国際的な緊張が高まるムードの中でもブラジルは成長に大きな将来性を備えている。ただし、成長の達成には各種の改革を継続していく必要がある。
2020年がオクタン価の高い1年になることに疑いを持つ人が仮にいたとすれば、そのような人たちには48時間で終止符が打たれたはずだ。1月2日に米軍の攻撃でイランのカッセム・ソレイマニ司令官が死亡し、世界の金融市場を揺るがす両国の緊張関係が高まり始めた。ブラジルでは、この緊張関係によって証券取引市場が値下がりしただけでなく外国為替相場もドル高レアル安が進み、燃料価格とインフレ、政策金利の動向に疑念が生じはじめた。これらは全て、1月10日以前のことだ。地政学的な緊張は常にブラジル人の財テク資産に影響を与えてきたが、それでも2020年にこの問題が与える影響は、とりわけ、変動利回り商品に投資する170万人、すなわち2018年の投資家人口の2倍に達した人たちにとって重くのしかかってくる。2020年は、株式市場に投資する投資家が増加し続けると見られている。そして確実なことは、経済と政治の方向が、これらの投資ポートフォリオとその他の投資家全員に干渉するという点だ。つまりそれはマーケットが、とりわけ世界的規模の不確実性の影響を受ける1年になる傾向を示している。
ブラジルは、こうした緊張の高まる環境下にあっても、大きな将来性がある。経済成長が加速し、金利も引き続き史上最低水準で維持されると見られる。今回の特集でエザメ(EXAME)誌がインタビューした金融市場の60人の人たち(アナリストとファンドマネージャー、ファイナンシャルアドバイザー、エコノミストなど)の意見を平均すると、このような見通しは大きな投資機会につながる組み合わせである。元中銀理事でファンドマネージャーのマウアーの経営パートナーであるルイス・フェルナンド・フィゲイレード氏は、「世界が深刻な景気後退期に入らない場合、ブラジルが受ける影響は小さいか何も影響を受けないし、何かひとつのまっとうな理由に影響されるのではない。我が国の金融市場は重要性が低くとても貧相だからだ」という。エド・クチマ氏は、世界最大のアセットマネージャーで7兆ドルを管理するブラックロックでラテンアメリカの株式ポートフォリオの責任者である。「過去数年、ブラジルの成長に関して大きな期待が生じてはすぐに落胆に取って代わられてきた。この観点から見ると、もしブラジルが必要とする構造改革が国会で可決されれば、国内総生産の高い成長の礎になるだろうし、それが再び外国人投資家を引き付けるだろう」とクチマ氏はコメントした。
予測される不安定要素の中心の中でも中心となるのは、アメリカの大統領選挙である。アメリカ経済は、仮に共和党のドナルド・トランプ大統領、あるいは民主党の元ニューヨーク市長のマイケル・ブルームバーグ氏のような反市場主義の候補者が選出された場合には恩恵を受けるだろう。左派のバーニー・サンダース上院議員、あるいはエリザベス・ウォーレン上院議員のような人物が当選する可能性を高めるなら、ボラティリティーを高める可能性がある。事態が切迫していることで、少なくとも2021年から誰がホワイトハウスを主導していくのかが判明するまで、アメリカと中国の貿易戦争は後回しされる政策として扱われる。その結果、中国政府には、金融バブル対策と重点分野の開発促進など、経済分野の重要な調整作業を進める時間的余裕が生まれる。中国は2020年に6%をやや下回る経済成長が予想されている。一方でイギリスは、欧州連合(EU)からの離脱に向けた準備を進める間、新しい多国間協定をまとめる取り組みに時間を奪われる見込みだ。
ブラジル証券取引所(B3:Brasil Bolsa Balcão)のデータによると、変動利回り商品市場から引き揚げられた外国人投資家の資金は、2019年に85億レアルを上回った。反対に、国内の投資家がより大きな役割を担うようになり、個人投資家の人数は2018年のほぼ2倍の水準となる170万人に拡大した。年間を通じてこれらの投資家は、900億レアルに達する42件の新規株式公開と増資に参加するチャンスを得た。ブラジル金融及びキャピタル市場機関協会のデータに基づくとこの規模は、2010年に次ぐ史上2位となる販売規模である。
