2000年下期業種別部会長懇談会-コンサルタント部会

●IMFとの約束の経済目標は達成できそう
●貿易収支目標は3度目の見直しか
●構造改革は依然として足踏み状態
●インフレ目標、今年は6%、来年は4%
●金利は後半さらに引き下げか

 

2000年上期のブラジル経済
昨年1月の通貨危機乗り越え、回復基調へ

田中:ご指名によりまして、私の方から報告させていただきます。いつも時間超過の張本人として睨まれておりまして〔笑い〕。できるだけ時間を節約してやりたいと思 います。数字的なものはレポートで出しておりますので、重複しないように、それから、全般的なお話しになりますが、各部会長さんのお話しにも出来るだけ重 複しないようにということで、その全般的なお話しをさせて頂きたいと思います。

まず、今年の前半を回顧しまして一口でいいますと、「昨年後半から回復、上昇を始めた経済活動が本年上期も継続した」と、そういうふうに言えると思いま す。で、その中身を見ますと、まず、財政はご承知のようにIMFとの契約の期間は3年間、去年から始まって3年間と、いうことで色々目標を決めております けれども、その中でも一番重要な財政の一時収支の黒字目標というのが一番大事で、これは去年も一応達成しており、今年はまだ5月までしか数字が公表されて おりませんけれども、5月まではかなり余裕を持って達成した、従って1-6月もほぼ達成できるのではないかと思います。

それから下半 期も、また来年もなんとかいくだろうと。一応契約で色々と縛られておりますので、まあ何とか恰好がつくのじゃないかと、いうふうに考えられております。た だ、今後出てくる問題点としては、一つはフンド・デ・ガランチーア〔FGTS〕という労働者の退職金積み立て基金がありますけれども、過去何回か政府の経 済プランの時にインフレ修正額が足りなかったということで、いま裁判になっております。これをきちっと払うと総計533億レアルになるということで、これ が不安要因になっております。この判決は近くある予定です。

それと構造改革的な税制改革法案、これは95年に第1次カルドーゾ政権が スタートしてから、ずーっと出ているのですけれども、ほとんど国会で審議されず今日に至っている。政府はその法案を今月の1日、また国会に持ち出しまし た。これについて、大方は、これはとても審議できないと。後で話が出ますけれども、これは、いま問題になっているスキャンダルの目をそらすためだというふ うな見方をしております。

それからもう一つ、いまIMFのミッションが第6次の見直しのために来ており、政府は来年の財政収支の目標をちょっと緩くして貰おうという交渉をやろうとしております。

財政の点についてはそんなところです。


貿易収支は赤字から黒字へ転換
経常収支も赤字10億ドル改善

それから対外収支の問題。これは後で貿易部会長さんから詳しいお話があると思いますけれども、去年赤字だった貿易収支が今年は黒字になりました。輸出の 増加で1―7月をとりますと17%増加したと。ただ、輸入が予想以上に増加したことにより、黒字にはなったけれども、黒字幅は予想よりも低い。年初に立て た今年の貿易黒字目標の50億ドルを3月に見直し44億ドルに、さらに6月に見直して28億ドルにした。それを更にもう一度見直さないといけないのでは、 というふうに見られております。

本年の貿易収支の特色として、昨年、為替の大幅切り下げを行った結果、工業製品の輸出が非常に増加し ている。これはかなり割り引きをしても切り下げが大幅だったものですから、まだ輸出で利益が出るというふうなことで、工業製品の輸出が非常に増加している ということです。

一方、経済活動活発化の結果、資本財や中間財輸入も大きく増加したということです。

 

景気刺激考える政府

さらに消費需要も増加しており、耐久消費財、つまり自動車、家電の輸入も増えているということで、特に貿易関係の大きな変化としては、1-6月に前年同期比マイナスであった耐久消費財や資本財輸入が7月になってプラスに転じたということです。

それらが上期の特色だと思います。こういうことで、問題はありますけれども、一応貿易収支は黒字になったということで経常収支も改善し、1月―6月の赤 字は114億ドル。去年124億ドルでしたから10億ドルほど改善したということです。で、この赤字は直接投資の流入が順調なので、一応それでカバーでき る。上半期に141億ドルの直接投資が入っており、それで本年の計画としては、海外で突発的なことが起こらない限り、経常赤字は230か250億ドルぐら い、直接投資が250億、あるいは260億から300億ドルぐらいで一応カバーできるという見通しです。

