2000年上期業種別部会長懇談会-機械金属部会(レポート)

部会長 : 宇治嘉造

`99年の回顧と2000年の展望

レアルの大幅切下げで始動した昨年は、まさに混沌とした1年であったが、1年を振り返ると主要経済指標はIMF勧告どうりの数字を達成し、経済回復の兆しが見え始めている。

政府の対応策もある程度評価できるのだが、その原動力としてはまさに民間の底力を感じさせる。確かに多くの企業がレアル安、景気後退の影響を受け採算悪 化に陥り、機械金属部門では、その傾向が顕著で、全体として低迷状態となったが、注目すべきは昨年の困難を経験したことで体質強化に向け努力した企業が少 なくなかった。

そういう意味でポジチブに捉えれば、今後の成長基盤を固めることができたとも言えるだろう。

具体的な動きとしては、各社ともコスト低減に向け、効率化を追求しはじめたこと。

現調率を高めると同時に、技術力アップにより高付加価値を付け、競争力向上を図っていること。輸出(アルゼンチン向け以外の販路)を積極的にはじめたこと等である。

ブラジルの工業を発展させるための基本動作が少しずつ身についてきた結果、昨年後半より経済指標が好転してきた。

2000年は、このままの調子で進めば、各社とも業績は好転すると予測される。

但し、外的要素がどのように変動するかがひとつのポイントとなろう。

世界景気の動向、キャビタルフライト等。特に後者は、ブラジル財政の方向性によって危惧される問題である。

経済のファンダメンタルズは整いかけているので、あとは政治からの邪魔が入らないことを祈りたい。

以下、業種別動向を間単にとりまとめた。

<自動車>

レアルプラン以降、見せかけの購買力に支えられ、常に順調に成長してきた自動車産業だったが、昨年は逆にこれまでのツケがまわって、産業界の中でも最もデバリの影響を被った業界であった。

レアルプラン以後は、それまでの“安かろう悪かろう”から脱却し、各社とも競って先進国で導入している商品を真似て品質改善に努め、国産化は掛け声だけで後回しになっていた。

そこに、デバリが起こり輸入部品のコストアップ圧力が掛かってきた。
各社とも、輸入コストアップはある程度吸収し、多少の採算悪化は覚悟したが、価格上昇に対する市場の反応は予想以上に敏感で、工場の操業率の低下、解雇の問題にまで発展した。

国の基幹産業である本業界の不振は、特に失業等の問題で経済全体に悪影響を及ぼすため、政府側も様々な減税措置、特例を実行したが、政府の財政状況も厳 しく、途中で打切りとなった。3~9月の特別減税措置は、単なる需要の先取りに過ぎず、打切りと同時に市場は再度縮小し、1年を終わってみると結局年初予 想レベルへの落ち込みとなった。

生産1,344千台(前年比▲15%)、販売1,252千台(同▲18%)、輸出268千台(同▲33%)はいずれもレアルプラン以降、最低の数字であった。

また、特に深刻だったのは輸入車業界で、輸入車(含むアルゼンチン製)の販売は昨年の約半分の179千台だった。

輸出については、最大輸出先国アルゼンチンにおける景気低迷と輸出入インバランスによる貿易摩擦が下落の主因であった。但し、VWのようにアルゼンチン以外(メキシコ等)への輸出を伸ばしているところもあり、年後半は徐々に輸出が増える傾向にある。

2000年の展望については、自動車業界でも昨年よりは良いだろうと希望的予想をしている。ANFAVEA(自動車工業会)では、輸入車を除く国産車だ けで130万台の販売、つまり昨年比+20%程度を予測しているが、金利低下と経済安定を前提としており、やや楽観的と思われる。

但し、自動車生産は失業を始め種々の社会的問題にまで発展するほどの影響力があるため、今年も政府から何らかの特別措置が出る可能性が高い。

現在、大気汚染の元凶である中古車の廃車と雇用維持を狙った、中古車代替法が協議されている。15年以上の中古車引取りに1800レアルのインセンティ ブを顧客に支払うシステムだが、まだ結論はでていない。もし、同法案が実行されるとポピュラーカーを中心に多少の市場の伸長が期待できるだろう。

国内での販売競争は今年に入りさらに熾烈さを極めるだろう。これまでのBIG4に加え仏メーカーがとくに積極的な量販志向に走っており、ベンツ、日本メーカーを加え価格競争が繰り広げられると見られる。

いかにコスト削減を図るかが、今後の生き残りを賭けたポイントとなるため各社とも、高国産化及び物流改善等原価低減を進めている。加えて輸出を含めた量 産効果を出すことも今後の傾向となりそう。流れにうまく乗れるかどうかで企業間格差も広がると思われる。日系メーカーも、進出はしたもののしっかりとした 対策を立てないと大規模メーカーに飲み込まれる恐れがある。

輸出については、レアル安のなか今後の伸びが期待できる。
但 し、メルコスールメンバーであるアルゼンチン向けは貿易摩擦によりなかなか難しい。現在も伯・亜間の自動車協定は両国の利害がかみ合わず、本年8月まで棚 上げの状況となる見込である。最悪の場合交渉が物別れとなり自動車が例外品目として両国で関税(35%)が課せられる可能性もあり、アルゼンチン輸出に過 度な期待をすることはできない。

