1. 航空業界
2002年の回顧
1昨年の同時テロ事件は航空業界に発想の転換(航空機利用による自爆テロという想像もしなかった行動)を迫ることとなった。セキュリティの検査強化はコス トの増加となり、伸び悩む単価による収入の減少とともに経営を圧迫した。航空業界は現在苦難の時期の真っ只中におかれている。米国ではUAの連邦破産法 11条申請を始め、暗い話題ばかりが目立っている。世界の40%を占める航空市場である米国では2,001年度が77億ドルの赤字、2002年度が95億 ドルの赤字と大幅に赤字が続き、黒字基調にもどるには後2-3年掛かると言われている。
ブラジル発の旅行においては、10月の大統領選挙を前にした数ヵ月間レアルが暴落し、旅行業界は大きなダメ-ジを受けた。ブラジル国内旅行も、航空運賃は 乱高下を繰り返して安定せず、最大手のバリグ航空の苦戦を始め各社ともあまり良い決算にはなってない。日伯間は、 KEの撤退以来、特に供給の変化がなかったが、輸送量はテロ事件以前の水準にはもどっていない。出稼ぎも日本の不況の長期化であまり大きな動きは見られな かった。
日本では4月に成田のB滑走路がオープンし、発着能力は4割増加したが、増加分は 中国線を中心とする東南アジア線に吸収された。JALとJASは経営統合し株式会社日本航空システムとして新たなスタートを切った。これにより、日本の航 空界は大手2社の競争を中心に安売り合戦の泥沼化している。
2003年の展望
航空需要はかなり回復してきており、更なる回復が期待できるが、イラク,北朝鮮情勢が予断を許さず、戦争にでもなれば悪影響が必至である。また保安検査の 強化も懸念材料である。E-ticket(電子航空券)の出現とインターネットの普及は利用客にとって便利性が益す事になり、旅行の流通業界を大きく変え る要素ともなろう。
ルーラ政権の影響
経済の安定、中でも特に為替の安定が望まれる。
FTAの必要性と影響
2国間の航空協定で決められるので特に影響はないが、FTAの導入で物流の動きが活発になれば特に貨物の輸送量に影響する。
2.旅行エイジェント業界
2002年下期の回顧
2001年下期に比較しテロ事件の影響も多少薄れ、旅客の動向が盛んになった。
また宗教関係の大型イベントなども有り、全体的に回復の兆し有り。
2003年上期の展望
年度上期の大型イベントとしてカーニバルが取り上げられるが、2002年はテロ事件の影響が大きく国外からの旅客の動きは停滞気味であった。
その反動もあり、2003年3月上旬に行われるカーニバルは、国外よりの旅客の動きに期待が持てる。
ルーラ政権の影響
まったく不明。ただし、現在既に厳しくなっている外国人に対する永住権取得等のドキュメント関係が、労働党のルーラ氏が大統領としてどのような政策を打ち出すかにより、更に厳しい状況が起こる事が予想される。
FTAの必要性と影響
不明。
3.海運業界
2002年下期の回顧
アジア/南米東岸コンテナ航路において、アジアからの輸入が減少し、旺盛な輸出需要はあるもののコンテナ不足が原因で船積みができないという悪循環が生じた結果、採算が大幅に悪化した。
2003年上期の展望
例年、1月-3月は輸出が減少する時期ではあるが、営業努力で船積み数量を維持して行きたい。
ルーラ政権の影響
選挙公約に掲げた貧困撲滅や雇用拡大よりも為替の安定やインフレ抑制が最も影響が大きくまた一番注目する所でもある。
また前政権時代に前進の見られた「港湾ターミナル・海運業の効率化」にブレーキが掛からないか懸念される。
FTAの必要性と影響
貿易・市場拡大効果に繋がる政策はすべて歓迎したい。日本外務省の発表によると、貿易の8割を占めている北米、欧州、東南アジア(特に韓国,ASEAN諸国)との締結を優先すべきであるとしており、ブラジルとの締結には積極性が見られないのは残念である。
但し、ブラジルからの輸出では農産物が期待できるが,日本からの輸入の増加はあまり期待
できないのではないか。
4.貨物業界
2002年下期の回顧
2002年上期後半より引続く大統領選挙戦に呼応した思惑為替相場によるレアル安が、輸入
