(写真)連邦最高裁判所のジアス・トフォリ判事
連邦最高裁判所(STF)は5月6日、賛成9票反対2票の評決により、国立工業所有権院(Inpi)が付与した特許権の存続期限延長を認める規定を破棄する判断を下した。STFは同日午後、1996年から施行されている工業所有権法に対する連邦検事総局(PGR)の申し立てを受けた訴訟の審理を再開、評決した。現実的な影響としてSTFの解釈は、特許権の存続期限の短縮につながるもので、工業全体、とりわけ製薬業界と化学業界、バイオテクノロジー業界といった巨大な市場に影響を与え得る。
STFの判事らは今後、今回の解釈をいつから適用するかを定義する必要がある。例えばSTFは、本件の担当判事であるジアス・トフォリ判事が主張するように、特許権の存続期限が既に延長されたものにも対象を拡大して適用するかについても明示する必要がある。この問題は、次回、5月12日の審理で検討される見通しだ。
工業所有権法に従えば、特許は、Inpiに申請(出願)された日から起算して15年から20年の権利の存続期限が付与される。この存続期限を過ぎると、ジェネリック医薬品やその発明を利用した設備、その他の後発品を自由に作ることが認められる。
論争は、同一の法律でInpiによる特許の権利承認という別の起算日を設けて発明の場合は10年、実用新案(何らかの既存の発明の新たな取り組み)は7年を、それぞれ下回ってはならないと定めていることに関連して展開されている。特許権の存続期限に関してInpeが明白な存続期限を設けていないという点で特許権の保護がいつ終了するのか知る方法がないことを意味し、結果的に多くの発明は、ブラジル国外の世界的な標準機関である20年を超えて保護される状態にある。
エジソン・ファキン判事は「工業所有権の行使が権力の乱用につながることがあってはならない」とコメント。その上で、「消費者は、当該の製品あるいは一方的なモデルに新参者がいつ登場するのかという見通しがないまま、価格あるいは製品の取得の可否を独占的な権利保有者が定めるがまま無期限に縛り付けられてよいわけがない」と付け加えた。
既定の破棄を決定づける6人目の賛成票は、カルメン・ルシア判事が入れた。同判事は評決に当たって、「一時的に特権を与えるという理念に反して、この機構がそれを無期限にするという矛盾した状況を生み出すことが実証された」と指摘した。
さらにリカルド・レバンドウスキ判事も評決で、一連の審議で特許権の存続期限の長期化における「完全に機能不全かつ不適当」な状況を暴露したと評した。「それ(当該の機構)は、我が国の貧困と技術的な遅れの克服を困難にし、ブラジルの発展に寄与せず、公権力及び消費者に負担を与え、多国籍企業が自国どころかその他の国においても達成できないような恩恵をここで確保するのに寄与するのだ」と発言した。
健康問題
77ページに及ぶ長大な評決文でトフォリ判事は、今回のSTFの解釈によって今後は、特許権の存続期限はあらゆる製品に対して、いかなる状況においても、もはや延長はできないのだという解釈への支持を表明した。言い換えるならば、特許権の存続期限はInpiへの出願日から起算して20年に限定される。
ただしトフォリ判事は、ブラジル国民の治療に当たって統一保健システム(SUS)が巨額の費用をつぎ込んでいることを考慮するとSTFの判断は、医薬品及び医療機器の場合に限って遡及適用すべきだという認識を示した。その意味で本件の担当判事の意見に基づけば、既に20年を上回って延長されてきた特許権の存続期限は、保健分野に関連した特許権に限り消滅することになる。トフォリ判事によると、20年以上にわたって特許権の存続期限が保持されてきた医薬品分野の特許は、2021年末時点で3,435件に達する。本件の担当判事が希望しているように、STFの判事らは、STFの判決が医療分野のこれらの延長済みの特許権にまで及ぶのかどうか、規定する必要がある。