一方、ブラジルメーカー全体の生産能力は現時点で240万台、2005年には300万台に達すると言われており、生産キャバを埋めるため、どうしても海外へ市場を求めざるを得ない。

VWもブラジル生産の25%を輸出にまわすと発表しており、グローバル拠点としてはっきり位置付けている。

また、エンジンの現地生産が増加、2001年には業界全体で400万基の規模となるが、これも輸出を見据えた各社のグローバル戦略である。今後は、他の ラテンアメリカ諸国、NAFTA、欧州も巻き込んだ車両・エンジン・ユニット部品の輸出が徐々に増加することになろうが、今年はそう言った傾向が数字とし てはっきり出てくるものと予想される。

<重工業・プラント>

`99 年は下半期より特に輸出企業(製鉄・食品等)が増産のための設備投資を開始した関係で関連の設備・プラントの受注が上昇となった。一方、発電プラント等の 大口案件は、計画はあるものの結局昨年中には実現せず、全体として小口案件のみ受注。価格競争では欧米勢が強く,日本勢は高付加価値設備を中心に応戦。

産業冷凍業界ではコンプレッサー等輸入部品が多いため国産化推進努力を進め競争力を維持している。

輸出については、日本勢も積極的に受注をはじめチリの紙パルプ会社、米国ガスタービン発電向けボイラー等の商談がまとまっている。

冷凍機械ではラテンアメリカ向け輸出を伸ばしたことも特筆できる。
2000年は懸案の発電プラントの実現と石油化学プラント等の大型投資が見込めるのに加え、民間レベルでは輸出関連企業を中心に設備投資の動きもあり、受注増が期待できる。

また、近隣諸国からの商談も増加傾向にあり、具体的にはソーダ回収ボイラー、冷凍プラント等の輸出が期待され、本業界も明るい兆しが見えてきた。

<自動車部品>

`99年は自動車業界の落ち込みの影響をまともに受け、業界売上は100億ドル(前年比▲32%)となった。また輸出31.5億ドル(▲24%)輸入31億ドル(▲25%)と言われている。

レアル安以降、特に輸入構成品の多い部品メーカーは苦しんだ。自動車業界からのプレッシャーにより、輸入コストの販価反映が難しく損益の悪化を招いた。一方、現調率の高いメーカーは自動車の高国産化の流れを受け、売上を伸ばしたところもあった。

また、中古車市場の伸長を反映し(サンパウロ州中古車販売64.5万台、前年比 42.9%)、自動車修理部門が成長、アフターマーケットでの売上が増加している。

輸出はアルゼンチンの景気後退により大幅に落ち込んだ。

今年は自動車メーカーの調子次第で売上増が期待できるが(部品工業会の予想は前年比+10%)、国産化率を上げコスト低減を図らないと商機を失う可能性があり、引き続き厳しい競争が繰り広げられると見られる。

また、グローバル化の流れの中で、自動車メーカーは国際的に競合できる車両を求めるようになり、部品に対し、各自動車メーカーからの仕様面の要望も厳し くなっている。単に安ければ良いというものではなく、今後は技術力の面でも激しい競争となることが予想され、技術力のないメーカーは脱落することになろ う。

<自動二輪車>

`93年以降右肩上がりに成長してきた自動二輪 市場は`99年になって初めてマイナス成長となった。特に年前半はレアル切下げによるリセッションが尾を引き停滞、前年比▲10%のレベルだったが、後半 になって、金利低下によるクレジット販売の回復、コンソルシオ販売による底支えにより市場は持ち直し `99年年間では442千台の国内市場で前年比▲3.4%の落ちに留まった。

輸出は為替メリットを利用し、各社積極的に実施、業界全体で33千台と前年比+60%を記録した。

従来のアルゼンチン等周辺国以外にもメキシコ、北米への輸出を進めたことが特筆される。

業界の生産台数は474千台と▲0.5%に留まり、レアル切下げの影響を最小限に抑えた。2000年は、景気の回復と為替の安定で業界として前年比+10%程度の国内市場の伸びを予測している。

自動二輪市場は、今後商品の多様化などで成長が期待されており、各社新商品の投入、工場拡張を計画しているのに加え、販売店投資をはじめ、全国に販売網が拡充される傾向にあり、市場伸長の下地が整えば、一気に回復する可能性は十分ある。

輸出についても引き続き販路拡大と現調率アップによる価格競争力向上により、中南米諸国向けを中心とした伸びが期待される。

<農業機械>

`99年は耕運機はPRONAF等政府の資金援助が結局下りず、停滞。

中・大型トラクターはコーヒー、大豆等の出荷好調に支えられ国内は伸長(前年比101%)、輸出はアルゼンチンの景気後退により不振(前年比43%)となり全体売上げでは前年比88%となった。

