パラグアイ政府の「救済」に向けてボルソナロ大統領が譲歩

譲歩

パラグアイのマリオ・アブド・ベニテス大統領に対する弾劾の脅威が高まる中、ブラジル政府は、同国が支払う電気料金を段階的に引き上げる合意を無効とすることを受け入れた。これにより、パラグアイ大統領を罷免しようとする運動は勢いを失う模様だ。

ジャイール・ボルソナロ大統領が、イタイプー二カ国間水力発電所が発電した電力の余剰分に対してパラグアイへの負担を拡大させる二国間協定の無効措置を受け入れた。この判断は、弾劾の脅威にさらされているパラグアイのマリオ・アブド・ベニテス大統領が引き続きその職にとどまることが重要だというメッセージをブラジル政府が伝えたという意味を持つ。この決定後、パラグアイでは多くの上院議員及び下院議員が、弾劾支持を撤回した。

ブラジル政府は8月1日、イタイプー二カ国間水力発電所の余剰電力に対するパラグアイの支払い額を段階的に増加させブラジル側が恩恵を受ける二国間合意を破棄するというパラグアイの決定を受け入れた。この合意は、ブラジルの現在の支出に関連した不均衡を縮小する内容だった。ジャイール・ボルソナロ大統領の判断は、5月24日に署名された協定が7月第4週になってその内容が明らかになってから弾劾の脅威にさらされているパラグアイのマリオ・アブド・ベニテス大統領に、引き続き大統領職に確実にとどまることを希望してのものだった。

また8月第1週にブラジリアで実施を予定していた両国の外務省代表者会議を、前倒ししてアスンシオンで実施した。

エスタード紙が入手したこの会議の文書によると、2019年から2022年にかけてブラジルの電力公社エレトロブラスとパラグアイの国家電力管理公社(ANDE)の間で締結可能な契約の工程表を策定することを目的に協議を再開するよう、契約当事国双方の高官がそれぞれの国の技術チームに指示した。これで二国間契約は、「イタイプー二カ国間水力発電所の電力の供給契約に関する新たな交渉に向けた技術的仕様の定義まで後退する」ことになる。

それでも当該文書によると、この問題で合意が形成されていないことにより「二カ国間事業体の電力サービスにかかわる売上に被害を及ぼしかねないこと、さらにこの点から、短期間で問題解決を見いだすことの重要性を強調すること」では、両国の認識が一致した。

イタイプー二カ国間水力発電所の余剰電力に関する協定は、ブラジルの消費者が負担する形でパラグアイが消費する電力を助成する形になっていると、ブラジル工業大手電力需要家協会(Abrace)のパウロ・ペドローザ会長は言う。「それはまるで、ブラジル国民の負担する電気料金で『外交政策のコストを負担している』かのようだ。ブラジル国民がパラグアイ向けに負担している助成は存在しており、そのことをしっかりと伝える必要がある」とペドローザ会長は言う。

2018年にパラグアイの消費者が負担した電気料金は平均すると、1MWh当たり24ドルだったのに対して、ブラジルの消費者が負担したのは1MWh当たり38ドル(58%割高)だった。これは、発電能力に関連した基本料金をより高く、追加購入分あるいは余剰分と位置付けられた電力については発電所の運転コストが除外されて安価に設定されることによる。これにより2018年にブラジルの消費者には16億レアルの負担が発生、平均で1.2%の料金の上昇につながった。

ペドローザ会長によるとこの状況は、まさに高額な電気料金ゆえにブラジルが投資機会を失うという点で、矛盾を発生させているという。「ブラジルの成長が足踏みしている間、工業は投資を控える。だがパラグアイでは、より安価な電気料金を利用しようとブラジルの投資家までもが同国に投資するなど、年間6%の成長を達成している」と同会長はコメントした。

さらに同会長は、パラナ川沿いのシウダード・デル・エステから300kmも離れた首都ア    スンシオンに住宅街を造成したり市営市場を建設したりするケースでパラグアイ側の電力需要の増加というブラジルにとって無関係なエネルギー分野の財政負担で、ブラジルが相対的にパラグアイ以上の負担をしている事実があると指摘した。

