ブラジルの貿易動向
1.2000年上期の回顧
総括
2000年上期の貿易収支は8.2億㌦の黒字を計上した。前年同期は6.2億㌦の赤字であり、約14億㌦の改善となる。輸出・輸入共に前年同期比で増加しているが、輸出の伸びが輸入を上回った結果である。(また2000年6月までの過去12ヵ月の累計でも輸出517億㌦、輸入514億㌦で約3億㌦の黒字となったが、これは96年6月以来の黒字化である。)
輸出増加の主因は、発表されている1-5月までの貿易収支の内訳でみると、工業製品の増加であり、昨年の大幅為替切り下げのJカーブ効果ともいえる。一方、一次産品の輸出は、価格が期待されたほど回復せず増加幅は少ない。
輸入は景気の回復による原料・中間財輸入の増加と原油価格の高騰が増加の主因である。
メルコスルとの貿易収支も、上記と同様に為替切り下げによる輸出の伸びが、景気回復による輸入の伸びを上回り、昨年下期に続き黒字である。
2000年上期の貿易実績(1-6月) (単位:億㌦) | |||
2000年1-6月 | 1999年1-6月 | 増 減 | |
輸 出 | 261.53 | 224.51 | 16.5% |
輸 入 | 253.34 | 230.71 | 9.8% |
貿易収支 | 8.19 | △ 6.20 | +14.39億㌦ |
メルコスルとの貿易収支の推移:2000年と1999年の1-5月の比較(単位:億㌦) | ||||||
輸 出 | 輸 入 | 貿易収支 | ||||
対メルコスル | 対アルゼンチン | 対メルコスル | 対アルゼンチン | 対メルコスル | 対アルゼンチン | |
1999年 | 26.1 | 20.3 | 26.5 | 22.8 | △ 0.4 | △ 2.5 |
2000年 | 31.1 | 23.6 | 29.7 | 25.8 | 1.4 | △ 2.2 |
増減率 | 19.0% | 16.0% | 12.0% | 13.0% | – | – |
輸出
輸出は工業製品の伸びが主因で、主要品目では特に輸送関連機器(航空機+105%、自動車+66%、自動車用シャシー+70%など)および通信機器(146%)等の増加が大きい。繊維(+29%)、化学品(+25%)、靴(+16%)の増加も目立ち、為替切り下げの効果といえる。半製品ではパルプ(+42%)、鉄鋼半製品(+35%)、アルミ(+17%)などが目立つ。
一次産品では、鉄鉱石(+14%)、大豆粕(+20%)、煙草葉(+16%)などが伸びたが、コーヒー(△30%)が数量減で減少したこと、その他の品目では概ね数量は伸びても価格が下落ないし横這いとなっているために、全体としては伸び悩んでいる。
地域別では、主要輸出先であるEU・ALADI・米国、アジアいずれも増加したが、特にALADI向けの伸びが大きい。商品分野では工業製品が中心で、国別ではアルゼンチン向け(+16%)を中心に、メキシコ(+101%)・チリ(+61%)・ベネズエラ(+44%)向けが増加している。
2000年1-5月の輸出構成 (単位:百万㌦) | |||
2000年 | 1999年 | 増減率(%) | |
一次産品 | 4,711 | 4,553 | 3.5 |
工業製品 | 15,976 | 13,242 | 20.6 |
半製品 | 3,386 | 3,026 | 11.9 |
完成品 | 12,590 | 10,216 | 23.2 |
その他 | 605 | 343 | 76.4 |
合 計 | 21,292 | 18,138 | 17.4 |
輸出の地域別内訳(1999年1ー5月) (単位:百万㌦) | |||||
地 域 | 2000年 | 1999年 | 増減率(%) | 構成率(%) | |
2000 | 1999 | ||||
EU | 6,182 | 5,581 | 10.8 | 29.0 | 30.8 |
ALADI | 5,065 | 3,888 | 30.3 | 23.8 | 21.4 |
メルコスル | 3,106 | 2,606 | 19.2 | 14.6 | 14.4 |
その他ALADI | 1,959 | 1,282 | 52.8 | 9.2 | 7.1 |
米 国 | 4,937 | 4,014 | 23.0 | 23.2 | 22.1 |
アジア | 2,277 | 2,086 | 9.1 | 10.7 | 11.5 |
日 本 | 920 | 771 | 19.5 | 4.3 | 4.3 |
