● 綿花あり - ブラジルの繊維産業に未来あり- |
見直された綿花、伯は将来重要供給國へ
名取:10 分というのはほとんど何もしゃべれないというのが分かりましたので、「繊維業界各アイテムの前半の経緯と今後の見通し」につきましては、すでに原稿にまと めておりまして、これが採録されるということですので、それをお読みいただくとして、ここでは、大きな観点でものを申し上げて、それを説明する中で繊維業 界の現状をご理解いただくという形にしたいと思います。
ブラジルにおける繊維産業につきましては、日本の経済界、及び繊維業界自体に、東南アジア、中国、インドなどにやられた自身の経験に擬して危ないと、とかく逃げ腰になる考え方が根強く支配しているように思います。
しかし私は三つの理由により、ブラジルの繊維産業は中長期的に見て未来があるというふうに考えております。
その第1は原綿です。繊維産業というとすぐに化合繊維が思い浮かべられると思いますが、合成繊維が出て以降、羊毛、絹などはそれに代わられまして非常に 苦戦をしておりますが、綿だけは50%のラインまでは後退いたしましたが、それ以降、そのラインを維持して年々増加をしております。
おそらく将来的に見てもこの繊維事業における綿の位置というのは変わらないのではないかと私は思います。その原綿の供給ですが、アメリカはほとんど横ば い、これ以上砂漠化の問題がありまして増やす事ができない。中国がとうとう輸出国から輸入国に転じました。あのインドすらも輸入国に転じております。
ところが、このブラジルだけは未だ耕作可能面積の18%しか耕作されていない。中央平原の、広大な土地が綿作に適しております。そして、かつて年90万 トン生産していたものが、労賃のアップによる不採算などにより、95年頃に30万トンまでに落ちましたが、そこから反転いたしまして現在では64万トンま で急回復しております。特に機械化の収穫に適している中部のマット・グロッソにおいて年々倍増の勢いで増えております。繊維産業は東南アジアが強いと言わ れておりますが、東南アジアが強いのは化合繊維が強いからなのですが、長期的に見れば、石油の枯渇により、いずれ化合繊の高騰はさけられず、反面綿はあっ ちこっちから奪い合いになり、その場合、耕作可能余地の大きいブラジルは非常に有利な立場に立つというふうに思われます。
現為替レートで伯有利 ― 東南ア、印と太刀打ちできる
第2に為替の問題です。これは歴史的に考えるとわかるのですが、かつてあの80年代ブラジルは為替が年々、というより日々ものすごく変わりました。輸入 が制限され、高率関税に守られているとして為替が弱いと、紡績のような産業は非常に強いのです。あの当時、各社とも史上最高益をあげたはずです。ところが 90年にコロルの政策によって輸入が自由化されまして、東南アジアの安いものが入ってくる。しかもレアルプランによってレアルが高目に維持されますと、こ ういうなかで繊維産業というのは弱い会社は潰れまして、ほとんど6割方になっているとご理解頂いていいと思います。
ところが昨年、為 替が自由化されましてUS$1=R$1.21の段階から今R$1.8ぐらいの段階に来ています。この為替の段階では、私どもは東南アジア、インドと太刀打 ちできます。今後ですね、為替がドルに対してまた1に戻るとかいうことは考えられませんので、日本は為替高にやられましたけれども、ブラジルは今後そうと う長期にわたって、繊維産業は繁栄するのではないかというふうに思っております。
第3が膨大な内需です。ブラジルの人口は1億 6000万人から今後2,30年の間に2億3000万人ぐらいまで増えるといわれております。これだけで ASEAN諸国やアメリカ合衆国に匹敵する市場です。その上にメルコスール、中南米を合わせますと非常に膨大な内需になります。
そし て教育が少しずつではありますが浸透していくと思います。いままでTシャツしか着なかった人々が平織りのYシャツを着るようになる。いままで下着を着てい なかったものが、―うちの経験なんですが、ブラジル人を日本によこしますと下着を着る習慣ができて、こっちに帰ってきてからも着るようになるんですねー。 まあ、そういうようなことで需要の高度化、そういうことで需要は増え続けます。
以上の3つの観点から、ブラジルの繊維産業は、現状においてのみならず、中長期的にも有望であると考えており、投資分散の考え方からも、東南アジアのみでなく、ブラジルにももっと目を向けて戴きたいと願っています。
そういうような状況の中で、今年の繊維の状況は大方の方が言われておりますように、昨年の後半ほどではないんですけれども、好調を持続しております。た だ若干問題点が出ておりまして、一つは期待された原綿が品質の面においてまだ問題が多く生じています。ただこれ、私が過日、マットグロッソのプリマヴェー ラ・ド・レスチというところに行って実感したんですが、彼らは品質の改良に関して非常に熱意を持っています。10万本の試験苗を植え品質改良に取り組んで いまして、これからブラジルはそういう面でも期待できると思います。
第2の問題点は輸入の増加です。このR$1.8という為替レート にも関らず、輸入が、とくに化合繊の混ざった布、糸これは昨年対比で3倍から4倍に増えております。それからご承知のいろんな面でのコストアップです。こ れを今後克服していかなければならないというふうに思っております。
現地の感覚で戦略立て、平生ミッション並み使節団派遣を
次に対伯投資について2点簡単に考えていることを申し上げます。一つは、やはり「隗より始めよ」という事で、先ほど宇治社長がおっしゃいましたように色 々言うよりはまず自分が考え、現地の人間の感覚で戦略を立てて本社をねばり強く説得するということが必要だろうと思います。1970年代にブームの中で東 洋紡も、いろんな分野、アイテムがここ対伯進出を試みました。それは本社主導でやったがために場違いな面もあって撤退を余儀なくされました。この自分の現 地の人間の感覚で戦略を考えて粘り強く本社を説得すると、これがまず第一です。
第2に私、昨日、一昨日と日本の甲南大学から小川 理事長先生と上村常任理事のご訪問を受けてアテンドしたのですが、平生釟三郎という昭和10年の日本の大型経済使節団々長について色々調べに来られたので す。私はそのお話の中で昭和10年に来た使節団の蒔いた種が私どもの繊維産業が戦後相次いで中南米に進出する一つの素地になっていたことを発見しました。 やはりわれわれ個人の段階で、本社及び日本を説得するとともに、相当大きな経済使節団に来ていただくとこういうことが重要かと私は思います。詳しくはまた 後で申し上げたいと思います。
司会:どうもありがとうございました。それでは食品部会の上原さんお願いします。