それからインフレは、上半期 1.64%で、20年来の最低だった。7月は公共料金の値上げだとか、寒波、干ばつがあり、かなり上昇して1%超えるか、超えないかということを言うてお りますけれども、特別何もなければ後半に再び落ちて、本年の目標である6%以内には収まる予定ということです。つい最近、政府は2002年のインフレ目標 を発表しました。これは3.5%ということです。IMFとの約束ですと、初年度の去年が8%、今年が6%、来年が4%ということで、従って、その次の 2002年は2%というふうになる筈なんですけれど、それを3.5%というふうにしたことは、大統領選挙もありますし、かなり景気刺激を考えておるんじゃ ないかと、いうふうに見られております。

それから、金利は昨年の3月に年初の為替切り下げによる混乱を収拾しようと年45%まで引上 げたけれども、去年の9月までに11回引き下げ19%にしたと。それで年末からずーっと半年ほど据え置き、いろいろ不安定要因があって据え置いていたので すが、今年の3月からまた下げ始め、6月に1回、7月に2回と下げまして、現在は16.5%と、予想よりやや大目の引き下げということです。政府は情勢が 許せばさらに引き下げたいということで、つい最近、アルミニオ・フラガ中銀総裁は、年末までに実質で一ケタになる可能性があるということを示唆しておりま す。

 

下期はドル高で推移の可能性
順調な景気予想はばむ政治要因

次は為替ですけれども、為替は変動要素も多いし、非常に難しいのですけれども、今年の年初は去年の暮れからのR$1.80程度で始まり、経済回復が順調 だったおかげで2月まではR$1.77と1.80の間を上下し割合、安定的にいった。それが3月はR$1.71まで落ちた。ところが4月、5月はアメリカ の金利動向不安で上昇しR$1.85、1.86ぐらいまで上昇した。5月はアメリカの連邦準備銀行が0.5ポイントと金利を大幅に上げたので、その影響で また下降しましたが、7月からはR$1.78程度で行っております。

ただ下期は、見通しは難しいのですけれども、基本的には安定基調 ながら、若干ドルの強含み傾向ではないかと考えられます。一つは先ほど話が出ましたような、景気回復による貿易収支の悪化、季節的にも貿易収支は悪化する こと。それから株式市場へのドルの流入が影響されること。これはブラジル企業が米市場で直接ADR債を発行する動きが出ていることによります。

それから先ほど申し上げました裁判所判決いかんですが、フンド・デ・ガランチーア〔FGTS〕の非常に大きな金額の問題があって政府の財政負担が増える 可能性がある、バネスパ、マラニヨン州銀などの民営化が遅れている、最近問題になっている大統領側近だったエドワルド・ジョルジのスキャンダル、カルドー ゾ政権支持率が10%台に低下し、非常に弱体化している等。

そういうことで、為替は強含み可能性が強いと。そう言うことで最近また外貨準備が少ないということが若干問題、議論になり始めております。

景気全般を見ますと、ブラジルの工業生産は5月に6.1%増加、1月―5月でも6.6%ということで非常にいい。特にその中でも耐久消費財と資本財がいい。半面、半耐久消費財と非耐久消費財はマイナスだということですね。

大体本年上期はそういう状況で、このまま行けば、まあまあ順調な景気上昇が期待されるわけですけれど、阻害要因というのがあり、それをいくつか挙げますと、一つは海外要因で、先ほど挙げたアメリカの金利動向。これがもう一つはっきりしない。

それから石油価格。これも3月―6月とOPECで増産を決めたけれど、依然不安定ということ。

そ れから更に国内の政治の不安定要因として、やはり一番大きな問題はカルドーゾ政権の支持率が下がっていること。1次政権当時は50%以上だった支持率が、 去年の切り下げの時に20%に下がって、現在は13%ぐらいだということ。それから続発する汚職事件。そういうことで米国の国会でも7月26日に下院の外 交委員会で招かれた駐米ブラジル大使に、ブラジルについての質問が行われた。その内容はカルドーゾ政権の支持率低下、それから、汚職が側近に及んでいると いうことで退任の可能性はないのかどうか、留任できても構造改革法案の国会通過が出来ないのではないか、ということが質問されたということです。

以上で最近の情勢のご説明は終りまして、次は「対伯投資を増加させるには」について簡単にお話しさせていただきます。私は在伯27年間になりますけれど も、この間、日本企業各社の駐在員の方々が何代か交代され、その度に対伯投資拡大に努力をされたわけです。しかし情勢は全く変わらずで、むしろ日本企業の プレゼンスは年々相対的に減少を続けております。

