竹中平蔵元金融担当大臣・経済財政政策担当大臣を迎えて、日伯経済関係の将来に関するセミナーを開催

サンパウロ州工業連盟(FIESP:パウロ・スカフェ会長)主催、サンパウロ総領事館 (福嶌教輝総領事)並びにブラジル日本研究者協会(SBPN)後援で、2013年11月12日午前9時30分から正午過ぎまでサンパウロ州工業連盟講堂に 120人が参加して、「日伯経済関係の将来セミナー」を開催、特別ゲストには、竹中平蔵元金融担当大臣・経済財政政策担当大臣が参加した。

FIESPの国際通商部(DEREX)のロベルト・ジアネッテ・ダ・フォンセッカ部長は、開会挨 拶で特別ゲストの竹中平蔵氏、福嶌教輝総領事、藤井晋介会頭をそれぞれ紹介、福嶌教輝総領事は、ブラジルが気に入っている竹中平蔵氏に対して“お帰りなさ い”と歓迎、竹中氏の歴代政権の大臣や安倍晋三首相の経済アドバイザーを務める経歴などを紹介した。

竹中平蔵氏は2006年に初めてブラジルを訪問、ルーラ大統領と竹中平蔵総務相が地上 デジタル放送規格の日本方式採用調印式でサインしたのが始まりとなり、その後は毎年ブラジルを訪問して経済セミナーなどを開催しているが、ブラジルのポテ ンシャルに魅了されていると説明した。

今回の講演では世界経済に何が起こっているのか、アベノミクスと呼ばれている安倍政権 の経済活性化政策導入で日本経済に何が起こっているのか、どのような経済コラボレーションができるのかを取り上げると前置きして、最近私は、「TINA」 という言葉をよく使用するが、これは英国元首相のサッチャーの言葉であり、TINAとは「There is no alternative」の略、つまり「これ以外の方法はない」という意味で、今年のダボス会議で経済学者のジョセフ・スティグリッツ氏やアダム・ポーゼ ン氏は「安倍首相の言っていることは正しいので、きちんと実行してほしい。それに尽きる」と強調していたと説明した。

デフレを解消しようと試みるならば、金融を緩和しなければならず、財政については、短期には需給ギャップを埋めるけれども、長期には財政再建が必要になり、経済を成長させるためには、規制改革を進めなければ成功しない。

ブラジルはBRICS諸国の一員であり、約2億人に達する大きな消費市場を抱えており、またスペインの人口に匹敵する中間層が急増して、小売販売は好調に推移、2005年から日本は人口減少傾向が開始、中国は5年から10年後から人口減少に転ずる。

1990年の日本の不動産や株式をはじめとした時価資産の資産価格が投機によって実体 経済の経済成長以上のペースで高騰し続け、投機によって支えなければならない市場が、投機によって支えきれなくなるまでの経済状態になるバブルが発生、 1997年の7月よりタイを中心に始まった、アジア各国の急激な通貨下落現象のアジア通貨危機の発生、多くのIT関連ベンチャーが設立され、1999年か ら2000年にかけて株価が異常に上昇したにも関わらず、2001年にかけて発生した米国のITバブルなど世界各地では5年ごとにバブルが発生しており、 今では過剰なドルが投機先をめぐって流動して、世界経済は不安定な状態となっているので動向に注目する必要があると強調した。

日本では2012年12月に第2次安倍政権誕生、アベノミクスの「3本の矢」の起源 は、毛利元就の教えで「3本の矢」の教えとは、毛利元就が3人の息子 (隆元、元春、隆景)に「1本の矢ではすぐに折れてしまうが、3本を束ねれば簡単に折れない。だから3人が力を合わせて毛利の家を守れ」と諭した故事に由 来している。

「第1の矢」である金融緩和は、今年1月に日銀と共同声明を発表し物価目標2%を決め たのに続き、2月末、日銀総裁に黒田東彦を選出、「第2の矢」 である財政政策はGDP比2.0%の2012年度補正予算、「第3の矢」については経済成長戦略であり、産業競争力会議で議論を始めており、具体策をまと める予定であり、「3 本の矢」戦略は着々と進行していると竹中氏は説明した。

