部会長 : 矢島 章
[1999年の回顧]
(1)石油化学・合成樹脂
カ マサリのエチレンセンター COPENEでは通年で小規模ながらプラントのトラブルが続き、一度は運転を停止し、エチレン供給に支障を来した。このためエ チレンの年合計生産量は能力の120万㌧を割り込み、約10万㌧(速報)はショートした。その結果COPENEのエチレンユーザーである誘導品メーカー間 では原料エチレンの取り合いが起こり、殊に年末には深刻な局面が発生した。幸いにも南のCOPESULで7月から新設なった年産45万㌧エチレンプラント が稼働開始、同コンビナート内PEメーカー(TRIUNFO PETROQUIMICA社)がそのプラント事故で稼働停止中であったこともあり、その分の エチレンをCOPENEの供給先の一つアラゴアスのTRIKEM社に移送し、そのPVCの生産停止を免れた。
この他、カマサリのPPメーカーPOLIBRASIL社でも事故があり、上流部門でのトラブルが目立った。
合成樹脂メーカーでは、年間出荷数量は前年比4%(速報)の伸び、金額ベースでは1月の為替の大幅切下げとナフサ価格の上昇を理由とした値上げで 30%強は増加したと見られる一方、デバリは市場での輸入代替、即ち、輸入品から国産品への切替え需要を生むという新たな一面をもたらした。このため国内 樹脂メーカーでは数量で10%伸びた部門もあり、輸出余力は大きく後退した。
需要業界を部門別・樹脂別に見るとまず家電分野ではオー ディオ・TVの新製品上市とあいまってPS(ポリスチレン)が年後半に荷動きが活発化したものの、本格的回復とは言えず、前年から引き続き不振の自動車 (国内販売は輸入車を除き10.2%減)向けPP(ポリプロピレン)は未だ力強さを欠いた。レジ袋に代表されるフィルムはHDPE(高密度ポリエチレン) の代表分野で、需要も大きければ競争も激しく、東アジアからの製品輸入(大手スーパーが直接買い付け)も常態化した。食品は景気動向に左右されない部門で あるからか、食油用ボトル(PET)、ビスケット・パスタ等の包装材に各種フィルム、化粧品・シャンプーボトル(PET、PP、HDPE)、その他雑貨・ 玩具(ガーデンファニチャー、アウトドア用品)、通信ケーブル等は好調に推移した。
これらプラスチック加工業界の一角に在り、各需要分野と接点をもつ着色メーカーによれば、業界は年初の輸入と便乗国産原料の値上げによるコスト上昇で採算悪化に悩みながらも、輸入代替の進行に支えられ、予想以上の業績であったとしている。
(2)農薬
農薬業界は国内メーカー17社がシェア90%を抑えるが、前年に21.8億US㌦あった出荷高が99年は20億㌦へダウン(8.2%減)。作物別に見る と、農薬需要の40~50%を占める大豆が4、5月に干ばつに見舞われ背丈が伸びず減産、加えて国際相場が低迷し減収のダブルパンチ。ミカンに代表される 柑橘類も通年で30%収量ダウンで、価格は上昇するも農家の収入は増えず、彼らへの農薬の売掛回収不安が具体的に不良売掛に転じた(業界全体平均不良売掛 率5~6%)。その他は綿を除いてコーヒー、とうもろこし等代表的作物も不振、期待の星の遺伝子組み換え作物も2003年まで政府から「待った」がかか り、メーカーは戦略見直しに加え、合併を含む事業統廃合を進めている。
(3)金属工作油
数量ベースで見ると、上期が前年対比92%、下期は同104%、通年で100%弱。
輸送機器分野は、優良部品メーカー向けが通年で15%の伸びを示したが、自動車が足を引っ張り、全体では10~15%ダウン、機械関係を合わせてようや く対前年微増となった。これは機械・精密関係で通年で20%強アップしたおかげ。鉄鋼関係は上期の後退が大きく、下期でこれを取り返したものの通年では前 年対比99%に止まった。
