サンパウロ大学(USP)イノベーション観測センターのコーディネーターがブラジルの脱工業化について、早すぎるタイミングで、かつ急速に、業界が労働者に再研修を施す余裕を持てないままま進んでいると話す。
サンパウロ大学(USP)イノベーション観測センターのコーディネーター、グラウコ・アルビックス氏は、ブラジル国内の脱工業化が早すぎるタイミングで、かつ急速に進んでおり、これが企業のイノベーションと再研修による新たな技能の習得を難しくしていると話す。同氏によるとブラジルでは、あらゆる人を新技術のウェーブに乗せるべく「実力行使を伴うキャンペーン」を実施していてしかるべきだったという。GDPに生じた空白地帯をサービス業が埋め合わせる形で勢力を拡大したとしても、「所得のピラミッドにおいて中間層と下部層が占めるシェアが急激に減少するだろう」と同氏は指摘した。
【エスタード紙】脱工業化の新しいウェーブがブラジルに押し寄せているのでしょうか?
【グラウコ・アルビックス氏】相当以前から、雇用だけでなくGDPにおける比重という観点でも、世界的に工業への依存を縮小させるという一般的な動きがあった。問題は、発展途上国においてはこの縮小の動きが加速しているという点だ。「中所得国の罠」を克服できずにいるのが、これらの国々だ。成長した国々は基本的な足場を獲得はするが、それ以上に前進できず、道半ばで足踏みする。
【エスタード紙】それが、ブラジルの凋落なのでしょうか?
【グラウコ・アルビックス氏】ブラジルは、エコノミストが「早すぎる脱工業化」と特徴づけた状況にあり、しかもそれがより急速かつ激しい形で進んでいる。ヨーロッパとアメリカは、製造業をサービス業に転換するのに長い時間をかけた。だがブラジルでは、脱工業化が急速に、それも再研修して新たな技能を身に着けるのに適した条件もないまま、機能不全の経済を生み出しているのだ。企業と労働者の一部は時流を受け止めているが、残りはそうではない。従ってハイブリッドな状況であり、それが製造コストに現れている。私が見るところそれは、実業家が回収できない本当のブラジル・コストなのだ。実業家らは税金問題とインフラ問題について話すばかりだが、この機能不全は、競争力に大きな影響を与えているばかりか先端産業が存在しないためにそのコストがブラジルの足手まといになっているのだ。
◆中所得国の罠 「発展途上国において、(工業の)凋落は非常に加速している。これらの国々は、『中所得国の罠』と呼ばれる問題を克服できずにいる。成長することで各国は基本的な足場を獲得はするが、それ以上に前進できず、道半ばで足踏みするのだ」。
【エスタード紙】今回フォードのケースはこの脱工業化プロセスの背中を押すものでしょうか?
【グラウコ・アルビックス氏】今回の動きは、3つの点で説明できる特異な状況に立たされている自動車産業に対し、非常に強く影響するものだ。第1点は、石油に軸足を置く産業の著しい凋落だ。社会と、さらに企業の一部でも、石油の消費量を削減せざるを得ない行動の変化がある。これはブラジルに大きな影響を及ぼす。なぜなら、岩塩層下の石油資源に対する期待が、当初に想定されていた水準を下回ることになったからだ。第2点は、持続的で包括的な取り組みに関する議論で、これは、産業がその代替となる解決策を見つけ出せていない。そして第3点は、導入が困難だという大きな課題を抱える、工業を侵食する新技術の問題だ。一方には、伝統的な産業と一切関係のない業界でチャンスを切り開いている技術も存在する。だが、フォードと同じく特異な状況に置かれている他の自動車メーカーに関して言えば、国内市場は大きく、またそれが切り札の1枚でもあることから、雪崩を打ってブラジルから撤退するという影響を与えると私は考えていない。
【エスタード紙】工業において技術の変化がどのような重みを持つのでしょうか?
【グラウコ・アルビックス氏】あらゆる工業分野で企業にポジショニングの見直しを求める技術が誕生しており、いずれの業界でも生産と管理、マーケティングを進める手法には問題が提起されている。だが、どのような影響が出ているのかは業界ごとに異なる。
【エスタード紙】新しい産業はどのような姿になるのでしょうか?
【グラウコ・アルビックス氏】世界中で想定されていて、またブラジルにおいても同様に予想されている方向性としては、GDPに占める工業の比重が縮小するというもので、かつその比重はさらに縮小し、コンパクトで、より革新的で雇用もわずかという、国にとっては悲観的なものだ。だが経済の刺激という観点からは、引き続き重要な役割を担うことになる。工業は自力で今一度、産業革命を起こさなければならないが、それは大きな困難を伴う。
【エスタード紙】どのような形なら可能でしょうか?
【グラウコ・アルビックス氏】誰もが全ての水準で新技術のウェーブに乗るため、実力行使を伴うキャンペーンを進めるべきだ。産業の近代化と新技術の習得促進に対する非常な努力が求められる。国際協力プログラムを推進することで、このプロセスがより先を行く国々から学び、技術の習得を動機づけし、企業が大学にアクセスするのを容易にできる。そのインセンティブの一部では、費用の負担を求められるとしても、それ以外はそうならない。
【エスタード紙】工業が空洞化した部分をサービス業が埋め合わせるのでしょうか?
【グラウコ・アルビックス氏】それは国外で想定されている筋書きだ。
【エスタード紙】しかしサービス業の雇用は、一部の工業で求められるような高い技能を必要とするものではありません。
【グラウコ・アルビックス氏】一部はそうだろう。まさに、シリコンバレーで起きているようなテクノロジーに関係したものは。しかし雇用のピラミッドにおける中間層と下部層の所得の比率は、劇的に縮小するだろう。我々が住まうのは、労働市場の格差が次第に広がるというブラジルだ。それは解決するのが困難な、経済の構造的な問題だ。それは教育制度と職業訓練を通じて雇用の機会を提供して解決に向け取り組むことはできても、それでこれらの人たちがより良い職を見つけ出せるという保証はない。アメリカとドイツ、日本のような国でさえ、平均的な労働者の所得は下がっている。(2021年1月17日付けエスタード紙)