大島健一部会員(東京三菱銀行)
司会
次は金融部会ということで、金融・銀行の方を東京三菱銀行の大島さんに、それから保険の方を三井住友保険の金子さんにお願いいたします。これもやはり同じ ように質疑応答は、お二人のプレゼンテーションをしていただいた後、ということにしたいと思います。それではまず、大島さんの方からよろしくお願いいたし ます。
大島
かしこまりました。本来ですと新部会長となりました東京三菱銀行の野崎がお話しすべきところをまあ結局どうしても参加できないと言うことで、私並びに保険に付きましては金子さんの方が話されるということでこの点よろしくご了承頂ければと思います。
ではまず私の方から、銀行業界ということでまた恒例で金融部会の方から経済についても弱冠、整理するということのようでございますので、まず昨年の経済動 向等を、すでに田中会頭あるいはコンサルタント部会の方からご報告ありましたようにダブるところもあるかも知れませんが、整理と言う意味で弱冠述べさせて いただきます。
ブラジル経済は回復し、貿易収支は、337億ドルの黒字を計上
去年は2003年に続きまして、景気が確実に拡大を示す一年となった。特に年初の予想などを振り返ってみますとそれを上回る指標が非常に多かったと、要は 予想を超えてブラジルの経済はよくなったという所が注目すべき点であります。特に貿易収支でありますけれどもルーラ政権は輸出拡大というものを重要施策の 一つにしてしかもそれが、追い風となってですね、なった訳ですし、そこを意識しながら非常に活発な外交活動をしたわけであります。ご記憶にあります通り、 中国あるいはインド、アラブ諸国に大きなミッションを派遣したり、一方でわが国、小泉首相の来伯を始めとして中国、ロシア、ベトナム、韓国等の大統領トッ プがブラジルに来たというところは記憶に新しいところであります。
こうした外交が功を奏 したといいますかあい並んで、先ほど申しましたとおり、貿易収支、例えば中国との輸出入とも貿易の大幅な拡大。それからアルゼンチン、ここの経済回復に 伴って、特に輸出が急速に伸びていったと。それから、鳥インフルエンザ問題であるとかアメリカ等の狂牛病問題といった外部要因にも助けられて、例えば食肉 の輸出が急速に伸びたということがございまして、輸出が記録的な好調を示したわけです。
昨年の輸出の数字を具体的に申しますと965億ドル、2003年比で32%アップ、それから輸入が628億ドルこれは2003年比30%増。差し引き 337億ドルの貿易収支の黒字、これは36%増です。ちなみに上期は156億ドルでしたので、貿易収支自身は下期もさらに伸びているということになってい ます。
それから好調な輸出に牽引されまして、国内総生産も同時に好調に推移して結果的に は5・1%前後で着地したものと見られています。ちなみに年初ですね大方の予想は3・5%ぐらいと言っていたわけであります。結果として、設備稼働率も多 くの業界で上昇して、当国のセクターの中でも例えば製鉄であるとか、化学であるとか紙パルプであるとかこのへんの代表する企業の新たな積極的な設備投資 も、発表が相次いでなされたのも記憶に新しいところであります。
こうしたなか昨年の経済 がもう一直線によくなっていく、といいますと必ずしも実はそうではなく、思い返しますと米国金利の引き上げ予測、特にあの予想以上に金利が上がっていくの ではないかという懸念が出たり、あるいは原油価格の高騰、それから時々ありました政治スキャンダル絡みの話、それから中国経済がどこまでどんどん引っ張っ ていくのだろうと。その辺からですね5月にはカントリーリスクが相当高まりまして、これを示す一つの代表的指数でありますEMBIプラスが一時800bp を一時超えたと、言う時期がありました。
この数字自身はですね、年末は結果的に379と いう数字まで下がりましたが、今は400前後で推移しているのはご存じの通りだと思います。こういう中ですね、また5月以降は順調にカントリーリスクも治 まっていき、特に9月に各格付け機関、S&Pやムーディーズ、フィッチがそれぞれブラジルの格付けを上げまして、それぞれ一般的言い方でBB-、であると かB1まで上げたと言うことに現れております。
こうした中でリスクが低下すると連邦政府 を始め、大手の金融機関であるとか大手優良企業の外債の発行も相次ぎまして、相当な資金調達がされました。それから先ほど、三角さんの方から話がありまし たですね。レアルリンクの債権というものもですね、活発に発行されるようになったということも非常に新しい事象かと思います。
こうした好調な貿易収支に加えましてですね、外貨流入ということもございましてレアルの相場について振り返りますと、年初が2・89でございまして、一時3・2まで売られましたけれども、6月末で3・1強。最終的に年末はですね2・65というレベルで終わっています。