売上高で見れば、上期は98年対比で99%と伸びず苦労したが、下期は遡及値上げ分も手伝って30%弱ながら前年を上回り、通年では114%増で、まずまずの成果を示した。
結果、年初の為替切下げ→原料値上げ(実質35%強)もどうやら吸収出来、若干ながら利益を出せた。
(4)水処理剤
1月の為替切下げは、購入原料の80~85%が輸入乃至ドル建てなので、痛かった。20~25%の売価修正を実施したが、客先の半分を占める石油・石油 化学、同2割の鉄鋼分野は対応がスムーズに行ったが、下期になり円高に推移、「日本産輸入原料が上がったから値上げしたい」とは言えず、下期為替変動(日 本産輸入原料は円建て。レアルも1ドル1.9~2.0へ推移)の対応は未だしである。
業界は大、中メーカー50社がしのぎを削り、 トップ2社が米系。M&Aが進捗中で、大手が中小メーカーを次々に買収中、中でも仏系メーカーが対ブラジル攻勢に出て来ている。彼らは「水処理のトータル 企業」を標榜、「エンジニアリング+設備貸与+運転+製品納入」を打ち出している。
(5)接着剤・シール剤
インダストリアル、コンシューマー両分野向けに販売展開するも、昨年は両分野合わせて数量、金額とも30%増。但し、為替切下げで輸入原料だけでなく、 国内産原材料も値上げとなり、コスト上昇で収益圧迫。昨年は製品値上げ10%したものの、これではコスト上昇をカバーしきれず、再値上げを推進する一方、 コストダウンを図っている。
業界全体でも前年比30%の伸長を示した。
(6)写真フィルム
為替切下げで始まった昨年初め、99年はフィルム、印画紙等で対前年20%減(数量ベース)を予想していたが、それ程には悪くなかった。理由はこれら消 費財製品が対前年横這いないしせいぜい1割減で済んだこと。但し、「ミレニアム」需要増を期待するも、空振りに終わった。
原材料の50%は輸入に頼る現在、昨年は製品価格(R$)を概ね40~50%上げたが、これについて来れない販売店もあると見え、売掛回収での問題先も出てきている。回収には4段階あるが、カルトリオからの通知で相手は大体支払いに応ずる。
(7)文具
ボールペン、サインペン等の原材料にプラスチック、染料、インキ等を使用、化学業界川下代表。
ブラジル全土に大はスーパー、小は文具店を相手に取引件数約5千件、次第に量販店が台頭中。
為替切下げで一挙に20%コストアップ、3月に製品価格を10%上げたが、コスト上昇分カバー出来ず。下期は業界見本市があり、4日間で下期の新学期分需要をかき集め、上期を上回る売上げ。
通年で、数量ベースで対前年10%増、金額(R$)で同30%増、採算ベースで20%増。
広告宣伝費を3~5%削るなど、コストダウンにも注力した。
[2000年の展望]
経済成長率は3~4%、為替1ドル(1.9~2.0)、インフレも昨年のような大きな変動はないと見る。
全体に国内経済は安定、順調に推移すると思われるものの、外的要因に弱いブラジル経済体質から主にアメリカの経済変化次第では影響も予想される。注意す べきは、昨年1年間で2倍強の値上がりを見せた原油価格の動向だが、新年明け後弱含みで推移、関係者は1バレル20ドル前後で落ち着いて欲しいと期待。一 方、石化原料のナフサは今年7月から完全自由化されて(レポート執筆時点での動き)国際価格にスライドとなり、下期の動向に注視が必要。
プラスチック業界は10%程度の伸びを期待、輸入品から国産品への切替えも今年以上に強まると見る。このため輸入品に負けない高品質品の提供と、昨年来のコスト上昇分の吸収または転嫁をもって採算向上を図る、これが今年の課題。
その他業界も昨年と同様以上を期待するも、農薬業界のように「ラニーニャ」で南米は多雨が続く年前半は厳しいとするところや、水処理業界のように市場パイは大きくならず、取ったり取られたりの中で企業間優位がはっきりする年と見る分野もある。
需要業界では自動車と家電の動きがキー、これは今年も変わらない。
以上