年金改革承認でブラジル維新の起爆剤となるか

年金改革法案は上院の憲法司法委員会、本会議においてそれぞれの審議・承認(上院本会議では6割以上の賛成、投票は2回を経て成立する。10月1日、上院本会議で第1回の年金改革法案基本文書は賛成56票、反対19票で可決、昨日22日の上院本会議での第2回投票は、賛成票60票に対して反対票19票で承認された。

年金改革法案の当初の今後10年間の歳出削減効果は1兆2,000億レアルが見込まれていたが、8か月間に亘った与野党間の政治駆引きの結果、パウロ・ゲーデス経済相は、8,003億レアルの歳出削減効果までの減少を余儀なくされた。

しかし年金改革法案承認は、ジャイール・ボルソナロ政権にとって今後の行政改革や税制改革、財政再建改革、政治改革など一連の構造改革を進展させるブラジル維新の起爆剤となる可能性がある。

フェルナンド・エンリケ・カルドーゾ政権時に僅か1票差で年金受給最低年齢の採決が否決された経緯があった。またミッシェル・テーメル政権時も年金改革や財政再建を試みたが、JBS社共同経営者のジョエズレイ・バチスタ氏が盗聴したラヴァ・ジャット汚職問題関連テープ発覚によるテーメル大統領の進退問題が発生して、年金改革が進展できなかった経緯があった。

2019年の社会保障院(INSS)の赤字は2,920億レアルが見込まれ、累積赤字は雪だるま式に上昇の一途を辿っていたが、昨日の年金改革の国会承認で今後の累積赤字のカーブが緩やかになる。

社会保障院(INSS)の新年金受給資格として、都会労働者では男性の年金入り最低年齢は65歳、女性は62歳、年金積立期間は男性20年、女性15年、前記同様に連邦公務員は65歳、62歳、積立期間は男女共の25年間となる。

また前記同様に農村労働者は男性60歳、女性55歳、積立期間は男女共の15年、教員は60歳、57歳、積立期間は25年、連邦警察並びに道路警察、立法府職員は男女ともに55歳、年金積立期間は男性30年、女性25年となっている。

現在の社会保障院への年金積立に対する徴収比率では、月収が1,751.81レアルまでは8.0%、1,751.82レアル~2,919.72レアルは9.0%、2,919.73レアル~5,839.45レアルは11.0%であった。

新社会保障院への年金積立に対する徴収は、最低サラリーまでは7.5%に引き下げられる一方で、998.01レアル~2,000レアルは9.0%、2,000.01レアル~3,000レアルは12.0%、3,000.01~5,839.45レアルは14.0%、5,839.46レアル~10,000.00レアルは16.5%、10,000.01~20,000.00は16.5%、20,000.01~39,000.00は19.0%にそれぞれ引き下げられる。

しかし連邦職員の中で社会保障院(INSS)が上限と定める3万9,000レアル以上の月収を受け取っている1,142人に対し、年金積立金は現在の11.0%から2倍に相当する22%の徴収に変更される。

世界の年金受給資格の比較では、トルコでは女性の年金最低受給資格は58歳、男性は60歳、チェコ共和国並びにルクセンブルグは男女ともに60歳、スロベニアは女性59歳、男性60歳とそれぞれ年金受給資格が緩い。

オーストリア並びにチリは女性60歳、男性65歳、韓国は男女ともに61歳、フランス及びスロベニア、ギリシアは男女ともに62歳、ドイツ並びにオーストラリア、デンマーク、スペイン、米国、フィンランド、日本、メキシコ、ニュージーランド、スエーデンは男女ともに65歳となっている。

しかしアイスランド並びにノルウエーは男女ともに67歳、アイルランド並びにオランダは66歳前後、イスラエルは女性62歳に対して男性は67歳、イタリアは女性61歳に対して男性66歳となっている。今回の年金改革承認でブラジルの女性の年金最低受給資格の62歳、男性の65歳への引上げで漸く世界の平均に近づいてきている。(2019年10月23日付けエスタード紙)

今年9月の歳入総額は予想を下回る1,139億レアル

2019年9月の国庫庁のインフレ指数を差引いた実質歳入総額は、前年同月比3.31%増加の1,139億3,300万レアルと9月としては2014年の1,188億2,900万レアルに次ぐ記録となったが、Prisma調査の予想の4.98%増加を下回った。

9月の実質歳入総額が前年同月比3.31%増加の1,139億3,300万レアルに留まった要因として、法人所得税(IRPJ)並びに純益に対する社会納付金(CSLL)は前年同月比5.13%減少の87億1,600万レアルであった。

