【意外・法外な物価-ブラジル】Carta Capital 誌掲載

“Brasil, caro pra chuchu” por Luiz Antonio Cintra. Colaboraram: Pedro Henrique França e Samantha Maia

マイホームから美容院まで、ブラジル国内の物価は法外な水準に達している。それは、ごく一部の高所得層の消費を前提にした経済構造の帰結だ

診察料600レアル、200平米のマンションが400万レアル、法外な価格のレストランなど、レアル高と相まって、ブラジル・コストが急上昇している。

ブラジルは、狂気の共同幻想に冒されているかのようだ。不動産の購入に始まり、レストランでの外食、家具の購入、自動車の購入、散髪、ネイルケア、配線交換のための電気技師の出張…。あらゆる所得層にとって、製品を消費したりサービスを受けたりすることは、世界で最も高価であるか、さもなければ世界でもトップレベルの高コストのグループに間違いなく入っている。疑わしい? では、幾つかの例を紹介しよう。

リオデジャネイロ市とサンパウロ市、北東部諸州の州都では、200平米のマンションが400万レアルで販売されているのを目にすることができる。その中でも、国内における不動産価格高騰の震源地、リオデジャネイロ市の場合には、超高級物件で3,000万レアルというものもある。岩塩層下(プレソルト)での石油開発に投資を呼び込んでいるのに加えて、サッカー・ワールドカップ開催の前年、そしてオリンピック開催へと向かう中で、リオデジャネイロ市内には、地域の土地が極めて狭いことが原因で「価格上昇のパフォーマンス」が大きなレブロン区のように、1平米あたりの単価が国内で最も高額な地域が存在する(同区は住民4万6,000人に対して215ヘクタール、住宅は2万2,000戸しかない)。

診察料は、600レアルかそれ以上。レストランも値上がりが激しく、ブラジル地理統計院(IBGE)の統計によると過去10年で140%値上がりしており、とりわけ一等地にある(ただし、それがより優れた料理であることを常に意味するものではない)ものは、値上がりがいっそう著しい。6歳あるいは7歳の子供の学校の月謝は、1,000レアル以上だ。

サンパウロ市内の専門店で、アップルのマックブック・プロ(15インチ・メモリ4GB)は、8,000レアルで販売されている。同じモデルが、ニューヨークには3,900レアル相当で販売されている。この差額で閑散期の航空チケットが購入できるため、ブラジル人の一部にとってマイアミへの買い出しが習慣化する理由になっている。

電気電子製品とアパレル、家庭用品に対する支出の拡大が、ブラジル人による国外でのクレジットカードの利用額が急増した理由だ。中央銀行によると4月には、1969年以降で最高額となる、21億ドルを計上した。国外で観光客は、ブラジルなら800レアルで販売されているディーゼルのズボン(ジーンズ)が360レアル相当で販売されているのに出会うのだ。

乗用車も過去2年にわたり価格が安定しているとはいえ、同様の傾向を歩んでいる。一般的に言って、ブラジル国内の販売価格はアメリカの小売価格の2倍である。ニューヨークでポルシェ・カレラを購入してサンパウロで売却することは、依然、魅力のあるビジネスである。コンバーチブルのニューヨーク市内の販売価格は、12万ドル。だがここでは65万レアルだ。

エンブラツールが実施した最新調査では、リオデジャネイロ市内のホテルの宿泊費は、世界の主要都市の中でも高額で、マイアミとプンタカナに次ぐ第3位と、ニューヨークとパリを上回る水準だった。リスボンで提供される1杯のコーヒーの価格は、サンパウロ市内のそれを上回るのだが、どちらのコーヒーもミナス・ジェライス州で生産されたコーヒー豆を使用しているのだ。

こうした歪みは、公式指数で統計に表れてきた物価の恒常的な上昇といった、物価が統制できていないことが原因と言えるものではない。同様に、納税メーターの集計グループが執心しているような税負担でこの問題を説明することもできない。この現象には、様々な原因がある。ブラジル・コストはそうした原因の1つだが、それが全てでもない。

ヨーロッパとアメリカが「バーゲン期」にあるため、国際比較は成熟経済が抱える事情による偏向を受ける。しかも、ブラジルの経済的見通しに関する熱狂的なムードが、環境を悪化させた。すなわち、所得の上昇が消費を拡大させ、物価の上昇を促したのだ。この場合、あらゆる部分で、価格の再調整が行われる。利益率が拡大できる場合には、とことんまで確保しようとする。

