訴訟を通じて企業が、契約の再交渉に成功している。不動産の賃貸料の減額や債務償還義務の一時的な凍結、中には持ち分の買収問題にまで、裁判所が支払い条件の緩和を認める判断を下している。法官らは、新型コロナウイルス(COVID-19)のパンデミックにより引き起こされた危機的状況の中、司法の介入が不可欠だと受け止めている。そのひとりが、現在の状況を戦争状態になぞらえたサンパウロ司法裁判所(TJ-SP)のセーザル・シアンポリーニ首席裁判官である。
経済的・社会的な危機的状況で司法に訴えるケースが増加しているのが、パンデミック状況下で支払いを凍結あるいは減額することを求めた賃貸契約に関する訴訟である。ただしこの問題に関して司法は、統一的な見解を示していない。少なくとも5件の判決が下されているが、この内3件で裁判官は賃借人の主張を認める判決を下した一方、2件では訴えを退けており内1件が控訴中。
TJ-SP私権第36裁判官執務室で4月7日に宣言された判決で、首席裁判官は、ある自動車ディーラーが提示した、4か月にわたって事業所の不動産の賃貸料を凍結するという訴えを退けた。この企業は訴訟において、公権力が判断した検疫隔離措置によって事業活動が停止していると訴えた。
判決で、アランテス・テオドロ首席裁判官は判決文で、「不可抗力あるいは偶発的な事態である場合、実定法が双方に契約を解決する、あるいは履行すべき実質価格を再適応させる調整する基礎的権限を認めるが、単純に義務の履行を停止するものではない」と意見した。その上で、「それに加えて、法律は、債務者の請求によってモラトリアム(債務償還義務の一時的な凍結)を確立する権限を裁判官に与えていない」と指摘した。
首席裁判官はさらに、賃貸料のモラトリアムは、パンデミック状況下における緊急司法制度及び私権の一時的関係を規定する法案第1,179/2020号(Projeto de Lei nº 1.179/2020)に盛り込まれることになったが、「まさに不都合であるどころか司法制度とも両立しないという理由から」削除されたと強調した(訴訟番号2063701-03.2020.8.26.0000)。
その他の賃貸契約に関する判断も、いずれも一審の判決である。そのひとつは商業スペースの賃貸額の見直しを求めたもので、サンタ・カタリーナ州裁判所が賃借人の訴えを退けた(訴訟番号5001853-72.2020.8. 24.0079)。外に、サンパウロ市民事裁判所第22法廷でも、レストランに賃貸契約で定めた賃貸料の30%を支払うことを認める判決が下されている(訴訟番号1026645-41.2020.8.26.0100)。
サンパウロ市では外にも、民事裁判所第28法廷が自動車ディーラーの訴えを認めて16店舗の賃貸料の支払いを凍結することを認めた。この判決により、総額で月間100万レアル以上の賃貸料の支払いが停止する(訴訟番号1027402-35. 2020.8.26.0100)。またカンピーナス市では、第8民事法廷で貸借人の訴えを認める判決を下している。これは、ショッピングセンターに店舗を構えるレストランの訴えを認めたケースとなる(訴訟番号10108 93-84.2020.8.26.0114)。
KLA法律事務所のタイーザ・オリヴェイラ弁護士は、賃貸契約がそうであるように、義務が当事者間の一方にのみに適用される場合にはその当事者はその履行を減額するよう主張する余地が認められると民法第480条は定めていると話す。裁判所で判断が分かれているものの、同弁護士は、合意をまとめるよう示唆するものだと確信している。その合意について同弁護士は、「賃貸料を支払い可能な金額に、それが双方にとって過剰なものではない範囲となるように」と付け加えた。
セーザル・シアンポリーニ首席裁判官は、ある企業の持ち分の買収に関連した判決を下した。判決に当たって同首席裁判官は、民法で定める予測不能性理論を考慮し、異常時と想定される状況下で契約の撤回あるいは見直しが起こりえると認めた。「戦時下においては、ムタイス・ムタンディス(変えるべきものを変えるという意味のラテン語)であり、コロナウイルスのパンデミックに直面している状況下では、まさにそうあるべきである」と判決文でコメントした。
同首席裁判官は、COVID-19の拡散を防止するために講じられている対策により生じている財務上の影響に注目し、この状況下では、債権者と債務者のバランスをとるために介入する必要があると強調した。「パンデミック対策は正しいものであるが、既に、大部分の人々に甚大な金銭的打撃を与えており、法人のビジネスの脅威になっており、法人に与える影響は司法により審理を受けることになる」と意見した。
この訴訟は、食品業界の企業の持ち分の買収に関連したものである。経営パートナーの2人が意見を異にして事業から手を引く判断を下した。2月になってこの2人は、持ち分の譲渡契約に署名。一方が会社の経営を引き継ぐ判断を下し、12万5,000レアルを25か月の分割払いで支払う契約を交わした。しかしながらCOVID-19のパンデミックと検疫隔離措置により店舗は営業の停止を余儀なくされ、会社の売上もなくなった。この支払いをめぐって訴訟となったものである(訴訟番号2061905-74.2020.8.26.0000)。
ただし複数の弁護士が、訴訟が最良の解決策とは受け止めていない。ビゼウ法律事務所のパウロ・バルデッラ弁護士は、銀行で40件の契約の見直しを扱っているが、そのすべての契約で既に見直された契約への署名を終えているか署名するところだと話す。その多くは賃貸契約に関するものだが、企業の売買に関するものや融資に関するものもあるという。「当法律事務所の顧客のいずれもが、訴訟を必要としていない」と同弁護士はコメントした。
同弁護士は、現在の状況を根拠に当事者の一方が契約の再交渉を求めるだけでは不十分だと話す。このケースに関して再交渉を求める当事者はその根拠の証明、とりわけ損失を計上していること、それ故に契約で定めた義務を履行できないことを証明しなければならないと同弁護士は指摘する。「そうでなければご都合主義だ」とバルデッラ弁護士はコメントした。(2020年4月9日付けバロール紙)