発電された電力の85%がブラジルに振り向けられているため、実際には、ブラジルの消費者が契約に伴う支払を負担している。同じく同国における奨学金からインターネットのブロードバンド接続の普及に至るまで、同発電所の収入が様々な政策に振り向けられているという主張もある。

2009年にパラグアイ政府は、同国で消費せずにブラジルに販売する電力の料金を3倍に引き上げることに成功した。この合意はルイス・イナシオ・ルーラ・ダ・シルバ大統領(当時)が署名したもので、パラグアイのフェルナンド・ルーゴ前大統領(当時)にとっては選挙公約を果たした形となった。この費用は当初、国庫管理局が負担したが、2016年からは電気料金に転嫁されて消費者が負担している。

撤回

8月1日に署名された文書は、パラグアイによる「一方的かつ単独による」判断だということに言及しており、5月に両国が署名した二国間契約に関するパラグアイ側の要求が受け入れられなかったことを明示している。ただ、合意が無効にされて以降、パラグアイでは複数の下院議員と上院議員が、アブド・ベニテス大統領の政策に対する弾劾審議支持を撤回し始めた。

パラグアイの報道機関によるとコロラド党(アブド・ベニテス大統領が所属する政党)の党首、ペドロ・アリアナ下院議員は、今回の文書が前回の二国間契約の修正を示しているとの考えを示した。このため同下院議員は、弾劾支持を取り下げる判断を下した。さらにオラシオ・カルテス元大統領も同様の行動に出た。

複数のアナリストが、こうした離反により弾劾プロセスの推進は事実上、阻止されたと受け止める。民主化及び社会包含活動センターの設立者でイタイプー二カ国間水力発電所問題の研究責任者でもあるミゲル・カーター氏は、「アブド・ベニテス大統領は、政治的基盤を多く失ったとは言え、置かれている状況は改善した。彼は支払い問題に関して謝罪し、誤りを認める正しい行動をとった」とコメント。さらに、「今後も周囲の罷免と解任が続くだろうが、大統領は政治危機を脱するだろう。ただ、イタイプー二カ国間水力発電所をめぐる問題は同大統領の在任期間中、懸案であり続ける」と付け加えた。

一連の政治スキャンダルの最大の被害者の1人は、国家反逆罪で告発されたウーゴ・ベラスケス副大統領だろう。彼は、余剰電力を市場価格でパラグアイに売却するのを認める条項を削除するのに決定的な役割を担ったはずだ(別記事「『二国間合意は政治的なものだった』とパラグアイの電力公社総裁が不満を吐露」を参照)。

アブド・ベニテス大統領は8月1日の合意の後、大統領府でおよそ30分にわたって演説した。「私に誤りがあったのなら謝罪する。我々は誤っていて、今も誤りを続けているが、それが悪意から行われたことは決してない。パラグアイという国家の行く末に関して交渉はやぶさかではない」と同大統領は発言した。(2019年8月2日付けエスタード紙)

 

安価に電力を使用するパラグアイ

イタイプー二カ国間水力発電会社のデータによると、ブラジルと同発電会社を共同で運営するパラグアイは、2018年に同水力発電所が発電した電力を、平均1,717 ㎿消費した。この内、平均898㎿に対してパラグアイは1MWh当たり43.80ドルを支払った。残りの平均819㎿に対して同国が支払った料金は、1MWh当たりわずか6ドルだった。

この価格差が発生する理由は、両国が締結した合意に基づき、同発電所の電力で必要とする年間の総量をパラグアイが規定するためである。仮に同国がその規定以上の電力を必要とする場合、パラグアイは、年間を通じて余剰電力の供給を受けられる。この余剰の電力の料金から、同水力発電所の建設費に関連した融資の金融コストが除外される。この事情により、余剰電力は極めて安価になる。パラグアイは提出した年間の消費量が実際よりも過少であることを認識していたが契約外で低廉な余剰電力を利用するためにごまかしたと、ブラジルの技術関係者は指摘する。