ジュリオ・セルジオ・ゴメス・デ・アルメイダ氏とルイス・ゴンザガ・ベルーゾ氏が説明するように、過去20年の経済政策は、悲惨な結果を出した誤りの連続と深刻化の歴史だった。レアル高は国内工業を弱体化させ、生産チェーンを破壊し、国際経済システムにおける生産分野でブラジルが占めるポジションを拡大するのを妨げた。両氏は、「ブラジルは、1990年代を過ぎてなお2000年代に入ってすら産業構造を退化させた。つまり、世界の製造業の発展と差別化と歩調を合わせることなく、化石化した生産チェーンとのリンクを継続した」と指摘する。

サンパウロ州工業連盟(Fiesp)市場競争部会のジョゼー・リカルド・ロリス・コエーリョ部会長は、状況を次のように要約する。

「9年前から我が国はインフレ以上に所得を拡大させており、しかも、信用供与が大きく拡大し、これらがサービスと財に向かった。サービスの場合、輸入できないことで事態が悪化した。状況は限界に達しており、短期的に状況が改善する見通しは立っていない」。Fiespがブラジルの工業生産コストを主要貿易パートナー15か国と比較したところ、ブラジル国内で生産した場合は平均32%割高という結果が出た。中国国内で本を印刷する場合、ブラジルの印刷所で印刷するよりも50%割安で、中にはブラジルの印刷コストのわずか35%で済むケースもあった。しかもこのコストには、ブラジルの港湾まで輸送する運賃も含まれるのだ。

「ブラジルの物価高」は、生活コストの高い他国から来た人をも驚かす。フランス人のポーリーン・デュイッテ氏が2005年に交換留学生として初めてブラジルを訪問した時、「現在ほどの状況になかった」と言う。当時、彼女は、フランスに帰国する前に、フォルタレーザ市とリオデジャネイロ市、さらにアルゼンチンで暮らした。サステナビリティーに関する修士号を取得した後、専門を生かしたチャンスを求めて帰国することを決意する。2010年代に入って、ブラジルの潮流が変化してから、舞い戻った。「最初のブラジル生活で私は、学生として月額500ユーロを受け取っており、それで十分に暮らすことができました。ところが再度ブラジルへ戻った2011年、あらゆるものが、大幅に値上がりしてきたのです」と、現在プロジェクト・マネージャーの彼女は言う。

ブラジル人技術者と結婚した彼女は、2人がマイホームをグロリア区に購入する以前、コパカバーナ区で不動産を借りており、その家賃は最初2,600レアルだったものが3,500レアルに跳ね上がった。マイホームはこの1年強で、63%も値上がりして100万レアルの上限を突破した。

ブラジルの国民の半数が住む各地の大都市圏の大部分で不動産ブームが頂点になったのが2011年だと位置付ける専門家によると、フランス人のポーリーン氏は、まさに台風が吹き荒れる中に飛び込んだようなものだった。この問題の専門家で経済調査研究所の研究者、エコノミストのエドゥアルド・ジルベルシュタイン氏は、不動産価格の値上がりがピークに達したのは、2011年5月だと指摘する。リオデジャネイロ市における1平米あたりの不動産価格は、当時、過去12か月に累積44%の値上がりを記録した。不動産価格は依然として値上がりしているが、その値上がり率は緩やかになっており、2013年4月には、前年同月比14%の値上がり。

リオデジャネイロ市周辺で最も値上がりの激しかったフアン・レス・ピンス・ビルとカプ・フェラ・ビルでは、アレシャンドレ・アシオリ氏のような実業家が、1平米あたり5万5,000レアルに達する価格で不動産を入手した。「別のコンドミニアムでこの価格帯のものが既に存在する」と、クリスティーズのアフィリエイト会社で最高級不動産会社を専門とする不動産会社ジュディセ&アラウージョのフレデリコ・ジュディセ氏は言う。

しかも、不動産の値上がりの傾向は、2008年以降、とりわけ沿岸部と近郊の中堅・大都市で一般化した。「値上がりの要因は、3つ指摘することができる。1つ目は、過去10年にわたり平均して、国内では毎年150戸の家庭が新たに誕生してきたこと。次に、数年にわたってブラジル人の実質所得が上昇し続けてきたこと。そして最後に、金利の低下と平均の割賦期間が5回払いから15年へと拡大したことに伴う信用供与の条件改善だ」と、2011年からFipeとサイトZapが提携して進めてきた不動産相場の月間集計のコーディネーターを務めるジルベルシュタイン氏は言う。建設期間の長さも、供給のボトルネックにつながるもう1つの要因だ。

