第3回日伯インフラ協力会合(東京)

日本ブラジル両国政府によるインフラ会合が国際協力機構(JICA)市ヶ谷ビルで6月10日から11日の二日間にわたって開催された。同会合には経団連会員企業の中でブラジルに進出、あるいは関心を示す企業の関係者、約80名が参加、ブラジル日本商工会議所からは訪日中のジュン・マクタ弁護士(会員:TozziniFreire法律事務所)がインフラWGを代表してプレゼンを行った。又、日本企業のブラジル進出促進を主目的に来日した平田藤義事務局長も参加した。

日伯インフラ協力会合は016年10月テメル大統領と安倍総理の間で首脳会談が行われた際に、インフラ分野における投資および経済協力の促進のための協力覚書に基づき、第1回の会合と2回の会合はブラジリアで開催された。

10日の会合は午後2時半から開催、外務省の辻 清人政務官が冒頭で「この会合は日本企業による質の高いインフラ投資を促進することを目的としている。ブラジルでは今年1月新政権が誕生、各種の構造改革が意欲的に取り組まれている。日本の政府や経済界はともに年金改革や税制改革の進展に注目している。ブラジルには約700の日系企業が進出、様々な分野で事業を展開、日本企業が得意としブラジル社会に貢献できる各種のインフラ分野において日本の存在感をさらに強化したいと考える。そのためには投資環境の整備が何よりも重要である。第1回および第2回会合では日本側からインフラ事業における為替リスクの軽減、長期の融資スキームの拡充、ライフサイクルコストを考慮した入札の設計、コンセッションにおける官民適切なリスク分担などについて改善を要請した。本日の第3回会合にはブラジルでインフラ関係ビジネスを既に行っている企業、検討中の企業の皆様に加え、日本側の要望に対する新政権の具体的な考えを聞くためブラジル日本商工会議所からも参加している。この会合の各セッションでは様々な意見が率直に交換され、重要な戦略的グローバルパートナーである日本ブラジルの相互理解がさらに深まることに期待する。本年1月ダボスで安倍総理とボルソナーロ大統領が首脳会談を行った際も、総理から新政権が取り組む政策に期待が表明され両首脳は幅広い分野で協力を強化していくことで一致、二国間の経済関係を一段と高い水準に引き上げるにあたって日本企業がブラジルの様々なインフラ整備を担うことは大変重要なことである。本日の会合の色々なセッションで有意義で忌憚のない議論が行われ日本とブラジルのインフラ協力が一層進展することを祈念する」と挨拶した。

辻外務大臣政務官による挨拶(中央はゴメス国際局長、右はルカス貿易局長)

在京サボイア伯大使による挨拶

ブラジル側から経済省のエリヴァウド・ゴメス国際局長およびルカス・フェラス貿易局長がそれぞれ挨拶した。

ゴメス局長は「インフラの分野はブラジルにおいて最優先課題の一つである。2016年の両国首脳会談でインフラ協力に関する覚書を結び投資家に対しビジネス環境を整備していくことの重要性を認識している。ブラジルの投資パートナーシップ(PPI)を進めるためには日本の質の高いインフラを導入したいと思っている。今日話をしたい分野には鉄道、高速道路、通信分野など多くの分野がある。外務省、JICA、在京ブラジル大使館、またブラジルに進出している日本企業の協力でもって具体的な成果を上げて行きたい。ブラジルは過去20年から30年間もの間、インフラ投資を後回しにし、社会の要求に応えるため短期的な政策を優先し間違った道を歩んで来た。そのバランスを取り戻すために本日は新政権下の長期的な政策や諸種の改革について話をしたい。色々なイニシアチブがあり例えば、年金改革、税制改革、投資環境の整備、経済成長などこれらの施策を通して補完的にインフラの近代化を進め、その中で司法的な保証措置も検討していくつもり」だと挨拶した。

