分析:外遊せずとも自ら外交で墓穴を掘ることが可能だと示したルーラ大統領(2023年5月30日付けバロール紙)

 

南米諸国会議の結果は、ウクライナ侵略戦争の調停役を買って出た時のようにわざわざ地球上をはるばる移動しなくても、ルイス・イナシオ・ルーラ・ダ・シルバ大統領(PT:労働者党)が自ら外交問題で墓穴を掘れるのだということを示した。ブラジルにとっては歴史的な因縁があり口出しするだけの理由もあるベネズエラ問題のようなものですら、「自宅」に居ながらにして、それが可能なのだ。

 

ブラジリアで開催される南米12か国の会議の基調を整え地ならしする、大統領好みの言葉で言い換えるならば「譚(はなし)」を作ろうとするルーラ大統領の試みに異を唱えたのが、若き2人の指導者、ウルグアイのラカレ・ポウ大統領とチリのガブリエル・ボリッチ大統領だ。

 

ラカレ・ポウ大統領は、ルーラ大統領が就任直後に同国を訪問した際、公の場でメルコスールに対するブラジルの頑固なまでの防衛姿勢を公に批判していた。ボリッチ大統領は、極右がベネズエラ移民の増加が原因だと主張する暴力事件の急増による支持の落ち込身に直面している。

 

南米諸国会議の主催者として、ベネズエラとの二か国首脳会談を進めたことにリスクがあったことは明らかだ。そしてルーラ大統領は、その声を無視することに決めた。経験豊富なブラジルの外交官らに言わせれば、実に不要な会談だった。

 

これは二か国首脳会談で見せたベネズエラの体制に対するブラジル大統領の論調を南米諸国会議の基調にしようと画策したブラジルの罠なのではないかと示唆して最初の足並みの崩れをもたらしたのは、ラカレ・ポウ大統領だった。ブラジルとベネズエラの二国間首脳会談に驚いたとコメントしただけにとどまらず、「反民主主義で権威主義」のベネズエラの経緯をルーラ大統領が「譚」と呼んだことにも、同様に驚きを表明した。

 

ウルグアイ大統領派さらに踏み込んで、民主主義と人権、制度秩序の保護というビジョンを盛り込んだ最終宣言に全員が署名することでベネズエラの政権を保護しようという、出席した全員が必ずしも同意しない試みにも公の場で反対の意を表明した。

 

2019年の選挙でラカレ・ポウ大統領は、ペペ・ムヒカ候補とタバレ・ヴァスケス候補に圧倒的な差をつけて選出された。従って、彼はルーラ大統領の右側に軸足を置く。では、ボリッチ大統領はどのような発言をしたのだろうか? チリの元学生運動のリーダである同大統領は、原則に対して「物事を絨毯の下に隠してみて見ぬふりをする」ことには同意できないと、同様に立場を明確にしている。「これは譚の一節ではない。現実であり、かつ、深刻な問題であり、私は、わが国で暮らす何千人ものベネズエラ人の瞳と痛みの中にそれを見出す機会を得た」。

 

ベネズエラのニコラス・マドゥロ大統領が会議に出席したことが、生産的な会合を阻んだわけではない。出席したすべての国が、ベネズエラとの外交関係を維持しているのだ。それでも、同国に対する禁輸措置への非難もなかった。ベネズエラ国民を主な被害者とする過剰な力の行使に対する批判は、かなり共有されている。

 

問題は、ベネズエラを舞台に呼び戻そうとするブラジルの善意が、頑迷な反米主義に汚染されていることだ。ルーラ大統領は自身の発言を通じて、民主主義と人権、共和制の護持を普遍的な価値とするのではなく、帝国主義の「譚」に変換できることを示した。

 

このような姿勢に、国益を見出すのは難しい。外務省は、大統領がその場で発言したことが重要ではないと言うがごとく、読み上げられた発言、公式の文書、翻訳に固執する態度を示した。その様は、近隣諸国を困惑させたほどだ。

 

まだ1週間と経っていないのであるが、米国南方軍のラウラ・リチャードソン将軍がブラジルを訪問した。同将軍はBBCに対して、南米におけるロシアと中国の「邪悪な活動」を懸念していると発言した。豊かな自然を持つこの地域が、中国の「シルクロード・インフラ計画(一帯一路)」に則られるようなことになれば、同国に国家安全保障上のリスクを生じさせると強調した。

 

今回の南米諸国会議は、いずれの首脳も置き去りにすることなく、一致団結してこのような対立から利益を導き出す南米の指導者たちの会議の先駆けにできた可能性があった。地域経済のペースを左右する大国間の不均衡によって脅かされているのは、実は各国の安全保障なのだとこの大陸に示す機会にできた可能性もあった。だが、そうならなかった。そして、ホスト国の責任を隠すのも難しい。

https://camaradojapao.org.br/jp/?p=53917