信用供与の拡大は、同じく国内観光の敷居を下げたが、国内航空市場は事実上2社の寡占であり、不安定な空港インフラのために航空料金の値下がりが阻まれている。空港は、高コスト体質のブラジルの様々な局面が凝縮されており、その象徴になっている。「国内の空港は人口の25%に相当する富裕層を対象にした市場構造になっており、過去10年、経済の国際化が大きく進む中で何も変わることがなかったのだ」と、応用経済研究院(Ipea)の元所長でエコノミストのマルシオ・ポックマン氏は言う。ポックマンの分析の背景はこうだ。人口の大部分にとってブラジルという国は、常に、単なるコストのかかる国というだけではなく、そもそも、財とサービスへのアクセスができない国なのだ。所得分位の上層に位置するブラジル人たちは、消費バスケットの多くをサービスが占めているためにコスト高の影響を強く受けている。

そしてこの国の状況が改善し始めると、ボトルネックは明白になり、空港が抱える問題はハイシーズンに限られたものではなくなる。自社の財とサービスの値上げして利益率を拡大できるような、思うように市場を支配している企業は、市場規模の拡大と大量消費市場から利益を上げるよりは、短期的に利益を上げることを望む。

「銀行業界はその象徴だ。外資に対して市場を開放したが、業界各社は短期的に利益を計上する流れを維持し、寡占状態がいっそう強まった。1995年に270行あった業界は、現在、200行以下だ」とポックマン氏は言う。エコノミストによるとこの原因の1つは、基本金利が歴史的な低水準まで低下したにもかかわらず、ブラジル国内における信用供与のコストが上昇し続けていることによる。

リオデジャネイロで、国際的NGOでの9か月の研修で、アメリカ人のコナー・コックス氏が、ブログでブラジルの印象を配信している。様々なプラス材料を提供しているのだが、彼は、ブラジルの生活コストに驚く住民たちの住所録に名前を連ねることになった。「ブラジルへ来る前に住んでいたドイツでは、私は、300ユーロ(800レアル以下)でなかなか良い場所に1室を借りることができました。現在、私は940レアルを支払ってサンタ・テレーザにあるマンションを、私を含め4人でシェアしています」。

ポーリーン氏とコナー氏は教育費と保険費、公共交通料金にも違和感を感じている。長男を妊娠しているポーリーン氏は、近い将来、子供が学齢期に達するとフランスに帰国することも検討している。「私はこれまで、勉学に対して金銭的負担をしたことがありません。自立した人になるように育てられた女性ですが、私がここで生活を続けられるのは、夫の給与が私の4倍あるからに過ぎません」。

オザスコ市在住で8歳になる双子を持つルシアーノ・ジュルコヴィッチ氏とジャニーン氏の夫妻は、2人の娘たちの授業料が月額3,000レアル近くになると知って、公立校に入学させることにした。「その他の可能性についても検討を進め、公共サービスには様々な偏見があるものの、公立校は受け入れ可能なオプションで、それも興味深い選択肢だと気づきました」と、ジュルコヴィッチ氏は言う。転校した新学校は教育分野でサンパウロ市内のモデル校として知られることは幸運だと、夫妻は満足している。「私たちがとりわけ注目したのは、社会の多様な人たちとの交流でした」と話す。

一連のブラジル経済の変化の中で、ブラジルの家庭の外食への支出は、信じ難いほどの水準に上昇した。サンパウロ市内の場合、夫婦と5歳の子供がサンパウロ市西部のハンバーガーショップで外食するケースを見てみよう。ハンバーガー3個といくつかの飲み物がテーブルに運ばれ、それから、220レアルの会計がやってくる。ギャルソンを見て、広告会社勤務のダニーロ・コルシ氏とカミリア・キンツェル夫妻は、その金額があまりにも高すぎると受け止めた。「そこで私たちは、高額だと見なせる場所について市民が情報を入手できる場所をオンライン・プラットホームとして立ち上げることを考えたのです」と、コルシ氏は言う。腹に据えかねたコルシ氏は、消費者による評価という狙いで、カミラ夫人と友人のリカルド・ジアセッチ氏、マルコス・タカバヤシ氏とサイトのボイコタSPを立ち上げた。同サイトは現在、1日15万ビュー、5万人の「フォロワー」をフェイスブックに持つ