その上、水力発電所建設の実現に向けてブラジルは電力の供給契約量を保証する目的で、パラグアイが必要としない電力分について、コスト高に基づいた高額の料金設定も受け入れた。この結果、ブラジル工業大手電力需要家協会(Abrace)によると、2018年には電気料金にして1.2%の値上がりに相当する16億レアルをブラジルの消費者が負担した。

5月に署名された二国間契約では、2022年までパラグアイが購入する電力が規定された。その計算に基づくとパラグアイは、現在購入している電力に対して少なくとも約2億ドルの負担増となる。(2019年8月2日付けエスタード紙)

 

2012年のルゴ大統領弾劾によるパラグアイへの制裁を持ち出しブラジルが警告

ベニテス大統領に対して高まった弾劾の脅威を受けてブラジル外務省が、民主的秩序を破綻させる行為に警告した。

ブラジルの外務省が、パラグアイで発生しかねない「民主的秩序の破綻」に対して警告するとともに、同国に対して、2012年にフェルナンド・ルゴ大統領の弾劾後に「メルコスールの民主主義条項(ウシュアイア附属議定書)で定めた規定」を同国が履行するとしたことに言及した。当時、パラグアイはメルコスール加盟国としての資格停止処分を受けた。

外務省は声明の中で、パラグアイで仮に新たな弾劾が発生した場合、メルコスールの加盟国としての資格が停止される可能性があると示唆した。

2012年に同国では、ブラジルとの国境付近での土地立ち退き執行中に17人が死亡するという事故が発生した後、わずか36時間の弾劾裁判で左派政権のフェルナンド・ルゴ大統領が罷免された。当時、この弾劾裁判で同大統領は外にも縁故主義と、軍隊の規律引き締めと暴力行為の阻止に手ぬるく対応したとして告発された。

この罷免を受けて、ジルマ・ロウセフ大統領(当時)が中心となってメルコスール諸国は、翌年に新たな大統領選が実施されるまで、メルコスール及び南米諸国連合(Unasul)の加盟国としての資格を停止する処分を下した。ただしジルマ大統領は反対派から、パラグアイを処罰する動機となり得るようなイデオロギーに凝り固まっていると非難されている。

ただ、弾劾の手続きに関してパラグアイの民主主義に害をなさなかったとどのように反証できるのかについて加盟国が問題視したため、同国への資格停止処分が下された。この資格停止は、メルコスールの発足後21年の歴史で初の処分となった。弾劾を受けて誕生したパラグアイ新政権は、2013年4月に大統領選挙が実施されるまで、会合への参加も意見の表明も許されなかった。

外務省は8月1日に発表した声明の中で、大統領同士の「極めて良好な」関係と、現在の二国間関係で確認されている「完全な価値観の共有」について強調した。同省によると、このような国際関係は前例がないものであり、「この地域の民主化の促進及び居住者の権利の保護」に対する両国首脳の「戦略的ビジョンの一致」の賜物である。

同省はさらに、「推進中の取り組みが全うされ、しかも新たな取り組みへとつながっていくよう、マリオ・アブド大統領との協力が続くことをブラジルは期待している」と表明した。外務省によるとブラジル政府は、パラグアイ大統領が引き続き同国を統治するための「あらゆる条件」を備えていることを「確信している」という。(2019年8月2日付けエスタード紙)

 

「二国間合意は政治的なものだった」とパラグアイの電力公社総裁が不満を吐露

2人の理事の辞任を受けて繰り上げ就任したファビアン・カセレス総裁が、二国間合意について4年間で3億5,000万ドルの負担増をパラグアイに強いると発言。

国家電力管理公社(ANDE)のファビアン・カセレス総裁代行が、イタイプー二カ国間水力発電所の電力に関する二国間合意にマリオ・アブド・ベニテス大統領が応じたのは「技術的判断以上に政治的判断」をしたためで、同電力公社は5月にブラジル政府との間で締結された交渉には参加していないと発言した。

