新型コロナウイルス(COVID-19)のパンデミックで感染者の命を救う人工呼吸器の製造台数を急速に引き上げることに、ブラジルが苦慮している。大きな課題のひとつが、これらの人工呼吸器の製造で使用される基幹コンポーネントの不足だ。こうしたコンポーネントのひとつが、国外のわずかなサプライヤーしか製造していない各種のセンサーとバルブである。これらの部品の調達が、ブラジル国内外で人工呼吸器の製造台数を引き上げる際のボトルネックになっている。
連邦政府は、これらの部品の調達という国家的な緊急事態に特使も派遣してサプライヤーへの対応に当たっている。また連邦政府は国防省の参加も仰ぎ、投入財を国外から輸送するために軍用機を使用する可能性についても協議した。科学技術省は現在の状況について、これらの投入財を製造する国外のメーカーが国際的な需要の高まりで売り手市場となっている状況を利用していると受け止めている。
サンパウロ大学技術調査研究所(IPT/USP)の電子光学機器研究室で主任を務めるアントニオ・フランシスコ・ジェンチル・フェレイラ・ジュニオル氏は、人工呼吸器(あるいは肺換気装置)の国産化比率は、半分以上のコンポーネントを輸入しているために全体として低水準だという。
保健省は過去数週間で1万4,000台の人工呼吸器を国内に製造設備を持つ企業に発注した。全体としては3件、マグナメジとKTK、インテルメジとの総額6億5,800万レアルの契約。90日後から納入が始まるが、問題は、使用するコンポーネントだという。
同省が4月7日に最初に交わした契約はマグナメジと交わしたもので、3社の中では最大規模(3億2,250万レアル)。マグナメジは、出資者にクリアテックとBNDESPar(BNDES持ち株会社)、ヴォックス・キャピタルがおり、経営権は3人の創業者が保有する。
同社によると、パンデミック危機が発生する以前、同社はサンパウロ州コチア市の工場で月間190台から200台の人工呼吸器を製造し、2019年の売上は4,800万レアルだった。また製品の一部は輸出していたという。
今回の緊急契約に伴い、マグナメジは、電子機器の組み立て会社でシンガポール資本のフレックスと組み立ての委託契約を交わした。フレックスは、旧名称をフレックストロニクスと言い、サンパウロ州ソロカバ市とサンパウロ州ジャグァリウーナ市、アマゾナス州マナウス市に工場を保有する携帯電話やパソコン、サーバー、支配端末、オートメーション産業用部品、ソーラーパネルなどの電子機器の組み立てを専門とする企業で、従業員数は1万人超。同社は、KTKとインテルメジとも、組み立ての支援で契約している。
これにより、マグナメジが受注した6,500台の内5,700台をフレックスがブラジル国内で製造する。製造ラインを適応させ、組立工はマグナメジが訓練する。ただし、コンポーネント不足に直面してフレックスは、マグナメジ向けの人工呼吸器の製造に着手していない。そのため、これまでのところ、試験的な製造にとどまっている。ただしフレックスは、コンポーネントの調達問題さえなければ従業員数を500人まで生産体制を増強可能だとしている。
他方、マグナメジのコチア市工場では、すでに月間600台まで製造を拡大中だ。だが同様に、コンポーネントの調達という課題に直面している。
こうした状況を受けてスザノ製紙がマグナメジに対し、回転資本の拡大と輸入の迅速化を支援するため、1,000万レアルを融資した。
しかしながら、半額を前払いするという条件を付けてもスイスのノルグレンは、大量の受注を受けていることでマグナメジへの対応には限界があり、同社が求める納期にすべての製品を納入できないと伝えてきた。結果として部品の納入は散発的に、4月から8月にかけて行われる。
国際的なサプライヤーの1社、ノルグレンは、契約時に契約額の50%を先払いするよう求めている。同社は、人工呼吸器につながれた患者に供給する酸素の量を調節する精密バルブを製造している。
別のサプライヤーは、アメリカのハネウェルで、同様にマグナメジに対して、受注した(酸素の圧力と流量、濃度を計測する)センサーのロットの出荷を5月10日に予定していると通知してきた。楽観的なシナリオを想定した場合、このパーツは、5月20日過ぎにマグナメジに届けられる。
アメリカ企業のパーカーも人工呼吸器のコンポーネントのサプライヤーとして、国内メーカーとブラジル政府の検討候補に浮上してきた。
15か国からなる閣僚級の会議に参加したマルコス・ポンテス科学技術大臣によると、会合では、医薬品と試薬、医療機器の製造が一部の国に集中していることが議題に上がったという。この会合では、現在のような状況下でこうした集中が問題になると確認された。「問題は、これらの製品に対する地球規模の需要に生産が追い付いていないことだ」と同大臣はコメントした。
1万4,000台の人工呼吸器を調達するこの3件の契約以外にも、科学技術省が中心となって数週間前から、人工呼吸器の製造を専門とする企業と他業種の製造業大手とが協力するネットワークを構築した。
同省によると、様々な実験段階にある50件以上のプロジェクトが存在する。60日でさらに3社か4社、純国産技術で問題を解決する新たなサプライヤーが登場すると受け止めているという。
ただし、他の機器を製造していたラインを人工呼吸器用に転換するのは容易ではないと科学技術省関係者も認める。医療機器であるため、その製造には特定の無菌プロセスが必要で、製品にはセンサーと精密バルブの複雑なシステムが組み込まれ、国家衛生監督庁(Anvisa)の承認、国外のサプライチェーンの管理といった様々な要素が絡み合う。科学技術省は、3か月から4か月で、輸入されたコンポーネントに依存しない肺換気装置が開発されると予想している。
電動モーターの製造で知られるWEGも、500台の人工呼吸器の製造に向けて準備を進めている。同社は、こうした機器の製造に関する専門知識を得るため、ライストゥング・エキッパメントスと提携した。ライストゥングは、国内に製造拠点を持つメーカーの1社であるが、WEGアウトマソンのマンスフレッド・ペーター・ヨハン・サプライ担当取締役によると、ここでも問題は輸入コンポーネントの数量だと明らかにした。
「この種のコンポーネントに対して世界的な需要が極めて大きく、メーカーも大量の受注を抱えているだけでなく納期も極めて限定的な状況だ。現在、これらのメーカーは納品までに45日から60日を求めている。そのため、今回のロットである500台の人工呼吸器を製造するのに、必要となるすべてのコンポーネントを発注した。5月下旬から納入を受けると予想している」と同取締役はコメントした。
メルセデス・ベンツも、サンパウロ州サン・ベルナルド・ド・カンポ市の工場で肺換気装置を製造している。リカルド・ボッシアルディ産業エンジニアリング企画担当取締役によると、同社は、よりシンプルで患者の輸送時に使用できるマウアー研究所が設計した肺換気装置のプロジェクトを採用した。この装置は、自動車産業のコンポーネントを使用する。同社は、製造プロセスを評価するため、保健分野のパートナーを探している。
ポンテス科学技術大臣はこうした一連の経験について、ブラジルにおける科学面、生産的能力面での能力を示すものだと話す。その上で、新たな健康への脅威が発生した場合に備え、他の製造ラインを新たな医療機器や医薬品の製造に振り向ける、製造ラインの応急転換に関する非常事態対策計画を策定する必要があると指摘する。 「次にパンデミックが発生するかどうかが問題なのではなく、確実に発生するそれがいつなのかが問題なのだ」と同大臣は付け加えた。(2020年4月28日付けバロール紙)