HIDA/CNIの共催による「ブラジル産業における労使関係改善」セミナー開催

HIDA/CNIの共催による「ブラジル産業における労使関係改善」と題されたセミナーが、2014年9月4日、5日の2日間にわたって、CNIのサンパウロ事務所にて、述べ約40人が参加して開催された。参加者には、CNIの研究者や人事・労務管理の弁護士、ブラジル大手の建設業、製造業、自動車メーカーなどの人事・労務担当者などが集まり、講義に熱心に耳を傾け、討論会ではそれぞれの意見を述べる白熱したセミナーとなった。

初めに、HIDA産業推進部の田中秀穂部長より、HIDAは日本でのブラジル人の受け入れは行っているが、厚生労働省の事業ではブラジルにおいてセミナーを開催するのは初めてで、厚生労働省やCNIの協力により、このセミナーが実現することに感謝し、参加者一人ひとりが、日本の労務管理・労使関係における問題改善や生産性向上(改善・5S)の取り組みに関する講義を聞いて頂き、その後、講義で学んだことを踏まえて、ブラジルや自社の労使・人事に関するグループ討論を行い、各自アクションプランを考え提出して頂くセミナーになるので、セミナーを通じて両国将来の産業発展に役立てれば幸いであるとして、当セミナーの講師である連帯社会研究交流センターの鈴木不二一講師を紹介した。

鈴木講師は、初めに、日本の人的資源管理・労使関係の特徴を、長期雇用制度、年功序列型賃金および内部昇進制度、そして企業別組合の存在という「3つの柱」で説明した。また、日本の労使関係の国際比較に関する代表的な研究として、1960-70年代の高度成長期に社会学者のRonald Dore教授が行った実証研究を取り上げ、西欧企業(W Type)と日本企業(J Type)に関する、「マーケット志向型」対「組織志向型」という類型的対比を紹介した。Jタイプ企業の主な特徴として、離職率の低さ、集団主義、長期志向型、生産志向型(もの作り・サービス作りが目的)などがあり、また、W企業は、内部労働市場への入職口が低位の職務から上級管理職まで、広く開かれているのに対し、J企業の特徴としては、内部労働市場への入職口は新規学卒入社者が従事する低位の職務に限定される傾向があると指摘した。そして、新規学卒入社者は社内での勤続を重ねる中でさまざまな職務経験を積み、職業能力を高め、より難しく困難な職務、責任と権限のより大きな職位に昇進していくという、日本における内部昇進制のもとでのキャリア形成の特徴を説明した。

OECDによる雇用保護の世界ランキングをみると、日本は中間に位置し、アメリカ、イギリスよりは保護されているが、ポルトガル、イタリアに比べると低位にある。日本の労働組合組織は、組合員の90%以上が企業別組合であるところに特徴がある。現在では、日本の労働組合組織率は長期低落傾向にある。企業と労働組合の間の集団的労使紛争は過去30年の間に顕著な減少傾向をたどり、いまではストライキフリー国などと呼ばれることもある。ただし、集団的労使紛争にかわって、企業と個人の間の個別労使紛争は近年急速に増加しており、労使紛争が消滅したわけではない。このため、厚生労働省の労働相談窓口等における解雇や賃金をめぐる個別相談が急増している。ここ20年の日本の経済成長低下により、倒産やリストラなど企業が不安定になり、早期定年退職、非正規雇用の増加、また入職口の減少などの問題にも直面している。しかし、一般的に、企業も個人も長期雇用慣行を高く支持していることは変わらない。現在の日本は、長期雇用慣行の長所を活かし、新しい経済社会環境に適応した労使関係のニューモデルを模索している状況にあるということができるとも説明された。

次に、鈴木講師は、日本の労使関係と生産性についての説明を行った。日本の生産性向上の取り組みは、戦後になって欧米から学んだものである。その基本的精神は1943年のフィラデルフィア宣言に表明されている人間中心主義にある。そのことは、1955年に政府・使用者・労働組合の三者の協力による「日本生産性本部(JPC)」が設立された際に確認された生産性3原則(「雇用確保」「労使協議」「公正配分」)にもっともよく表現されている。1959年には、労働組合も生産性向上に取り組むための組織を設立し、独自の活動を展開することとなった。戦後日本の生産性向上は、労働組合を通じて労働者自身も参加する形で展開され、その過程で労使間の相互信頼関係が醸成されていった。労働者の参加と労使間の信頼関係は、戦後日本の生産性改善に貢献した重要な要因のひとつである。

