PwCブラジルのレポートによるとブラジル国内で2020年8月に112件の合併と買収(M&A)が実施された。これらは不況と事業の継続を主な理由にしており、成長戦略に基づくものではなかった。
新型コロナウイルス(COVID-19)のパンデミックによって引き起こされた経済危機の最悪期が過ぎ、法人の取引減少に加えて事業の再編や財務のリバランス、競争力の維持など、この間に浮上してきた課題に対処する必要性が高まったことを受け、国内では、過去に例を見ない件数の合併と買収(M&A)につながっている。その結果、2020年8月にブラジル国内では、件数ベースで前年同期比+65%となる112件を記録した。前年同期のM&Aは、68件だった。エスタード紙が独占的に入手したコンサルティング会社PWCブラジルのレポートで示されたもので、8月の件数としては、おおよそ過去20年で最多のペースだったという。
一般的にM&Aは、そのベースに事業の成長を視野に入れて計画される。だがPWCブラジルの経営パートナーであるレオナルド・デローゾ氏は8月のM&Aについて、企業が自社の生き残りに主眼を置いていたと説明する。
「企業は、生き残りをかけて戦略的に取り組む必要から、M&Aに動き始めた。もはや以前のように、より大きく成長するとかより投資を拡大するとかいった理由で実施する戦略的な取り組みではなくなっている」と同氏は話す。その上で、「企業は事業の一部を売却することで経営に資金を投入できるパートナーの資本参加を受け入れ、多くの場合は資産の一部売却を通じて断行される構造的なコストの大幅削減に向け、何らかの法人と合併することを余儀なくされた。企業として生き残り、パンデミック後には成長路線に復帰する道筋をつけるための戦略的な取り組みが始まったのだ」と付け加えた。
結果として、その数か月前にはブラジルで発生したパンデミックにより打撃を受けていたM&A市場が、8月には再び活発化するという傾向を示した。
「収入不足という事態に直面したこれらの企業の多くが、自社の事業を再編する必要に迫られた。支払いを停止し、内部留保の保全に努め、人員を削減し、労働時間の短縮に踏み切り、営業を実質停止してサプライヤーに対する支払いもストップした。その結果、事業の継続にリスクが生じ始めているのだ。内部留保を確保していた大企業は、この期間に現金預金を切り崩し続けた。そして内部留保を確保していなかった企業に残された解決策は、負債を再交渉するか、あるいは端的に廃業するかだった」とデローゾ氏は言う。
8月の件数が後押しする形となりブラジル国内のM&A件数は、2020年の1―8月に595件を記録、この期間の最高記録を塗り替えた。デローゾ氏は、M&Aが年末までに1,000件を上回ると予想している。2019年のM&Aは912件で、年間としては過去最高件数を記録していた。
M&Aのプロフィール
2020年1―8月に国内の投資家によるM&Aは、前年同期比+24%で過去最高の426件を記録した。他方、外国人投資家によるM&Aは151件で、前年同期を4%下回った。世界規模で影響を与えている現在の経済危機の特徴から、外資系の企業グループは、それぞれが基盤を置く市場で困難に直面していると、デローゾ氏は話す。結果としてこれらの企業グループは、既に事業網を構築している国、あるいは事業を展開済みの国への対処を優先している。
なお、地域別に見るとブラジル南東部に、8月までに発表された2020年のM&Aの66%が集中している。件数としてもこの地域のM&Aは前年同期比+16%を記録した。中でもサンパウロ州は、1月から8月にかけて行われたM&A全体の過半数(52%)が集中している。(2020年10月14日付けエスタード紙)
【スタートアップへの投資がM&Aを牽引】
国内の合併と買収(M&A)において、IT業界は少なくとも過去5年、件数ベースでトップを走る業界だ。2020年の場合、1月から8月にかけてこの業界のM&Aは222件を記録した。PWCブラジルの経営パートナー、レオナルド・デローゾ氏によると、「その多くがスタートアップ、つまりエンジェル投資だ」という。
ユーロファルマの国内向けファンド、ニューロン・ベンチャーがこのほど、サンパウロ州ヴィニェード市のスタートアップ、ジャストフォーユーに投資した。同社は、顧客向けにパーソナライズされた製品の開発にAIを活用する。ユーロファルマのエルトン・ピニェイロ・デ・カルヴァーリョ起業及びデジタル事業担当理事は同ファンドの状況について、「常に何らかの『デューデリジェンス』を実施している。現時点で3社あるいは4社を評価中だ」とコメント。
投資に対して400万レアルを上限としているニューロン・ベンチャーは、2020年に入ってからだけでも、ピシコロジア・ヴィヴァとロック・コンテントに投資している。
ヘルスサービス業界では、サビン・メジシーナ・ジアグノスチカ・グループが7月、健康管理ソルーションを提供するスタートアップ、プロントメジ資本の12%を買収してクリニックと病院、製薬会社、保険会社を統合している。サビン・グループのリディア・アブダラCEOは、「2020年が、これまで実施してきた買収で統合を進める1年になると受け止めている。過去2年で(買収したのは)9社だ」という。(2020年10月14日付けエスタード紙)