国際通貨基金(IMF)の元理事で、その後12年にわたって世界銀行に籍を置くエコノミストのオタヴィアーノ・カヌート氏がブラジルに滞在、ルモス誌のインタビューに応じた。今回のインタビューで同氏は、新興国市場にも波及した国際的な不況やブラジルの財政状態、そして現段階における金融機関の役割への評価といった問題を語った。
ルモス誌 2015年は、信用格付会社2社がブラジルに対して警告を発し、国内外の報道では、全体として見ると我が国に対する否定的な評価が目立ちました。ブラジルは、もはや国外で注目されるプレーヤーではなくなったということでしょうか?
オタヴィアーノ・カヌート 今の時点で我々はゲームでボールをキープする側にいないが、確かなことは、ブラジル経済がどこへ向かうのか潜在的投資家が明確に見極めようとその兆候を待ち受け小休止している状況にあることだ。同じく私は、次のようにも認識している。すなわち、ブラジル経済の全体的な重要性は、我が国と地理的に近接している他の一部の国との関係いかんにかかわらず、無視できないものになっている。つまりブラジルは、無視できない存在なのだ。
官民の連携次第で魅力的になる様々な業界がブラジルには存在し、投資家は、(カルテルと汚職に対する告発の後に到来する)再編とこれまで以上に開ける参入余地に目を向け、意欲を燃やしている。他方、行動を起こすのは、彼らが参加できそうなゲームで新たなルールが明確になってからのことだ。世界は、我が国が事態を収束させどこへ向かうのか明確にすることで開けてくるチャンスを、目を輝かせて待ち受けている。
ルモス誌 連邦政府は、調整という手法に固執していますが、それも困難に直面しています。このような対策が講じられるものか、さらに、経済の再編が可能なものでしょうか?
カヌート 最初に明確にしておきたいことは、最低賃金に連動しているような福祉や名目所得に対する縛りが排除されたり、その他の様々な公共支出の削減あるいは廃止という問題が議論されて効果的な対策が講じられたりする場合、それこそが調整だということ。そして政策が見直される場合、家族手当(ボルサ・ファミリア)のケースと同様、これを正当化する要素は費用対効果だ。この社会政策はブラジルの国際機関も含めて様々な分析が行われたが、その評価は、公共政策としても社会政策としても、低廉かつ高い成果を導き出した手法というものだった。家族手当について私は自信をもって話せるが、しかしその他の政策については必ずしもそうではない。つまり、個別に成果を検討して初めて、「実施する価値がある」あるいは「度が過ぎるので縮小しよう」と言えるのだ。そしてこの作業こそ、構造調整だ。だがそこへ移行するには、今現在の、3年連続という財政の悪化を回避する必要がある。
ルモス誌 国外の情勢もブラジルにとっては不利な状況です。国際情勢がどのようにブラジルに打撃を与え、またそこからどのようなチャンスが生まれるでしょうか?
カヌート 状況から判断するに、中国問題と、アメリカによる通貨政策危機の正常化という問題が、2つの大きな課題だ。だが後者に関して私はそれほど不安視していない。その理由は、十分に予想されたものであり、アメリカの正常化そのものは懸念されていたようなものにはならず、多かれ少なかれ織り込み済みのものになる。リスクそのものは、不測の事態ではなく影響という部分だが、中国の方が大きいだろう。中国の景気減速は想定外の事態ではない。ここでの問題は、今後の中国の成長ペースの基準がどの水準に落ち着くかだ。同様に判断が難しい部分は、過去3年で拡大した債務という負の遺産により、同国が次のステージに移行するのにやや混乱を招きそうだということである。世界銀行が中国共産党関連のシンクタンクとまとめた「中国2030」(PDFファイルにて英語版のダウンロード可)という研究で分析しているが、これは過去30年にわたって成功を収めたモデルが疲弊しており、新しいモデルを導入する時が来ていると指摘している。中国人たちは、同国が、次のステージに進まなければならないことを既に認識している。第1に、総投資への低い依存と国内消費への高い依存。第2に、生産チェーンの中で工員による労働集約型産業に単純に参入するのではない生産モデルへの移行の必要性で、これは彼ら自身が痛切に認識している。第3に、製造業を通じて獲得した巨大な地位を別の足場、言い換えると、サービス業への依存を拡大する方向に向かわなければならないことについても、彼らは認識していた。そしてこれらは、ひとつの方向へ収斂していく。サービスへの依存の拡大、国内の個人消費への依存の拡大、そして中国が関連する生産チェーンに組み込まれた労働者の労働集約型産業を基礎にした単純なモノづくりへの依存の縮小である。それは、彼らが進んでいくべき進路なのだ。だが、そこへ移行すること、つまり、そちらに行き着く方法を探し出すのが難しい。
ルモス誌 あなたは環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)と大西洋経済投資協定(TTIP)について、ブラジルがこの貿易協定の枠組みに参加しなかったことで我が国の脅威になると受け止めておられるのでしょうか?