昨年の業界の経済指数予想はことごとく外れた
昨年の予想を見ていますと、半年前のこういった会での私も銀行業界の各行の予想は3・1から3・2と言っていたわけですね。それが結果的には2・65に なった。これも先ほど申し上げましたように、いかに予想を超えて経済が良くなったかということを示しているのでないかと思います。
あと金利の方でございますけど、4月に16%まで引き下げられまして、ただこのSELIC金利のですね、インフレ懸念の再燃ということからですね、9月に なって、引き上げられて、それ以降、去年についてみれば4カ月連続で少しずつ引き上げられて、年末は、17.75%を迎えております。
政治面では先ほどお話がございました、大統領選挙の前哨戦と言われました10月の市長選挙があったわけですが、結果的には、PTが得票率17.1%という ことで1位になったけれども、一部サンパウロが、一面大きな都市で敗北するという、状況もございました。それから6月に、一旦68%にまで低下したルーラ 政権の支持率が、10月には81%まで回復しております。
銀行業界は各行とも業績を大幅にアップした
ここでちょっと弱冠銀行業界についてみますとですね、短期市場で特に、激しい競争が継続しており、マージンが低下すると言う状況がみえてますけれども、そ こを各行とも、資産の拡大等で収益金を補うべく、特に、消費者金融への資源投入に注力するということで、結果的には業績を伸ばしております。
この今週か先週あたりですね、各大手行の、業績が発表されて非常にいい、過去にない、いい業績を出しているのは皆さんご承知の通りでございます。
ここで来年、今年2005年の展望について振り返りますと、経済全般につきましては、原油のプライスであるとかインフレ懸念等による、その金利引上げ等 の、懸念材料がありますけれども、大方の予想では引き続き安定的な成長が、見込まれているということであります。今の市場の予測では貿易収支は、弱冠減少 するけれども260億ドルぐらい。それからGDPも、3.7%前々後というのが平均的な見方です。
為替の方も、年末で2.87レアルぐらい、それから金利につきましてもSELIC金利が、弱冠まだ引き上げがあるかもしれませんが、最終的には金利は下がって、金利は16.75%に戻るんではないかと言われております。
2005年の展望では、貸出しは順調に拡大の見通し
更に、銀行業界の動向ですが、今後マクロ経済が安定し、それから、先般成立しました新破産法案等もあり、実質金利の低下が続いて、やはり貸し出し業務につ いては順調に拡大していくんではないだろうかということで、業務収益の維持のためには、競争が激化する大企業の取引よりもむしろ、小口であるとか中小企業 貸出、このへんに力を入れていくと。このへんが勝負所ではないかというふうに考えております。更に、手数料収益がどれだけ稼げるかということも、一つの明 暗を分けるんではないかというふうに考えております。
金融再編の動向につきましては、このところ非常に大きな再編が続いた訳なんですけれども、また外銀の撤退という、事象をみられた訳ですけれども、ほぼ一段落しました。
し中期的にみますと、メキシコのように、今後ブラジルのリスクが更に下がってきますと、また外資系銀行の中には大きな買収を仕掛けてくるということも出て くる可能性があるのではないかというふうに見ております。長くなりましたけれども、銀行業界の方はこれで終わらせていただきます。
金融部会(保険業界)
金子実部会員(三井住友保険)
司会
金子さん引き続きお願いします。
金子
はい、じゃあ引き続きまして、三井住友海上の金子といいます。よろしくお願いします。保険業界に付きまして私の方から弱冠補足をさせていただきたいと思い ます。内容としましては、まずブラジルの保険市場について簡単にご紹介した後、回顧と展望。最後に、最近のまあ簡単な弱冠のトピックスにふれさせていただ きたいと思います。
ブラジルの保険業界の規模はアセアン諸国と同等
まずブラジルの保険市場ですけれども、2003年度の統計になりますがブラジルの一国ですね売上高、まあ我々収入保険料と呼んでおりますけれども、これは ですね146億ドルありまして、世界ランキングで言いますと第22位になります。でちなみにアジアの国と比較をしてみますと、ちょうどアセアンの4カ国、 マレーシア、タイ、インドネシア、フィリピン。この4カ国を合計すると、合計の収入保険料148億ドルです。従ってブラジルの保険業界というのは、皆さん どのようなイメージをお持ちか分かりませんけれど、以外と大きいという風に思っていただけるのではないかと思います。ちなみに日本は4700億ドル以上あ りまして、アメリカに次いで世界第二位の規模である。
