ブラジルで不況と政治危機の嵐が吹き荒れる中、ビジネス問題を専門にする国内有数の弁護士事務所ピニェイロ・ネット弁護士事務所の共同経営者、アレシャンドレ・ベルトルディ氏は、破滅的な未来が待ち受けていないと確信している。
国内の大手企業が手掛ける企業の合併や買収、破綻処理、財務構造改革を支援するという、状況を俯瞰するのに最高の立場にいるバルトルディ氏は、現在のブラジルが移行期にあると受け止めている。多くの人や企業が破綻し、国内の大手グループが規模を縮小する中で、日本と韓国の多国籍企業がブラジル国内で事業拡大に向けてこの資産価値の値下がりを利用するだろう。そして、このプロセスが終了する時点で、企業は、これまで以上の筋肉質になっている。「ブラジルは経済危機を脱するし、それは迅速なものだ」。以下は、エスタード紙とのインタビューの要旨である。
エスタード あなたは、現在のブラジルの状況についてどうお考えですか?
ベルトルディ 私が基準とするのは、経済分野への国家の介入がほとんどない自由主義モデルだ。ただ、このモデルがそれだけで、社会的ギャップを削減できるのだとは、私は信じていない。これは、従来から非常に大きな課題だった。過去2政権、ルイス・イナシオ・ルーラ・ダ・シルバ前大統領とジルマ・ロウセフ大統領の行政下において社会分野で記録された向上が与えた恩恵を考えてほしい。現在、こうして得られた全ての利益に対する揺り戻しにあるのかどうか、私には分からない。だが私は、純粋な自由主義モデルが必ずしも社会的ギャップの減少を保証しないと思う。このモデルは経済を改善し、国内総生産(GDP)を押し上げ、より多くのビジネスチャンスを生み出すだろう。だが、余りに深刻な状況にある国、社会的ギャップが極めて大きい国にとって、純粋な自由主義がそれだけで問題を解決できるのかどうか、私には分からない。
エスタード あなたはより良い未来が待ち構えているとおっしゃいました。それは、どのようなものでしょうか?
ベルトルディ 私は楽観主義者ではない。恐らく、それほど悲観的でもない。私は、明るい状況がいくつかあると見る。その中心になるのは、賞賛に値するとは考えていないが、ブラジルの制度の持つ力と抵抗力だ。影響力のある実業家から政治家、さらには大臣に至るまで、連邦警察が思うがままに捜査する独立性を保持しているのを見るのは、興味深いことだ。私はこれまでのところ、連邦警察の捜査を邪魔するような横やりの話は、全く聞いたことがない。裁判官も同様に、良かれ悪しかれ、センシティブな問題でも訴状を受理するし、これに誰も口を挟まない。三権の分立は、十分に尊重されている。我が国の制度は、非常に堅固で、恐らくそれは、我々が想像する以上のものだ。
エスタード しかし連邦政府は、連邦会計検査院がジルマ政権の連邦政府会計に不適正意見を出すのを阻止するために連邦最高裁判所(STF)に働きかけましたが。
ベルトルディ それは、判決ではない。そうならないように、連邦政府は議論を希望している。あくまで、駆け引きの一部なのだ。影響を与えようとしてはいるが、法律の範囲内の試みだ。もしそれが法令による強権発動だったなら…。だが、そのための議論をしようというのであれば、認められる範囲だと私は思う。
エスタード あなたは、弾劾に関する現在の議論をどう受け止めていますか? 大統領を罷免すべき法的根拠があるのでしょうか?
ベルトルディ 個人的見解を言えば、私はこれに反対だ。選挙が行われたわけで、多くの人々が選挙結果に納得しなかったとしても、その結果は尊重されるべきだ。弾劾は必ずしも合法的手続きではない。それは、はるかに政治的な手続きだ。多くの人々は、今後3年間も脆弱な政権が国を引っ張っていくのに耐えなければならないという理由で、弾劾の必要性を正当化している。法律観点から、もし重大な瑕疵があるなら、それは妥当と言えるものになる。だが、単なる政治上と経済上の理由だけなら、私は、現政権が続投することを希望する。
エスタード TSEが大統領選における運動資金を査察するのは、司法上、政権の存続を危うくするのでしょうか? 大統領はこの仮判決を受けても職にとどまり得るでしょうか?
ベルトルディ 私は、この点を大いに議論すべきだと思っている。ジルマ、あるいは他のいかなる大統領も、司法の判断により失脚しない。それは、議会の決定によるのだ。言い換えると、政治的判断だ。この場合にあり得ることは、司法の議論が政治的な議論に燃料を投下し、さらには、弾劾が行われるような方向へ議論を向かわせる可能性があるということ。単なる司法上の判断と受け取られることは難しいと考える。
エスタード 投資家はこのシナリオをどのように見ているのでしょう?
