【DKWからEVへ】ZF・ド・ブラジル ウィルソン・ブリシオ南米担当社長インタビュー

ZFが、間もなくブラジル進出60周年を迎える。同社は1958年8月15日、サンパウロ州ABCパウリスタ地区のサン・カエターノ・ド・スル市にドイツ以外で初の工場を建設してブラジルに進出した。国内で初めて製造した製品は、ブラジル資本の自動車メーカー、ヴェマグ(Vemag)の手になる自動車DKWに組み込んだ変速機だった。

その後すぐ、ZF・ド・ブラジルは事業を拡大して商用車に対応、トランスミッションとステアリングの製造に乗り出した。工場は小規模で手狭になったために1981年にはサンパウロ州の地方都市ソロカバ工場を立ち上げ、1997年には同工場に生産を100%集約した。

現在、ZFが既にブラジルも含めて電動パワートレインの供給を視野に入れていることを、ブラジル滞在歴17年のウィルソン・ブリシオ南米担当社長がインタビューの中で明らかにした。同社長はブラジルの振興策を批判するだけでなく、ブラジルにとってより良い解決策はエタノールではないという考えも示した。その過程はどうであれ最終的には電気自動車(EV)化に向かうと同社長は確信しており、ブラジルは、EV時代への備えが必要になるという。以下は同社長とのインタビューである。

「ブラジルはビジネス環境ランキングで世界第129位だ。エコシステムはビジネスに不都合なもので、何から何まで高額で、非常に煩雑だ」

AUTO DATA(AD):ZFが、ブラジル進出60周年を迎えます。ブラジルにおいて自動車部品メーカーがこのような長寿でいられる秘訣は?

ウィルソン・ブリシオ(WB):忍耐と、ここには可能性があるという確信、さらに能力。これがなければ、ブラジルでこれほどの期間を生き抜くことはできない。ブラジルを理解することと、ニーズを把握すること、ここでどのように振舞うべきか、どのようにビジネスを管理するのかを、ZFは学んだ。ここ数年を含め、当社は虚を突かれたこともあったが、それにどう対処すべきかを学んだし、多くの技術を導入しただけでなく多くの専門家を送り出すこともした。ブラジルの自動車業界関連企業で働くことから得られる経営の教訓は、シリコンバレーでは得られない。現在の当社には、中国とアメリカで働くブラジル人エンジニアがいる。

AD:ブラジル工場がドイツ以外でZFの初めての工場だったとか…。

WB:そう。そして、そこで国際化を学び、最初の駐在員があちらからこちらへやって来て、その後、ブラジル人たちがこちらから向こうに駐在した。当社にとってブラジルは非常に大きな戦略的重要性があった。これは非常に豊かな企業史で、過去の歴史にとどまらず今も継続している。最近も、当社の農産物分野のエンジニアリング分野で、国際開発センターの1拠点をブラジルに立ち上げるという喜ばしいニュースを受け取ったばかりだ。

AD:TRWの買収が南アメリカにおけるZFのオペレーションに与えた変化とは何でしょうか?

WB:この買収は極めて補完的な展開だった。唯一、この買収でわずかながらバッティングした部門はステアリングで、当社はこのオペレーションをスピンオフした。残りのすべての事業、例えば電装品、エアバッグ、ブレーキ、アフターセール市場など、従来の事業展開を補完するものだ。2つの企業文化、アメリカ人気質とドイツ人気質を統合することが今後の大きな挑戦だ。すべてを記録的スピードでこなしており、初年には、事業のおよそ80%を既に統合した。最初はアフターセール、続いて調達、一歩一歩だが人的リソースも統合を進めている。2017年末にこのプロセスを完了し、当社はこのほど、この工場に近いサンパウロ州イトゥー市に初の共同倉庫を立ち上げた。

AD:2018年のブラジルはZFにとりどのような状況でしょうか?

WB:いくつかの事業は黒字を確保しており、残りは赤字を見込むがその理由は新製品のリリースには多額の開発コストが求められるためだ。厳しい状況ながらも、背筋が凍るような思いはしなくなった。過去数年は相次ぐ下方修正を余儀なくされ、2018年に関しても当初、その水準を引き継ぐと予想していた。ただ、設備稼働率が50%という水準にありながらも当社は、不況下でまだ回復の足音が聞こえない中で投資を進めていた。

AD:今後に関して、何か、明るい見通しがありますか?