小型トラクターは国内農業景気に支えられ前年比114%と伸長。

今年は農作物価格の安定等による農薬の活況に加え、政府の農作物輸出振興のための各種優遇策が期待されており、農業機械の需要は伸長が予想される。

また、市長選挙の年でもあることから汎用ディーゼルエンジン等への特需が期待できる。中・大型トラクターの輸出はアルゼンチン次第のためあまり期待できない。

<建設機械>

`99年は国内需要停滞、公共投資減少等の影響で総市場前年比▲36%の4,155台となった。また、レアル安による輸入コンポーネントコストの上昇を価格転嫁できず、損益的にも悪化した。

輸出も主要仕向国の米国の需要減が影響し、業界全体で前年比▲27%の1,980台に終わった。今年は国内市場では需要の回復により、15%アップの 4780台程度を予測している。特に、都市部での建築需要、農業景気を期待しホイール・ローグ、油圧ショベル、バックホーの増加を見込んでいる。但し、大 型公共投資はあまり当てにできず、大型工事に使用するブルドーザーは減少となろう。

各社採算改善の試みとしてデバリによるコストアップの価格未反映分を値上げでカバーしてくると予想される。加えて、新機種導入等により、採算の良い輸出にさらに力を入れる傾向となろう。

<カメラ>

`99年は為替切下げ、高金利によるコストアップから業界全体として大幅な値上げを余儀なくされた。その影響で消費者の購買意欲は減退し、年末商戦での加熱は見られたものの通年で国内市場は、前年比▲15~20%の下落を示した。

但し、国産カメラメーカーのなかには、価格競争力を発揮して年末の増販に成功、昨年に比べて売上を伸ばしたところもあった。

今年はそれほど大きな伸びは期待できないが、輸入カメラの低迷をカバーして国産カメラの販売は伸長すると思われる。

輸出については、南米周辺国向けを中心に市場開拓の動きがあるため、ブラジル国産品については拡販の可能性があると見られる。

<鉄鋼>

`99年の国内鋼材需要は、レアル安直後の景気停滞により、前半は自動車、家電、各種機具向け鋼板を中心に急落した。しかしながら、後半よりインフレ、 金利、為替の安定とともに、逆に輸入代替として国産鋼板需要は増加傾向となり、結局通年では鋼材全体で13,5百万トン、前年比▲0.5%の国内需要と なった。

特に、メッキ鋼板については、自動車を中心に脱冷延鋼板の動きが見られ、需要増。

鋼材輸出については、9.8百万トンと前年比11.4%増となった。

これは、北米での鋼板に対するダンピング問題等に対応し、 スラブ鋼の輸出を伸ばした(前年比+17%)ことが全体の輸出増に貢献した。

結果、生産実績では、鋼板が10.1百万トンで前年比▲2.9%となるも鋼材全体では23.7百万トン(前年比+2.1%)の微増となった。また、売上では輸出のレアル安効果が貢献し、業界全体で前年比+25.4%の148億レアルを記録した。

また、粗鋼生産は22.9百万トンで前年同期比▲4.2%となった。

2000年は国内経済回復に加え、全国市長選挙対応としての公共投資が期待され、国内の鋼材需要は昨年に比べ+6%程度の増加を予想している。

また、自動車用を主体とした溶融亜鉛メッキ鋼板の製造がUSIMINASで9月より開始される予定となっており高付加価値製品の需要増が期待されている。

輸出については、引き続き堅調に推移すると見られており数量では5.1%、また国際価格の上昇により金額では8.3%の伸びが予想されている。

業界全体でこの5年間に91億ドルの投資が行われたが、今年は更に160億ドル、来年以降230億ドルの追加投資が予定されており、今後、同業界では国際競争力向上、新製品の開発が期待できる。

<電動工具>

`99年は通貨切り下げの影響で各社とも輸入品のみならず国産品も含め値上げを実施、結果荷動きが止まった。以後販売キャンペーンを繰り広げるも通年で▲15~20%の市場縮小となった。但し、中国製輸入品は安価を武器に台数を伸ばした。

輸出については、為替安による価格競合性が増すも主要市場のUSA向けが伸びずに横ばい。各社ともデバリを価格転嫁できず、採算悪化を招いたが、同時に原価低減による収益改善努力を継続している。

2000年は市場の落ち着きから、10%程度の売上増を期待しているメーカーあり。

新機種の投入も予定されており、需要喚起の要素となろう。
輸出については、アメリカ、メキシコ向け完成機に期待がよせられている。アルゼンチン・チリ等はブラジル製に対する不信感があるので、それを払拭するための今後の地道な販売活動が市場開拓に必要。

<切削工具>

為替ショックの影響で`99年前半は市場が低迷するも、後半から徐々に上向き始めた。

市場の様相は一変し、従来の輸入品市場から国産品中心の市場となり、輸入ブランドは国産化投資を余儀なくされている。

輸出は日本、アジア、欧州の景気停滞により横ばいとなった。

2000年は年初より出足好調で、この調子でいくと市場の早期回復が期待できる。

輸出は世界の景気動向によるが、大市場である北米・ヨーロッパ向けを中心とした積極策がポイントとなろう。

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