経済省と外務省は、メルコスールとシンガポールの自由貿易協定(FTA)が近日中に締結されることが確実だと受け止めている。第11ラウンド貿易交渉が7月第3週(11日から17日)にアスンシオンで開催予定であるが、双方の主張で大きく隔たっていた部分は、既にすり合わせ済みである。
舞台裏ではブラジル政府が、アルベルト・フェルナンデス(Alberto Fernández)大統領が締結に抵抗感を示すアルゼンチンを、いくつかの点で説得する役割を果たした。この交渉は2018年に始まったが、その後の新型コロナウイルス(COVID-19)のパンデミックで交渉ペースが鈍化。数か月前から積極的な交渉が再開され、ハッピーエンドを迎えつつある。
協議に直接的に関わった関係者によると、新たな貿易協定により二国/地域間貿易で扱う品目のおよそ90%に対して、輸入税率をゼロに引き下げる。シンガポールは2021年にブラジルから60億ドルを輸入しており、ブラジルの多国籍企業にとっては同国が、外のアジア諸国に商品を流通させるためのある種の玄関口になっている。人口約600万人で人口1人当たりの所得が世界的に大きな国のひとつであるシンガポールは、ブラジル製品の主な国外市場としては第7位を占める。
シンガポールとの貿易協定で非関税分野は、投資の円滑化とサービス業の市場開放、電子商取引に対する規制の3分野で既にメルコスール側が妥協、より幅広い合意になると交渉担当者は話す。
ブラジルに対するシンガポール資本の直接投資のストックは、ほぼ100億ドルに達している。これらの企業には、ケッペルオフショア(Keppel Offshore)とジュロン・シップヤード(Jurong Shipyard)の造船会社、ガレオン空港を経営するチャンギ(Changi)、パルプ工業のブラセル(Bracell)などがある。ソブリン・ファンドのGICは、高速道路のコンセッショネアに出資している外、下水処理会社のアエジェア(Aegea)、ヴィブラ・エネルジア(Vibra Energia:旧BRディストリブイドーラ=BR Distribuidora)にも資本参加している。
今回の貿易協定では、上記以外の分野、例えば政府調達分野や衛生規定、植物検疫規定などを含み、通関業務のスリム化、産地規定といったものも含まれる。
経済省貿易局(Secex)がこのほどまとめた研究によると、シンガポールとのFTAは、基本的シナリオとの比較分析において、対象となった65業種のうち58業種でブラジルの輸出を後押しすることになるという。輸出拡大に大きな可能性のある品目として同局は、食肉と野菜、果物、金融サービスなどを指摘した。
一方、シンガポールは非常に低い輸入税率を既に実践している。しかしFTAでは、輸入税率がゼロあるいはゼロ近辺に定めることが保証されるため、財の相互貿易により安全性が高まる。投資面では、合意は介入主義的な対策が講じられる可能性に対するハードルを引き上げることで、双方の「資本の所有者」に対してより大きな安心感を与える傾向がある。
シンガポールとのFTAにおいてセンシティブな問題のひとつは、原産地規定だった。これは、プロダクトが国産(メルコスールの場合は地域産)と認定されるために必要な、現地調達の割合を定めた規定である。アジアの小さな島のシンガポールは、全世界のサプライヤーから投入財を調達してきた経緯がある。
そこでメルコスールは、同国の製品に関して欧州連合(EU)と合意した条件を今回も導入することを決定、業種によるが製品によって最低で50%から55%の現地調達比率を確保していればシンガポール製と認める判断を下した。
またこの点が、まさにアルゼンチンとの間で生じた摩擦の大きな原因となった。フェルナンデス政権はメルコスール内の協議で、EUと合意したコミットメントについて、マウリシオ・マクリ(Mauricio Macri)大統領時代(2015―2019)のものでありシンガポールとは同じ判断を繰り返さないことが望ましいと発言していた。しかし関係者によると、アルゼンチンの当局者らが妥協し、この貿易協定の重要性について理解したのだという。
仮に交渉が妥結する場合、メルコスール(ブラジルとアルゼンチン、ウルグアイ、パラグアイ)の4か国は、次回の首脳会談で合意を発表する意向だ。この首脳会談は21日、パラグアイが既に持ち回りの議長国となっていることからアスンソンで開催が予定されている。この会談には、ブラジルからジャイール・ボルソナロ(Jair Bolsonaro)大統領(PL:自由党)が現地を訪問、出席する予定だ。
この貿易協定は、2018年の大統領選の選挙キャンペーンで経済の開放を公約に掲げたパウロ・ゲデス(Paulo Guedes)経済大臣にとって、大統領選挙の投票日まで3か月を切ったタイミングで同大臣のPR要素になると期待されている。EU及び欧州自由貿易連合(EFTA:アイスランドとノルウェー、スイス、リヒテンシュタイン)との自由貿易協定は、2019年に合意に達したものの、その直後に欧州側が、アマゾン熱帯雨林の森林伐採が大規模に行われている間は署名と批准を拒否する事態に陥って凍結されている。
さらに、例えばメルコスール=カナダ貿易協定やメルコスール=韓国貿易協定のようにブラジルが重視している別の貿易協定は、今のところ、規定をまとめるまでに至っていない。このためシンガポールとの貿易協定を現政権は、切り札と位置付けている。アジアの国々は、最近になって署名された地域的な包括的経済連携協定(RCEP)及び包括的・漸進的環太平洋経済連携協定(CPTPP)という大規模協定の関係行である。前者は、中韓を軸としたアジア太平洋の協定。後者は、アジア太平洋諸国とカナダ、メキシコ、チリ、ペルーが参加している。いずれにおいても、日本とオーストラリア、ニュージーランドが参加している。加えて、シンガポールは世界貿易機関(WTO)に対して、27か国とのFTAを締結していると申告している。(2022年7月4日付けバロール紙)