メルコスールとして共同で自由貿易協定の締結に向け交渉することを放棄してブラジルとウルグアイ、パラグアイが個別に貿易交渉を推進するのを認めるというアルゼンチン政府の判断により、貿易面でメルコスールが断片化するのではないかという懸念が浮上している。
原則として自動車工業は、メルコスールとしての交渉を放棄するというアルゼンチン政府の判断で損害を被ることはない。ブラジル政府とアルゼンチン政府が20年前に署名して以来更新しながら継続している業界向けの特定の合意が存在するためだ。だが舞台裏で業界は、アルゼンチンのアルベルト・フェルナンデス大統領が二国間の自動車協定に対しても同様の一方的な判断を下す可能性があると懸念を強めている。
この二国間自動車協定は、2019年9月の合意が現行のもので、ジャイール・ボルソナロ大統領と当時のマウリシオ・マクリ大統領が署名した。当時はいずれも自由主義を標榜する政権であり、メルコスールが欧州連合(EU)と自由貿易協定(FTA)を締結することを視野に両国の利害を一致させることを狙った条件が盛り込まれた。だがアルゼンチンでは政権が交代し、フェルナンデス政権はFTAの締結や自由主義には無関心である。
現行の協定は、それまでの貿易量の規制をほぼ変更せず維持して2022年6月まで延長することで両国政府が合意したものである。しかも並行して、車両及び自動車部品の二国間貿易で、2029年から輸入税率撤廃を可能にするという長期目標に対する行動計画も定めた。
両国政府と関係する企業は、欧州とのFTAに前もって自動車業界を組み入れるべく整理・組織化することを想定して対処してきた。自動車メーカーと一部の大手自動車部品サプライヤーは、EUとのFTA協定に関心を持っているものの、彼らは常に、南米にある工場をグローバルな市場競争の中で太刀打ちしていけるだけの競争力を確保するためにブラジルとアルゼンチンが様々な改革を推進していく必要があると訴えてきた。
こうした事情から2019年9月6日には、マクリ政権のダンテ・シカ工業生産大臣が、パウロ・ゲデス経済大臣の待つリオデジャネイロを急遽訪問し既に期限切れとなっていた二国間自動車貿易協定の更新につながった。ただし両国には、この協定の更新を急ぐ別の理由があった。同年8月に行われたアルゼンチン大統領選の予備選挙で、キルチネル主義者(ネストル・キルチネル大統領と続くクリスチーナ・キルチネル大統領が主導した大衆迎合主義を支持する政治勢力)の野党が当選確実だということが示されたためである。これを受けて自動車メーカーは、二国間貿易のおよそ50%を占める業界に関連した貿易協定を締結するよう強い圧力をかけた。
当時、ゲデス経済大臣は「経済を開放するという点でブラジルと同じ意欲」をアルゼンチン政府が抱いていることをブラジル政府は確認したと発言した。だがこのシナリオは、新型コロナウイルス(COVID-19)のパンデミックを受けて大きく変化し、アルゼンチンのフェルナンデス大統領が4月24日、同国の国内経済を優先するためにメルコスール加盟国としての交渉を放棄する判断を下したと発表するに至った。
原則論としては、1999年からこの方、アルゼンチンはブラジルとの自動車貿易協定に背くことを希望していない。両国に工場を保有する多国籍企業が自動車業界の中心的なプレーヤーであり、これらの自動車メーカーは長年、両国の国境をまたぐ形でニーズに応じたオペレーションを構築したり解体したりしてきた。
ざっくり言えば、自動車業界の多国籍企業が常に念頭に置いていた計画は、単一のオペレーションで現地生産に照準を合わせてブラジルとアルゼンチンで事業を展開することだった。ただ、景気の変動によって計画した戦略にずれが生じれば、その場合に調整を必要としたのである。従って、業界のこうした理解が守られない場合、アルゼンチン政府は、同国から製造ラインがブラジル側に移動するのを目の当たりにするリスクを負う。
二国間自動車貿易協定でブラジルは、アルゼンチンに1.5ドル相当の製品を輸出するごとにアルゼンチンから1ドルに相当する車両または自動車部品を輸入する必要がある。2019年9月にリオデジャネイロで締結された合意に基づき、ブラジルがアルゼンチンに輸出できる金額の上限を漸増させ、最終的に2029年に3ドルに達した後、自動車業界は自由貿易体制へと移行する。
全国自動車工業会(Anfavea)は取材に対し、「2022年6月30日までに合意が延長されるものと確信している」とのみコメントした。全国自動車部品工業組合(Sindipeças)は、アルゼンチン政府が有効な合意に違反する意思があるという情報は持ち合わせていないと話す。その上で、「アルゼンチン政府の立場は、現時点ではメルコスール域外の国々との新たな貿易協定を締結しないというものだ」という認識を示した。(2020年4月28日付けバロール紙)