今年初め9カ月間の歳入総額は、前年同期比2.15%増加の1兆1,290億レアルと今年3月から継続していた上昇サイクルから減少傾向に転じている。今年初め9カ月間の一般歳入は18億3,100万レアル減少している。

今年9月の一般歳入の源泉徴収所得税(IRRF)は、従業員利益分配金(PLR)が牽引して7.89%増加、金融操作税(IOF)もクレジット部門の拡大に伴って8.44%増加している。

9月の一般歳入は0.2%増加の1,115億2,300万レアル、石油派生品のロイヤリティによる臨時歳入は5.92%増加の24億1,100万レアル、また連邦政府の補助金などによる歳入減少は78億9,600万レアルと前年同月の78億1,500万レアルを僅かに上回った。(2019年10月23日付けヴァロール紙)

 

ブラジルオランダ商工会議所のPeggy de Rop general directorが訪問

ブラジルオランダ商工会議所(Câmara Comércio Holando Brasileira (Dutcham)のPeggy de Rop general director並びに商工会議所のウーゴ・アマノ監事(BDO Brazil)が2019年10月22日商工会議所を訪問、応対した平田藤義事務局長並びに日下野成次総務担当と両国の会議所活動などについて意見。ブラジルオランダ商工会議所は1952年設立、現在65企業の会員を擁している。

Fujiyoshi Hirata, Seidi Kusakano, Peggy de Rop e Hugo Amano

Foto: Rubens Ito / CCIJB

FRUCTUS MANAGEMENT社のDR RODOLFO GABRIEL VILLABA MANAGING PARTNERが訪問

アルゼンチンのCEMA大学教授(Universidad del CEMA)でFRUCTUS MANAGEMENT社のDR RODOLFO GABRIEL VILLABA MANAGING PARTNERは2019年10月22日に商工会議所を訪問、応対した平田藤義事務局長にアルゼンチン大統領選挙後、商工会議所の11月22日の懇親昼食会でのアルゼンチン政治経済に関する講演会を快諾した。

DR RODOLFO GABRIEL VILLABA氏は2018年にアルゼンチン投資庁を退任、アドバイザリー会社Fructus Capital社を設立、日本企業への助言や投資案件紹介や評価、アルゼンチンの中央銀行、為替市場、マクロ経済、政治環境などの分析業務を行っている。

Rodolfo Gabriel Villalba e Fujiyoshi Hirata

Fujiyoshi Hirata e Rodolfo Gabriel Villalba

Fotos: Rubens Ito / CCIJB

経営危機回避でソフトバンクはWeWorkの経営権取得

一時は470億ドルの評価額を得ていたコワーキングスペースのWeWork社であったが、孫正義社長が率いるソフトバンク社は経営危機回避のために40億ドル~50億ドルを投資して、WeWork社の70%の経営権を取得するとCNBCは報じている。

WeWork社の今年初めの市場価格は470億ドルに達していたにも関わらず、今では僅か80億ドルまで減少して経営危機に陥っている。ソフトバンクは既に同社の総額106億5,000万ドルの投資を行っていた。

WeWork社は新規株式公開(IPO)のプラン発表後に、同社の投資家から反発を受けて、金融市場関係者の信用を無くして、経営危機に陥っていた経緯があった。今年上半期の経営赤字は9億ドルに膨らんでいた。

ソフトバンクは当初からのWeWorkへの投資家であるが、CNBCによれば今後40億~50億ドルを出資する見返りに新規および既存の株式を含め、所有権の7割近くを得るが、同社はあと数週間で資金が枯渇する状態にあり、キャッシュの流出をわずかでも減らすために資産の一部の売却を図っていた経緯があった。

経営権を取得するのはソフトバンク・ビジョン・ファンドの親会社であるソフトバンクグループ、同社の最高業務責任者のボリビア系米国人のマルセロ・クラウレ氏がWeWork再建の指揮を取る。ソフトバンクはラテンアメリカ地域向け投資の50億ドルの投資ファンドを設立している。

WeWorkは経費削減のために従業員総数の13%に相当する2,000人の解雇を予定しているが、英国のGuaedian紙は、全従業員1万5,000人のうち2,000人の解雇だけに収まらないと予想している。(2019年10月22日付けエスタード紙)

FGTS先払いやボルサ・ファミリアの13か月サラリーで145億レアルの消費活性

500レアルまでの現役サラリーマンの勤続期間保障基金(FGTS)預金や凍結預金の先払い政策導入で120億レアル、また貧困層向け生活扶助のボルサファミリア受給者向けの13か月サラリー支払いで25億レアル、総額145億レアルが消費市場に流入されると経済省のAdolfo Sachsida長官はその経済効果を強調している。