カヌート 私は、大きな脅威だと受け止めている。ブラジルでこの問題に関して盛んな議論が巻き起こっているように見えないが、それは不思議なことではない。なぜなら、貿易相手国としてブラジル経済は、世界で最も閉鎖的だからだ。我が国は、貿易面では徹底的に閉鎖的な国だ。我が国は、金融分野が解放されているし、外国直接投資も開かれている。その他の観点から見ても開かれた国だが、貿易では、最も閉鎖的な国の1つなのだ。我が国の貿易特化係数は低く、輸出企業の数は極めてわずかだ。ブラジルのように2億人の人口を持つ国で輸出業者の絶対数が、人口わずか500万人のノルウェーと同じというのは驚くべきことだ。
ルモス誌 ブラジルが貿易で開かれた国になるには、何が不足しているのでしょうか?
カヌート 少なくとも、利下げが困難なこととマクロ経済のボラティリティーから来る諸問題には、対処する条件を整えるべきだ。現在、ブラジルは関税という手段に頼る世界でも数少ない国のひとつだ。外の世界では、もはや既に関税を撤廃して、これを重要なものと見なしていない。国内生産を支える助成のような支援システムもあるが、彼らが輸入に対する輸入税の課徴を加えているか? 更にローカルコンテント政策があっても我が国のものほどの内容ではなく、対象企業への監督も、我が国のケースと異なる。現在のブラジルほど保護手段を弄する国は、他には存在しないのだ。
ルモス誌 我が国のビジネス環境は、ややもすると実業家の方向を向いていますが、これは障害になりえるでしょうか?
カヌート 問題は、ビジネス環境でブラジルのオピニオンをまとめるエコノミストが、民間部門に影響するリスク評価の問題を強調してしまうことだ。実業家にとって不利な、あるいは実業家が好まない状況を悪いビジネス環境と位置付けるが、本来、こういうのは局面としてはさほど重要ではない。悪いビジネス環境とは本来、リソース、つまりエコノミストが全要素生産性と呼ぶものの浪費を意味するのだ。悪いビジネス環境というものは、個人と資本、賃金、設備といったものに対して雇用が価値を生み出すどころか価値を損耗させるので、マクロ経済の観点からは、大きなマイナス効果を生み出す。誰もが思い描ける例を挙げよう。ブラジルで税金を支払うために要する労働時間は、担税率にかかわらず、我が国の周辺諸国の3倍に相当するのだ。これはつまり、マクロ経済の観点から、多くの有能で優れた頭脳を持った人々が、一切の付加価値も生み出さない活動に従事していることになる。これらの人々は、税金を払うために働く代わりに、別の活動に貢献できたはずなのだ。このようなテーマは、ブラジルで語られることが少ない。
ルモス誌 最後に、2008年から2009年にかけて戦略的役割を担い、2012年には飽和状態と呼べる状況に陥った開発金融機関について。現在の我が国で、これらの金融機関はどのような役割を担うことができるのか、つまり、どのように貢献できるとお考えでしょうか?
カヌート 極めて大きな貢献が期待できる。ブラジルでだけではなく世界中で資金に対するニーズが生じており、それだけに投資、特にインフラに対する投資向けの信用に対するニーズと、民間金融機関が確保している信用枠には大きな開きがある。特定のリスク特性と収益性を備えた長期融資に対するニーズは存在する。そして資金を投入しようという意欲はあっても、業界やプロジェクトによっては資金の流動性があったり、特性が異なっていたりするのだ。例えば2008年以降の新興国経済に対する資本移動に目を向ければ、2009年から2013年は、急速に回復している。さらに、2002年から2003年にかけての新興国経済に対する資本移動の推移を見ると、既に、国際金融危機が発生する以前の水準に回復している。但しこれは「レド・エンガーノ」、つまり、完全な誤解だ。この期間に銀行融資が停滞し、落ち込むという重要な構造変化があった。こうしたオペレーションは、すべて債券に置き換わった。このため、全体として見ると良い数字なのだが、その構成に目を向けると銀行融資が縮小して債券が拡大したのであり、そうした債券への投資計画というのはそれほど適切な手段ではない。
世界的に見ると、社会経済開発銀行(BNDES)のような金融機関が不足している。理想は、これらの銀行もしくはその他の開発銀行が低リスクのクレジットラインにすべての時間を割き、市場が早急に購入できないような債券を購入してポートフォリオを構築し、その後、そのプロジェクトが成熟すれば開発銀行がそれを売却して次のプロジェクトに移るという枠組みを作ることだ。従ってこれらの機関は、市場に供給される資金構造を置き換えるのではなく追加的に資金を供給するという役割を備えていることから、本質的に重要な存在なのだ。(ルーモス誌 2015年11月/12月号)