経済成長戦略には民間企業の税負担の軽減、規制緩和をしなければならないが、経済成長戦略が軌道に乗るには時間がかかり、第1の矢はすでに飛んだが、第2の矢の前半はすでに飛んだが、後半はこれからであり、第3の矢は準備中であるために、1.5の矢はすでに飛んでいる。

日本の教訓として長期政権のもとで経済成長は確実に伸びる傾向にあり、第2次安倍政権 が長期政権になると日本経済再生の実現の可能性が高くなるが、一般大衆の利益や権利、願望を考慮して、大衆の支持のもとに既存のエリート主義である体制側 や知識人などと対決しようとする政治思想のポピュリズム政権では、経済成長政策は失敗する。

2020年の東京オリンピック開催は非常にラッキーで経済刺激効果に結びつき、インフ ラ整備向け投資の拡大やその他の間接的な効果も発揮され、ロンドンオリンピック開催後は、経済効果の大きい国際会議が頻繁に開催されており、規制や整備改 革、国際会議開催を継続して誘致するために国内ホテルやイベント会場のリフォームが進展したが、2014年のブラジルでのワールドカップ、2016年のオ リンピック開催で日本人観光客の誘致や中小企業進出を促すためには、ビザ―フリーの問題解決を早急に行う必要があると強調した。

ブラジルが先進諸国に仲間入りするためにはイノベーションが必要であり、日本の最先端 技術の導入や中小企業の独特な技術移転などで、日伯関係は今後ますます補完関係の強化でシナジー効果が発揮されるが、日本の中小企業のブラジル進出には固 定費負担が重すぎるために、ビジネス環境整備をブラジルに進出している各国の企業や政府などが連携して官民一体でブラジル政府と共に解決して、新しいグ ローバルアジェンダの関係になってほしいと説明した。

ロベルト・ジアネッテ・ダ・フォンセッカ部長は、初めにブラジルの製造業部門の GDPは1兆150億ドル、そのうちサンパウロ州は、全体の37%に相当する3790億ドル、FIESP加盟企業は69%を占める7000億ドル、サンパ ウロ州のGDPに占める割合は33%の7090億ドル、輸出は24%の599億ドル、サンパウロ州の製造業の輸出は57%の533億ドル、今後3年間の平 均GDP伸び率は2.5%、2018年までのブラジルの経済成長を牽引するのは2億人近い国内消費マーケット、インフラ整備への大型投資、アグロビジネス 並びに鉱物資源、穀物生産では耕作面積は37%の増加に対して穀物生産は217%と飛躍しており、ブラジルは世界で唯一、穀物栽培向け耕地面積の飛躍的な 拡大が見込まれている。

しかしブラジルコストと呼ばれてビジネス拡大の障害になっている要因として、高い人件 費並びに電力エネルギーコスト、インフラロジスティックコスト、労働訴訟コスト、重税並びに為替の変動、ブラジルの人口構成は30歳以下が47%と若年層 が多いが、今後は少子高齢化が徐々に進んでいく。

2003年から2009年にかけて3000万人が中間層のCクラス入りを実現、2014年のA/B 層は全体の16%に相当する3100万人、C層は56%相当の1億1300万人、 D層は20%相当の4000万人、 E層は8%相当の1600万人が予想されている。

ブラジルのクレジット残高は毎年上昇してきているにも関わらず、GDP比61%と低 く、スペインや米国、英国、日本と比較して非常に低率であり、貯蓄率が非常に低い。貿易収支黒字は過去10年以上黒字を計上しているにも関わらず、今年は 世界経済の停滞による貿易の縮小、鉱物や農産品のコモディティ価格の減少による輸出金額の減少、ドルの為替変動による輸入の増加などの要因で、今年のブラ ジルの貿易収支は赤字になる可能性がある。

農産品輸出でブラジルは、オレンジジュース並びに砂糖、鶏肉、コーヒー、大豆は世界トップ、牛肉並びにトウモロコシ輸出は2位、農産物生産の比較では、オレンジジュース並びに砂糖、コーヒーが世界トップ、牛肉並びに大豆は2位、鶏肉並びにトウモロコシは3位となっている。