FGTS預金は9月13日から500レアルまでの預金引出が開始される一方で、社会統合基金(PIS)/公務員厚生年金(PASEP)の引出は8月から開始され、今年8月から12月末までの引出総額は300億レアルが見込まれている。

今年末までに消費市場に投入が見込まれている300億レアルは、ブラジル国内では2011年から開始された米国の習慣を採用した毎年11月第4木曜日に催される感謝祭(Thanksgiving Day)翌日のブラジルでのブラックフライデー商戦やクリスマス商戦を活性化させる効果があり、また年明けの小売販売も活性化が継続すると予想されている。

Adolfo Sachsida長官は、今年のGDP伸び率は0.85%が予想されていたが、FGTS預金や社会統合基金(PIS)/公務員厚生年金(PASEP)の引出効果で1.00%近くに上昇、2020年のGDP伸び率は2.17%に達すると見込んでいる。

FGTS預金は9月13日から500レアルまでの預金引出が開始され、過去40日間で既に3730万人の労働者が154億レアルを引き出していると連邦貯蓄金庫では発表している。

サンパウロ商業会(ACSP)では、今年のブラックフライデー商戦やクリスマス商戦は前年比2.0%増加を予想していたが、ボルサ・ファミリア受給者向けの13か月サラリーの25億レアルの臨時歳出で、予想を上回る売り上げに繋がると上方修正している。

また現役サラリーマンの13か月サラリー支給で消費市場には2,300億レアル~2,400億レアル、勤続期間保障基金(FGTS)預金などの400億レアルで消費市場の活性化が見込まれている。(2019年10月22日付けエスタード紙)

過去8年間で日伯貿易は半減したが、ブラジル政府は再活性化取組

新天皇陛下が御即位に併せて訪日中のボルソナロ大統領は、24日に安倍晋三総理との会談が予定されている。また安倍 晋三総理は来月11月にブラジルを訪問するが、日本とメルコスールとの自由貿易協定が話し合われると予想されている。

ブラジルと日本の貿易は過去8年間で半減しており、また日本からのブラジルへの直接投資も半分以下まで減少して日本からの投資が冷え込んでいるために、ボルソナロ大統領は、ブラジルのポテンシャルの再認識や売込みに躍起となっている。

2011年~2018年の日伯貿易総額は174億ドルから51%減少の85億ドルまで減少、2011年の日本のブラジルへの直接投資は332億ドル、2015年は43%減少の189億ドルまで縮小していた。

日本はヨーロッパ連合と経済連携協定(EPA)、また米国と二国間貿易協定で合意、一方メルコスールはヨーロッパ連合、アイスランド並びにスイス、ノルウェー、リヒテンシュタインが加盟する欧州自由貿易連合(EFTA)と自由貿易協定(FTA)を締結している。

ヨーロッパ連合は2018年にメルコスール市場に総額239億ドルを輸出、この輸出総額は日本の輸出総額の5,5倍に相当、メルコスールとヨーロッパ連合とのFTA締結で、自動車並びに自動車パーツ、機械・装置、電気製品などの輸入関税低下で、日本の価格競争力の低下が見込まれている。

日本とメルコスールのFTA締結は農業部門での調整が大きな障害になっていたが、メルコスールとヨーロッパ連合とのFTA締結で調整がし易くなったとエドゥアルド・ パエス・サボイア駐日ブラジル大使は説明している。

連邦政府による年金・恩給改革、税制改革、行政改革など一連の構造改革進展に伴って、税制の簡素化、連邦公社の民営化、ブロクラシーの軽減などでインフラ部門や電力エネルギー、農業の生産性向上などで日本からの直接投資拡大をサボイア駐日ブラジル大使は示唆している。

ブラジルは2015年~2016年の経済リセッションで日本からの投資は減少した一方で、日本の投資家は東南アジアに注視していた。またボルソナロ大統領は労働者党(PT)政権時代に汚職の蔓延などで、ブラジルは海外投資家の信用を無くしていたが、ブラジルの清潔なイメージ更新を余儀なくされている。(2019年10月22日付けヴァロール紙)

中国資本CR20社が地下鉄6号線工事請負か

中国鉄建(CRCC)グループ傘下のCR20社は、オデブレヒト社並びにケイロース・ガルボン社、UTC社で構成されているコンソーシアムMove São Pauloが請け負っているにも拘らず、資金不足で中断を余儀なくされているサンパウロ市の地下鉄6号線工事請負で交渉中となっている。

この地下鉄6号線工事請負交渉では、中国資本CR20社以外にもスペイン資本Acciona社並びに米国資本KT2社が名乗りを挙げているが、中国資本CR20社の請負条件が有利と見込まれている。