日本の労働組合の現状については、2013年時点の労働組合組織率は17.7%と非常に低いレベルにある。企業規模や産業ごとのばらつきも大きく、1000人以上の大企業では44.9%が組員に組織されているが、100人以下の小企業では1%にしかすぎない。また、官公部門や金融産業での組織率は高いが、卸・小売やサービス業では低いなど、産業によっても組織率は大きく異なっている。日本の労働組合員数は全体では1000万人近くに及んでいるが、企業別組合を主体としているために組合数は25000強ときわめて多く、1組合の平均組合員数は387人にしかすぎない。きわめて零細な規模の労働組合が広く分散されている状況にある。近年急増中の非正規従業員の多くは未組織であり、労働組合の組織化活動の重要な課題となっている。他方、企業別組合は、正規従業員であれば、ブルーカラーもホワイトカラーの区別なく組合員に組織している。ホワイトカラーや高度技術者も、管理職に昇進するまでは、一般従業員と一緒になって組合活動に参加していることは、複雑な経営課題や技術問題についての企業との協議・交渉を進める上で、しばしば大きな力を発揮することもあると説明された。

参加者からは、生産性向上の取り組みの中での教育システムの役割や労働組合の組織作りの政治との繋がりなどについて質問が寄せられた。鈴木講師は、高度成長期には産業発展に対応して技術系人材の供給を増やすために理工系の大学の定員を増やすなど、国の政策としても技術者育成に力を入れていたことを紹介した。また、日本では労働組合への参加は強制ではなく、労働者個人の自由意志によること、また労働組合と政治との関係については、日本の労働組合は労働者の利害を守るための政治活動を行なうことはあるけれども、政党との間に明確な一線を引いていると説明した。

企業と従業員の間では、当然ながら利害関係が異なる。労使紛争の火種は、いたるところに存在しているといってよい。しかしながら、労使コミュニケーションを通して、労使が相互信頼関係を構築することは可能であり、そうした基盤の上に立ってお互いに話し合い、納得できる解決策を考えていくことが、労使の共存共栄につながる。日本では、企業と組合がお互いに向かい合って座る(よそよそしい対立関係)のでもなく、同じテーブルに座る(労使の利害一致・融合)のでもなく、お互いの傍らに席をとって、立場の違いを認めながら生産的対話を進めようと努力しているところに特徴があると述べた。参加者同士の討論の中では、ブラジルでの労働組合は、企業と対立関係が強く、労使間の対話の機会も殆どないこと、労働組合への登録は義務であるけれども、一般従業員の発言・参加は希で、また組合リーダーの個人主義や強い政治との関係なども多く見られる、などの問題点が指摘された。日本の労働組合・企業・従業員の間の信頼関係、労働組合と企業への帰属意識には、賛同する意見が多かった。鈴木講師は、日本でも妥協点を見つけたり労使問題を解決したりするのはそんな簡単なものでもないと説明し、この様な国際的な意見交換の場で討論をしていくことが大変重要であると語った。