ルカス貿易局長から「日本とブラジルの関係は強い絆で結ばれ協力的で戦略的なパートナーであることを認識している。これから先、もっともっと貿易や投資およびビジネス拡大の余地が残されている。新しい政権下では生産性ということを最重要視している。40年にも渡って停滞してきたからだ。生産性を上げて経済を成長させ雇用を拡大、所得も上げて行く。生産性を上げるための3つのポイントは今のカオス状態にある複雑な税制の簡素化であり、納税額を下げる事、2つ目に特別目を向けるべき分野としてブラジルの経済が国際市場に統合されてない事、3つ目はインフラ整備のための投資の促進だ。GDPに占めるインフラ投資の比率が80年代の終わりまで5%あったのが、今現在は2%に落ち込み投資が停滞している。インフラ投資は歴史的に政府が担っていたが、今は財政が逼迫、国家建設や社会インフラを整備し生産性を上げて行く為の予算が無く海外からの投資の呼び込みが不可欠となっている。過去、数年間ブラジル政府はしなければいけない事の反対のことを行い大きな過ちを犯した。ビジネス環境を改善し投資の呼び込みを怠ったからだ。予算の配分にしても不要な民間部門に補助金を交付したことで生産性向上に寄与しなかった。現政権では過去の失政を正し、しっかりとした道筋や方向性を示し民間の活力を活かした成長戦略に転換している。ブラジルはビジネスをするのに常にドアーをオープンにしている。さらに日本企業がブラジルに進出、投資の拡大を歓迎したい」と挨拶した。

新しい国際化へのアプローチ:
財政面からエリヴァウド・ゴメス局長が汚職構造の浄化、経済にとり重要な政府の信頼回復、持続的な財政規律の維持、年金改革および税制改革を断行し投資・ビジネス環境の整備、起業家精神を育成する環境整備、国家の過剰な介入と規制、向こう4年間ですべてのパブリックセクターにおけるデジタル化の推進、民間セクターの活性化、2020年までのGDPやインフレ率の推移、貿易バランス、外国融資の必要性、製造業や消費者の信頼指数、実質雇用創出数、家計サービス負債率、公共財政赤字のGDP比率、電力・オイルガス・鉄道・空港・港湾・高速道路・MG政府所管倉庫の民営化など47件のPPI入札案件、進行中の29件のPPIプロジェクトについて詳細に紹介した。

同氏による第1セッションのPDF資料「BRAZIL ECONOMIC FACT SHEET」参照

通商貿易面からルカス・フェラス局長は国内での構造改革を終えた後に国際市場に参入すると前置き、過去40年間の生産性の低迷を振り返りブラジルは戦後の1947年から70年代まで世界で最も経済成長が高かった国(年平均7.2%)であった。背景として戦前は農業国であったが、それから都市化に移行、農村従事者が都市にきて工業従事者になったことが、大きな成長と生産性向上に寄与。70年代の終わりには都市化モデルが成熟終焉、一方中国は鄧小平が毛沢東時代の教条主義から経済を開放する市場経済へ移行、国際市場に参入、そのプロセスの中でグローバル・サプライチエーンが確立、輸送コストが低減、技術開発が進展、ICT技術が深化、賃金体系の格差によりG7の国々がアジアの途上国に企業展開、アジアが成長センターとしての戦略的地域に変貌、その他の地域国々にも波及、そのプロセスの中で世界が分裂化、グローバルなサプライチェーンが発展、新しい貿易の枠組みが構築され、その付加価値向上の恩恵に預かったのが途上国の東南アジアや中国および東ヨーロッパの国々であった。ブラジルは閉鎖的のままで未だ世界のサプライ・チェーンを構成するに至ってない。ブラジルのGDPの72%はサービス分野が占めるが、付加価値が低く国際市場への参入ができてない。世界市場から隔離された製造業の分野も全く同様でいずれも生産性が低く国際市場への参入が喫緊課題となっている。生産性が低いのは農業・工業・サービスいずれのセクターにも及んでいる。これから国際市場に統合する必要性について述べる。ブラジルの閉鎖経済がインフラ投資を阻害、工業生産コストを押し上げ競争力を喪失させている。農業分野もしかり同様だ。世界では300を超える地域間の貿易協定がWTOに登録されているが、ブラジルは30年前にメルコスール諸国と自由貿易協定を結んだだけである。世界の自由貿易協定とは若干違うが地域統合と云う点では意味があるが、新政権下では今後4年間に貿易を開放する。何故なら国際貿易は生産性と密接にリンクされていてブラジル経済にとって非常に重要だ。2021年から人口ボーナスが徐々に減る中で生産性を上げる必要に迫られている。貿易収支残は左程重要ではなくブラジル経済の成長にとって多くを輸出し、多くを輸入する流れが大切だ。輸入が増えるときに併せて輸出も増える図式である。具体的には今後4年間に地域間の貿易協定を加速させ、メルコスールとEU、カナダ、韓国、EFTA、シンガポール等と協議中、近い将来には日本とも協議を行いたい。ブラジルとメルコスールのコネクションを使いアジア諸国へのバリューチェーンを構築していくことが大切である。もう一つ重要視しているのは最終段階にあるが米国とも協議している。南北では無く南・南の協力、豊かな国、貧困国と云う関係では無く、先ず豊かな国との協定を優先し大きなゲインを得るべく日本にもアプローチしたい。メルコスールの共通関税を国際水準にまで引き下げ、国際平均価格に合わせ、並行してブロック内の色々な障壁も取り去る。メキシコとブラジルの間には自動車協定があっても、メルコスール内の亜国との間には存在しないので是正する。非関税障壁も無くし、輸入時にシングル窓口を設け輸出入の手続きを簡素化する。今現在輸出のほうは13日から6.5日に半減されOECDの平均日数をクリア出来ているが、来年には輸入ライセンスの取得をはじめ輸入手続きを簡素化し、19日の所要日数を10日に短縮する。世界的にサービスの商取引が可なり増えているが、ブラジルではサービス分野の輸入時に47%もの税金が掛かる一方、工業製品を輸出する過程では商品価格の32%が税金でこれも是正する。衛生植物検疫措置の適用に関する協定(SPS)の規制緩和や簡素化等も行う。Eコマースの分野ではカルテルを排除、活性化しながら近代化していくほか、特にWTOの情報技術協定(ITA)にも参加していく。歴史的となるが2年以内にOECDに加盟、経済委員会にも参画し引き続き貿易面の改革を推進していく所存だと述べた。

