企画戦略委員会並びにジェトロ・サンパウロ事務所共催のジェトロ・ブエノスアイレス事務所の紀井寿雄所長によるセミナー「アルゼンチン大統領選挙直前の現地最新情勢について」は、参加希望者殺到で2回に分けて開催、第1回セミナーは2019年9月17日午後4時から5時30分まで50人以上、第2回セミナーは9月18日午前10時30分から正午まで40人以上が参加して開催された。
司会は着任早々のジェトロ・サンパウロ事務所の松平史寿子次長が担当、講師の紀井所長は、今回のセミナーは今年3月19日に開催した「アルゼンチンの最新政治経済情勢 ~大統領選をどう見るか~」と題した講演内容と180度違っている。アルゼンチンの政治経済情勢は短期間で急変するが、数十年単位で見れば何も変わっていないとの小話があり、非常に先が読みにくいアルゼンチンの国情を指摘した。
OECD加盟を目指しているマクリ政権の在任期間4年のうち僅か1年だけプラスGDP成長達成したが、為替の安定やインフレの収束ができず評価が低い一方で、財政規律やプライマリーバランス改善、今年は景気悪化で貿易収支黒字が見込まれている。
マクリ政権の優先順位の為替安定、インフレ抑制、政策金利抑制は経済危機などの影響で、目標を大幅に下回って危機的状況にあり、再選戦略も持続的経済成長や政治工作では三つ巴システムの維持が困難をきたしている。
マクリ大統領の再選を左右する経済情勢が落ち込んだ要因として、昨年初めの旱魃による40%に達する大豆収穫減、インフレターゲットの未達、海外要因による脆弱性、急激な高金利政策、財政規律への拘りとなっている。
政治の三つ巴システム破綻要因として、経済情勢の悪化、ペロン党穏健派の埋没、クリスティーナ・キルチネル元大統領の大統領としての不出馬戦略が功を奏して、ペロン党急進派が穏健派と一緒になる決断に結び付いている。
8月11日の予備選挙の事前予想では僅差による2位維持で逆転勝利のシナリオが15.6%の大差を付けられて、野党アルベルト・フェルナンデス大統領候補の第一次当選の可能性が濃厚となってしまった。
予備選挙後の一週間では為替・株価・債券の急落、政策修正並びに野党との対話開始。第2週目は与党の路線変更で平穏な政権移行の実現、第3週目はフェルナンデス大統領候補のマクリ政権並びにIMF批判やデフォルト示唆。第4週目は通貨下落や外準減少の歯止め目的の資本規制策の時限立法の導入。第5週はIMFからスタンドバイ融資の第5次レビュー対策。
予備選挙前後で狂った経済再生シナリオ、大統領選挙の世論調査、や選挙得票試算。フェルナンデス大統領候補が勝利すればイデオロギー優先外交の復活、自国産業保護やEUメルコスールFTA協定に直し、金融自由化に歯止め、経済弱者への再配分などの想定される政策変更について説明した。
最後にアルゼンチンの最新情報纏めではマクリ大統領に対する厳しい評価、マクリ政権の最大の課題は「政権移行」、一枚岩ではない野党の行方、「普段のアルゼンチン」への回帰について説明。最後の質疑応答では、普段のアルゼンチンとは、自国産業の保護政策、直接投資に対する影響、中国企業の進出。数十年単位で変わらないファクターなどが挙げられた。
「アルゼンチン大統領選挙直前の現地最新情勢について」ジェトロ・ブエノスアイレス事務所の紀井寿雄所長
講演中のジェトロ・ブエノスアイレス事務所の紀井寿雄所長
講演中のジェトロ・ブエノスアイレス事務所の紀井寿雄所長