そんなブラジルマーケットの中に、 現在保険会社が115社、これも多少合従連衡していますからまだ、社数は変わっているかも知れませんけど去年の11月末で115社。この中で外資の占める 割合、これ収入保険料で計算した割合ですけど、33・2%になっています。国別に見ますと、一番の大手がオランダ、28%ですか。続いてアメリカ、スペイ ン、フランス、イギリスと。日本は6・4%。外資の中のウエイトですね。そんな形になっています。
2004年の保険業界は22.3%の成長を記録した
続きまして昨年の回顧に移らせて頂きます。まず収入保険料ですが、これは直近のデータを保険庁が発表しておりますデータが11月末なものですから、数字は 11月末までの11カ月の数字になっています。11カ月の数字で収入保険料が約332億レアル。円換算すると1兆3000億円程度になります。前年一年前 と比較しますと、増加率が22・3%になりまして、まあGDP成長率なんかと比較しましても非常に大きな成長市場であると言えると思います。
この保険の中での主要種目と呼んでおりますが、その増収率を個別に見てみますと、今最も高い成長率を示していますのが生命保険ですね。生命保険の場合、年 建ていわゆる掛け捨て型のものとそれから満期になって、インベストメント、運用型のものと大きく二つに分かれますけれども、いずれも高い成長率を示してお ります。
数字を申し上げますと運用タイプが一年間で43%、それから年建て、掛け捨てタ イプが37%、これだけ増加しています。それから自動車保険、これは15%伸びています。まあ非常に自動車の販売が好調だったということがもちろん、背景 になっています。そのほかの火災保険、10%ですかね、その他それ以外の種目は11%とそんな増加率になっています。それから地域別にこれを見てみます と、サンパウロ州が全体の51%を示していまして、保険の場合過半がサンパウロ州だというそんな状況です。ちなみにサンパウロに続いてリオデジャネイロ州 が11%、ミナスジェライス州が7%、パラナ州が6%とそんな風につながっていきます。
続きまして収益面を振り返ってみますと、保険の全種目、火災とか自動車、生保全種目を足し合わしますと収益性はやや改善しました。収益性と申し上げました のは、保険会社の収益力を図る代表的な指標が我々損害率、と呼んでおります、お支払いした保険金が頂いた売り上げ、収入保険料に何%となっているかと、そ ういう指標ですけれどもこの指標を見るとやや改善しております。
2004年の自動車保険は非常に厳しかった
問題は自動車保険ですね。自動車保険は昨年、悪化しておりまして2002年の72・8から、2003年の72・8から2004年は73・9と非常に悪化し ております。しかも115社ある保険会社の中で、損害率が70%切る保険会社がもう片手で数えるほどしかないというマーケット全体が悪化したというのが昨 年の特徴でした。2004年度は自動車保険に関して言えば、非常に厳しい状況でした。
2005年の展望では、収入保険料は引き続き好調で、生命保険は2桁の成長が期待できる
続きまして2005年の展望ですけれども、まず売り上げの収入保険料の面で言いますとこれは引き続き好調な拡大が続くという風にと見ています。特に生命保 険については2002年度以降ですね、爆発的に伸び始めたのですが、今年についても同様に二桁以上の拡大が続くだろうと思っています。収益性の方は、今申 し上げました通りやっぱり、自動車保険が大きなポイントだと思っておりまして、この自動車保険の収支改善のためにまあ保険会社によっては、さらに保険の引 き受けといっておりますが、引き受け基準を強化するとか、あるいはリスクの選別を強めるとか、あるいは端的に言えば保険料の値上げに走るとか、いったよう なことにつながっていくのではないかと思っています。
保険会社の社員に資格制度が導入される
最後に、最近のトピックスを2点ほどご紹介したいと思います。一つは保険会社の社員に資格制度というのが、導入される方向で今検討が進んでいます。検討が 進んでいると申しますが、実際にCNSP、ブラジル保険審議会のほうから昨年の10月にレゾリューションというのが出ておりまして、法令化されると、今は 保険監督庁からの具体的な通達待ちになっています。保険会社全ての社員ではありませんけれど、例えば営業職であるとか、あるいはリスク管理だとか、事故査 定のサービス職であるとか、特定の業種に付きまして政府が指定した一定の資格を取らなくてはいけないと、そんな制度が今年から2005年から生まれようと しています。で2009年度末まで5年間ぐらいかけて、対象となる社員全員がこの資格を取る、そんなようなことになっています。