また本件の担当判事は、「新型コロナウイルス(COVID-19)が出現したことで公的医療の緊急事態という特徴を持つ非常事態の中で我々は、医療向けリソースの枯渇という状況に立たされており、理性的かつ効率的、そして健康に対する権利、生活に対する権利の実現により良く供するよう対処が求められており、この状況と公共医療システムが被る莫大な金銭的負担という状況、保健分野で行使される特許権の特定の状況において、社会的利益に対する寄与が疑わしい規定を完全かつ即刻に解決することが望ましいと私は考える」と、強調した。
PGRによると、既に存続期限延長が認められた特許権のリストには、腫瘍やHIV、糖尿病、ウイルス性肝炎の治療薬など少なくとも74の医薬品が含まれている。PGRのアウグスト・アラス連邦検事総長は、「それだけにとどまらず、日本の製薬会社が独占的に生産している医薬品でブラジルでは既に特許権が存続期限切れになっているはずのものが2023年まで延長され、COVID-19の治療効果が科学的な研究段階にある処方箋(ファビピラビル)も存在する」と話す。
特許は、特定製品の経済的利用における独占権を保証することでそれを発明した企業と発明者に一時的な特権を保証するためのものである。連邦会計検査院(TCU)の報告によると、2008年から2014年にかけて、医薬品のほぼ全てで特許権が、20年を上回る存続期限の延長措置を受けた。さらにTCUによると特許によって保護された医薬品の特許権の存続期限は平均で23年であり、最終的に29年あるいはそれ以上にわたって維持された特許権が失効するのが一般的である。
リスク
特許権の存続期限の延長規定の廃止に賛成する同僚らと異なり反対意見を表明したルイス・ロベルト・バローゾ判事は、問題の本質は特許権を承認するまでのInpiの対応の遅さにあると指摘、今回の判決が与える結果について警鐘を鳴らした。「我々がここで審理していることのすべては、Inpiが(特許申請の審査に)何年も要していることに起因するのだ。意図とは真逆の影響を引き起こしかねない、いくつかの本当の懸念がある。(工業所有権に対する)保護が不十分だと見なされるなら、医薬品の国内生産を達成する代わりに、ここで生産はされずコピー品を製造するか輸入国になってしまう」とバローゾ判事はコメント。
さらに同判事は、「25年前から機能している本機構に対して、確実性よりも多くの不透明性をもたらすこと、本案件を審議し決断するのは立法府が適任だということ、解決策は発明者の独占性を縮小するのではなくむしろ発明の出願を受け付けるべき機関の効率を高めるべきだということ、憲法に違反しているのは特許権ではないということを考慮し、私は、反対意見を表明する」と、見解を示した。
STFのルイス・フックス長官は、規定の破棄には「深刻なシステミック・リスク」が存在すると評価する。さらに、「契約が破棄され、投資家はこの(法律の一部に対する)違憲判断に驚かされるだろう」という認識を示した。
反響
消費者保護の専門家でファルマブラジル・グループの代表を務める弁護士のマルクス・ヴィニシウス・ヴィタ氏は、今回の判決の結果について「ブラジルの特許権にとって重要なマイルストーンになる」と位置付ける。ファルマブラジルは、ジェネリック医薬品の製造に照準を合わせた製薬グループである。
同氏は今回、「すぐさまジェネリック医薬品を爆発的に増加させ、公共支出を削減し、あらゆる市民に基本的権利、医療に対するより大きなアクセスを可能にすることから、今回の決定は、とりわけ保健分野において、大きな社会的影響が出る」という認識を示した。
他方、商法を専門とする弁護士のチアゴ・ド・ヴァル氏は、あらゆる投資計画が想定していた状況が突然変えられたとことを考慮すると、今回の判決が製薬業界に打撃を与えると話す。
さらに、「今回の問題は、警鐘を鳴らすものだ。Inpiに対する出願された特許申請を迅速に審査する能力を欠く非効率性のために、国会がこれを構造的かつ法的安定性を保って改正する能力を欠いていたために、裁判所が直接的かつ突然に、業界に影響を与えることになった」という見方を示した。(2021年5月6日付けエスタード紙)