消費財の販売を直撃して、輸入業者は低迷。反面、クリスマスに向けての商品(家電、オーディオ、自動車)を生産するための部品・部材の輸入は、輸入生産にとって中枢である電子部品・部材が急増した。
また、上期後半より輸出貨物も増加し、生鮮食品・自動車部品・衣料品を中心にレアル安が輸出に貢献してきた。特にクリスマス時期を前後して客貨共に動きが活発であった。
帰国・赴任者の動向は、上期での異動が一段落した様子で、目立った動きはなかった。
2003年上期の展望
新大統領の就任も終え、為替相場も前年に比較してレアル高安定で始まっており、新施策の様子見から安定した時期を迎えようとしているように見える。
失業者対策を中心として消費力の向上、金融行政の改善、法整備の改善・簡素化、及び、アジア諸国に対抗できる輸出商品の価格競争力と品質向上等、世界のグローバル化に対応した新しい政策を打出すことに期待する。
特に至近の経済施策としては、やはり輸出競争力の強化・向上であり、鉱物・農産物、生鮮品、健康食品、各種原料・資材、工業用品の部品・部材を中心として価格競争力がつけられる時期に来ていると思うので、輸出に期待する。
5.フォアーダー業界
2002年下期の回顧
長引いたブラジル税関のストライキが終了した時期に北米港湾ストライキが発生し、当地へ向かうSEA/AIR貨物やマナウス向けコンテナ貨物に影響が発生。
その後、長引くストライキに北米向け航空貨物への転化が進み、スペース不足が発生。両ストライキの情報収集や提供に追われ、多忙となるも、貨物量は低下する結果となった。
また、一時期R$4.0/US$となった為替レートの変動も荷主の輸入離れを引き起こす要因となったものと思慮。
2003年上期の展望
依然REAL安ではあるが、かなり為替も安定してきたことが今後良い方向に転じることを期待している。
また、上記の他責となりうるストライキ等が発生せずに、順調なる物流が可能となることを期待している。
ルーラ大統領指導下のブラジル政治、経済が各部会や各業界に与える影響
今後どのような政策が出されるかが焦点。
現段階では推測の域を出ないが、ルーラ政権が発足して株や為替が安定に向かっていることが一時的なものか安定的なものかを暫く観る必要があり、影響については推測困難。
日伯間のFTA締結の必要性、あるいは与える影響
日本が孤立してしまわないためにも、日伯間だけに留まらずに必要性があるものと考える。
影響としては、日本からの商品がこれまで以上に売り難い環境となることが考えられる。
6.通信業界
2002年下期の回顧
大きなトピックは
① 通信各社の合従連衡の動きとインカンベントキャリアー(電話)の地域・サービスの相互参入
② TIMの携帯電話サービスの開始とそれに対抗するTeleSP Celular & Telefonica Celular 連合のJV化の動き
の2つである。
新聞に載った具体的事例を簡単に照会すると
・ Telefonicaによる国際電話サービス(5月)および国内長距離電話サービスの開始(7月:2日目に50%割引)
・ Telemarの国内長距離電話サービスの開始(8月:3分毎に1分無料)
・ AT&T固定電話サービス許可の取得(7月:企業向け)
・ Embratel企業向け固定電話サービス開始(10月)
・ Brasil TelecomによるIntelig(国際電話ミラー会社)MetroRed、Glovenet、などの買収の動き(8月~9月:未確認)
・ TIMの携帯電話サービス開始(10月:特定端末(2台)間の通話1年間無料)
・ TeleSP Celular(Portugal Telecom)とTelefonica Celular(Telefonica Moviles:スペイン)のJV化発表(10月:市場占有率6~7割へ)
・ TelemarによるPegasus(企業向けデータ通信会社)の買収の動き(3年1月)
などである。
2003年上期の展望
・労働者党出身のルーラ新大統領就任の電気通信産業に与える影響は他の産業と同様未だ未知数である。労働者党の基本的路線である低所得者層への利益還元と いう方向は電気通信においては低所得者層への料金の低廉化による固定電話普及率の向上という形で表されるものと予想されている。
