ブラジル外務省の国際協力庁(ABC)、同省貿易促進部(DPR/MRE)並びに国際協力機構(JICA)主催、ブラジル国家農業連合(CNA)並びにブラジル農牧研究公社(EMBRAPA)後援による国際セミナー「モザンビークアグリビジネス~日伯連携協力と投資の機会~」が2011年4月25日午前9時から午後5時まで、サンパウロ市内ブルボンホテルに200人が参加して盛大に開催された。
このセミナーの目的は日本とブラジル両国はブラジルに広がるセラードと呼ばれる広大な熱帯サバンナ地域(セラード)において30年以上に亘る大規模な農業開発を進め、世界の食糧安全保障へ大きく貢献、その後、2000年に日伯パートナーシップ(JBPP)が締結され、アフリカなど第三国の開発に対し日伯が連携して取り組む枠組みが立ち上げられた。
この枠組みを通じて日伯両国はブラジルのセラード農業開発で培われた知見を最大限活用して、食糧安全保障の強化と地域開発に貢献するため、モザンビークの熱帯サバンナにおける農業開発構想に着手し、2011年より日本・ブラジル・モザンビークの三カ国が連携するモザンビーク農業開発プログラム(PROSAVANA-JBM)が開始された。
本プログラムを通じ、現地の中小及び零細農家への支援を通じて同国の貧困削減と食料安全保障へ取り組みを促進すると同時に、商業農家への支援も計画し、市場の発展と経済成長の促進に貢献する輸出指向型農業開発のモデルを提示することを計画、また、本プログラムの実施に際しては、既に現地にて活動している民間企業及び今後モザンビークの農産品輸出を視野に入れている民間企業等との効果的な連携も図っていく。
このような状況を背景として、本セミナーは、日本、ブラジル、モザンビークの政府、民間の代表者が集まり、モザンビークの農業開発に対する民間セクターによる投資促進の可能性を議論することを目的として開催された。
EMBRAPAのカルロス・マグノ教授はセミナーの開催を前に参加者に東日本大震災の被災者に対して1分間の黙祷を促し、参加者全員が起立して黙祷を捧げた。
司会はブラジル・コーペレーション・エージェンシー(ABC)代表のマルコ・ファラニ教授が担当、初めに「投資機会プロモーションへの協力」のセッションで大島 賢三JICA副理事長が自然災害の多い日本で発生した未曽有の東日本大震災で13万人以上が避難生活を余儀なくされているが、ブラジル国民や日系団体からの支援に対する感謝を述べ、必ずや困難を乗り越えて再建、これをバネに更なる発展を確信していると強調、初めにJICAの資金援助で日伯間でのセラード開発を経験して豊富な知識を擁しているために、モサンビークでのProSavanaプロジェクトは必ず成功を収めて、この成功モデルを他のアフリカのサバンナ地域の農業開発の支援など夢のある農業開発ビジネスのこのプロジェクトへの民間企業の参加を促した。
続いてペドロ・アラエス伯農牧研究公社(Embrapa)総裁は現在、食用にしている動植物の起源はアフリカ大陸から発生したものも多く、またセラードとサバンナ地域は地形、地質、降水量や植物分布が非常に近いために、痩せ地で誰も開発に成功しなかったセラード地域での穀物生産のノウハウならびにこのプロジェクトのために費やした9万8000時間に及ぶ研究は必ず成功すると太鼓判をおした。
ミラデ・ムラルデ在伯モザンビーク大使はこのプロジェクトはモサンビークのナカラ回廊地域の中小及び零細農家への支援を通じて貧困削減と食料安全保障へ取り組みを促進すると同時に、商業農家への支援や市場の発展と経済成長の促進に貢献する輸出指向型農業開発のモデルとなる総合プロジェクトであると説明した。
元農相のロベルト・ロドリゲスFIESPアグロネゴシオ上級審議会会長は中国やインドなどの人口大国の二桁に達する経済成長率の継続は、今後の食糧増産に拍車をかけなければ人口増加に追い付かないために、アフリカのサバンナ地域での農業開発への支援が非常に重要な役割を担い、ブラジルの再生可能エネルギーの進んだテクノロジーの活用は持続可能な世界の農場の見本であり、生産性が飛躍的に向上しているために、小面積の耕作地での増産が可能であり、アフリカのサバンナ地域へのテクノロジーの移転の重要性を述べた。
また全国農業連合会長(CNA)のカーチア・アブレウ上院議員はEmbrapaが取り組んでいる土壌研究・品種改良などの重要性、必要性を述べ、実際にモサンビークのナカラ回廊地域を視察、リシンガー市から港湾都市までの鉄道建設、ロジスティック、エネルギー部門の開発やマンパワーの育成やファイナンスの重要性を説明した。
15分のコーヒーブレークの後、ジョゼ・パシェコ・モサンビ-ク農業大臣が「モザンビークのアグロビジネスの投資機会」について、同国の人口は2100万人、国土面積が80万平方キロメートル、3600万ヘクタールが耕作可能、僅かに450万ヘクタールが耕作されているにすぎない。
また灌漑可能な面積は300万ヘクタール、僅かに4万ヘクタールが灌漑されているにすぎない。ProSavanaプロジェクトのナカラ回廊地域の平均気温は22度から24度、雨量は900ミリから1500ミリであり、安定したモサンビークの政治経済、広大な耕作面積や安い労賃、優遇税制の適用や鉄道インフレを整っており、トロピカルフルーツや穀物栽培、アルミのメガプロジェクトや有望な鉱業、土地は国家が管理して50年間の土地利用並びに50年間の再契約で土地購入の必要がないために、初期投資の低減が図れるなどの利点を強調した。
