経済産業省(METI)と開発商工省(MDIC)は2018年7月25日、経済産業省内国際会議場(東京霞ヶ関)において第12回日伯貿易投資促進・産業協力合同委員会(貿投委)を開催した。今回の貿投委は2部で構成され1部の政府間セッションでは中川勉大臣官房審議官(通商戦略担当)とMargarete Gandini 自動車輸送機器部長が個別会合を行った。この直後に2部の官民セッションが午後三時から開催され、中川勉大臣官房審議官(通商戦略担当)とAbrão Neto産業貿易省貿易局長が其々共同議長を務めた。
官民セッションでは大前孝雄 経団連日伯経済委員会企画部会長、竹下幸治郎JETRO海外調査部主幹、今浦陽惠 特許庁国際協力課地域協力室長、JICAの吉田氏(元ブラジル勤務)、ブラジル側はJosé Augusto Coelho Fernandes CNI 政策&戦略理事、Constanz Negri Biasutti CNI 通商政策部長、Margarete Gandini 自動車輸送機器部長等が発表を行った。
両国経済関係の強化に向け、昨日と一昨日に行われた日伯経済合同委員会報告(経団連/CNI)特にハイライト案件の日本メルコスールEPA、JETROから進出日系企業からみたブラジルの投資環境、特許庁がPPH 等知財協力の状況を報告、又ブラジル側からは日本に輸出された製品の市場へのアクセス、ブラジルの自動車政策ガイドライン-ROTA2030、自動車輸送機器産業に関する協力を議題に挙げて報告中心の会合が行なわれた。
(貿投委全体のアジェンダは別添参照)
両国政府、企業関係者合わせて40名が参加し、会議所から松永愛一郎会頭および平田藤義事務局長に加え会員企業関係者数名が参加した。
本貿投委で最も重要案件である日本・メルコスールEPAについて、大前孝雄経団連日本ブラジル経済委員会企画部会長からの報告と中川大臣官房審議官のコメントは以下の通り。
【大前孝雄 経団連日本ブラジル経済委員会企画部会長】
一昨日、昨日と東京の経団連会館にて開催しました第21回日本ブラジル経済合同委員会、これの概要ならびに、そこで非常にハイライトされました日本・メルコスルEPAにつきまして報告申し上げる。
まず、日伯経済の現状と展望と題するセッションにおきましては、ブラジル経済について、労働法改正、そして公的支出の上限設定等、こういったものをはじめとするテメル大統領の力強い改革によって、2年間にわたる深刻な経済危機を乗り越え、2017年にはプラス成長を遂げたとの説明があり、たいへん心強く感じた次第です。また、日本側からは、アベノミクスの現状と今後の課題の説明、ならびに、日本企業によるブラジルへの投資拡大に向けたビジネス環境整備等の提案がなされた。
これに続く、貿易投資、日本メルコスールEPA、このセッションにつきまして、結論から申し上げますと、今回のこのセッションの最大の成果は、日伯両国の経済界が連携して日本メルコスールEPAの早期交渉開始を両国政府に強く働きかけていくことで合意、その具体的な提言内容が盛り込まれた共同報告書が参加者の皆様の圧倒的な賛同を得て採択されたことにある。
ご承知の通り、昨今、米国トランプ政権の打ち出す様々な通商政策が、世界規模での保護主義台頭の動きを巻き起こしつつあり、米中間においてはまさに貿易戦争の様相を呈し始めている。この流れがEUはじめ世界に連鎖していけば、世界経済にとっても憂慮されるべき事態を迎えることが強く懸念される。特にこうした保護主義の台頭は貿易立国である日本にとって誠に憂慮すべき流れである。であればこそ、自国優先の通商政策を前面に打ち出す米国への防波堤として、日本が世界に対し自由貿易を推進していく指導者としての強い姿勢を示すことが、ますます重要になってくるとの状況認識が共有された。
その一方で、二国間、または地域間におけるFTAとかEPA、これを締結する動きが広がっておりまして、特に企業のバリューチェーンのグローバルな拡大が進む中で、国際的な分業ネットワークを効果的に確立する上で、多国間にまたがる広域EPAの重要性が一段と高まっていると言える。こうした状況認識の下で、本年3月8日にTPP11、さらに7月17日には日本・EU間のEPAの署名が行われましたこと、日本の産業界は強く歓迎している。加えて、現在わが国が交渉中のRCEPが妥結すれば、日本にとってはアジア、大洋州、欧州を広くカバーするFTA、EPAのネットワークが構築されることになる。
他方、中南米諸国との関係に目を向けてみますと、メキシコ、チリ、ペルーとは既にEPAを締結し、コロンビアとも現在交渉中です。ただし、メルコスール加盟国との交渉開始には至っておらず、わが国にとってのEPAの空白地帯となっております。中南米はご承知の通り、GDPでASEANの2倍の大きな経済力を持ち、中でもメルコスールは約3億人の人口を擁する非常に大きな市場です。加えて、豊かな天然資源や、大きなインフラ需要の存在などから、さらなる経済関係の大きなポテンシャルを持っており、既にわが国企業は4カ国に1000を超える拠点を設け、様々な事業活動を展開しいる。
そうした観点から、日本・メルコスールEPAは最後に残されたメガEPAと言っても過言ではなく、同地域に進出する日本企業も大きな関心をもって成り行きを見守っている。先にメルコスール4カ国の進出日本企業を対象に実施しました意識調査におきましても、実に8割を超える企業がその必要性を感じるとの結果を得ており、また、日本政府にとっても、安倍政権が重視する中南米外交を進める上で決して軽視できない取組みではないかと考える。現在、メルコスールとEU、さらには韓国とのEPA交渉が先行していく中で、メルコスール市場でわが国企業がそうした国・地域から劣後する条件下での競争を強いられることへの非常に強い危機感、さらには日本にとって将来の大きな脅威となり得る中国に先んじて交渉を開始することで優位性を確保したいとの声が高まっている。