・各電話会社は昨年までの相互参入による競争対応のため、体力的に疲弊しており、既に各社とも利益率の低い低所得者層向けの低廉な料金実現には税制優遇、 サービス認可基準の緩和、政府支援資金の導入など何らかの支援策が必要であるとANATEL(電気通信監督庁)では見ている。
・ ANATEL総裁以下の人事は本来政府とは独立した形が保証されており、これまでの政策が継承されるかどうかは新大統領が強硬な人事異動を実施するかどうかで判断される。ANATEL総裁は今の所、そういう動きはないものと見ている。
・2002年までは世界的IT不況の影響でブラジルの電気通信業界への投資も2001年に引き続き冷え込んでいたが、携帯電話、インターネットのブロード バンド化などでは成長は継続しており、政府の外資受け入れ施策の変更に対する不安が払拭されれば、ある程度の投資増額(特にヨーロッパ、米国)は期待でき る。
7.クーリエ業界
2002年下期の回顧
YAKON社の実績によると2,001/2002年対比で
COURiER輸出部門 21.4%減
COURiER輸入部門 7.4%減
AIRCARGO輸出部門 6.8%増
となり、9月11日のテロの影響から立ち直っていない。
但し REAL安で輸出は少し増えてきた。
2003年上期の展望
外資は5月最低賃金の上げ率、為替の動向に注目し、国会審議で最初の重要法案がパスして政府の行政力を証明するまで、積極的な投資を控えて静観すると思われる。従って貿易取引も停滞するだろう。
ルーラ政権の影響
12月28日の官報で通関の違反罰金を強化した法令(FHCの置き土産)DECRETO-LEI4543が発令された。
アンダーインヴォイスの罰金 100%
関税番号の間違い 1%
書類不備,間違い 50%
今後は税関の取締り強化、脱税の摘発が予想される。
FTAの必要性と影響
日本の農産物の輸入条件緩和が必要と思われる。
8.広告業界
2002年下期の回顧
大統領選挙による不安感から各企業とも先行き不透明な状態で、消極的な経営が目立った。このため、宣伝関係はまず様子を見てからということで、先送り傾向 となり、前年同期比で20%の減少となった。TV・ドラマ等のパトロシナドール(スポンサー),商品の販促関係など、直接消費者に向けて店頭の仕事が増え てきた。
2003年上期の展望
新大統領ルーラが思ったより過激的でなく、前大統領の政治を継続して行きそうなので,企業活動にも明るい日差しがさし,宣伝関係にも活気が出てくることが予測される。
9.ホテル業界
2002年下期の回顧
大統領選挙をめぐる政治的・経済的な不安定から異常なドル高となり,そのため出張旅行が減り、ホテルの占有率も低下した。国内のビジネス旅行の70%を占めると言われるサンパウロにおいては特に影響が大きかった。
2003年上期の展望
ホテルやフラッチでは全く需要回復の見込みがたっていない。同時に供給の方は相変わらず増えている。2003年,2004年も国中で新たに開業するホテルが多く事態をより深刻にしている。
ドル高でブラジル向けの旅行に割安感が出たにも拘らず、海外からの旅行は減少し、変わって国内旅行が増えている。
ブラジルは現在歴史的な危機にある。それは治安問題である。政府,州,市,警察が一致団結して安全な旅行ができる状況を実現して旅行客を迎える体制を緊急に作る必要がある。
一方、新大統領ルーラは観光セクターに70万-100万の雇用創出を計画していると言われる。観光大臣のMares Guiaは8000万ドルをブラジル 向け旅行マーケティングへの投資を計画しており、これはホテルと観光業界に新たな成長をもたらすものと期待される。新大臣は国内旅行の回復も強化する。彼 はインフラ整備,制度改革、財政整備にも力を入れており期待が持てる。
アニエンビ・ツーリズモの前社長で、今度EMBRATURの社長となったEduardo Sanoviczは観光セクターの雇用創出を進め、会議やエグジビション、リゾート地の文化や市場、エコツーリズモにも積極的である。