来年の大統領選挙を占う 赤嶺 尚由(2009年11月19日ニッケイ新聞に掲載)

来年の大統領選挙を占う

赤嶺 尚由     


この国の運命をも左右しかねない注目の次期大統領選挙まで1年を切った現在、折角「政経ノビダーデ」と銘打っているからには、とかく政界のバスチドーレス(舞台裏)だけに封印されがちで、容易に表舞台に出てこないマル秘情報などもできるだけ歯に衣着せない形でズバズバ取り上げたいと考えている。

次期大統領選挙は、来年10月3日(日)がいわゆるプリメイロトゥルノ(第1次投票)の行われる日だ。そして、そこでもし全有効投票総数の50%プラス1票(絶対過半数)を獲得した候補が現れなければ、上位2者だけに絞り、同月31日(日)にセグンドトゥルノ(決選投票)が実施される仕組みである。第1次投票の段階で勝負の決着が付くのは意外に難しいことで、02年と06年の大統領選挙でも、ルーラ現大統領(64歳、PT所属)は、決選投票への進出を余儀なくされた。

来年の大統領選挙に正式に出馬を表明しているか、非公式であっても、ヤル気充分の候補を挙げると、先ず、ルーラ現大統領の意を汲んでいる、というよりも、どうしても当選して欲しい、いや、当選してもらわなければ困る、との悲願の込められた与党陣営のジウマ・ロウセフ現官房長官(61歳、PT所属)が筆頭だ。彼女は、64年3月の軍事クーデター以降、軍政打倒を目指してゲリラ活動に身を挺したこともある鉄の女性タイプである。

彼女と真っ向から対決する野党候補は、ジョゼ・セーラ現サンパウロ州知事(67歳、PSDB所属)になる公算が大きい。一応アエシオ・ネーヴェス現ミナス州知事(49歳、PSDB所属)も同党内での対抗馬となりそうな一人に目されているが、セーラ候補本命説が揺るぐ気配はなさそうだ。それは、同候補が02年の大統領選挙で決選投票まで進み、当選したPT所属のルーラ候補を相手に32・3%を獲得して善戦した実績があるからだ。

実はルーラ大統領の胸の内には、来年の大統領選挙を勝ち抜くために、思い描いている秘策があった。もしそういう展開の仕方を演出できれば、秘蔵っ子候補のロウセフ女史の勝算がぐんと高まりそうな戦術だった。それが何かといえば、与党陣営の中から、セーラ候補が出馬してくるのは、まず避けられないにしても、その他の候補は、有力であるか泡沫であるかを問わず、皆立候補を断念させたい意向であった。

読者の皆さんは、ここまで読んできてくださったなら、私の文章の中のある共通点に既にお気付きになられたかもしれない。それは、あった、とか、だった、とか、更に、であった、という風に全て過去形にした点だ。ということは、折角のルーラ大統領の描いた秘策が現実のものとはならずに、夢幻の如く消えてしまったことを併せて意味するものである。

ルーラ大統領が来年の大統領選挙に向けて、是非とも実現したかった事柄は、与野党候補だけでポラリザソン(2極化)の形にして最後まで対峙させ、勝敗を決めさせるということにほかならなかった。何故そのような戦術の採用を考えついたのか。それは、国民投票の形にすれば、通算8年間に亘ったルーラ革新政治に<シン>か<ノン>かの信任を1億人強の有権者に直接問い質すことができる、そして、自分の高い支持率を背景に国民から確実に下る筈の有利な審判をそのまま即ロウセフ与党候補の勝利へと繋ぎたい、という筋書きだった。

ところが、シーロ・ゴーメス元セアラー州知事(52歳、PSB所属)が先ず出馬を表明し、マリーナ・シルヴァ前環境大臣(51歳、緑の党所属)も名乗り出て、ルーラ大統領の秘策はものの見事に葬り去られ、想定外のものになってしまった。シーロ候補は、一応与党陣営の中に属しているから、サンパウロ州知事選に鞍替えさせ、強力なアウキミン前知事(57歳、PSDB所属)あたりと対決させるなり、いわゆる自家薬籠中の者としてどのようにでも扱えそうだ、との判断が大統領側には確実にある。

しかし、簡単に行きそうにないのが野党のマリーナ候補だ。彼女は、ただの文盲階層から一念発起して大学まで卒業し、国際的に知名度の高い環境専門家になり、ルーラ政権の誕生と共に入閣を果たしたが、アマゾンなどの環境保護の必要を一貫して主張し続け、経済成長一辺倒を是とするロウセフ官房長官と絶えず意見の齟齬(そご)をきたし、PTを脱党して閣外へ去ったという事情と経緯がある。

その支持層もかなり厚く、とても一筋縄では行きそうにない。自分の息のかかった後継者を是非誕生させたいルーラ大統領の悩ましい問題の一つが実はここにある。また、任期切れが近付いても、高水準のまま推移してきている国民からの支持率を何とか秘密兵器みたいなものに変えたいという想いも逆に強まりつつある。(続く、ソールナッセンテ人材銀行代表)

 

(この記事は2009年11月19日のニッケイ新聞に掲載、同新聞社の承諾を得て掲載

 

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