次に、CNIのAretha Amorim Cury Correaさんが、2012年に日本に行き、HIDAの2週間の研修の経験とそれに基づく現在の活動について語った。発表では、まず、CNIは産業連合で、27の連盟と1300の組合から成り立ち、60万の産業を代表しており、1696箇所で年間220万もの登録会員を持つSESI(産業の社会サービス-基礎教育と健康サービス)、797箇所で230万もの登録会員を持つSENAI(産業訓練サービス)、そして、103箇所で34000企業が参加しているIEL(企業訓練)からなり、ブラジルの産業を代表している機関であると説明した。その中で、産業界の労働関係の討論のみならず、労働に関する政治や法律に関する討論や分析、また提案書を作成し国会に提出する活動も行う役割であると述べた。ブラジル産業にとって様々な障害があり、法律の煩雑さ、税制問題、専門家の質、技術革新、労働法、労働コスト、官僚制度、そして労働関連などが競争力強化へのチャレンジとなり、この問題を克服する助けをする為に、日々努力しているなどと説明した。日本での研修にて学んだことをCNIでの日々の仕事の中で実践する為、周知-参加-導引-意識改革の順に仕事の分析を行い、また、5SをCNI組織内での活動では、時間の限られた中でも、少しずつ意識改革を行い、職場環境や仕事への意識改革が出来ている実態経験も語った。最後に、日本では、現場を訪れたことに感銘を受け、今は、新しい従業員を産業の現場に連れて行き、現場体験をさせる重要性を訴えていると説明した。

Arethaさんの経験談の後で、鈴木講師は、日本の従業員の参加と現場での活動について、改善と5Sの概念を説明した。日本企業の特徴として、情報の共有の仕方として、上からのコミュニケーションのみでなく、下からそして草の根の意見を吸い上げる対話の仕組みもあることを説明、企業の90%がコミュニケーションは大切だとし、現在の社内のコミュニケーションの評価として、従業員からも半分以上が良い評価をしていると述べた。小規模集団と改善の役目は、小さな問題を継続的に改善していくことが重要である。超一流の技術者の生産計画でも必ず予想できない問題は起こりうるのであり、小さな問題と小さな改善でも毎日全員が考え実践することの積み重ねが、大きな改善につながっていく。それは、従業員自らの意識改革にもつながり、現場での生産性の向上につながっているとした。ムダをなくす、整理整頓、標準化(反復性があり誰でもできる)の3つの改善概念の中でも、整理整頓や5Sがどの様に生産性に繋がるかという議論もあるが、効率的な職場は、きちんと整理整頓をしている事実はあると語った。小規模で参加型のこの活動は、従業員の帰属意識向上効果にもつながっていることも述べた。

最後にケーススタディとしては、帝国ホテルの組合の事例を検討した。東日本大震災で観光客も減少する中、帝国ホテルの労使は、非正規従業員を正規従業員に移行させるという組合要求について合意に達した。それは、帝国ホテルのサービスの質を支えているのは、個々の従業員の能力とモラルの高さであり、それこそが生産性の基礎であるという認識を労使が共有した故の合意であった。結果として、この決断と合意形成は、その後の帝国ホテルの売上や利益の増加につながっていった。このケースをもとに、今まで学んできたことを含めグループ討論を行った。日本とブラジルでは、労働組合のあり方が全く違っており、日本と同じことはできない。けれども、小さなことでもできることはあると、それぞれが討論した。

企業側としては、労働組合との関係づくりも大切にしながら、従業員との直接のコミュニケーションや意見交換も大切とし、下から拾い上げる草の根の意見具申活動や、従業員間での委員会の設立や、従業員との直接対話の機会を設けるなどして、新しい形での労使関係を作ることも考えられるなどの意見も出た。政治とのパイプの強い労働組合リーダーは、法律に守られ収入も確保され、企業との交渉も強引でストライキなども頻繁に起こすなど、の問題点も指摘された。

組合組織寄りの現在の法律の改革自体も必要であるとの意見も飛び交った。労働法も多く煩雑で、改革も簡単ではないこともあり、今できる小さなことから初めていく、それが人事・労務の基本的精神の改善で生産性向上に向かっていくことも討論しあった。文化がかけ離れているが、日本の共同体の精神や仕事に関する価値観も理解し、ブラジルの異文化国家、国土の広さ、適用性の高さを考慮し、友好的な労使関係、生産性向上と共に、お互いに協力して、産業の発展に繋がるような活動を継続できることを話し合った。

PdfApresentação_CNI_JAPAN 2012 portugues.pdf

PdfT_1.IR and HRM in Japan.pdf

PdfT_2.IR and Productivity.pdf

PdfT_3.Employee Involvement.pdf

PdfT_Case study Imperial hotel .pdf

https://camaradojapao.org.br/jp/?p=39898