新型コロナウイルスのパンデミックに伴って世界的な景気後退リスクが生じていることを受け市場で通貨の流動性を高めるため、連邦準備制度理事会(FRB)が3月15日、利下げの実施と、諸外国の中銀との協調対策を発表した。これに伴い、FF金利は、年利1%―1.25%から同0%―0.25%に引き下げられた。緊急会議でFRBが利下げを決定するのは、2020年3月だけで2度目。声明でFRBは、今回の経済危機が「短期的には経済活動に対する影響を与え、景気の見通しに対するリスクを発生させる」という認識を示した。
利下げ以外にもFRBは、最大7,000億ドルの国債と長期住宅ローン担保証券の買い戻し、銀行に対する法定準備預金をゼロとする量的緩和も発表した。3月26日から施行する法定準備預金は、財務状況の厳しい法人と家庭に対する融資の拡大につながる。
アメリカのドナルド・トランプ大統領は、「FRBの利下げを喜ばしく思うし、私はこの判断を祝福したい」とコメントした。同大統領によれば、今回の対策に市場は「活況を呈する」だろうという。他方、FRBのジェローム・パウエル議長は、新型コロナウイルスが「相当な経済的挑戦」を意味するとし、生産活動が「ある程度の期間」にわたって低迷する可能性を認めた。別の対策としてFRBは、ドル建ての資金調達オペレーションを維持する目的で、欧州中央銀行(ECB)とカナダ中銀、日本中銀、スイス中銀、イギリス中銀との通貨交換(スワップ)で連携する。一連の取り組みに関してアナリストは、新型コロナウイルスが経済に与える影響を低減する取り組みとして、2008年に発生した国際金融危機に対する対策のような世界の主要な中銀の断固とした取り組みが欠如しているという批判への答えだと受け止めている。
今回の対策に関する最初の反応として、16日号の締め切り時間までにニューヨーク市場の先物指標がおよそ5%低下した。他方、東京証券取引市場は、取引開始直後に0.41%値上がりしたが最終的に1.41%の値下がりを記録した。ノーバ・フトゥラのチーフエコノミスト、ペドロ・パウロ・シルベイラ氏は、「通貨が流動性を維持することは重要だが、株式市場が今の時点で満足のいく形で反応するという保証はない」と話す。
ムーディーズ・アナリティクスのライアン・スウィート・リアルタイム経済担当部長は、アメリカ経済に対するサポートを補完するには財政政策が必要だという考えを示した。アメリカのGDP成長に関してムーディーズは、第2四半期にマイナス成長となるものの年間では+1.3%を記録すると予想している。
Selicの対応
FRBの決定は、中銀通貨政策委員会(Copom)に対してブラジル経済基本金利(Selic)の利下げサイクル継続に対するプレッシャーを高める見込みだ。Copomは、3月18日にこの問題に対する判断を下す予定。ネクトンのチーフエコノミスト、アンドレー・ペルフェイト氏は、「問題を複雑化している要因のひとつは、ブラジル通貨レアルの大幅安だ。中銀には、為替相場のコントロールを選ぶか利下げを選ぶかの判断が迫られる。このふたつを同時に追うことはできないし、外貨準備高を切り崩さずにいられることもなく、現時点で賢明な解決策というものはない」とコメントした。
エスタード紙が50人のアナリストから意見を集めたところ、16日の時点で41人がSelic史上最も利率となっている年利4.25%からSelicの利下げを予想している。この水準は、低い金利となる。この利下げを予想するアナリストの内、21人が0.25パーセントポイントの利下げを予想、別の20人が0.5パーセントポイント以上の利下げもあると話す。また中銀が利下げに前向きあるいは利下げするという考えに懐疑的なアナリストは、わずか9人だった。
Copomが2月初旬にSelicを年利4.5%から4.25%に利下げした当時、2019年7月にスタートした金融緩和サイクルが終了することを示唆していた。だが市場のこうした考えは、FRBが最初の利下げを実施した直後に変化した。
元中銀理事でマウアー・キャピタルの経営パートナーとして0.5パーセントポイントの利下げを予想するルイス・フェルナンド・フィゲイレード氏は、「中銀は、最低でも世界の政策金利の変化に足並みを合わせるだろう」と話す。「ブラジルには、(GDP成長を後押しするための)財政的基盤が極めて限定的だ」という。
ASAバンク取締役で元国庫管理局長のカルロス・カウォル氏は、「最も適切な」判断は0.75パーセントポイントの利下げだと話す。「この水準の利下げが、諸外国の中銀と足並みを揃える対応だ」という。
Copomは45日ごとに会議を開催し、インフレ目標を達成する道を模索してSelicの利率を判断する。2020年の場合、インフレ目標は年率+4%(許容誤差を考慮するとその範囲は+2.5%から+5.5%)である。インフレが抑制されていることから、Copomの最大の懸念事項はGDP成長率の展望である。こちらは、最大で+1.5%と予想されている。ただし、経済省内部ではこの見通しをこれまで+2.4%としており、このほど+2.1%に引き下げた。(2020年3月16日付けエスタード紙)