、鶏肉、葉タバコなど巨大なポテンシャリティーを擁し、鉱物では鉄鉱石が輸出・生産とも世界トップ、ボーキサイト3位、ウラン6位、ニオブは世界の埋蔵量の90%、タンタルは埋蔵量1位で生産は2位、マンガン5位、石油は岩塩層下原油の埋蔵量が確認されれば15位から4位になる可能性がある。
現在の完成品輸出は50%を占め、2050年には世界4位の経済大国になる可能性があり、今後はアグロビジネス、輸送や建設部門の成長が見込まれているが日本の技術とブラジルの天然資源の活用で世界を牽引できる。
しかし世界経済は今までのように米国内の消費の減少と同国向け輸出が減少するために依存率を減少させる必要があり、経済成長に伴ってインドと中国はコモディティ商品の消費が拡大するためにブラジルにとってはチャンスであり、またブラジルはコントロールされているインフレ、金利の低下、公共負債の低下、堅調な経済ファンダメンタルズ、60万人の雇用創出、経済成長加速プログラム(PAC)、1億人を突破したCクラス人口による消費拡大など経済成長要因がそろっていると結んだ。
JICA(国際協力機構)ブラジル事務所の芳賀克彦所長は「環境分野における日伯協力関係のインパクトとパノラマ」と題して、JICAの環境分野の協力取り組みとして無償資金、技術協力、二国間や多国間協力、ブラジルへの技術協力は1959年に灌漑施設で開始、2007年までに99億円で世界6位の協力をしている。
円借款では年利1.2%から1.7%で返済期間は25年、ブラジルでの円借款は1981年開始、1992年のリオのエコ会議から環境分野の協力が急増、セラード開発では30万ヘクタールで大豆生産、モザンビークのサバンナ気候と似ているためにセラードで取得した技術を移転する。
環境プロジェクトとしてアマゾン地域での熱帯雨林の違法伐採の監視を行うが、常に85%の地域が雲で覆われていても監視可能な人工衛星を投入、セラードでの生態系保全プロジェクト、北大河州でのひまわり栽培によるバイオジーゼル生産の商業化システム、アマパ州のマングローブの森林保護,サンベルナルド市のビリングス湖の都市環境事業、アマゾンでの森林農業やCO2吸収率の研究や気候変動の予測シュミレーション・プロジェクトなどについて説明した。
JICAの小野誠氏はALOSサテライトでの違法森林伐採監視システムでは雲の影響を受けないシステムであり、4人の専門家を派遣してブラジル側に技術移転プロジェクトとして1年目は教育プログラムや資料の作成、2年目はシステムの改良や問題点の掘り起こし、3年目はブラジル人主導でシステムの稼動並びにサポートする。
同サテライトは2週間でアマゾン全域が監視可能で違法伐採防止に大きく前進、国立再生可能天然資源・環境院(Ibama)はINDICARシステムを構築、JICAはテクニカルシステムのアドバイス、SARデーターの技術移転やブラジル人技術者の日本でのトレーニングなどについて説明した。
グリーンピースのロベルト・キシナミ元理事は「気候変動」と題して、Earthシステム、ヒューマンシステム、二酸化炭素増加による温暖化、温暖化による海水の上昇、温暖化ガスの種類と影響、京都議定書による各国の削減目標値並びにCO2増加、新興国のインドや中国でのCO2削減の必要性を述べた。
また唯一CO2削減するには経済成長率が低下すれば2020年からCO2は減少に転じ、コペンハーゲンでは2013年から2020年のCO2削減についての話し合いなどを説明した。
サンパウロ州政府のジョゼ・リカ氏は「持続可能な工業開発による恩恵」と題して、ブラジルの鉱工業を牽引するサンパウロ州の人口は4,000万人、州政府は地下鉄やパウリスタ都市圏鉄道公社(CPTM)への投資額は42億レアル、輸送部門50億レアル、都市衛生25億レアル、住宅16億レアル、治安関連に10億レアルを投資して85万人の雇用創出を見込んでいる。
商品流通サービス税(ICMS)は119セクターで減税を実施、サンパウロ州立銀行(ノッサ・カイシャ)をブラジル銀行に譲渡して10億レアルを投資向けファイナンスに活用、技術高校や技術大学の増設、港湾、道路、空港、鉄道、アルコールパイプライン、水路開発投資などについて説明した。
最後にJICAの芳賀克彦所長とサンパウロ州環境公社(CETESB)のフェルナンド・カルドーゾ・レイ代表が第3国への技術協力協定で調印した。
元総務大臣の竹中平蔵慶応大学教授は「日本経済の展望」と題して講演
元サンパウロ州財務長官でゼツリオ・ヴァルガス大学の中野慶昭教授が「ブラジル経済の見通し」と題して講演
100人以上の参加者は熱心に講演会に聞き入っていた
左から大部一秋総領事/SBPNの仁井山進会長/田中信会頭
第3国への技術協力協定で調印したJICAの芳賀克彦所長とサンパウロ州環境公社(CETESB)のフェルナンド・カルドーゾ・レイ代表