WB:ブラジルはビジネス環境ランキングで世界第129位だ。エコシステムはビジネスに不都合なもので、会社を設立したり投資をしたりする場合、何から何まで高額で、非常に煩雑だ。多くの人が、この問題やあの問題に対処するための振興計画を導入すべきだと主張する。だが必要とされているのは、完全な、すなわち国全体に対する計画のリロードだ。政権が導入する単なる1つの計画ではない。そのようなものは役に立たない。ブラジルには、誰が権力の座にいるのかとは無関係に機能する、社会に根差した工業政策が必要だ。

AD:新自動車業界振興計画であるロッタ2030について、あなたはどのようにお考えでしょうか?

WB:何らかの形でこの計画が市場を改善するのであれば、興味深いものだと私は思う。当社は技術企業であり、研究開発(R&D)を促進する方向性は好ましい。当社は既に、初の電動パワートレインをブラジルに投入すべく努力しており、その計画はかなり進んでいる。私は、EV時代が幕を開ければ大都市を中心に急速に普及すると考えており、その流れを後押しするものは何であろうと興味深く受け止めている。政策がこの方向に効果を発揮するよう期待しているが、あのランキングで129位に甘んじるようではいけないと強調したい。好ましいビジネス環境が存在しないところでは、世界のどこを見渡しても持続的なR&Dが存在しえない。新しい技術に歩調を合わせつつ、私たちは国家の使命というものを見い出さなければならない。ブラジル資本の自動車メーカーはもはや存在しない。例えば、メルコスールと欧州連合(EU)の自由貿易協定(FTA)が締結された後、輸出をはるかに上回る輸入を阻止しようと振舞うことをブラジルにとどまらせる要素とは、何だろうか?

AD:ブラジルの使命はエタノール燃料ではないでしょうか?

WB;私は難しいと考える。中国について話をしよう。あの国は、ゲームのルールを変えた。彼らはこう考えた。すなわち、「汚染問題を抱えているので、もし中国以外の世界とレシプロエンジンで戦えば排出する汚染の抑制技術で劣る我が国のメーカーが負けるだろう」と。そうしてEV化に向かって動き出した。エタノール燃料は、ブラジルに存在するだけだ。世界を相手にこれが良いものだと納得させられるだろうか? 中国は最大20%のエタノールをガソリンに混合するが、それは現在のことであって未来についてはノーだ。ブラジルは、レシプロエンジンの技術が下り坂にあることを理解しなければならない。恐らく、ロッタ2030のミスの1つは、EVに不利益を与えてハイブリッド車(HV)を優遇する部分だろう。現在、バッテリーで駆動する純粋なEVは確かに重量がかさんでいるが、EV軽視は、ロッタ2030の戦略ミスになり得る。バイオ燃料が都市モーダルで大きな成功を収める戦略のひとつとして明るい未来がある決定的要素と私は見なしていない。

「バイオ燃料が都市モーダルで大きな成功を収める戦略のひとつとして明るい未来がある決定的要素と私は見なしていない」

AD:ブラジルがこのゲームに参戦して、EV化という分野で何らかの競争力を確保することは可能でしょうか?

WB:私は、再生可能エネルギーを生み出すことについて何であれ重要視している。そこには大きなチャンスがある。エネルギーを生み出し蓄積することは、未来に対して戦略的に非常に重要だが、そこへ投資し、追及していく必要がある。EV化が、とりわけ大都市において実現するということを理解すべきだ。例えばここ、サンパウロ州ソロカバ市だ。サンパウロ市から80kmに位置する同市へは、途中に1か所の充電所があれば、余裕をもって移動できる。スタート時点で優れていると思えても実は縮小傾向で将来性がないかもしれない解決法を強制するよりも良いと思える。ハイブリッドのソルーションでここが孤島にならないだろうか? ブラジル資本でもないメーカーが、ブラジルのためだけにハイブリッド技術の改善に投資したいと考えるだろうか? バッテリーが改善する中で中期的には、製造コストがEVよりもHVの方が高くなるというのが潮流だ。

AD:ではサプライヤーはどのようになるでしょうか?

WB:このビジネスでプレーヤーとしてとどまろうと思うなら、それを良く考えるべきだ。それは、明日ではないし明後日のことでもないが、これから10年後あるいは20年後に事業を継続しようと考えるサプライヤーは、今、それを考え始めるべきだ。ここで新しいサプライヤーが出現する可能性は非常に大きい。私たちは他にも、FTAが盛んになる中、ブラジルが将来的に生産するものについて、考えを巡らせ始めなければならない。それがなければブラジルは、キューバのような状況に転じるだろう。恐らくブラジルは輸入品に対して国境を閉ざそうとしており、その殻に閉じこもって私たちは技術の開発をしようとしている。ほどなく、現在のキューバで起こっているのと同じように、40年あるいは50年前の自動車を使うことになるだろう。私は過度の愛国主義者ではないし、「みんながこの道に進むべくここで標語を作ろう」と言いだして国家を支えられるものでもないと考えるが、グローバリゼーションが現実にすぐそこに来ていること、我が国の経済を国際化しなければならないこと、経済を開放しなければならないこと、より競争力を高めなければならないこと、インセンティブを廃止しなければならず私たちもそれを必要としていないことを、しっかりと受け入れる必要があると考える。

AD:するとあなたは、何年かすれば国内工業が重要な役割を持たなくなると考えておられるのでしょうか?