最近のビジネス環境改善についてレナト・バウマン外国投資部長から、新政権下では投資にフレンドリーな環境を用意し、ブラジル国内で製造されていない資本財について輸入税をゼロにして行く。45日間掛かっていた外資登録をオンラインの導入により3日に短縮している。外国貿易に関する全ての税金を一つの支払いで済むシングル・ウインドウ・メカニズムにする。国内航空会社に外資100%参入を認可している。WTO基準に沿い政府間調達の規制緩和をする。1995年から2018年までの直接投資の推移について説明。直接投資時のオンブズマン制度を中心に以下紹介。

【外国貿易は色々な省から構成されるCAMEXが所管、CAMEXにオンブズマンを設置、それをシングルウインドウ化し30以上の連邦政府機関がオンブズマンに参加、投資は連邦政府以外に州や市町村にも及ぶのでオンブズマンのメカニズムでフォーカルポイントのサポートが受けられる。ブラジルには各省の副大臣から成る国家投資委員会(Coninv)があって外国投資政策を担当している。オンブズマンは常にこのConinvに報告、政策に反映され、色々なフォーカル・ポインが動きQ&Aやリファレンスが30日内に処理される。世界で最も効果的に機能しているのが韓国のオンブズマン制度で90年代に25%の相談案件を解決、最近では90%に達している。ブラジルは最近導入したが良く機能している。ブラジルに関心のある方々に伝えていただきたい。サイト:www.oid.economia.gov.br

もう一つの国レベルのフォーカルポイントとしてOECDのガイドラインに則り責任ある企業行動のためのOECDの指針に従っている事を以下紹介。【ビジネス責任の重要性、企業が社会的に適切な行動を行っていない場合の罰則、多国籍企業が告発を受けて否定した時のOECDガイドラインに沿った遵守すべき11局面、ブラジルが1997年に外国投資や多国籍企業に関するOECD宣言書に署名以後の延べ訴訟件数(調査中3件、却下6件、解決17件)等々】第1セッションのPDF資料「Recent Improvements to the Business Environment in Brazil」参照

ブラジル日本商工会議所を代表、会員のTozzini法律事務所のジュン・マクタ弁護士がブラジルにおけるビジネス環境の日本の評価について発表した。20年から30年に及ぶ長期のインフラビジネスを投資家や消費者の目線から問題となっている8項目中、特に重要な為替リスクの低減とインフラ工事の遅延の2項目について改善を要請した。

日本側セッション
(ブラジル日本商工会議所による政策提言(AGIR)に関する意見交換を実施)

詳細は配布のPPTスライド「Avaliacao Japonesa do Ambiente de Negocios do Brasil」および「AGIR(さらなる投資実現に向けた行動計画)」資料を参照

ブラジル側のコメント:
為替リスクについては第1回及び2回会合でも提議されたが2つの考察がある。一つはプロジェクトがトレイダブルであるかないか、もしも金を生まないものであれば問題がないと云うことだ。もう一つは長期のプロジェクトであれば為替リスクは緩和されレアル通貨では長期のプロジェクトになれば為替リスクが減る形になる。我々は今、改革について話しているので、これから15年20年30年先になると為替リスクは非常に少なくなると考えている。外貨が自由化されているチリの事例が示されたが、先ほどのゴメス局長あるいはルカス局長からも話があったように、今ブラジル政府が解決しようとしているところである。外貨による自然人の銀行口座だけでなく企業の口座も開く事を検討中でそれによって為替リスクは大幅に減ることに繋がる。指摘されたプロジェクトの組成には問題があることは認める。(バウマン外国投資部長)