再保険の規制緩和で競争激化
それからもう一つは、再保険の自由化というのが最近、盛んに報道等にも出るようになってきました。ブラジルはIRB、イルビーと呼んでおりますけど、いわ ば政府にコントロールされた再保険会社、一社がですねマーケットのもとになっていると、ベースにあると、非常にまあ世界でもブラジルとキューバだけだと言 われていますけど、非常に特異なマーケットです。この再保険の規制緩和というのが一時期前政権の時代に実現、一歩手前まで行ったことがありますけど、また そういう論議が活発に出ておりまして、2006年度には何とか実現したいというような、政府関係者の発現が結構相次いでいます。
内容を見ますとSUSEP、保険監督庁にその再保険行政、監督の部分の機能を引き継いでイルビーは再保険会社、普通の再保険会社になると、同時に再保険の 規制緩和を進めると多分そのような方向になるのはないかと思います。ただ、直近ではこのIRBの社長が交代したりしておりますので、事情はよく分かりませ んけど、この再保険の規制緩和はまだまだ紆余曲折があろうかと思っております。ちなみに私どもとしましては、早くこのIRBには自由化して、規制緩和して もらいたい。そうすることで競争、より保険会社間の競争も強まりますし、また国際競争も出てきますし、保険料も全体としては今よりは割安になっていくので はないかと、そのように考えております。以上で発表を終わらせていただきます。ありがとうございました。
司会
金子さんどうもありがとうございました。それでは先ほどのですね、大島さんの銀行業界の部分と、それから大島さんの保険業界の部分について質疑応答になる んですが、先ほどの宿題のですね、前のセッションから持ち越しました三角さんから出た「中銀総裁が替わるというようなことになるとレアルの国際信用が落ち るのではないか、あるいはアメリカの金利が上がっていく中でやはりレアルの金利は下げられないのじゃないか」という、ご質問ご意見あったわけですが、その 辺どうでしょう、大島さん。
大島
そうですね、今のブラジルに対する世界からの信用というのはまさにそのインフレを阻止するといいますかね、あるいはその政府の赤字を少しでも財政を管理す るとその強い意思があって初めて出来ているわけで、中銀の総裁の交代自身は売られることに結びつかないですが、その後任人事を含めて仮にそういうことあっ たとして、そのメッセージがインフレ阻止という強い意思を放棄する、とこういう風に国際市場から見られた瞬間に、ガタガタになるリスクが非常にあると思い ます。そういう意味で、後任がどういう政治的な意図を持って選ばれるか、ここ次第だという風に考えます。
司会
よろしいですか。どうもありがとうございました。じゃあ、他にご質問等ございますか。あの実は私どもは司会の特権でここにプレゼンテーションのペーパーも 持っておるわけですが、先ほど、パッパッパッと数字をおっしゃったのをもう一回見ますと、GDPはですね2004年の、一部予測も入っているんでしょう が、5・1%に対して2005年は3・7%と。それから貿易収支は2004年の337億ドルに対して、2005年は260億になるだろうと、それから為替 の相場は、2004年の年末が2・7に対して2005年は2・9になるだろうと、こういう中銀が集計した市場予測をこの中に入れられております。
それであの、大島さんにお伺いしたいのですが、結局これ市場はこの一年間、金利は下がっていくというふうに見ていて、なおかつ為替相場もレアルは少し安く なるだろうと、こういう風に見ていると。結果として、どうか分かりませんが、かたやで貿易収支は下がると。これ貿易収支はこちらの国内要因よりはむしろ、 インターナショナルマーケットがどういうことになっているかと、こういうことから来る予測ですよね。
大島
あと輸入もまた、さらに増えるだろうと
司会
ああ、なるほど。ということで何となく2004年の勢いが落ちて典型的なブラジルに少し戻るというような感じかなと思われます。
大島
そうですね、昨年申し上げました通り、昨年の年初の予想というのはそういう意味では同じような予想だったわけですね。成長率が3・5と言っていて、為替に ついても3・1とか3・2とか言っていて、結果がこうなったわけで、そういう意味ではこれからの外部環境も含めて、これだけやっぱりレンジの幅があって、 どうしても予想になりますとね、各行で常識的な所に集約されますので、そういう意味で6割7割はこうなるけど、それぞれの予想屋にもっと思い切った案を出 せと言えば、まあ2割ぐらいはこうなる確率もあるというような形で別の姿も見えてくるかと思いますので、それが最終的にはそれぞれ自分で考えながら、経営 して行くしかないとこういうことかと思います。昨年の相場は見事全員が外れまして、申し訳ありませんでした。