EPAの締結により、日本・メルコスール間の物品サービス貿易の自由化、投資障壁の撤廃、電子商取引をはじめとする各種ルールの整備や、ビジネス環境のさらなる向上が実現すれば、より緊密で互恵的な経済関係を構築することが可能となる。また、メルコスール各国の企業にとりましても、日本をパートナーとして世界の成長センターであるアジア市場へのアクセスの拡大も視野に入れることができる。さらに、保護主義的な風潮が世界に蔓延していく中で、日本とメルコスールが高度で質の高いメガEPAの締結を目指すことは、自由で開かれた国際経済秩序の維持、発展に非常に大きな意味を持つものと確信している。
こうした認識を共有した上で、今回の合同会議では、参加者の皆様のご賛同を得て、日本・メルコスールEPAに関する共同報告書を採択した。こうした意欲的なEPAの早期実現には、何よりも政治の強いリーダーシップが必要であることから、経団連としましては、日商はじめ他の経済団体とも協力し、可及的すみやかに日本政府に対し日本・メルコスールEPAの早期交渉開始を求める要望書の提出を行うべく準備を進めてまいる。また、これと平行して、CNIの協力を得ながら、メルコスール各国政府に対しても正式要望書の提出を含む働きかけを加速してまいりたいと思う。
以上、日伯両国経済界としては、引き続き日本・メルコスールEPAの早期実現に向けて活動して参りますので、今後とも皆様のご理解とご協力をお願い申し上げる。
次に、農業のセッションにおきましては、穀物ロジインフラの整備、そしてブラジルの豊富な農産物を有効活用するバイオエネルギー分野の展望、環境に配慮した等を中心に議論が進められた。これらの分野におきましては、両国がさらなる協力の可能性を模索し、課題解決に向けて取り組むことは非常に有意義であり、今後も議論を続けて参りたいと考えている。
投資機会・ビジネス環境の整備。このセッションにおきましては、ブラジル側から投資インセンティブや投資誘致をめざす産業分野等について、また日本側からはブラジルコストの克服や労働法制、税制改革等を通じたさらなるビジネス環境整備の必要性について議論された。ビジネス環境整備と貿易投資の促進は表裏一体の関係であることから、ビジネス環境整備の推進が両国産業界の協力関係の一層の強化につながると考えている。
インフラセッション。インフラ整備のセッションにおきましては、貨物輸送インフラ分野および旅客輸送インフラ分野、これを取り上げまして、日本企業による投資拡大のための問題提起と提言がなされた。ブラジル政府はインフラ整備を、ブラジルコストを削減する上での最優先課題ととらえておる。一方日本政府は、質の高いインフラ輸出を成長戦略のひとつに掲げており、日本企業にとっても非常に関心の高い分野であることから、同分野への投資環境が改善すれば、日本企業が長年にわたって培ってきた高い技術やノウハウ、これが必ずやブラジルのインフラ整備に貢献できると考えている。
最後の、SDGs実現のためのイノベーションと技術。このセッションにおきましては、両国におけるソリューションビジネス、日本が官民を挙げて取り組むSociety 5.0等を通じた、SDGsの達成に向けた議論を行った。イノベーションやテクノロジーといった分野は新たな協力分野としてのポテンシャルを大いに秘めており、今後も双方の産業戦略や政策の共有を通じて、新たな分野での協力が拡大していくことが期待される。
以上が、今回の第21回合同経済員会の概要です。本日の貿投委ではこれら両国経済界の議論の内容、そして両国政府への提案、要望等もふまえながら、両国経済関係のさらなる発展に向けた活発な意見交換が大いに行われることを期待する。
【中川大臣官房審議官のコメント】
大前企画部会長からのご報告に対しAbrãoNeto局長同様、METIとしてもCNI/経団連の皆様方による日本メルコスールEPA共同報告書の作業に対し感謝申し上げる。先程の政府間セッションでも申し上げたが、日本とメルコスールのEPAを今後どう進めるかについては、まさにブラジル側日本側において色々事情があると言う風に思う。日本側について申し上げればTPPの早期発効、さらに言えば日本とEUの早期発効、更には今交渉中のRCEPの交渉、こう言ったメガFTAをどうやって進めて行くか、さらに言えば大きな経済圏を持つ2国間の関係をどうやって調整していくか、こうした全体の通商問題の中でメルコスールEPAをどうやって位置づけて行くかと言う事をよく考えていく必要があるというふうに思っている。その意味で今回、経団連/CNIから提出される報告書は一つのステップになる。私達としてもその内容について良く研究させて頂きたいと思っている。大事なことは民と民の間でまた官と官の両方の間でこの日本メルコスールの重要性についての理解、議論を深めて行く事だと思う。日本側特にMETIとしても議論を深める事に対し貢献していきたい。メルコスールとのEPAについてはブラジルだけでなく他のアルゼンチン、パラグアイ、ウルグアイと言った国々も関係する。更には市場アクセスだけでなくルール分野も含めて非常に多くの利害関係者がいると思う。そうした多くの意見を良く聴いていく必要がある。