モザンビーク北部開発誘導者としてのPROSAVANAプログラムのJICA代表の押山和範アフリカ部長はナカラ回廊地域の開発として①経済成長、②ヒューマンセキュリティ、③気候変動対策を3本柱としており、また同地域には石油、石炭、ボーキサイトなどの豊富な天然資源があり、鉄道インフラ整備で内陸部の農産物をインド洋の港湾からアジアなどに輸出、また並行して教育施設の建設や教育・衛生などの社会インフラプロジェクトも推進、ブラジルでのセラード開発20年間の経験から得たノウハウの活用で、ノウハウ移転は10年に短縮が可能であり、関係3カ国がWin Win Winの関係を勝ち取ることができると強調した。
ABC代表 フレデリコ・パイヴァProSavanaコーディネーターはABCの組織を紹介、モサンビークへの投資援助としてポルトガル語、開発地域がセラード地域と共通点が多く、ノウハウの移転やアフリカ諸国の食糧増産サポートなどを指摘した。
Embrapa代表 アルベルト・サンチアゴProSavanaコーディネーターはプロジェクトのコンセプトや第1次計画から第3次計画に亘るスケジュールと内容などを説明した。
続いて司会はモサンビークのペドロ・ズクラ地方農業理事が担当、初めにモザンビーク投資促進センター(CPI)代表のロウレンソ・サンボ取締役が同国のポテンシャルとして人口、農業、森林、観光、漁業やエネルギーや投資保証や優遇税制について説明、続いてブラジル社会経済開発銀行(BNDES)代表のデニ-ゼ・ロドリゲス総裁アシスタントは同プロジェクトへのBNDES銀行のクレジットや金利について、またすでに実施しているモサンビークへのゼネコン大手企業へのクレジットなどについて説明した。
国際ファイナンシャル・コーペレーション(IFC)のババツンデ・オニトリ副総裁(中南米・カリブ、アフリカ担当)はIFCの組織、コンセプト、ストラテジーやクレジット案件について説明した。
JICA代表の梁瀬直樹ProSavana担当取締役はJBICとJBIC統合後の政府開発援助(ODA)に関する円借款のスキームや金利について、オーナーシップへのバックアップ、またモサンビーク向けクレジットの償還期間や金利について、ナカラ回廊プロジェクトに関する道路や港湾プロジェクト,社会向上プロジェクト、ツーステップ・ローン、バングラディッシュやフィリピンへの借款BOPビジネスプロモーションやPPPインフラサポートのプログラムなどについて説明した。
ミランダ社(在モザンビーク企業)のアントニオ・ミランダ代表はモサンビークでは商業、工業並びに農業分野でそれぞれ企業活動を行い、ミランダ農業社はナンプラ州やザンヴェジア州で年産6000トンのカジュ-ナッツ栽培,マモナ油加工能力は年産1万2000トン、その他にはトウモロコシ、マカダミア、ジャガイモの試験栽培や製茶やミネラルウオーターの生産、今後は牛やヒツジの牧畜、地元大学との提携による人材育成などを説明した。
ブラジル日本商工会議所会員企業代表で伯国三菱商事会社の近藤正樹社長(同商工会議所会頭)は「日本企業のモサンビークでのビジネス経験」として、ブラジルに赴任して3年、この国の将来性にわくわくしており、近い将来ブラジルが世界のひのき舞台になることを確信、また地理的に日本はブラジルから遠いが、ブラジルからアフリカはすぐ近くでブラジルの経済圏の範疇にあり、ブラジルを通しての農産物や天然資源などの投資拡大の可能性を述べた。
三菱商事はアフリカ諸国の13カ国に拠点を擁して事業展開、主に石油や天然ガスのエネルギー関連事業に投資、モサンビークでは首都マプート近くで世界最大規模のアルミ精錬会社モザール社に資本参加、ヴァーレ社の石炭開発向けの機械納入やサービスセンターでの保守などで事業展開、また社会貢献プロジェクト(CSR)ではマラリア予防などを実施、日伯共同のアフリカへの貢献ではアグロカルチャーやバイオ燃料やインフラ整備など官民一体で行うことが重要であり、Win Win Winの構築が最優先されると説明した。
続いてニアサ州のダビデ・マリザネ州知事は「同州のポテンシャル」として温暖な気候、灌漑向けの豊富な水源、農産物としてトウモロコシ、キャサバ、フェジョン、コメ、小麦、漁業や観光地としてニアサ湖(マラウイ湖)、5万平方キロメートルの動物保護区、鉱業では金、石炭やアクアマリンなどについて説明、ナンプラ州のフェリスミノ・トコリ州知事は同州の人口は400万人、80%は農業に従事、面積は8万平方キロメートル、耕作可能面積は450万ヘクタール、綿花、大豆、バナナ、マンゴーやゴマ栽培が盛ん、インド洋の海岸線が470キロメートル、森林面積は780万ヘクタール、鉄鉱石、リン鉱石、宝石を産出、州内には7大学の高等教育機関を擁していると説明した。
200人が参加して開催された国際セミナー「モザンビークアグリビジネス~日伯連携協力と投資の機会~」(写真提供 松本浩治記者 サンパウロ新聞社)
左から2人目は大島 賢三JICA副理事長(写真提供 松本浩治記者 サンパウロ新聞社)