B3のジルソン・フィンケルステン社長は、「2020年について当市場は、発行株式の規模ではなく発行数の増加を予想している。それは、当市場が中堅企業の上場にインセンティブを与えるのを計画しているからに他ならない」という。年間の累積でサンパウロ平均株価指数(Ibovespa)は31.6%の値上がりを記録しており、値上がりが今後も続くだけの勢いがある。複数の専門家が、経営が国内市場との結びつきの強い企業の株式を中心に値上がりしてIbovespaが2020年末時点で130,000ポイントを上回ると予想している。不動産市場が回復したことで、とりわけ下半期には不動産投資ファンドが運用を復活させた。これらのファンドの販売額は、2019年に前年比2倍の360億ドルに達しており、こうした伸びは2020年も維持する見込みだ。
変動利回り商品が次第に投資家を惹きつけたため、一方では固定利回り商品がその比重を縮小させた。2018年に社債の発行は全体の89%を占めたが、2019年には68%に縮小した。有価証券の発行が減少する可能性はあるが、2019年10月時点で7億4,500万ドルを管理していたイタウ銀行のルーベンス・エンリッケス頭取によると、引き続き良好なリターンを確保できる可能性はあるという。エァメ誌と共同でゼツリオ・バルガス財団(FGV)の金融研究センターが実施した調査でベスト・アセットマネージャー・オブ・ザ・イヤーに6年連続で選ばれたアセットマネージャーのトップに立つエンリッケス頭取は、「そのために重要なことは、長期債を探すことだ」と話す。
しかし2020年に資本市場が利益を生み出す市場であるには、行政改革と税制改革の可決に向けて政府が議会から支持を確保することが重要だ。この部分のリスクは、そのプロセスには長い時間が必要で、しかも市長・市議会議員選挙前に時間を確保できない点である。後に残されるのは、低金利と抑制されたインフレ率、アメリカの選挙に伴って発生する先行きの不透明感からくる為替に対する圧力という1年である。エザメ誌が意見を集めた経済コンサルティング会社3社、MBアソシアードスと4E、テンデンシアスは、2020年に関する可能性の高いシナリオとしてこのように状況を分析した。これら3社は、この基本的シナリオ通りになる可能性を、およそ65%としている。
この場合、GDP成長率は+2.3%前後(2021年にはさらに上昇する傾向)で、政策金利は年利4.75%に若干引き上げられ、ドル為替相場は1ドル=4.11レアル近辺となる。このシナリオでは、米連邦準備制度理事会(FRB)が政策金利に対する判断を保留し、中国経済は減速するのを考慮に入れている。「世界経済がこのままかやや改善するなら、ブラジルにはより多くの投資が集まる可能性は高いが、短期的にドルが大量に流入するというシナリオは考えていない」と、クレディ・スイスでブラジルの資産管理部門のシルヴィオ・カストロ部長はいう。ブラジルに対する外国人投資家の慎重な態度は、一部には、経済危機に見合われたアルゼンチンと抗議デモの舞台となったチリのように、2019年にその他のラテンアメリカ諸国に対する見通しが悪化したことが影響している。
政府が財政均衡を脅やかすポイントまで国会との協調を図ることができなかった場合、経済に対する見通しは著しく悪化する。予想を平均すると、GDP成長率は+0.8%(MBアソシアードスに至っては-0.5%を予想)、インフレ率は+4.77%、金利は1.5パーセントポイント引き上げられ年利6.0%となる。他方、仮により楽観的なシナリオとして、行政改革と税制改革の国会可決に加えて民営化とコンセッションに進捗があれば、GDP成長率は+3.3%で、ドル為替相場は2020年末時点で1ドル=3.74レアルまでレアル高が進む。
いずれのシナリオであっても、ポートフォリオを多様化していれば利益を確保できる。BNPパリバ銀行の変動利回り商品責任者、ジルベルト・ナガイ氏は、「証券取引市場には、教育分野や保健分野など例えGDPが成長しなくとも成長し続ける業界が存在する。外にも、とりわけ配電を中心にした電力市場、そしてショッピングモールと衣料品のような消費部門、レンタカー業界等も有望だ」と断言する。固定利回り商品の場合、固定金利証券が有望である。ファンドのペルセヴァラ・アセットのマネージャー、ギリェルメ・アブド氏は、「2045年と2050年償還のNTN-Bの利回りが、インフレに3.5%を上乗せしたリターンだ。素晴らしい収益性だ」と話す。主な投資機会については稿を改めて紹介する。同じく、ゼツリオ・バルガス財団(FGV)の金融研究センターが本紙のために独占的に実施した調査で明らかになった、国内の優良アセットマネージャーについても紹介する。それでは、続きを楽しんで欲しい!