パン屋で販売される1個6レアルのポン・デ・ケイジョ、1kgが16レアルのポン・フランセース、バスケットが38レアルのポップコーン、300mlで13のミネラルウォーター。ボイコタSPによるサンプルの収集と店舗情報、過剰な価格設定に対する批判は、3,000件を突破した。「ここでは、あらゆる店が価格が高いことを特別な製品を使用しているからだと正当化していますが、グルメな清涼飲料水など存在しません」とコルシ氏は言う。同氏は、この運動がサンパウロ市民の消費行動、つまり一般的にクレームすることを恥ずかしがる文化を変えることになると確信している。

外国人にとっても、こうした驚きを受けるまでに時間はかからない。ブラジルに進出した企業のオフィスと駐在員向けの住宅仲介支援を専門とするスターツブラジルで、2年前にブラジルに赴任した森口信義社長は次のように話す。「一部の不動産の価格は、東京の一等地に相当する価格ですが、もしサンパウロ市内で同じ質を求めようとするなら、価格は2倍に達します」。同社長によると、問題の1つは生産性の低さだ。「レストランの場合、ブラジルでは、日本のレストランで同じ作業をするのに2.5倍の従業員を抱えています」。

日本人たちは、ブラジル国内で定食を食べるのに、日本のほぼ4倍、40レアルを下らない料金に驚愕する。「標準化されたビッグマックでさえ、この国では極めて高い」と、ブラジル日本商工会議所の平田藤義事 務局長も話す。平田事務局長は日本に出張で戻る事があると、日本人の体形に合い、しかも割安な衣類を買い込んでくる。平田事務局長は、「もし競争原理を働かせる為に市場を開放するなら、ブラジルの物価はこんなに割高にはならないでしょう。この国は、インフラの改善を進め、構造改革を推進する必要があります。 現在のブラジルは、人件費の高い国に対しても、価格面で負けているのです」と分析する。

しかもブラジルは、特定的な問題も抱えている。サントスでは、ペトロブラスが岩塩層下(プレソルト)支援を目的とした管理センターの建設に向けて投資を進めているが、そのため、物価が急上昇している。次々と押し寄せる値上げの波に、警備員を退職したマルシオ・デ・メロ・ソアレス氏は、46年暮らしたサントスから、隣のイタニャエンに「移住」した。「2007年以降、賃貸料が大幅に値上がりし、あの町で家を買うなど不可能だ。次第に人々は、周囲地域に移り住むようになっている」。このトンネルに、光明は差しているのだろうか? ポックマンは、現状では光は差していないと言う。「私たちが何か寄与できるとすれば、インフラ分野に莫大な投資が行われることに賭けることだ。空白の30年を経て、ゼツリオ・バルガス時代やジュセリーノ・クビシェキ時代、軍政末期のような規模でインパクトのある投資を、私たちがやりとおせるのかというのが大きな疑問だ。それをやり遂げれば、ブラジル・コストと呼ばれるもののいくらかは、低減できるだろう。それだけでなく、我々は、過剰に逆累進的な税構造を変革する必要がある」。それはつまり、企業の儲けが少ないほど相対的に支払う税金が大きくなるということ。国税制度は結果的に、格差と経済の非効率性を拡大させているのだ。(カルタキャピタル誌2013年6月5日号)  記事:ルイス・アントニオ・シントラ (協力:ペドロ・エンリケ・フランサとサマンサ・マイア 写真:ジョナス・トゥッシとダリオ・デ・ドミニシス、ヴァネッサ・モス)

 

世界ランキング
過去12カ月の不動産価格の変動率(単位:%)
香港 23.6
ドバイ(アラブ首長国連邦) 19.0
ブラジル 13.7
トルコ 10.5
ロシア 10.2
オーストリア 10.1
台湾 9.7
中国 9.3
インド 8.5
コロンビア 8.3
出典:コンサルタント会社ナイト・フランク(2012年12月まで)
ホテルの宿泊料
レジャー料金ランキング
都市 平均額
マイアミ 293.6
プンタカナ 278.9
リオデジャネイロ 246.7
ニューヨーク 245.8
シドニー 201.7
パリ 196.2
カンクーン 193.9
ロンドン 189.1
バルセロナ 174.7
フロリアノーポリス 155.6
レシーフェ 143.5
サンパウロ 140.4
フォルタレーザ 126.8
サルバドール 126.1
ネイティブ 123.7
マナウス 117.4
ブエノスアイレス 115.8
フォス・ド・イグアス 104.7
サンチアゴ 100.5
出典:エンブラツール

 

Carta Capital誌掲載写真 :  スターツの森口代表(左)と平田事務局長 (Jonas Tucci/Carta Capital)

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