政策対話委員会労働ワーキンググループセミナー開催

政策対話委員会(佐藤真吾委員長)労働ワーキンググループ(山崎一郎グループ長)主催のセミナーは、2019年7月23日午後4時から5時30分まで約50人が参加して開催、講師はジェトロ・アジア経済研究所の海外調査員(サンパウロ大学客員教授)の近田亮平氏がテーマ「転換するブラジルの社会福祉 -右派・保守、イデオロギー色の強いボルソナロ政権-」 で講演した。

近田亮平講師は、初めにアジア研究所の設立経緯や目的、発展途上国の学術調査内容、ホームページなどを紹介、今回のセミナーはボルソナロ新政権誕生後のブラジルの社会福祉の方向性などに関する要請で開催に結び付いたことを説明した。

右派・保守イデオロギー色の強いボルソナロ政権の福祉レジームを理解するために、初めにブラジルの社会福祉制度概観として、1985年の民政移管後に制定された「市民の憲法」と呼ばれる1988年憲法によるすべての国民を対象とした社会保障の普遍化を理念として掲げ、1990年以降は貧困層を対象としたターゲティング政策の採用。社会福祉の年金部門では、1990年以降の直接・間接年金受給率は90%を超えている。公的年金制度として公務員社会保障制度(RPPS)並びに一般社会保障制度(RGPS)が存在するが、国民の格差是正のための社会扶助的機能として1992年に設けられた「農村年金」、1996年の「継続扶助(BPC)」を説明した。

ブラジルの少子高齢化や年金制度の歪みで社会保障院(INSS)の赤字累積が年々拡大しており、早急な年金改革実施が避けられない。働く現在現役の人が払い込んだ金を現在の高齢者に支給する賦課方式に替わる個人的キャピタリゼーションシステム導入(個人積立方式)の検討などが今後避けて通れない。

また社会福祉の保健医療部門では、1990年に導入された「保健医療統一システム(SUS)」は無料公的保険医療サービスにも拘らず、充分や医療サービスの提供ができず、また資金・人員・能力不足であり、高額な民間医療保険との間に大きなサービスの質に格差が存在する。

社会福祉の社会扶助・貧困対策部門では、1993年の「社会扶助基本法(LOAS)」や65歳以上の貧困高齢者と障碍者を対象とした最低賃金支給の「継続扶助(BPC)」、条件付き現金支給政策(CCT)としてBolsa Escola制度や労働者党(PT)政権時に導入された Bolsa Familia制度を説明した。

社会福祉の教育部門では、ブラジルの学校制度、1998年導入の全国中等教育テスト(Enem)、2004年の大学促進プログラム(ProUni)、教育部門が抱える問題として、難しい進級による中途退学による教育放棄、公立と私立学校の教育レベル格差によるねじれを説明した。

社会福祉の雇用・労働部門では、1943年の統一労働法(CLT)を根幹に、1966年の金属期間保証基金(FGTS)、1986年の失業保険の本格導入、1985年以前の軍事政権下でのスト禁止や労働組合を介したコーポラティズム体制、1990年代のマクロ経済安定や経済のグローバル化による労働や雇用の柔軟化政策、社会弱者への支援、2017年の労働改革による労働組合の納付金支払いの任意化による労働組合の大幅な財源の減少に結び付いている。

2018年の大統領選挙ではファシズムへの不安にも拘らず、労働者党(PT)に対する反感でボルソナロ政権誕生。今後の右派・保守イデオロギーの強いボルソナロ政権は、議会のBala(銃弾)、Boi(牛)、Biblia(聖書)の「BBB」との親和的な関係性を維持しながら、銃規制の緩和並びに小さな政府、年金改革、労働組合規制強化などの社会福祉の転換を予兆する政策や措置の導入で政権発足から1ー2年が勝負になると説明。また社会民主主義的から家族主義的への転換の可能性も付け加えた。質疑応答ではボルソナロ大統領と議会の関係、年金改革法案の国会承認後の日本企業への影響などが挙げられた。

Pdf「転換するブラジルの社会福祉 -右派・保守、イデオロギー色の強いボルソナロ政権-」ジェトロ・アジア経済研究所の海外調査員(サンパウロ大学客員教授)の近田亮平氏

講師のジェトロ・アジア経済研究所の海外調査員(サンパウロ大学客員教授)の近田亮平氏

左から労働ワーキンググループの山崎一郎グループ長/森雄太氏

https://camaradojapao.org.br/jp/?p=46146