ベルトルディ 数年前から、財界ではブラジル・ブームが到来していた。それは(コングロマリットやファンドなどの)外資が非現実的で不合理なコストをブラジルの資産に支払うという変則な状況につながった。現状を見るに、我が国は深刻な政治危機と、私自身は驚くに値しないと思う不況に見舞われている。もっとも、政治危機のひどさと言ったら、私にとっては、驚くべき深刻さだ。そしてこの2つの組み合わせが、危険なのだ。投資家には、2つのタイプがいる。ルーラが当選するか落選するか、そしてこの先どうなるか分からなかった2002年と比較しよう。当時、ブラジルに参入してきた投資家にとって、政界は素晴らしいビジネスを提供したのだ。ブラジルに期待していなかった用心深い投資家は、アクセルから足を離し、ビジネスをしばらく見合わせた。他方、経済危機をビジネスチャンスと受け止める投資家がいる。農業のように活況を呈した業界もあれば、紙パルプのような堅調な業界もある。我々は消滅することのない大きな国内市場も抱えている。それだけでなく、抱える負債の規模ゆえに、あるいは中にはラヴァ・ジャット作戦に関係したために、必要に迫られて売却される資産もある。
エスタード 現在の為替相場のボラティリティーは不況の脱出に影響するでしょうか?
ベルトルディ 外国為替市場における自国通貨安は、ブラジル国内資産を非常に魅力的なものに変えたが、安定するまでは問題を複雑にする。4レアルで話をつけたら3レアルを受け取るとか、3レアルで手を打ったのに4レアルになっているというリスクを生み出す。だが、投資家の一定のグループは既にブラジルに参入しており、ブラジルを中長期的な視点から俯瞰している。集約化が進むとともに、一部の建設会社の状況から、多くのコンセッショネアで出資会社の変更が進むだろう。私は、ブラジルでまだコンセッションが行われていない分野については楽観視している。その理由は、国家の介入がそれほどなく、社会経済開発銀行(BNDES)の介入も資金不足により比較的小さなものになると思われるからだ。我が国で成熟が期待される基本的な分野には2つあると、私は受け止めている。それは、「プロジェクト・ファイナンス」(金融市場でインフラ向け融資の資金調達)と資本市場だ。こなれた計画のない事業は、従来、BNDESに駆け込むか、あるいは出資者を募ることが簡単であり、そうでなければ、より有利な条件で融資を受けるかだった。
エスタード 企業のプロフィールに変化があるということでしょうか?
ベルトルディ 我が国の企業がより良いものになるだろう。これらの企業は、キャピタル市場に参入するには、優良企業であるべきだ。これにはしばらく時間がかかるかもしれない。ブラジルは、インフラへの投資が必要だ。この交渉の段階で、民間資本が必要になる。もちろん「インベストメント・グレード」(投資適格)は失っているが、事業の推進が不可能になるとは考えていない。中期的、長期的な見方を持ったグループは存在する。私が確信を持って言えることは、次のようなことだ。つまり、ブラジルは不況によって終わりはしない。我々は既に、別のステージへと移行した。そしてブラジルは復活すると思う。さらに言えば、復帰に向かい始めれば、状況は急転する。
エスタード こうした悲観的な状況で、新規投資家の呼び込みにつながるビジネスチャンスがあるのでしょうか? それとも、プレーヤーは既存の企業だけになりそうですか?
ベルトルディ いずれのケースもあり得る。日本と韓国のような企業が、ブラジルで、プレゼンスの拡大を狙っている。中国はもはや、以前ほどの活気がない。企業は、利益を上げようとブラジルへの進出を希望するのだ。景気の低迷期に進出すれば、いつかは値上がりする資産を手に入れることができ、将来、様々なビジネスにつながる。ブラジルで大きな収益を確保したり本国では成長することが期待できないといった理由で、ブラジルで経営に取り組んでいる様々なグループが存在する。ブラジルにビジネスチャンスがあると見て新規参入するグループだけではないのだ。
エスタード しかしこの場合、為替相場が足を引っ張りませんか?