司会
どうもありがとうございます。他にご質問ありますか。
共通テーマ「2004年の回顧と2005年の展望」
2005年2月23日
金融部会長 野崎良夫
銀行業界 発表者-大島健一金融部会員
1.2004年度の回顧
2004年は、前年に引き続き景気の確実な拡大を示す 1年となった。特筆すべきは貿易収支であろう。ル-ラ政権は輸出拡大を重要施策の一つに掲げており、外交に注力している。中国・インド・アラブ諸国に大々 的なミッションを編成し訪問する一方、小泉首相の現役総理大臣として8年ぶりの当地訪門の他、11月以降だけでも中国主席、ロシア、ベトナム、韓国の大統 領が来訪した。
こうした外交と前後して、中国との貿易拡大、アルゼンチンへの輸出回復、 さらに鳥インフルエンザや米国の狂牛病問題と言った外部要因による代替供給拠点としてのブラジルの位置付の再認識もあり、輸出は記録的な好調を示した (年計:輸出965億ドル(前年比32%増)、輸入628億ドル(同30%増)、貿易黒字337億ドル(同36%増))。
好調な輸出に牽引され、国内総生産も同様に好調に推移し、 5.1%の成長で着地したものと見られている。設備稼働率も上昇し、製鉄、化学、紙パルプ等の各セクターを代表する企業の新規設備投資が相次いで発表された。
こうした中、米国金利の引上観測、原油価格の高騰、政治スキャンダル、中国経済への懸念等の影響により、 5月には一旦800bp超まで悪化したカントリーリスク(EMBI+)は、再び低下することとなり結局379bpで年末を迎えた。また、9月には S&P(B+→BB-)、Moody’s(B2→ B1)、Fitch(B+→BB-)の格付機関が相次いでブラジルの格付を引き上げた。こうしたリスク低下による良好な市場環境の期を捉えて、連邦政府、 大手金融機関、優良企業のボンド発行等による長期(CVRD30年)の資金調達も実現。また、レアルの信認回復と高い利回りを期待する投資家のニーズが初 のレアルリンクのユーロボンド発行を可能とした。
好調な貿易収支に加え、こうした外貨流 入の加速もあり、レアルは年始の 1ドル2.89レアルから2.65レアルまで上昇した。この一方、4月に16%まで引き下げられていたSELIC金利は、インフレ懸念の再燃から、9月以 降4ヶ月連続で引き上げられ17.75%で年末を迎えた。
政治面では 2006年の大統領選の前哨戦とも言われた10月の市長選挙が最大の関心事であった。 PTは得票率17.1%で1位(得票数は前回比+37%の躍進)、2位は16.5%のPSDB(得票数は前回比+16%)という結果となった。但し、PT がサンパウロ、ポルトアレグレといった重要都市で敗北する一方、PSDBはサンパウロ、クリチバで勝利している。今後の議会運営、2006年の選挙への影 響については注視が必要となろう。 また、 6月に68%まで低下したルーラ政権の支持率に関しては、景気の回復やそれに伴う失業率/所得の改善等によって、12月には81%まで回復した。
銀行業界では、短期市場での激しい競合は継続し、低いマージンが定着する中(法人向け平均スプレッドは 13.2%まで低下(12月))、各行ともアセットの拡大で収益減を補完すべく、景気/所得の回復に伴い拡大する消費者金融への資源投入に注力し、スー パー、小売チェーン等との提携を拡大した(12月末の民間セクター向の銀行貸出総額はR$465Bil、前年末対比17.3 %増加。内、個人向がR$126Bil、同33.1%増加したのに比し、産業界向けはR$125Bil、同6.7%の増加にとどまる)。 こうした環境 下、手数料ビジネスによる収益や支出のカットにより、
各行とも好決算を発表している (民間銀行の本年上期の手数料収入はR$15.5Bil(前年同期比15.4%の増加))。
2.2005年度の展望
2005年度の展望については、原油高、インフレ懸念等を背景とした金利引上げによる景気後退の他、対中貿易の動向、米国金利、市長選挙後のルーラ政権の 議会運営等、注視すべき事項はあるものの、大方の予想では引き続き安定的な成長が見込まれている。 2005年には、中銀集計の市場予測では、貿易収支は輸入の回復に伴い減少するものの引き続き、260億ドル程度の黒字が見込まれ、GDPも3.7%程度 の成長が見込まれている。
また、為替は 1ドル2.87レアル(2005年年末予想)水準への緩やかなレアル安が予想され、SELIC金利は、インフレに注視しつつも16.75%(年末予想)への引下げを再度試すことになろう。
<主要経済指標>
* 2004年のGDP及び2005年の各指標は中銀集計の市場予測によるもの
