新税の導入案が下院の各党リーダーから批判の集中砲火を浴びた後、ゲデス経済大臣が連邦収税局のマルコス・シントラ局長を罷免。
税制改革案を公式に明らかにしたことのない連邦政府であるが、ボルソナロ政権の発足から9か月を経て、この問題で大統領の経済スタッフ内から最初の犠牲者が出た。
パウロ・ゲデス経済大臣が9月11日、租税の簡略化を目的とした税制改革の交渉が閉塞状況にあるのを打開するため、連邦収税局のマルコス・シントラ特命局長を罷免した。廃止された金融取引暫定賦課金(CPMF)と同様の金融取引に対する課税を基本モデルにした新税導入を支持していたことから批判を浴びたシントラ局長は、これ以前、ジャイール・ボルソナロ大統領による連邦収税局への介入に対する抗議として同局執行部が辞任も辞さないと表明して圧力をかけたことから、政府内でも孤立を深めていた。
シントラ局長の罷免を利用して、ゲデス経済大臣は連邦収税局の組織再編と局執行部の刷新を進める見通し。ただし同局の改革は「その場の思い付き」で進められるわけではない。同局長の罷免は、11日のエスタード紙がオンライン記事で配信した。
シントラ局長の退場で、政府が提案する税制改革からは「CPMFの看板」が取り払われる見込みだ。CPMFを熱狂的に支持するシントラ局長は、税制改革に関する政府の対話窓口になることを下院の各党リーダーから拒否され衝突。上院の各党リーダーと連邦最高裁判所(STF)、連邦会計検査院(TCU)も同様に、同局長を更迭するようゲデス経済大臣に強く求めていた。
後任として税制改革の交渉を担当すると目されているのが社会保障及び労働局のロジェリオ・マリーニョ局長である。同局長は2017年に可決した労働制度改革の担当者であり、年金制度改革を2019年内に上院で可決するよう強く訴えている人物でもある。マリーニョ局長は既に、改革の最終案を準備するための政府作業部会の内々の協議にも参加している。ゲデス経済大臣はこれまでにも、仮にシントラ局長が新CPMFの設立に道を開くことができなければ税制改革の交渉で政府を代表する条件を満たさないと出席者らに伝えていた。
事の発端
シントラ局長の身辺が騒がしくなってきたのは1か月前、ボルソナロ大統領が連邦収税局のリオデジャネイロ地方長官の更迭を求め、家計に対する「無断の立ち入り」監査だと監査官たちを批判したことを受けて連邦収税局役員らが辞任をちらつかせたことからだ。当時、連邦組織において最も重要な機関のひとつである連邦収税局を管理できていないことは、経済大臣にとって明らかだった。
罷免の引き金となったのは、連邦政府の税制改革案の要点についてマルセーロ・シルバ次官補が公式発表を待たずに10日にリークし、下院の各党リーダーらの怒りを買ったことである。
下院では連邦政府の提案書が提出されるのを待ち受け、かつ、改革の主導権を巡って上院と「乱闘」を繰り広げている状況だった。同日夜には、ロドリゴ・マイア下院議長(DEM:民主党=リオデジャネイロ州選出)が経済省に足を運び、ゲデス経済大臣とマリーニョ局長と協議するに至った。
エスタード紙の取材に基づくとマイア下院議長はゲデス経済大臣に対して、金融取引に対する新税の導入に対して公式に反対を表明すると伝えた。この協議前、下院で行われた協議で各党のリーダーらはマイア下院議長に対し、仮に下院議長がリークされた政府の提案に反対する態度を表明しない場合にはあらゆる国会審議が空転することになると伝えた。
罷免前の11日朝、マイア下院議長とダヴィ・アルコルンブレ上院議長(DEM:民主党=アマパー州選出)が、CPMFを復活させるという案を非難した。
非公式な情報を公表する形となった次官補の発言に関してゲデス経済大臣は、当該の改革案に対する国民の理解を毀損したと受け止めた。ゲデス経済大臣はCPMFを否定する立場ではなかったが、その公表方法に問題ありと判断した。
これ以前、CPMFをモデルにした新税の導入に対してゲデス経済大臣は既に賛意を示し、この新税を導入する代わりに給与税の廃止につながり多くの雇用が生まれると主張して大統領からも賛同を得ようと根回ししていた。
罷免前日