WB:間違いなく。競争力こそ、ゲームのタイトルだ。現在のわれわれのどこに競争力があるだろうか? よく見よう。原材料の場合、我が国の鋼材は、物流コストを除外するとして、世界のどの場所よりも20%も割高だ。人件費の場合、世界の工業国の中でも生産性が低い国のひとつだ。エネルギーを見ても、工業部門にとって極めて高価だ。税制だと、世界の他のいかなる国と比較してもブラジルでは税務管理に10倍の時間を費やしている。よりシンプルにできれば、そしてそのコストをR&Dと製品開発、生産性の改善に回すことができるのなら、ブラジルはずっと良い国になるだろう。どんな奇跡を私たちは待ち続けているのか? 「私たちはひとかどの存在になる。我が国は輸出プラットホームになる」と誰かが言えば、私は、「はぁ?」と応じるよ。ブラジルがドルを管理できるか? これらすべての欠点を埋め合わせるために、どれだけレアルを切り下げなければならないだろうか? それを解決するための奇跡もなければ、インセンティブも、政府も、救世主も存在しない。

AD:ブラジルにおけるEV化は大型車両と農業分野で拡大するのでしょうか?

WB:農業には、電化することで生産性を大きく引き上げられる手段が多く存在する。ブラジルは、EV化するというだけでなく、むしろトラクターの自動運転のようにEV化を完成させるあらゆる要素を備えており、収穫はすでにかなり以前から人工衛星によって管理されている。

AD:ZFは、ブラジル国内で自動変速システムの供給が増加すると想定していますか?

WB;いいえ。当社は既にこの問題を評価済みで、ブラジル市場に対して当社は、よりシンプルな変速機、現在当社がラインナップしている非常に高価な製品をダウングレードすることになる。エントリー・クラスの車両に関心を持っていないZFにとり、ブラジル市場はそれほど魅力的な市場ではない。しかもこの種の変速機を採用している中型車両が将来的に輸入車になる可能性が非常に高い。変速機の工場を立ち上げるための投資ということで言えば、必要となる需要は100万台規模だ。60万台なら、当社はそれを、コストが非常に高い投資と受け止める。ブラジルは、変速機工場に投資するのを正当化する条件を備えていない。

「殻に閉じこもって私たちは技術の開発をしようとしている。ほどなく、現在のキューバで起こっているのと同じように、40年あるいは50年前の自動車を使うことになるだろう」

AD:例外的関税適用制度(エス=タリファリオ)に関するロッタ2030の新政策により、国産化比率の面から国内需要が生まれませんか?

WB:それが残された唯一の道だと思う。現在、輸入できないという理由からビジネスを失っている。工業製品も含めて、輸入に対する障壁は非常に高い。例を挙げよう。一定以上の大きさのアルミフレームだ。ブラジルでは誰も製造していないのに、現在、この製品に対するエス=タリファリオが検討されている。部品のコンポーネントの一部が単独で輸入できないという理由から当社は、部品全体を輸入せざるを得ず、従って競争力を持ちえない。私は、国内で製造されていないものの輸入税と煩雑な輸入手続きを廃止し、市場の調整に委ねるべきだと考えている。市場に競争が生まれれば、ブラジル国内でも製造が始まるだろう。

AD:ロッタ2030では、工業製品税(IPI)に対してエネルギー効率面で最大2パーセントポイント、安全装置に最大1パーセントポイントを減税するという恩恵がありますが、累積的に適用を受けられずに上限は2パーセントポイントです。この場合、企業に対してエネルギー効率だけに注力する傾向を生み出しませんか?

WB:コストとそれに対する恩恵、効率化だけで受ける恩恵を2パーセントポイント確保するために必要となるコストと安全性で1パーセントポイントを確保する場合のコストを比較した上での判断になるだろう。後者のコストは小さいがリターンは大きいものになり得る。ただ当社は、ブラジルが何を必要としているか、社会のニーズを考える。それは、効率だけ、あるいは安全性だけだろうか? 私は、両方だと確信している。(AUTO DATA誌 2018年9月号)
 

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