 

世界経済グロバル化
進出にあたり対伯戦略明確化が大前提

何ヵ月か前に商工会議所の昼食会で前の岡田副会頭が発表されましたので、ご記憶のことと思いますが、会員数も年々落ちてきておるということで、「失われ た80年代よりも会員数が減少しているのは日本の会議所ぐらいのもの」といわれます。それで、私としましては、27年間同じ事を繰り返して来ました。(た だ正確に言えば70年代は余りそう言う必要がなかったわけですけれども)また今回も同じ事を繰り返すということになりますけれども、ご了承をお願いしたい と思います。

それで、まず一つは、日本企業の対ブラジル戦略を明確にすることがまず大前提だということで、これに尽きると。これさえはっきりすれば問題ない、と言っても過言ではないと思います。

アジアの場合は距離的に近いこともありまして、日本企業は分工場的進出ができる。これに反してブラジルの場合は距離的にも遠いし、独立企業体として、飛 び石的に進出しなければいけない。従って、よほど明確な進出の必要性とか、必然性とか、そういうものがない限り、ブラジル情勢の良い時は進んで、悪い時は 止ったり引っ込んだりするという、いわゆる限界的な出稼ぎ型進出にならざるを得ないということです。つまり、このような中途半端な腰だめ的な進出の結果、 年数経過とともにジリ貧状態になるのは当然であります。これがこれまでの日本企業対伯投資の歴史的な現実だと。

ブラジル向け投資増加 のためには特にグローバル化の進展する今日は、戦略の明確化ということが絶対的な条件ではないかと考えております。そういうことで話は尽きるんですけれど も、若干一つ、二つ追加させていただきますと二番目はブラジル投資はビジネスにおける経験とか失敗の活用、特に失敗から教訓を学びそれを活用する体制が必 要ではないかということです。

日本企業の責任者の方は、数年間ここに在任されてブラジル・ビジネスや投資と積極的に取り組まれて、ま あほぼ例外なくブラジルが好きになって、ブラキチということで帰られるわけですけれども、その後は子会社に出向される、定年退職されるといったようなケー スが多く、本社のブラジル向け戦略に影響を与えるようなポストに就かれたケースは今まで少なかった。従ってブラジルにおけるビジネスの特殊性、難しい点な ど過去の経験を生かすチャンスが少なかった。

また特に失敗の経験ですね。これは日本式な閉鎖主義ですとか、そういったものもありまし て、社内でも限られたものだけで処理される。記録はファイルされてしまって失敗の原因分析を行って、広く全社的に今後の活動の教訓にするというふうな意識 や体制が乏しい。その結果、ブラジルに対する漠然とした悪印象が会社に代々残る。空気としては、残って失敗から教訓を得てそれを前向きに活用して発展しよ うという方向ではなくて、逆に遠ざかろうとする方向に働く。

 

行動パターン変わらず、役者だけが変わる
ここ数10年、日本企業の対伯ビジネス

特に明確な戦略がない、欠如するために余計そういう傾向になるということです。従って、日本企業のブラジル向けビジネスは10年前、20年前と殆どやり 方が変わっていない、行動パターンが変わっていない。ただ役者だけが代わって演じられておるということで、私の27年間の滞伯中、この同じ事の繰り返しを 見続けてきたわけであります。

それから三番目としては情報の価値の認識と収集力ですね。欧米企業に比較して日本企業は情報の価値の評 価が低く、その収集力にかなり大きな差が見られるように思います。具体的な点は省略いたしますけれども、日本企業の情報収集パターンは、進出前の調査段階 で最も典型的に現れております。私が今まで相談にあずかった経験からしますと、日本企業間ほぼ同じパターンであるのに驚かされております。これは70年代 も今日もほとんど変わっておりません。

それからもう一つは日系社会の存在。日本企業は、非常に日系社会のメリットを受けておるという こと。これはもう間違いないわけですけれども、ただ私がいくつかうまくいかず撤退の相談を受けました中で、日系の特に2世、3世の非常に有名な人とパート ナー組んで誤魔化されたとか、そういったようなケースが非常に多いということですね。こういう人達は、日本のトップに対してもブラジルの日系社会の代表だ というように見られ、信用されやすい。そういう人を選ぶ場合には慎重を期して選ばれた方がいいということです。以上です。