ブラジルの輸出相手国では中国がトップ、米国、アルゼンチン、オランダ、日本が続いて おり、輸入相手国では中国がトップ、米国、アルゼンチン、ドイツ、韓国が続いており、昨年の対内直接投資では米国が123億ドルでトップ、オランダは 122億ドルで2位、ルクセンブルグは59億ドルで3位、スイスは43億ドル、スペインは25億ドル、チリは20億、英国は19億、カナダは19億、日本 は15億ドルとなっている。

ブラジル国内の輸送では道路輸送が61.1%で圧倒、鉄道は20.7%、水上輸送は 13.6%、パイプラインは4.2%を占めており、国内電力エネルギー向け原料として重油による火力発電、天然ガスによる火力発電、水力発電、風力発電、 バイオマス発電、ブラジルの再生可能エネルギーソース比率は42.3%でトップ、インドは26.1%、カナダは16.9%、中国は11.9%、日本は 3.3%、ロシアは2.8%となっている。

日伯関係ポテンシャルにおける見通し並びに投資機会について、パウロ・横田氏は私に とってBRICS諸国は共通点がないために存在しないと説明、ブラジルは動植物の生物多様性の宝庫であり、アマゾン地方、北東地方、南部地方の生物多様性 に大きな違いがあり、日本とブラジルでは文化が大きく異なると説明、また欧米の自動車メーカーはブラジルの道路事情に合った車やブラジル人好みの自動車を 生産するために、研究所をブラジル国内に設置してブラジル人を雇用しているが、日本メーカーもブラジル国内で研究センターを設置して、ブラジルの国情に 合った車を生産すべきであると説明した。

またパウロ・横田氏は日本などに鶏肉を輸出するのではなく、素晴らしいテクノロジーを 擁している日本の中小企業がブラジルに進出して、付加価値の高い鶏肉関連製品(たとえば焼き鳥)として輸出、プレソルト向け船舶やプラットフォーム向けの パーツ製造技術を日本から移転して、ブラジル国内で生産する.0の構築が重要であると説明した。

竹中氏は、今回のセミナーで印象に残った事として、ブラジルは多様性に富んだ国であ り、今後ますます重要性が増すが、イノベーションとは新結合であり、ブラジルと日本の中小企業がジョイントして日本の素晴らしいテクノロジーとブラジル人 の奇抜なアイデアを合体すれば魅力的なジョイントベンチャ-の誕生が可能となるので、日本の中小企業に来てもらいたいが、官民一体となってブラジルコスト などのビジネス環境整備を改善する必要があると指摘している。

ロベルト・ジアネッテ・ダ・フォンセッカ部長は、日伯政府の自由貿易締結の可能性の 質問に対して、2013年9月23日、24日、ミナス州ベロ・オリゾンテ市のオウロ ミナスパレスホテルで開催された第16回日本ブラジル経済合同委員会で、ブラジルと日本のEPA締結には両国が官民一体となって、関税撤廃、投資ルールの 改 善、税制、雇用、治安等の問題、などいわゆるブラジルコストの削減をして早急なビジネス環境の改善などについて話し合いや研究を行い、2014年7月まで に提案書をまとめて、次の大統領候補に渡して2015年のEPA締結を目指すと強調、また2014年から両国の製造業部門の17セクターで会合を持って EPA締結に向けた調整を行い、来年の第3四半期の両国政府にEPAの内容を提示すると付け加えた。

平田事務局長談話:

このセミナーは竹中平蔵氏とFIESPのジアネッチ氏が基調講演を、パウロ横田氏がモデレーター役を担い、かつて無いほど異例で活発な質疑応答が行われた。

竹中氏は毎年1回来伯され政府の要人やブラジル日本研究者協会(SBPN)との繋がりがある大のブラ吉だ。会議所もSBPNと過去、数回共催した夕食会や昼食会でご講演を戴き、その単純明快なスピーチ振りは参加者を渦に巻き込み魅了、政治家としても世界的に知名度が高くお馴染の方である。