この二国間契約は8月1日、その規約がパラグアイ大統領を弾劾仕様とする政治危機に発展した後、無効になった。エスタード紙とのインタビューでカセレス総裁は、「合意にANDEは関与していなかった。ブラジルの外交関係者らはエレトロブラスの技術者らの支援を受けていたが、これに対してパラグアイの代表者らは専門チームがいなかった。まことに、最終判断は技術的なもの以上に政治的なものだった。私は、この協議に参加していた人たちは、署名しているものが与える影響を理解していなかったと考えている。この契約は負担が非常に大きく、パラグアイが購入する電力に対して、4年で3億5,000万ドルの負担増となる水増し価格だった」とコメントした。

Andeの技術理事の同氏は、先週、合意内容に対する見解の不一致を理由に辞任を表明した当時のペドロ・フェレイラ総裁との連帯責任を負う形で辞任を申し出た。ところがフェレイラ総裁の後任として総裁に就任したアルシデス・ヒメネス総裁も同様に数日後の7月28日に辞任したためにカセレス氏の辞任も認められず、同氏がANDE総裁代行に就任することになった。

電話によるインタビューで同氏は、この二国間契約が「パラグアイにとって何らの恩恵もない」とコメント、ブラジル資本の財界関係者がロビー活動によりパラグアイ政府に対しANDEが擁護している条項、すなわち、パラグアイの電力公社がイタイプー二カ国間水力発電所の余剰電力をブラジル市場に販売可能とする条項の撤廃を働きかけた可能性についても否定しなかった。「それ(ロビー活動)は、可能性としてありうる。ANDEの(元)総裁(ペドロ・フェレイラ氏)は、それが起あった可能性はあるという考えを示した。私は確認していないし、これについて言及もできない。報道機関を通じて聞いたに過ぎない」と同総裁はコメント。

パラグアイの新聞、ABCコロール紙によると、当該の条項が協定から削除できるように、ホセ・ロドリゲス・ゴンザレス弁護士がブラジルの財界関係者の会合に関与した。ウーゴ・ベラスケス副大統領に関係する同弁護士は、ブラジル企業のレロス・コメルシアリザドーラ・デ・エネルジアが恩恵を受けるべく活動した可能性がある。この会合は5月10日、シウダード・デル・レステで行われたとされており、マジョール・オリンピオ上院議員(PSL:社会自由党=サンパウロ州選出)の代理人として実業家のアレシャンドレ・ジョルダーノ氏が参加したと見られている。

パラグアイのメディアが報じた録音でロドリゲス弁護士は、ジョルダーノ氏はこの会議で上院議員として、ボルソナロ政権の支援を受けていると自己紹介したとコメントしていた。

エスタード紙に対してジョルダーノ氏は、パラグアイで行われたANDEとの会合にレロスの代表として出席したことは認めたが、これは、パラグアイの電力公社による公開事業入札に対して関心を表明するものだったと話す。そして、この会議でボルソナロ政権に影響力を持つことをほのめかしたことは否定した。4年前からレロスと取引関係にある整地会社と鉄工会社を経営する同氏は、「ボルソナロ大統領との家族付き合いは全くない。私が出席したのは経営する企業の関心からであり、イタイプー二カ国間水力発電所に関する合意とは無関係だ」と話す。

レロスの経営パートナーで実業家のクレベル・フェレイラ氏も同様に、パラグアイ国内で行われた会合における同社の関心が、電力の調達だったと断言する。「我々は、ANDEのオープンな呼びかけに対して代表者の1人を送っただけのことだ。15分間の会議で、その他の国の財界関係者も参加しており、合意とは何ら関係のないものだった。様々な要因が偶然にも一致しただけだ」と同氏は言う。

カセレス総裁は、ブラジル市場にANDEが参入する可能性があることで財界関係者に不快感を与えはしたが、レロスとの協議では合意内容に関する議論はなかったと話す。(2019年8月2日付けエスタード紙)

 

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