コンソーシアムMove São Pauloを構成しているオデブレヒト社並びにケイロース・ガルボン社、UTC社は、2014年3月に発覚した連邦警察のペトロブラス石油公社関連ラヴァ・ジャット作戦汚職問題などで、大手ゼネコン企業幹部の逮捕が相次いで企業イメージが悪化、連邦政府によるインフラコンセッション入札参加が禁止されている影響で、地下鉄工事を継続するための資金調達ができない。

地下鉄6号線を完成させるためには100億レアル以上の投資が必要となっており、サンパウロ州政府に対して11月11日までに工事請負会社を決定しなければならない。

サンパウロ州政府とコンソーシアムMove São Pauloは2013年に地下鉄6号線工事で調印、地下鉄工事は2016年から開始されたにも拘らず、オデブレヒト社並びにケイロース・ガルボン社、UTC社のラヴァ・ジャット汚職問題が発覚した影響で工事が中止されていた。

地下鉄6号線はサンパウロ市北部のBrasilandia並びに Freguesia do Óを結ぶ15キロメートルの地下鉄で、15カ所の停車駅には大学が多くあるために、別名大学沿線と呼ばれている。

地下鉄6号線が完成すれば1日当たりの63万3,000人の利用が見込まれており、パウリスタ大学(Unip)並びにカトリック大学(PUC)、アルマンド・アルヴァレス・ペンチアード大学(Faap)、マッケンジー大学、FMU大学を擁している。(2019年10月19日付けエスタード紙)

金利低下で民間銀行が農業向けクレジット拡大

ブラジル銀行並びにノルデステ銀行が農業向けクレジットを独占していたが、3年前から継続している政策誘導金利(Selic)の減少に伴って、民間銀行は農業向けクレジットに参入し始めている。

大手民間銀行のブラデスコ銀行並びにイタウー銀行、サンタンデール銀行は、農業向けクレジット拡大で、人口が5万人~6万人規模の地方都市をターゲットに、年末までに40支店を開設する。

2015年の農業向けクレジット総額は2,610億レアル、公立銀行はクレジット総額の76%を占めていたが、今年の農業向けクレジット総額は3,060億レアルで公立銀行のクレジット比率は70%予想、しかし2022年の農業向けクレジット総額は3,550億レアル、民間銀行のクレジット総額は50%を占めると予想されている。

2019年の零細・中規模農家の収穫プラン向け銀行金利は6.0%に固定されているが、大型農業の収穫プラン向け銀行金利は8.0%、現在のSelic金利が5.5%まで低下しているために、民間銀行は6.50%~8.50%のクレジット金利でも農業向けクレジットが拡大できる。

2019/2020年度向け収穫プランのクレジット総額は2,255億9,000万レアルが見込まれているが、ファイナンスの33%はポウパンサ預金、農業証券22%、社会経済開発銀行(BNDES)は11.0%となっている。

ジャイール・ボルソナーロ大統領は、農業向け補助金削減と民間銀行の農業向けクレジット拡大するための大統領暫定令MP897号を今月初めに発令している。(2019年10月20日付けエスタード紙)

 

過去1年間でブラジルの100万ドル以上の富裕層は19.4%増加

Credit Suisse銀行の調査によると、2018年後半から今年前半の1年間のブラジルの100万ドル以上の資産を擁する富裕層は21万7,000人から19.4%増加の25万9,000人に達し、資産総額は3兆5,000億ドルに達している。

また2024年までの今後5年間のブラジルの富裕層は23%増加の31万9,000人に達すると予想、一方人口の1.0%の富裕層は49%の富みを独占しており、2016年~2019年にかけて、ブラジルは唯一社会格差が拡大した国となっている。

ブラジルの人口の70%は1万ドル以下の資産しか保有していないが、世界の平均である58%を上回っている。世界の1.0%の富裕層の資産総額は世界全体の44%を占めている。

2018年後半から今年前半の1年間に米国の100万ドル以上の資産を擁する富裕層は67万5,000人増加、日本は18万7,000人、中国は15万8,000人それぞれ増加している。

今後5年間で100万ドル以上の資産を擁する富裕層の増加はポーランドを筆頭に日本、中国、ポルトガル、台湾での増加が予想されており、世界では27.0%増加の6,300万人で資産総額は459兆ドルに達すると予想されている。

2018年後半から今年前半の1年間のラテンアメリカの富裕層は、アルゼンチン並びにヴェネズエラの経済危機で僅か4.9%増加の463兆ドル、そのうちブラジルは312兆ドルを占めている。

2018年後半から今年前半の1年間の資産総額が5,000万ドル以上のブラジルの富豪は860人増加、米国は4,200人、ロシアは400人それぞれ増加している。(2019年10月21日付けヴァロール紙)