今後の銀行業界を展望すると、これから数年間、新破産法案の成立・浸透やマクロ経済の安定と共に、実質金利の低下、ひいては貸出業務の拡大が見られること になるであろう。各行は、業務収益の維持の為に、更にはバーゼル新規制をにらみ、競争が激化する大企業貸出よりむしろ、利鞘の大きい消費者小口金融及び中 小企業貸出額の増加に力を入れてゆくものと見られる。
更に、経済回復に伴い、手数料収益 の増加が見込まれる。これから5年間で、大手銀行合計で約 11%(年間)近くの手数料収益の増強を見通している(ブラデスコ銀行予測)。これらの環境下から、各大手銀行の株主資本利益率(ROE)は、今後2-3 年は概ね20%前後を計上すると予測される。
ブラジルにおける金融再編については、主要行が規模メリットを追求した為、過去数年間大きな動きを見せた。低利の外貨調達による貸出運用という外銀のビジネスモデルはスケールメリットによる競争には通用せず、地場銀行に再度売却したケースも見られる。
今後数年に関しては、金融再編は限界的な動きに留まるとの見方もあるが、メキシコ金融市場で起こったように、ブラジルの格付引き上げに伴い、再び外資系銀行の地場銀行買収の動きが活発化する可能性は否定できない。
各銀行の為替・経済基本金利( Selic)予想
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銀行名
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6月末の為替
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同 Selic
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12月末の為替
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同 Selic
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A銀行
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R$2.80
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19.00%
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R$2.90
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18.00%
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B銀行
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R$2.79
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19.25%
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R$2.90
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16.25%
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C銀行
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R$2.50
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18.75%
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R$2.30
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17.25%
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D 銀行
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R$2.75
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19.00%
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R$2.85
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16.00%
