部会長シンポ・フォーラム委員会(森谷伸晃委員長)主催のオンラインセミナーは、2021年12月6日午前9時30分から10時30分まで100人以上が参加して開催、進行役はジェトロサンパウロ事務所の古木勇生ディレクターが務めた。
講師のブエノスアイレス事務所の西澤裕介所長は、テーマ「アルゼンチン政治経済動向」について、初めにアルゼンチン概観では、2015年以降の主要経済指標の推移、中南米第 4 位の人口、経済規模は2位で1人当たり名目GDPを有する大国。ブエノスアイレス州に人口の45%が集中。各州の主要生産物、大豆、とうもろこしなどの穀物、大豆粒、大豆油、大豆油かすの輸出金額は世界トップクラス。豊富な天然ガス、鉱物資源、アルゼンチンの輸出入先に占めるブラジルの割合は大きい。工業国との FTA によりブラジル市場で競争力を失うことは死活問題。最大の投資国は欧州も米国も存在感。中国の投資は一見少ないにも拘らず、第三国経由の投資が多い。再エネ発電にポテンシャル、アルゼンチン経済は長期的に低迷。経済規模は縮小傾向となっている。
信用不安を生み出す構造的問題では、アルゼンチンは信用不安を生み出す負のスパイラルから抜けられずにいる。また内的要因、外的要因、歴史的要因が複雑に絡み合っている。
2015年にリベラルな政権が発足も、左派イデオロギーの政権もリベラルな政権においても経済政策においては、インフレ退治を目指す点で共通している。2002年以降、ペソの対ドルレートは一貫してペソ安で推移。国民は自国通貨ペソを信用せず。為替規制の強化で並行レートが復活。アルゼンチンは深刻な外貨不足の現状。それに起因する厳しい資本規制は企業活動の足かせ。これまでに9度のデフォルトを経験。食料、鉱物資源が豊かでバラマキ型の政策が定着していることが背景。アルゼンチンの債務残高は高水準。政府債務残高はGDP比で100%超。債務再編交渉が政権運営の足かせになっている。膨らむ政府支出。社会保障費、補助金が支出の5 割を超える。政府部門の労働者数も年々増加 。政府部門の債務が拡大する要因。歳入拡大に努めるも歳出拡大に追い付かず財政収支赤字は増加傾向。財政収支赤字を紙幣増刷により補填して、インフレの要因の一つとなっている。
アルゼンチンは内需の国。民間消費が経済の大部分を占める。金利、賃金をインフレ率が上回っており、購買力の低下により個人消費は低迷。民間消費の落ち込みと伸び悩み、輸出の落ち込みが常に経済成長を下押し。フェルナンデス政権を支えているのは低所得者層が中心。若年層の貧困率の高止まりは左派政権の未来の支持者を生み出す要因になりかねない。新型コロナウイルスの影響を受け、 2020年は零細・中小企業の数が大幅に減少。サービス部門、特に卸・小売業、運輸業、飲食・宿泊業の廃業・非正規化が目立つ。
最近の経済動向、経済見通しでは、2021年の経済動向のポイントでは、緩やかな回復続くも2020 年の落ち込みを取り戻せず。自動車生産は前年超えも半導体不足の影響。コモディティ価格の上昇が輸出額を押し上げて外貨獲得の生命線に。自動車、鉱業で新規投資の動き。インフレは10月時点で前年の水準越え。価格統制では抑制できず。労働指標は改善も非正規雇用が失業者を吸収。ペソの対ドルレートは過大評価。並行レートとの乖離は過去最大に水準。外貨準備高は枯渇寸前か。カントリーリスク上昇。
最近の政治動向では、2021年の政治動向のポイントとして、党内基盤の弱いフェルナンデス大統領は苦境に。選挙ターゲット、イデオロギーと実践主義に基づく経済政策を実施。 2021 年にようやく独自の経済政策。政権発足時から党内基盤の弱いフェルナンデス大統領。中間選挙予備選挙で大敗も本選挙で若干巻き返し。民政化以降初の上院過半数割れで与党連合は厳しい政策運営。与党連合内は休戦状態。後半戦も関係維持か。IMF との債務再編交渉が当面の優先的取り組みなどについて説明した。
質疑応答では、アルゼンチンの経済成長を促す政策。アルゼンチン政府の為替変更の可能性。2019年6月の日本とアルゼンチンの租税条約署名後の進捗状況などが挙げられた。
PDFアルゼンチン政治経済動向