罷免前日の夜にシントラ局長は、ゲデス経済大臣とマイア下院議長の協議を待ち受けるために翌11日の始業後数時間の予定をキャンセルした。同局長は既に、次官補が新CPMFに言及し、導入すると認める発言を行ったことで多くの議論が沸き起こり、自身の進退にもかかわってくることを認識していた。
政界やソーシャルネットワーク上では、CPMFの復活を批判する声が広がった上に、批判の矛先はとりわけ、大統領選の選挙キャンペーンを通じてこの税金に反対を表明していたボルソナロ大統領自身に向かうこととなった。
11日にボルソナロ大統領はツイッターで、消滅したCPMFをモデルとする新税の導入という考えがシントラ局長を「罷免に導いた」とコメントした。大統領によるとゲデス経済大臣は、「要請に対して直ちに」シントラ局長を「税制改革案に対する見解の不一致」を理由に罷免した。ボルソナロ大統領は、「CPMFの再導入あるいは増税」という手法は税制改革案から外すという決定が下されたと明らかにした。
見解の不一致
税制改革は、あらゆる面から見解の一致が見られない批判の対象になっており、経済省によるこの問題への対処が雑然と進められていることを示唆している。
連邦政府が提案に二の足を踏んでいる間、上院と下院がそれぞれに異なる憲法改正案(PEC)を提出して先に進んでいる。(2019年9月12日付けエスタード紙)
連邦収税局の組織改編で査察調査部門を分離する可能性も浮上
ジャイール・ボルソナロ大統領とSTF、査察調査を受ける政治家が連邦収税局の組織改革を要求。
金融取引暫定賦課金(CPMF)の新バージョンを導入することに広く反発の声が上がっていることを利用する形で、パウロ・ゲデス経済大臣が連邦収税局のマルコス・シントラ特命局長を罷免し、同大臣が検討してきた税務当局の組織改編プロセスに着手する。
連邦収税局には港湾業務と空港業務、租税の課徴業務に携わる職員がおり、彼らがその業務を停止するだけの交渉能力を備えていることから、この改変は、連邦収税局内で新たな亀裂を発生させないためにも即断実行はしないと見られる。
そこで浮上している案の1つは、税収業務と査察調査業務を切り離すことである。ただし、現時点では何らの判断も下されてはいない。
連邦収税局に対する改革は、連邦最高裁判所(STF)の判事らと、査察調査を受けている政治家らが要求している。同様の圧力は、ジャイール・ボルソナロ大統領もかけている。
2019年8月にボルソナロ大統領は、連邦収税局のマリオ・デホン地方長官(リオデジャネイロ州)とリオデジャネイロ州ポルト・デ・イタグアイー税務署長及びバーラ・ダ・チジューカ税務署長の更迭を決定した。大統領は当時、「彼らはバーレ・ド・リベイラに住む私の家族の財務状況に対する無断の立ち入り調査を行った」とコメントした。
イタグアイー港の連邦収税局関税税務署は、港湾の水際で密輸と違法コピー品、製品価格の過少申告といった不正だけでなく、民間の武装組織の非合法活動や麻薬取引への対策を進める戦略拠点と位置付けられている。
連邦収税局に対する政治任用により、税務当局を統括するより高いポジションにいる税務監査官らはこのように任用が行われた場合に解任されるリスクにさらされている。大量のスタッフが辞表を提出する事態を避けるため、シントラ局長は8月、連邦収税局の「ナンバー2」であるジョアン・パウロ・ラモス・ファッシャーダ副局長を罷免した。
Sindifisco
全国税務監査官労組(Sindifisco)は11日、シントラ局長の罷免後に声明を発表し、特命局長が任を解かれたことが税務当局にとっては「組織の方向を正しく修正する機会」を示すものだとコメントした。同労組によるとReceitaは、歴史的に最も混乱したと数えられる状況のひとつに置かれている。こうした状況に対処するため、「技術的かつ客観的、特定の人の意見に左右されないガバナンス」が求められていると強調した。
さらに声明でSindifiscoは、当局が進める税務監査調査は、社会の期待に応えるための「貴重な資産」になると宣言した。
なお2018年末にシントラ氏が局長に指名された際に同労組は、財務を司る大臣が税務監査官から連邦収税局のトップを指名するという2002年から続いてきた決まりを破るものだと、この人事を批判した。(2019年9月12日付けエスタード紙)