東 欧 | 307 | 397 | △ 22.8 | 1.4 | 2.2 |
アフリカ | 427 | 477 | △ 10.4 | 2.0 | 2.6 |
中近東 | 420 | 597 | 29.4 | 2.0 | 3.3 |
合 計 | 21,292 | 18,138 | 17.4 | 100.0 | 100.0 |
輸入
輸入は前年同期比で11%増加したが、原料・中間財の増加および原油価格の高騰が主因である。最大の増加要因である原油(+82%)は数量が23%減少したにも拘わらず価格が135%上昇した。原料・中間財では鉱物(+50%)、中間資財・部品(+50%、特に自動車等の部品+20%、電子部品+ 71%)などが増加しており、ブラジルの経済回復に伴うものと言える。消費財の減少傾向は昨年から継続しており、食品(△11%)・薬品(△7%)・自動車(△46%)等の減少が目立つ。資本財は工業用機械設備輸入の減少(△28%)が主因で減少しているが、輸送用機器(+11%)、工業機械用付属品(11%)・部品(+4%)、事務用機器(11%)などは増加している。
地域別では、ALADI・アフリカ・東欧・中近東が増加したが、いずれも原油・ナフサの輸入増によるものである。アルゼンチンは自動車・トウモロコシも増加要因である。アジアはマレーシア・タイ・台湾・韓国・中国からの輸入が増加したが、中心は通信機器・電子部品などである。EUはドイツ・イタリアからの自動車・資本財の減少などにより減少した。
2000年1-5月の輸入構成 (単位:百万㌦) | |||
2000年 | 1999年 | 増減率(%) | |
資本財 | 5,021 | 5,350 | △ 6.1 |
原料・中間財 | 10,866 | 8,871 | 22.5 |
消費財 | 2,712 | 2,992 | △ 9.4 |
非耐久消費財 | 1,541 | 1,663 | △ 7.3 |
耐久消費財 | 1,171 | 1,330 | △ 11.9 |
燃 料 | 2,095 | 1,401 | 49.5 |
計 | 20,694 | 18,614 | 11.2 |
輸入の地域別内訳(1999年1ー5月) (単位:百万㌦) | |||||
地 域 | 2000年 | 1999年 | 増減率(%) | 構成率(%) | |
2000 | 1999 | ||||
EU | 5,564 | 5,799 | △ 4.1 | 26.9 | 31.2 |
ALADI | 4,298 | 3,543 | 21.3 | 20.8 | 19.0 |
メルコスル | 2,969 | 2,647 | 12.2 | 14.3 | 14.2 |
その他ALADI | 1,329 | 896 | 48.3 | 6.4 | 4.8 |
米国 | 4,874 | 4,688 | 4.0 | 23.6 | 25.2 |
アジア | 2,971 | 2,424 | 22.6 | 14.4 | 13.0 |
日本 | 1,055 | 1,023 | 3.1 | 5.1 | 5.5 |
東欧 | 401 | 224 | 78.9 | 1.9 | 1.2 |
アフリカ | 1,084 | 710 | 52.7 | 5.2 | 3.8 |
中近東 | 557 | 311 | 79.3 | 2.7 | 1.7 |
合 計 | 20,694 | 18,614 | 11.2 | 100.0 | 100.0 |
2.2000年下期の貿易収支予想
総括
政府は今年の貿易収支予想を昨年末の当初目標50億㌦から44億㌦、更に28億㌦に下方修正したが、民間の調査部門では10~20億㌦程度というのが予測の中心である。
昨年は為替切り下げで期待された工業製品の輸出が増加せず、一次産品輸出も価格の下落で減少したため、今年は昨年対比で工業製品の輸出増加および一次産品の価格回復による増加が期待された。しかし現時点では下期もコーヒー等一部商品を除き一次産品の価格の大きな回復は期待出来ないため、上期と同様に工業製品輸出による増加が中心となること、一方、輸入は景気回復の進展などにより、上期以上の増加も見込まれることから、今年の貿易収支は上記のとおり10 -20億㌦程度の黒字と予想される。
輸出
下記の理由で昨年より増加が見込まれる。
1)上期の輸出増加の中心である、工業製品の米国・EU・ALADI向けの輸出は、相手地域の経済環境から考えると下期も継続が見込まれる。但し上期以上の大きな伸びの材料は考え難い。