経済省にはインフラ整備開発局があり、これからの経済の自由化に向けて外貨で口座を設け、市場の中で為替リスクを回避する施策を検討中である。(ゴメス国際局長)

第1セッションを含めた全体的なQ&A:

Q: 本日、皆様からプレゼンのあった各種制度の改善を含めボルソナーロ政権が進めている年金改革、税制改革そして民営化およびコンセッションが実現するとすれば新生ブラジルが誕生するものと確信する。皆様が発表された事に対する非常に厳しい質問になるが、本当にボルソナーロ政権下で確実に実行されるのかどうか、実現するとすれば50%なのか60%位なのか率直にお聞きしたい。私は明日以降、日本の地方の商工会、地方銀行、ブラジル総領事館、各地域のJETROや市役所等々を訪問、本日の皆様のお話をベースに日本からの企業進出誘致について意見交換する予定である。日本は少子高齢化が進んでいる中で、ブラジルからの出稼ぎ者の多くが日本の中小・中堅企業を支えている。こうした出稼ぎ者を活用し日本の中小企業をもっと元気にすることでブラジルに技術を供与、企業進出を果たしM&Aや投資を行い真の意味での戦略的パートナーとして双方向のWin-Winの関係が構築できないかと考えている。この場で非常に答えにくいと思いますが、実現の可能性だけについてでもお答えいただければありがたい。(平田事務局長)

A:今現在起きていることは、国会や司法を通さずに済む案件については行政府として実行できることは実行に移している。省令、内部手続き、手続きの簡素化、そのデジタル化等が具体例である。立法機関である国会は飛行場に例えられる。1本の滑走路があって一度に多くの飛行機が離陸出来ないので重要性の高い機種から順番に待機している所だ。つまりブラジル経済全体に影響を及ぼす財政問題の解決が最優先課題となっている。国家のリスク、政策金利やインフレ、投資能力など全てが財政如何から派生、その根源となっている年金改革は議会を通すために時間が掛かる。年金改革に続き税制改革があり幾つかのイニシアチブがある。配布した資料には一連のスケジュールも記載されてあるのでご活用ください。(ゴメス国際局長)

通商貿易面ではもっと具体的に申し上げれば、来年6月までには意味のある各種協定が合意に至っているだろう。特にメルコスールとEU、EFTAに続きシンガポールおよび韓国とのFTA協定だ。そのあとには米国と続き、その過程で日本とも協議を進めていく予定である。来年1月からメルコスールの共通関税を引き下げて行き021年頃には税率が約半分位になる。貿易のシングル窓口は来年末までに終了予定であり、行政府でできることはスピード感を持って進める所存。(ルカス貿易局長)

色々難しい問題があり時間が掛かると云うご指摘もあったが、新しい政権の下でこのような構造的な問題に取り組んでいきたいと云う意志が、この場で確認された。本日は民間セクターからの要望という形でプレゼン頂いたけれど、こういった問題に関しては当然のことながら日本政府としても問題を共有している。この会議のみならず引き続き両国政府間で議論を継続してまいりたい。これが、まさにこのインフラ会合の趣旨であると理解している。(南米課長)

前回の会合では個別分野として都市インフラ、エネルギー、都市交通、およびICTといった分野を議題に取り上げたが、今回は都市分野のインフラを継続することになり、最後にブラジルのおける持続的なスマート・シテイーについてヴィートル・メネーゼス ブラジル科学技術革新通信省局長がプレゼンを行った。「Smart Sustainable Cities in Brazil」PDF資料参照

伯側セッション ー 発表を行うヴィートル科学技術革新通信省局長
(伯経済省、通信省局長等より、新政権の経済政策等を発表)

Pdf第3回日伯インフラ協力会合アジェンダ

PdfBRAZIL ECONOMIC FACT SHEET

PdfRecent Improvements to the Business Environment in Brazil

PdfAvaliacao Japonesa do Ambiente de Negocios do Brasil

PdfAGIR(さらなる投資実現に向けた行動計画)

PdfSmart Sustainable Cities in Brazil

写真提供: 在ブラジル日本国大使館

 

https://camaradojapao.org.br/jp/?p=46069