ベルトルディ 高くつくが、金融面でリスクヘッジをするメカニズムがある。固定為替相場は必要ないが、どこが限界かをテストするという考えは必要だろう。(より明確な)為替バンド制があれば、計算することは可能だ。明らかなことは、少なくとも今後18か月にわたって、政策金利の大幅な利下げはあり得ないということだ。そくすると、ブラジルで調達する資金は非常に高価になり、国内の投資の足を引っ張る。恐らく、外資によりチャンスが巡ってくるだろう。
エスタード あなたは経営難に直面している企業が資産を売却しようとしており、国外の投資家にビジネスチャンスが広がっているとおっしゃいました。これらの資産を買収しようという投資家がいるのでしょうか?
ベルトルディ これはそれぞれの業界と企業の事情次第だ。困難に直面していないが、将来的に売却を検討している企業もある。多くの企業がそうなっているように、収入が下落する時、売上に対する負債の比率は急上昇し、この負債を処理するのに問題を抱えることになる。外貨建ての債務の問題もある。2008年(に発生したデリバティブ)の危機で、「リスクヘッジ」により必ずしも全てが保護されていなかった企業が存在したことを、多くのグループが学んだ。そして、為替で利益を上げている投資家もいる。不幸にも、一部のグループは、この経済危機を脱する時には現在よりもはるかに小規模で、脆弱な状態になっており、これまで以上に厳しい状況だと言い募ることになるだろう。
エスタード 汚職スキャンダルで多くの取引が麻痺しました。
ベルトルディ 最初の段階で、経済に対して大きな悪影響が出る。いくつかの業界で、予想されていたような停滞が発生した。行き過ぎた捜査から悪影響を受けかねないということはある。我々は、これがどのように発生したかについては理解しているが、どこで収束するかについては分かっていないのだ。
エスタード 課徴金減免制度に対する企業の合意の動きは、拡大するでしょうか?
ベルトルディ 主に国家、そして競合していたはずの企業が関与する事業がらみの汚職は何であれ、ブラジル国内で発生した事件は、ビジネスでより高い透明性の確保につながる。正しい方向に進む過程の一部なのだと言える。中期的には、国内の状況は大いに改善するだろう。より公正な価格が提示され、公共工事がより現実的なコストで実現され、市場競争はより広範囲かつ効率的なものになる。
エスタード このプロセスで企業企業が生き残ることは可能でしょうか?
ベルトルディ 生き残る。我々は言っているのは、ペトロブラスやエレトロブラスなどのような、大企業についてだ。根本的なところで、ペトロブラスはいくつもの不運に見舞われた。仮に原油相場が1バレル=100ドルなら、状況は今日とは異なっていたはずだ。それは、ブラジルで発生している様々な出来事と同じだ。私は懸念するのは、不況と政治危機、コモディティー相場の低迷だ。コモディティー相場が若干でも良ければ、状況は大きく異なっていただろう。これは、逆風の連鎖だ。5、6年前から我々は、ブラジルにとって有利に働く国外情勢の追い風を受けてきた。つまりこれは、現状に不満を言う以上に、我々は、そうした過去の色々な追い風を利用しなかったことを嘆くべきなのだ。
エスタード 課徴金減免制度での合意は、どうあるべきでしょうか? 個人を罰して会社を保全するのでしょうか? あるいは、企業は支払い能力の限界まで罰せられるべきでしょうか?
ベルトルディ 個人だけを罰するロジックにことさら固執するべきではない。大きな利益を得たのは企業だ。私は個人に対する責任を完全に不問にしろと言う気はないが、捜査の主眼は、不正で利益を確保した法人に置くべきだと考える。むしろ、処罰は釣り合いの取れたものであるべきだ。処罰の大部分は企業の収入に基づいているが、多くのケースで、収入は会社の利益とは関係がないのだ。極めて薄利で経営していながら、想像を絶する多額の罰金が科された企業も存在する。このため、痛みを伴う罰金の適用は良識を持って行うべきで、企業の存亡にかかわるものではいけないと考える。
エスタード ラヴァ・ジャット作戦はブラジルの汚職問題にメスを入れるのに十分な教育的効果があるとお考えでしょうか?
ベルトルディ ブラジルでは、汚職に対する教育効果は様々なものがある。我々は、常にそこから学んだと考えるのだが、そうではない。過去にはメンサロン(政界買収工作費贈収賄事件)があったし、今回はラヴァ・ジャット作戦だ。ラヴァ・ジャット作戦の津波が引いた後、汚職が少なくなったブラジルが立ち上がってくることは間違いない。私は、汚職の規模というのは直接的に、国家が経済に介入する規模に比例していると思う。ラヴァ・ジャット作戦は非常に興味深い教訓を与えてくれる。かつては脊髄反射のように習慣化していた汚職に対し、人々は将来、手を染めるまでに2度、3度と逡巡することになるだろう。(2015年10月12日エスタード紙)