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保険業界
発表者 - 金子実金融部会員
1- ブラジル保険市場
(1)市場規模
2003 年度生損保計の収入保険料(売上高)は 146 億ドルで、世界国別ランキングは第 22 位。ブラジル 1 国でアセアン主要国であるマレーシア、タイ、インドネシア、フィリピンの 4 カ国合計( 148 億ドル)に匹敵する規模の保険マーケットである。因みに日本は 4,789 億ドルで米国に次いで第 2 位の規模。
(2) 保険会社数
2004 年 11 月末で 115 社。このうち外資の収入保険料シェアは 33.2% ( 2003 年度)。 出資国別では、オランダ 28.6% 、米国 19.8% 、スペイン 15.2% 、フランス 14.1% 、英国 7.6% 、日本 6.4% の順となっている。
2- 2004 年の回顧
(1)収入保険料
2004 年度( 1-11 月)の生損保計の収入保険料(健康保険を除く)は 332 億レアル ( 約 1 兆 3 千億円 ) を計上し、対前年同期で 22.3% の増加となった。前年度同様 2004 年度も GDP 成長率を大きく上回る増加率を達成することは間違いなく、ブラジルにおける保険市場拡大傾向の力強さは不変であった。
主要保険種目別過去1年間の増収率は、自動車保険 15% 増、年建て生保・傷害保険 37% 増、運用型生保 (VGBL)43% 増、火災保険 2% 増。この結果、保険種目別の構成比は、生保 46%( 年建て 20% 、運用型 26%) 、自動車保険 33% 、火災保険 10% 、その他 11% となっている。
また地域別にはサンパウロ州が 51% を占め、リオデジャネイロ州 11% 、ミナスジェライス州 7% 、パラナ州 6% 、リオグランジドスル州 6% と続いている。地域別ウェイトは昨年とほぼ変わらないことから保険市場の拡大はブラジルの全国的な傾向であると言える。
(2)事業収益
保険会社の事業収益を決定する最も重要な指標である 2004 年度( 1-11 月)の生 損保計損害率(支払保険金/収入保険料)は 59.9% と 2003 年度末より 2.6% 改善された。
主要な保険種目の損害率を 2003 年度と比較すると、生保・傷害保険は 55.3% から 48.6% へ、火災保険は 47.7% から 42.8% へと各々改善され、一方、自動車保険は 72.8% から 73.9% へと悪化している。 2004 年度の自動車保険事業は保険会社にとって極めて厳しい環境にあったと言える。
3. 2005 年の展望
(1)収入保険料
2005 年度についても引き続き 2 桁台の成長が見込まれ、特に 2002 年以降大幅な市場拡大が続く生保は年建て、運用型とも一層の拡大が見込まれる。
2005 年度は多くの保険会社が保険事業(特に自動車保険)の収益性立て直しに向かう傾向が強まると考えられ、その結果、全般的に保険引受けの厳格化や保険料水準見直しが予想される。
(2)収益性
主要種目である自動車保険の損害率動向と資産運用収益が保険会社の収益性を左右する。今後の市場金利動向次第では以前のような資産運用収益の確保は期待できないことから、 2004 年度以上に損害率、保険事業自体の収益性が重要になる。
4.トピックス
(1)保険会社社員資格制度の創設
2004 年 10 月、 CNSP (ブラジル保険審議会)によって制度化された。保険会社の営業、事故査定サービス、リスク管理、内部管理等の業務を担当する社員は保険当局指定の保 険専門資格を取得することが義務づけられた。 2005 年度以降段階的に実施され、 2009 年度末には全ての該当者が資格を取得することになる。実施細則未発表の段階であり詳細は不明な点も多いが、概念的には先進的な制度である。
(2)再保険自由化の検討
一般に保険会社は、お客さまから保険契約を引き受ける元受保険会社と元受保険会社から保険契約を引き受ける再保険会社とに区分されるが、ブラジルは事 実上国営で行政機関でもある IRB (ブラジル再保険公社)1社が再保険事業を独占している世界でも特異な保険市場である。
再保険自由化については前カルドーゾ政権時代に一定の議論がされ、関連法令案まで用意されたものの結局実現に至らなかった経緯にあるが、昨年から再度積極的に取り上げられる機会が増えている。
政 権時代は「 IRB 民営化」であったが現在の論点は「保険監督機関の一本化( Susep と IRB の再編)+再保険市場の規制緩和」に向かっているようである。実現までは紆余曲折が予想されるが、この規制緩和が実現すれば参入を希望する世界的保険会社 も多く、市場関係者はその動向を注視している。