2)一次産品は昨年に比べて価格の大きな回復が期待できないことから、下期での輸出増への貢献は期待困難である。但しコーヒーは現下の寒波による霜害の影響が注目されており、市場も神経質な値動きとなっているため、現時点では予測が困難である。
輸入
昨年に比べて、上期と同様にブラジルの経済回復および石油価格の値上がりによる増加が見込まれる。更に下期には、一層の金利低下・景気回復による原料・中間材の輸入増が見込まれることに加えて、生産能力が限界にきている産業分野の資本財の輸入税減免措置が検討されていることから、資本財輸入の増加も見込まれる。
主要輸出品目(1-5月)(前年同期対比)(FOB100万ドル) | |||
品 目 | 2000年 | 1999年 | 増減率(%) |
一次産品
鉄鉱石 工業製品 半製品 完成品 その他 合計 |
4,711
1,249 15,976 3,386 12,590 605 21,292 |
4,553
1,100 13,242 3,026 10,216 343 18,138 |
3.5
13.5 20.6 11.9 23.2 76.4 17.4 |
主要輸入品目(1-5月)前年同期対比 (FOB100万ドル) | |||
品 目 | 2000年 | 1999年 | 増減率(%) |
資本財
工業用機械 原料・中間財 化学品薬品 消費財 非耐久消費財 耐久材 乗用車 合計 |
5021
1509 10866 3087 2712 1541 1171 316 20694 |
5350
2085 8871 2683 2992 1663 1329 580 18614 |
△ 6
△ 28 22.5 15.1 △ 9 △ 7 △ 12 △ 46 11.2 |
背景となるマクロ経済見通し
- 経済成長率:3-4%。金利の一層の低下により、昨年末からの経済回復の進展が見込まれる。
- インフレ:6-7%程度。
- 為替:インフレが安定すると見られることからR$1.8 -1.85で推移し、年末でもR$1.9 程度までにとどまると見られる。
- 金利:インフレが上昇しないこと、米国金利も安定感が期待されること、国際収支面で海外からの資金導入の為の金利高目維持の圧力が少ないことから、金利の一層の引き下げが見込まれる(但し一定の内外金利差を設けておく必要から引き下げには限度があり、16%程度までとみられている)。
- 国際収支:貿易収支改善により経常収支は昨年より改善。資本収支も海外からの直接投資が新規民営化および一般産業向けに引き続き順調に流入し、経常収支赤字は十分カバーされると見られることから外資繰りは余り問題ないと見込まれる。
日本との主要品目別貿易内容
日本向け輸出(1999年1ー5月) (単位:百万㌦) | |||
2000年 | 1999年 | 増減率(%) | |
アルミニウム | 197 | 93 | 110.6 |
鉄鉱石 | 186 | 162 | 15.3 |
パルプ | 90 | 60 | 49.8 |
コーヒー豆 | 70 | 80 | △12.5 |
鶏肉 | 56 | 54 | 3.7 |
合金鉄 | 45 | 50 | △ 8.9 |
オレンジジュース | 28 | 27 | 3.6 |
化学品 | 19 | 5 | 270.3 |
生糸 | 18 | 17 | 9.3 |
ニッケル電極 | 16 | 12 | 39.0 |
その他 | 194 | 210 | △ 7.7 |
合 計 | 920 | 770 | 19.5 |
日本からの輸入(1999年1ー5月) (単位:百万㌦) | |||
2000年 | 1999年 | 増減率(%) | |
通信用送受信機 | 88 | 85 | 3.5 |
チップ・電子部品 | 64 | 52 | 24.3 |
自動車部品 | 51 | 53 | △ 4.0 |
ベアリング等機械部品 | 46 | 33 | 41.1 |
化学品 | 43 | 26 | 63.6 |
内燃エンジン・部品 | 39 | 33 | 18.8 |
検査機器類 | 31 | 22 | 41.8 |
乗用車(CKDを含む) | 24 | 23 | 3.8 |
電力用機器 | 21 | 15 | 39.4 |
モーター発電機・変圧器 | 20 | 15 | 29.3 |
その他 | 629 | 667 | △ 6.0 |
合 計 | 1,055 | 1,023 | 3.1 |