今回の基調講演者のスピーチの中から向こう10年間の両国における共通課題やキーワードを探してみた。

経済の大敵はポピュリズムだ。2016年のリオ・オリンピックに続き20年は東京オリンピック。開催国(都市)の認知度が高まる。大胆な規制緩和が進展する。国際会議が増える。ホテルが増える。観光収入が増える。それは1950年以降の歴史が証明している。何処の国でも一気に貿易が拡大する。アベノミックスの第2のもう一つの矢、財政再建は何故2020年か?、オリンピックの開催は規制緩和の絶好な口実?。成長戦略第3の矢は何時放すか。(竹中氏)

来年7月日伯EPA提言書を次期大統領候補に提出する。ブラジルには ①今人口2億人、将来も増え続ける国内市場 ②インフラ事業は大きなビジネス機会 ③アグリビジネス、豊富な鉱物資源に代表される3つのドライバーがある。(ジアネッチ氏)

もっと長期の予測におけるキーワード:

2050年の世界メガチェンジ(英エコノミスト誌)や40年後のグローバル予測(ヨルゲン・ランダース)を引用、これからの世界はイノベーションの時代に突入する。情報自由な国のみがそれを享受できる。これからの40年間に於いては森林再生、砂漠の緑化、水資源の確保など国家の力を必要とする点では中国は有利。

過去30年間の韓国とメキシコの一人当たり所得の差は韓国の30倍に対しメキシコは僅か4倍。中進国の罠から抜け出せるか。イノベーションの分野で日本とブラジルは最適な補完関係にあるパートナー。グローバルアゼンダとして伴に地球規模の貧困解決に協力。ブラジルには世界最大の150万人の日系社会がある。(竹中氏)

以上のキーワードをパウロ横田氏が総括、1時間に及ぶ様々な質疑応答があった。その中でも地理的に最も遠いブラジルと日本の距離を埋める為に何が出来るのかとの刺激的な問いかけに対し、ジアネッチ氏が唱える日伯のEPA、竹中氏が強調する両国のオリンピックの開催を契機とした知的交流がその答えとなりそうだ。

セミナーの後、FIESP主催による懇談・意見交換会で平田事務局長は竹中氏の知的交流発言に触れ、人材の交流なくして経済・文化交流無し!とビザフリー化を訴えた。ドイツからの進出企業数1600社と日本の進出企業数400社を比較、その圧倒的な差の主因として地政学的距離のハンディーに匹敵するビザフリーの有無の差を挙げた。

また日本から年間約200社以上の企業が会議所を訪問、その殆どがビジネス障害要因にビザ取得をあげている。韓国やEU諸国はブラジルとの間で又ブラジル周辺7カ国が日本との間でビザフリーの関係にある。両国で開催されるオリンピックを契機に、やがて進められるEPAの中でも最も重要な人の交流に係るビザフリー化の実現に向け、帰国されたら是非とも安倍総理に対し直接、具申をお願いしたいと協力を要請した。

福嶌総領事は今後早ければ来年のW杯大会に合わせて短期滞在数字ビザの交付実現に向け鋭意働き掛けている。早期導入を要請、最終的にはビザ免除を目指していると進捗状況を参加者に語った途端、歓声の拍手で会場を沸かした。

日伯修好通商条約締結から2015年には120周年を迎える。1908年のブラジル日本移民から数えても1世紀を超える歴史、両国の現状を知った参加者のブラジル人たちからは理不尽だ!信じ難い!納得できない!と驚愕の溜息が聞こえた。一方、参加者からは「これは本物だ手応えを感じた」と総領事の迅速な行動力を絶賛、全て成功裏に終了した。

左からFIESPのDEREX部のロベルト・ジアネッテ・ダ・フォンセッカ取締役/竹中平蔵元金融担当大臣・経済財政政策担当大臣

(Foto: Tâmna Waqued/Fiesp)

左から商工会議所の藤井晋介会頭/FIESPのDEREX部のロベルト・ジアネッテ・ダ・フォンセッカ取締役/竹中平蔵元金融担当大臣・経済財政政策担当大臣/サンパウロ総領事館の福嶌教輝総領事

120人が参加したセミナーの様子

 

https://camaradojapao.org.br/jp/?p=38789