「新興国市場はもっと面白い」
バンク・オブ・アメリカのストラテジスト、トーマス・ヴァンヴァキディス氏は、2020年は貿易戦争が休戦する1年になる可能性があるものの、アメリカの成長率はより低いものになると予想している。
アメリカの株式市場は2019年、過去6年で最良のパフォーマンスを記録した。その成果の大部分は、米連邦準備制度理事会(FRB)が利下げする判断を下したお陰であり、この判断により株式市場は固定利回り商品市場よりも魅力的な存在になった。ただし2019年末にFRBは、2020年を通じて金利に対する判断を保留することを示唆した。その意味で、株式にはどのような状況が待ち受けているだろうか? バンク・オブ・アメリカの為替ストラテジスト、トーマス・ヴァンヴァキディス氏は2019年12月末、サンパウロを訪問した際に「FRBが機能を停止すればアメリカの証券取引市場ではボラティリティーが高まり、より厳しいシナリオが生じるだろう」とコメントした。「利下げは株式市場意外にも影響した。利下げがアメリカと中国の貿易戦争からアメリカ経済を保護することになり、この通貨政策が米中貿易戦争の激化を招いた」という。
エザメ誌 2020年の米中貿易戦争をどのように予想しますか?
トーマス・ヴァンヴァキディス氏(T・V) 論理が勝つのであれば、両国間の緊張の高まりに終止符が打たれる可能性はある。それは二国間関係がドナルド・トランプ大統領の就任以前の状態に戻ると言っているのではないし、関税が引き下げられるということですらない。それは休戦だろう。このことは世界経済に対する確実性をより高めるべきで、従ってリスクが縮小し、そして新興市場の資産を運用することが投資家にとってより面白くなるはずだ。
エ誌 休戦が見込まれるのは今回が初めてではありません…。
T・V 君のコメントの通りだ。だが関税の新ラウンドが中国だけではなく双方を傷つけるのは今回が初めてだ。アメリカは金融緩和策のおかげで潜在性を超えて成長してきた。ただ、利下げの影響は幕を下ろした。従って2020年にGDP成長率が+1.7%になる可能性がある。この数字はポジティブなものだが、それでも2%という潜在成長率を下回る。従って、仮に関税の新ラウンドがあるなら、成長率はさらに小さくなり得る。さらに選挙イヤーには経済成長率が重要だということを思い出すべきだ。一方で中国は、一部は米中貿易戦争から、そして別の一部は中国政府が推進する構造的な問題による減速で、2020年に+5.6%の成長を見込む。彼らの目的は、それが非常に必要とされる局面で、金融緩和策を使うことだ。
エ誌 それに関連して、アメリカの選挙は為替にどのような影響を与えるでしょうか?
T・V アメリカの選挙は年間を通じてマーケットのムードを形成するだろう。トランプ大統領が再選されれば、アメリカ通貨は強くなるだろう。それは、言わばパラドックスだ。というのも、大統領はアメリカ経済を刺激するためにドルは弱くあるべきだと主張するが、関税を引き上げるなど彼の採用する政策はドルを強める。同じ理屈で、もし彼が選挙で敗れる場合、こうした政策が見直される可能性があり、ドルは弱くなる。例えば民主党予備選挙のエリザベス・ウォーレン候補の場合、通貨はアメリカ経済を支援するためにより競争力を備えるべきだと公に発言している。
エ誌 ではブラジルは、国際的なコンテクストの中でどのような位置にいるのでしょうか?
T・V 世界的な先行きの不透明感が緩和されれば、2020年にはブラジルへ新しい投資の波が押し寄せるだろう。私が話をしている投資家の多くが、このところの改革の進捗と、ブラジルの成長の見通しについて好意的に話している。彼らがまだ立ち止まってブラジルに到着していないのは、国際情勢の見通しがより明瞭になるのを待ち受けているからに他ならない。ただ、どの新興国成長市場のパフォーマンスが2020年に良好になるかと聞かれた場合、私は常に、ブラジルがそれらのグループの中に含まれると断言している。この楽観主義派、外国人に限ったことではない。私がブラジルを訪問し始めて7年になるが、国内の投資家がブラジル経済に信頼間を示しているのは恐らく初めてのことだ。これら全ての状況から、当社は、2020年末時点のドル為替相場を3.84レアルと予想している。
(2020年1月22日エザメ誌に掲載)