司会:ありがとうございました。実は若干余裕を持っておったんですけれども、かなりオーバーされましたので後の皆さんできるだけご協力お願いします。

田中:どうも申しわけありません。

司会:コーヒーブレイクと自由討議も考えておりますので、よろしくご協力お願いします。それでは、次に金融部会の山浦さんお願いします。

2000年下期業種別部会長懇談会-コンサルタント部会(レポート)

マクロ経済

昨年1月に実施されたレアル切下げの影響で、昨年前半、ブラジル経済は混乱したが、後半には回復を始め、経済活動は上昇に転じた。本年前半もこの傾向は継続した。

1.財政

IMF(国際通貨基金)救済契約初年度の昨年、ブラジルは財政一次収支(総収支から金利支払を除外したもの)黒字目標を達成した。

本年に入ってからも順調で、1~5月間の連邦、州、市及び政府企業を含めた総合財政一次黒字は219億レアル(GDP比4.66%)と、IMFとの合意 目標162億レアルを達成し、上半期の達成も、ほぼ確実視されるにいたった。5月黒字46億レアルは1991年以来の最良の数字である。

2.対外収支

輸出は1~6月261億ドルと前年同期比16.5%増加した。工業製品輸出好調がその主因である。一次産品輸出はコモディティ価格低調のため伸びなやんだ。

輸出好調にもかかわらず、輸入も1~6月253億ドル、前年同期比9.8%と予想以上の増加となった。従って貿易収支は前年同期の12億ドル赤字から黒字には転じたものの8億ドルにとどまった。

年初にIMFと合意した本年の貿易黒字目標は50億ドルであったが、3月には44億ドル、6月には28億ドルと見直しの上、修正された。

工業活動回復に従って、基礎資材、部品などの中間財や機械設備など資本財輸入が増加傾向にあり、また、下期は農産物端境期になるため、更に貿易収支目標の修正が必要とされることになろう。

貿易収支改善により、1~6月の経常収支赤字は、昨年の124億ドルから本年は114億ドルに減少した。外国企業の直接投資が昨年の139億ドルに対し本年も141億ドルと順調で、経常赤字をカバーしている。

本年度目標は、経常収支赤字230~250億ドルを直接投資260億ドルでカバーすることを見込んでいる。

3.インフレ

政府が公式インフレ率として採用しているIPCAは、本年上期1.64%と20年来の最低となった。

最近の国際石油価格上昇に伴う公共料金引上げ、農産物端境期入りに加え、本年の異常旱魃、寒波による食料価格上昇などにより、下期は生計費上昇で始まったが、突発的要因ない限り後半は下降に転じ、年間では目標の6%以内に収まるものと見られる。

4.金利

中銀は本年に入ってから、3月以降7月まで4回引下げを行いSelic(基礎金利)は年19%から16.5%となった。

昨年3月の年45%以来15回引下げを行い、経済活動の回復をはかった。フラガ中銀総裁は本年中に実質一ケタになる可能性を示唆している。

5.為替

本年初1.80レアル(商業ドル、売レート)からスタートしたドル・レートは、3月1.72まで下落したが、4月、5月米国金利引き上げ、国際石油価格 上昇懸念などにより1.856レアルまで上昇した。6~7月、経済好調と順調な株式市場への外資流入によりドル・レートは下降し、7月末は1.785レア ルとなった。

6.景気動向

IBGE(ブラジル地理統計院)によれば、ブラジル工業生産5月は前年同期比6.1%増加、昨年上期のリセションを脱して10ヵ月連続の増加となった。1~5月では6.6%増加となる。特に耐久消費材、資本財の増加が著しい。

今後の見通しは、金利下降、コントロールされたインフレ、輸出の好調、10月の市長選挙などの要因により、突発的な出来事ない限り、持続的成長が期待される。

CNI(全国工業連盟)は本年の工業生産6%、GDP成長率4%と見ている。


7.経済への阻害要因

海外要因としては、依然として過熱状態を続けている米国経済の動向、特に金利引上げ、及び3月、6月のOPEC(石油輸出国機構)会議で増産を決めたにもかかわらず、依然不安定な国際石油価格の動向などが要注意。

国内要因としては、一次政権時代には50%以上を占めたカルドーゾ政権支持率が13%まで下落、加えて最近発覚した大統領腹心エドワルド・ジョージ前官房長官のスキャンダル容疑の今後の展開などにより、国内政治動向により経済シナリオが左右される可能性が大きい。

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